やじうまミニレビュー

ケンジントン「OrbitTrackball with Scroll Ring」

~実売3千円で購入可能、左右どちらの手でも使えるトラックボール

やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。

 かつてはヘビーなトラックボーラーだった筆者。当時はゲームから絵描きに至るまで、あらゆる操作をトラックボール1つでこなしていたが、乗り換えた製品がいまいち肌に合わなかったことでトラックボールから離れて早20年が経つ。今回あらためてトラックボールを試してみようと思ったのは、左手でトラックボールを使う環境を整えることで、肩こりを緩和できるのではないかと考えたからだ。

 通常のマウス操作では、体重が右肘に集中することもしばしばで、それゆえ肩こりを招きやすい。せめてWebのブラウジングだけでも左手で行なえれば、偏った体重のかけ方を改められ、肩こりの解消につながるのではと思ったのだ。右手が空けば、左手でPCを操作しながら右手でメモを取るなどの芸当も可能になるし、長時間のマウス操作で手が疲れた際に、右手を休ませながら左手で作業を続けられるメリットもある。

 といったわけで、左手で使えるトラックボールの選定を始めたわけだが、市販のトラックボールの半数は右手での操作に特化したデザインなので、「左手で使える」という条件だけで候補の製品は半分以下に絞り込まれる。その中から筆者が今回“リハビリ”の対象として選んだのは、実売3,000円台と格安ながら、各種ユーザーレビューでも評価の高い、ケンジントンの「OrbitTrackball with Scroll Ring」だ。登場から数年は経つロングセラーモデルで、購入価格は3,082円だった。

 左右対称デザインである本製品は、中央にボール、左右にそれぞれ1ボタンを配置したオーソドックスなデザイン。筆者は本来ボールを親指で操作する派なのだが、今回は左手で使うため、ボールは人差し指で操作し、本体右側のボタンを親指、本体左側のボタンを薬指と小指でクリックするというスタイルでの利用となる。

 左右両側のボタンは前後に数cmもの幅があり、握り方に合わせて前方でも後方でも好きな位置に指を置ける。またボールの周囲にあるリングはホイールの役割を持っており、回転させることで上下スクロールがスムーズに行なえる。やや遊びがあるため微調整はしづらいが、長い距離のスクロールも容易で、Webブラウジングには最適だ。

 ただし、左手で快適に使うための設定には少々苦労する。本製品向けのユーティリティ「TrackballWorks」は左右ボタンの入れ替えなど、左手で使うための設定変更が行なえるのだが、ボールの進行方向の角度調整ができない。というのも、本製品は20度ほど内側に向けて設置した方が左右ボタンが押しやすいのだが、そうするとボールの回転方向とポインタの移動方向がずれてしまう。これを補正する機能は「TrackballWorks」には用意されていないのだ。

パッケージ。センサは光学式でUSB接続。対応OSはWindows XP以降およびMac OS X 10.4.11以降で、今回はWindows 7 Pro 64bitで使用している
製品本体。左右ボタンは幅が広くどこでも押せる反面、押す位置によってクリック感が微妙に異なり、端に行くほどクリックの遊びが大きくなる。構造上やむを得ないとはいえこのあたりは価格相応だ
左右が完全に対称な“1つ目”デザイン。ボール周囲のギザギザが入ったリングはホイールの役割を果たす
左手で持ったところ。筆者は左右ボタンを入れ替えているので、親指で右側面のボタン(左クリックに相当)、薬指と小指で左側面のボタン(右クリックに相当)を押すという配置
右手でもまったく同じ持ち方が可能。ちなみにここでは真正面を向けて設置しているが、実際には20度ほど内側に向けた方が握りやすい
ホイールの役割を果たすスクロールリングはかなり軽いため、このようにつままなくとも実際には中指や薬指1本で回せる
着脱可能なリストレストも付属するが、かぶせ持ちに近い握り方をする場合はあまり適さないため、筆者は使用していない
ボールの直径は40mm。このクラスとしては妥当なサイズだが、上位モデルの「ExpertMouse OpticalBlack」と比べるとかなり軽く、ブレーキが効きにくい。好みが分かれる仕様だ

 こうした場合に役立つのが、フリーウェアの「Nadesath」だ。純正ユーティリティに代えてこのNadesathを導入すれば、左右ボタンの入れ替えはもちろん、ボールの進行方向の角度調整もできる。これら設定はマウスデバイスごとに行なえるので、本製品向けに左右ボタンの役割を入れ替えたからといって、右手向けに接続しているマウスの左右ボタンまで入れ替わることもない。

フリーウェアの「Nadesath」の設定画面。PCに接続したマウスデバイスごとに挙動の設定が行naえる
左手での操作を前提に、左右ボタンの役割を入れ替えている。中ボタン以降の設定項目は本製品では利用できない
純正ユーティリティには存在しない、ボールの方向を補正する機能を備える。筆者のように本体をやや内向きに傾けて設置する場合に欠かせない

 以上のように、左手にフィットした操作性を実現できる本製品だが、しばらく使っていると、価格なりの箇所も見えてくる。1つはボール。直径は約40mmと、ビリヤード玉ほどのサイズがある上位モデル「ExpertMouse OpticalBlack」に比べてふた回りは小さい。本体サイズからすると妥当な大きさではあるが、ボールが軽すぎるせいか回した時の抵抗が少なく、もう1本の指を添えてブレーキをかけながら回さないと、意図したところでポインタを止めるのが難しい。これは価格相応ということで、慣れるしかない。

 また、多ボタンマウスを使っていると不満を感じるのが、ボタンの少なさだ。元々本製品にはホイールクリックに相当するボタンがないため、実質的に2ボタンマウスということになる。左手で使うための補助デバイスとして割り切るならありだが、ブラウザの戻る/進むや、次のタブに進む機能なども割り当て、多彩な操作を行ないたければ、4ボタンタイプの上位製品を買った方がよいだろう。ただし価格は倍以上になる。

 とはいえ、致命的なデメリットもなく、実売3,000円台というリーズナブルな価格で入手できる本製品は、トラックボールというデバイスに馴染めるか否かを判断したい場合、また筆者のように長らくトラックボールから離れていたユーザーが使い勝手の感覚を取り戻すのに適した、コストパフォーマンスの高い一品だ。ちなみに懸案だった肩こりだが、日々の作業の中でマウスに代えて本製品を一定のペースで使うようになったことで、激減したことをお伝えしておく。

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(山口 真弘)