やじうまミニレビュー
「サンワダイレクト 400-MEDI002」
~カセットをUSB経由でPCに取り込み、無料のGoogle Play Musicで音質をロンダリング
(2015/11/10 06:00)
サンワダイレクトの「400-MEDI002」は、USB経由でカセットテープの音声をPCに取り込めるカセットテーププレーヤーだ。Amazon.co.jpでの価格は3,480円となっている。
持ち運びができて、安価に入手でき、さらにどの家庭でもほぼ確実に再生でき、しかも手軽に録音やダビングができるという性質から、1980年代生まれの筆者にとって、かつてカセットテープはとても身近な存在だった。しかし2000年代に入るとMDが普及し、さらにCDポータブルプレーヤーも安価になってからは、音質面で評価されることがほぼないカセットテープは、あっさり市場から駆逐されてしまった。
カセットが身近だったとは言え、筆者も音楽を買うようになってからは、音楽をカセットで購入したことは一度もない。しかし親の世代(今で言う50~60代)は、意外とカセット財産を多く持っているのではないだろうか。ボイスレコーダー代わりに使っていたのもあるだろうが、音楽アルバムも意外に多く残されていたりする。
昔の音楽のアルバムの多くは、カセットとともにCDが併売されていただろうし、例えカセットでしかリリースされていなくても、後にリマスターされてCDやデジタル形式で発売されたものも多く存在するだろうから、カセットテープのエコシステムが終了したところで、さほど問題に上がらないかも知れない。しかし、せっかくその音楽を所持しているのにも関わらず処分するのはもったいないし、もう再生環境がないのに残すというのも場所を取るだけなので、悩ましい問題ではある。
カセットをUSB経由で取り込める「400-MEDI002」
400-MEDI002はそんな悩みの突破口になるデバイスと言える。
まあ、カセットなら所詮アナログなので、適当なカセットテーププレーヤーで再生して、ステレオミニジャック経由でPCに取り込むという手はあるが、そこでアナログ転送を挟むので、音質のボトルネックが1つ増えることになる。一方400-MEDI002はMini USBのインターフェイスを備えており、USBのマイクアレイとして認識されるので、400-MEDI002とPCの間はデジタルで接続される。よって音質のボトルネックを1つ解消できる。
……と、言いたいところだが、カセットテープはアナログなので、音質は400-MEDI002のアナログ→デジタル変換の性能に依存することになる。たかが3,000円弱のデバイスに、音質を期待してはならない。数万円のカセットプレーヤーを所持しているユーザーなら、間違いなくそちらからステレオミニジャック経由で録音した方が音質が良いと思う。
しかも、本機は先述の通りUSBマイクアレイとして認識されるだけなので、なんらかのソフトウェアを用いて再生や早送り/巻戻し操作ができるというわけではない。
では本機を利用して録音するメリットは何か、と聞かれれば、USBバスパワーでそのまま動作するので、別途ACアダプタや電池が不要な点だろうか。カセットの音源をPCに取り込む意味では、USBケーブル1本繋げればいいので、もっとも手軽なデバイスではある。
さて400-MEDI002の使い勝手だが、先述の通りマイクアレイとして認識されるだけで、ソフトウェアから機械制御できない。本体にPLAY(再生)、F.F(早送り)、REW(巻戻し)、STOP(停止)などのボタンを装備しており、これらで操作することになる。なお、カセットを手動で裏返さずとも再生方向を変える「DIR」ボタンを備えており、再生も1回のリバースのみか、ループを選択できる。ダイヤル式のボリューム調節も備えており、PCへの出力レベルを直感的に調節できる。
なお、DIRボタンによって再生方向は自由に変更可能だが、早送りおよび巻戻しは今聞いている面ではなく、常にセットした面に対して行なわれる仕様となっているので注意されたい。
カセットを装着する扉はやや特殊。一般的なカセットプレーヤーは扉がカセットの長辺を軸として開き、その扉自体にカセットを装着するリテンション・メカニズムを備えているのだが、本機の扉は左を軸に開き、カセットをそのまま機構に装着する。最初は戸惑うかもしれないが、これは本体の低価格化/軽量化を図った結果だろう。
単体でカセットプレーヤーとして駆動させることも可能だ。カセットテープを装着する場所の下部には、単3形乾電池を2本装着するスペースがあり、これによりUSBバスパワーがない状態でも再生できる。本体にはステレオミニジャッが付いているので、手持ちのヘッドフォンを接続して聴く。なお、ボリューム調節はこのヘッドフォン出力とも連動している。やる人は少ないと思うが、USBバスパワーを使った再生も可能だ(つまりPCに出力しながらヘッドフォンで聞くことが可能)。
録音を行なうなら、PC上でまず録音デバイスを本機に設定してから、録音をするソフトウェア上で「録音ボタン」を押し、そして本機の「Play」ボタンを押すという、アナログチックなものとなっている。
ちなみに、仕様ではノーマルポジション(Type I)の90分以下のテープのみに対応するとされている。ハイポジション・クロム(Type II)、フェリクロム(Type III)、メタル(Tyupe IV)は非対応だ。これらのカセットテープをPCに取り込みたい場合は、別の製品を利用する必要がある。
付属ソフト「Cassette Mate」
付属するソフトは「Cassette Mate」のみという、シンプルなものとなっている。8cmのCDに収録されているが、8cm非対応ドライブを使っている場合などは同社のWebサイトからダウンロードできる。対応OSはWindows XP/Vista/7/8とされているが、編集部で確認した限りWindows 10でも正常動作した。
Cassette Mateはいわゆるサウンドレコーダーの部類のソフト。左右のレベル/波形インジケータが表示されているほか、録音/停止/分割/一時停止ボタンがそのまま並んでいるので、操作に戸惑うことはないだろう。音符が表示されているボタンはプレーヤーで、録音したファイルを再生できる。
また、録音No.、トラックNo.、分割方法をこの画面で設定でき、分割方法では、設定した無音時間(標準は2秒)が続くと自動的に別ファイルとして分割する機能を備えているので、音楽の録音には便利だ。加えて、MP3の場合、タイトル名やアルバム名、コメント、アーティスト名(アーチスト名)、リリース年(年)、ジャンルなどのID情報を付加できる。基本的に1画面で全ての操作が済むのはありがたい。
オプション設定では表示言語(標準は英語)や録音形式(WAV/MP3/WMA)、保存フォルダ、無音レベル、録音音量、録音バランスを設定可能。無音レベルは標準で-40dBから-36dBが設定されており、この辺りはカセットテープのダイナミックレンジ特性とほぼ一致するよう配慮されており、標準でも問題なく自動分割された。ただし録音音量については、本体のボリュームを最大にし、Windowsのマイク入力のボリューム設定で90%、本ソフトの設定でも90%辺りまで引き上げた方が良いだろう。
実際に音楽(五輪真弓の「Wind and Roses」)を取り込んでみたが、先述の通り2秒の無音レベル判定で問題なく分割された。音質については、流石に褒められるレベルではないが、実用十分である。Cassette Mateにはホワイトノイズ低減や、低音/高音調節を行なえるイコライザーなどの機能は搭載されていないので、機器やカセットテープの性能が素のまま録音されることになる。もし音質を改善したい場合は、別途ソフトを用意する必要があるだろう。
Google Play Musicで超絶“音質ロンダリング”
さて、こうして取り込んだカセットテープの音楽だが、当然取り込んだPCの上で再生してもなんら問題はないのだが、やはりスマートフォンなどに転送して、いつでもどこでも聴きたいところだ。そこで是非とも活用したいのだが、Google Play Musicのロッカーサービスである。
Google Play Music自体、月額980円のサービス(10月18日までの申し込みで永久780円だった)と捉えられがちなのだが、ロッカーサービスに関しては課金していてもいなくても5万曲まで保存できる。使い方は至って簡単で、Google Play Musicの「ミュージック マネージャ」をダウンロードしてインストールし、アップロードの設定でCassette Mateの録音フォルダと同じフォルダを仕向ければ、録音された音楽が随時自動的にアップロードされる。こうすれば、スマートフォンなど別のデバイスでも、Google Play Musicのアプリを使って同じGoogleアカウントにログインすれば、カセットテープで録音した音楽を楽しめるわけだ。
さて、ここまでなら「うまいことクラウドサービス使いましたね」で話は終わるわけだが、注目すべきはGoogle Play Musicが持つ楽曲マッチング機能である。アップロードした音楽が、Google Play Musicのライブラリの中(つまり3,500万曲の中)にあり、Googleが一致判定を行なったのであれば、アップロードしたファイルの代わりにGoogleが用意したMP3ファイルで再生され、加えて最大320kbpsのDRMフリーMP3ファイルがダウンロードできるのだ。
つまり、400-MEDI002で録音した音楽は所詮カセットテープなので、ノイズも多いし、テープの状態によってはクリアでなかったり音が歪んでいたり……するわけだが、Googleがマッチング判定を行なったのであれば、高音質な(と言っても320kbpsのMP3だが)デジタルの音楽データを聴いたり、ダウンロードできたりするわけである。
PCのWebブラウザでGoogle Play Musicにアクセスし、マッチング判定がされていれば、その曲をダウンロードするだけで自動的に最大320kbpsのものに“置き換わる”ことが確認できる。
ライブラリで見やすいように、タイトルなどを編集する際も、Google Play Music側で行なうと良い。アップロードした音楽を選択し、「曲情報を編集」をクリック。マッチング判定がされていれば、タイトルやアーティスト、アルバム名、ジャンル名などのテキストボックスの下に「推奨値」が出てくるので、それをクリックして埋めていくだけだ。
なお、Wind and Rosesの場合、A面/B面ともに無音部分が長く、そのためファイルも無音部分が多くなる。すると楽曲が異常に長くなってしまい、うまくマッチングしなくなる場合があった。400-MEDI002には自動リバース機能が付いている上、先述の通り自動ファイル分割機能もあるし、Google Play Musicが新ファイルを認識すれば自動アップロードしてくれるので、つい「録音は機械に任せて風呂でも行ってくるか~」となるわけだが、無音部分が多くなってしまった場合、当然その部分をカットしてからアップロードする必要が生じる。機械任せは最初の数曲だけに絞り、最後の曲は自分でカットするようにした方が良い。
音を聞いても歴然とした差があるので、すぐに違いが分かるはずだ。カセットテープを取り込んでGoogle Play Musicの無料サービスで“音質ロンダリング”できるメリットは大きいだろう。
カセット資産を多く抱えれば抱えるほどメリットは出るが……
400-MEDI002とGoogle Play Musicでカセットテープの音楽を無料音質ロンダリングできるとなると「これは素晴らしい」という感想を持たれるかもしれない。カセットテープのアルバムを数個しか持ってないのであれば、「まぁGoogle Play MusicやiTunesでデジタル版を買い直すか」と思わなくもないのだが、非常にたくさんの資産を抱えている場合、コストメリットが活きる。
が、1点だけ、(デジタルに慣れ切っているから忘れそうになる)大切なことを忘れてはならない。それはカセットの録音は「等倍速」でしか行なえないことだ。カセットテープのアルバムの長さはマチマチだと思うが、例えば5分程度の音楽9曲あったとすると45分程度。それの録音は45分以上は確実にかかると思った方が良い。たくさんの資産を抱えていればいるほど、“音質ロンダリング”にかかる時間も長くなる。その手間に見合うメリットがあるかどうかは、読者諸兄に判断を任せたい。