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パナソニックの「手作りレッツノート工房」、今年も50組の親子が参加
~一番小さいレッツノートRZ5を組み立て
2016年8月8日 06:00
パナソニックは8月6日、兵庫県神戸市の同社神戸工場において、この夏、世界でたった1台のPCを作ろうと呼びかけたイベント「手作りレッツノート工房」を開催した。15回目となる今年(2016年)は、745gのCore m5 搭載モバイルPC「CF-RZ5WDGPP」同等品の組立にチャレンジする。ただし、LTEモジュールは付属しない。
対象は小学4年生から高校3年生までとし、50名が抽選で選ばれた。参加費は12万円で、組立後のPCは持ち帰れるほか、現地での昼食代などが含まれる。Officeつきのこの製品、市場価格は20万円弱だが、LTEモジュールが付属しないなどの仕様の違いを考慮しても、かなり安上がりで、自分だけのPCが作れるというイベントだ。しかも、天板の色やキーボードの色も自由であらかじめ指定しておくことができる。そのコストを考えても、お得なイベントで人気があるのも伺える。
受付は6月20日~7月4日までの2週間と、例年より短かったものの、競争率は約3.5倍に達した。今年初めての応募で当たったケースもあれば、10回目の応募でようやく当選したケースもあった。集合時間の8時30分になると、マイカーや公共交通機関で続々と参加者とその父兄などが神戸工場を訪れ受付をすませていた。この時間に神戸工場に到着するのは、よほど近隣でなくては難しい。多くの参加者は、夏休みの関西観光旅行を兼ねて、このイベントに参加したようだ。遠くは新潟県、宮崎県などからの参加があり、50名が集まった。
まず、工場3階の社員食堂スペースに全員が集合し、開校式が行なわれた。このイベントを1日スクールに見立て、理事長はパナソニック AVCネットワークス社常務ビジネスモバイル事業担当ITプロダクツ事業部事業部長 坂元寛明氏、校長は同社プロダクトセンター所長 神戸工場長の清水実氏、教頭がオペレーション統括部長 大井光司氏、工房長がプロダクトセンター製造部の菊池竜司氏だ。
開校式で冒頭の挨拶に立った坂元校長が、PCを使ったことがあるかどうかを尋ねると全員が手を挙げた。分解して中身を見たことがあるかを尋ねると5人くらいが手を挙げていた。
「今日は、ぜひ、PCの中身がどうなっているか、構造や仕組みを知って欲しい」と坂元校長。レッツノートが今年で20周年を迎えたと切り出した。参加者は最年長でも高校3年生だから、レッツノートの誕生は全員が生まれる前の出来事だ。
坂元氏は、1996年にレッツノートが生まれ、栄枯盛衰の激しいPCの業界で同じメーカーがずっと事業を続けることが難しい中で、レッツノートが20年間やってこれたことの理由として、「バッテリ駆動時間がすごく長い。バッテリ駆動時間を延ばすにはたくさんバッテリをのせればいい。でも、そうすると重くなる。でもレッツノートは軽い。軽いとこわれやすい。でもレッツノートは頑丈」とアピール、どうしてそんなことができるのかを組立ながら確認してほしいと参加者を激励した。
さらに坂元氏は、「今日は、1日を通じてパナソニックにも興味を持って欲しい。大学を卒業してレッツノートに関わりをもちたいという人が、1人でも2人でも出てきたら嬉しい」と述べ、地球の裏側ではオリンピックの開会式の真っ最中、それに負けない盛り上がりを見せて欲しいと挨拶を締めくくった。
ちなみに過去、このイベントの参加者で、パナソニックに入社してレッツノート関連事業に携わっている関係者は今のところゼロ。かろうじて、インターンでパナソニックを体験した学生が過去に1人だけいたという。
続いて挨拶に立った清水校長は、「今日作るレッツノートは、レッツノートの中でも一番小さくて軽いモデルで、部品も小さいので、組立はちょっと苦労するかもしれないが、精一杯お手伝いするし、一生懸命やればきっとできる」と参加者を励ました。そして念のためにと付け加えた上で、「自分で組み立てたからといって品質保証がないということは絶対にない」と強調、「特別保証書も付けるし、過去のこのイベントで組み立てたPCに問題が出たことは1度もないので、安心して持ち帰れるはず」だとした。また、同伴の父兄らに向けて、初めての手作りで電源を入れて動くと感動することを強調、その感動を共有して欲しいとアピールした。
いよいよ組立作業のスタートだ。参加者は工場内の普段レッツノートが組み立てられているエリアにある特設スペースに移動した。
立ったまま作業できるテーブルが25個設置され、そのテーブルに参加者2名ずつが割り当てられる。自分の名前が入った特別手順書が目の前にぶら下がっていて、作業の手順が一目で分かるようになっている。また、テーブルの上には、あらかじめ選んだ色の天板、キーボードを含めて、レッツノートの部品がわかりやすく並べられている。そして、そのテーブルごとに先生として1人のスタッフがつきっきりで指導に当たる。もちろん、普段から工場でレッツノートの生産に携わっている正規スタッフだ。このイベントは、当初は営業マターとして始められたものだが、今ではすっかり工場側の仕切りに変わってきて、楽しんでもらうことが工場スタッフ全体の願いにもなってきているという。今回のイベントにも、普段から生産作業に携わる社員ほぼ全員が休日出勤して対応したという。
最初にエプロンをつけた参加者はアースバンドを腕に巻き、床に電流を流す配線に接続、万が一にも静電気で大事な部品を破損しないように準備する。そして、SSDの取り付けから組立作業をスタートした。続いてWLANモジュール、USB基板を貼り付けるなど、前方スクリーンに模範作業をプロジェクションしながら大橋先生が指導しながら作業が進められた。
組立作業の様子を写真を通じて見てみよう。作業開始から1時間ちょっとで完成するまでの過程だ。
完成したPCは、そのまま作業テーブルに置かれて、参加者は工場内の見学、半田付け体験、4K TOUGHBOOKなどのタッチ&トライなどを楽しんだ。
だが、この間に、完成したレッツノートは、最終工程としてエージング試験が行なわれていた。電源を投入し、各部の動作チェックが行なわれ、特別補償に問題ない仕上がりになっているかどうかが専門スタッフの手で入念にチェックされるのだ。そして、製品用のプリロードイメージがSSDにコピーされて製品相当になる。ちなみに、この日組み立てられた装置は、50台全て、問題は皆無だったそうだ。
余談だが、参加者が楽しむタッチ&トライコーナーでデモンストレーションされていたモグラ叩きゲームには驚いた。TOUGHPADを8台並べ、ネットワーク接続し、9台目のTOHGHPADを使って各TOUGHPADにランダムに表示されるモグラを叩いた回数を集計するゲームだ。子どもは手加減をしないことを織り込み済みでのデモンストレーションで、作る側にこの発想ができることにその製品作りの半端ではない自信を感じた。説明されないとモグラが出てくる部分が実はTOUGHPADだと分からないかもしれない奥ゆかしさを含めて妙に感心してしまった。
今日のイベントで見たTOUGHPADのデモ。8台並べたTOUGHPADでモグラ叩きとは恐れ入った。作る側にこういう発想ができるとはハンパじゃない。pic.twitter.com/ugHE0sLYx7
— 山田祥平(syohei yamada) (@syohei)2016年8月6日
イベントの合間に本誌の取材に応じた坂元事業部長は「参加者のみなさんはもちろんですが、従業員が普段ないような顔でつきあってくれることに喜びを感じます。これは商売の原点ではないでしょうか。開校式の挨拶でもいいましたが、そろそろ本当に参加者の中からパナソニックに就職してくれる人が欲しいところです」と漏らす。
また、清水工場長は「ものづくりの進化は、修理工数を減らすことの進化でもあります。カンタンに取り付けてカンタンに組み立てられるというのは修理の作業もカンタンになるということです」と述べた。
清水氏によれば、この日の組立工程は、レッツノートの生産工程では最後の最後に位置するもので、本物の作業では10分かからずにすませられるものだという。
坂元氏は「この数カ月、時代が変わっている節目でもあるかと思います。いろんなところからキーボード重視の声が聞こえてきます。クラムシェルの復権で、むしろ伸びていく気配もあります。そんな中でレッツノートは好調です。今、海外のグローバル仕様のPCが目立つようになってきていますが、レッツノートは国内仕様です。基本的には日本人のために作っている日本の企業のための日本のPCです。これからも、そこを徹底的に研究し、レッツファンの裾野を拡げていきたいと考えています。工場については魅力的な工場であると同時に注文をとれる工場でありたいですね。ものづくり以外のところをプラスアルファで見てもらえる部分を作ってみたいです」と語った。
そして閉会式では大井教頭が挨拶し、「1日でこの工場がどんなところか分かってもらえたと思う」と念押しし、「将来はレッツノートの仕事をしたいと思った人、手を挙げて!!」、とうながすと、会場の誰1人として手を挙げなかったことで場内は大爆笑。
この日の組立作業は17個の部品と30個のネジ留め作業を行なったが、レッツノートが1,500から2,000個の部品でできていて、PCには本当に多くの人が関わっていることを覚えて帰って欲しいとした。そして、「ネジのことは英語でスクリュー、フランス語でビス、中国語では螺糸という。今、オリンピックが行なわれているブラジルではUm parafusoというが、これはポルトガル語。なぜブラジルではポルトガル語なのか、家に戻ったらレッツノートで調べて欲しい」と1日のイベントを締めくくった。
参加者の中では最年長の高校3年の女の子は、富山からやってきたという。聞いてみると、組み立てたレッツノートはお父さんにとられてしまうそうだ。本人曰く、昨年、自分でためたお金で、もっと速いPCを自分専用に買ったから」と。TRPGのために自分のPCが欲しかったというが、「とにかくPCは速い方がいいです。SSDの容量も大きい方がいいです」とPC Watch的には心強いコメントをくれた。こういう層がレッツノートのモビリティを必要とするようになるときに、また次の新しい当たり前が生まれるのだろう。組立作業中の彼女の指先のネイルアートが印象的だった。