Windows 8カウントダウン

Windows 8で「笑ってお仕事。」



 Windows 8の一般向け発売まで、あと1カ月となった。業界全体が大きな期待を寄せるバージョンアップだが、ユーザーの中には冷めた目で見る向きも少なくない。タッチ対応がクローズアップされ、タブレットの世界がアピールされるWindows 8だが、日常遣いのOSとしては、どのようなポテンシャルを持っているのだろうか。

●メイン環境をWindows 8に移行

 先週末、意を決して、日常的に使っているPCのすべてをWindows 8に移行させた。これまでは記事を書くために実験用PC数台での運用だったが、これですべてのPC作業はWindows 8で行なわざるを得なくなった。崖っぷちだが、いつかはそうしなければならない。もう、後にはひけない。

 これまでWindowsのバージョンアップは何度も経験してきたが、ここまで移行をためらったのは初めてだ。いや、正直に白状するとWindows Meのときも同じようにためらい、グズグズしているうちに、すでにWindows 2000のベータテストが始まっていたので、ついぞ、Meを日常的に使わずにすませてしまった前科がある。もう12年前の話だ。

 今回の移行は、具体的には、出張時の大画面ノートPCとして「Let'snote B10」、普段の取材時に使っている「Let'snote SX1」、最近になって入手し、そのモビリティを評価中の「LaVie Z」、そして、仕事場でメインの環境にしている自作デスクトップ、オマケとして初代の「VAIO type P」というラインアップとなる。全部で5つの環境があるが、すべて現役で日常的に接している環境であり、なくては困る環境だ。仕事にしても遊びにしても必ずこのどれかを使う。

 今回は、クリーンインストールをせずに、すべてアップグレードでWindows 8を導入した。以前、クリーンインストールの方が手間がかからないと書いたが、実際それを確かめた形だ。今回も、VAIO type Pだけはクリーンインストールだが時間も短くてすみラクだった。でも、長期間使っていて、グチャグチャになった環境のアップグレードがどうなるかを見たくて、アップグレードを試してみることにしたわけだ。

 要した時間は1環境あたり1時間といったところだろうか。大きなトラブルはなかった。使えなくなって困っているアプリケーションも今のところはない。

 ただ、ちょっとした不具合も経験している。デスクトップ環境のビデオカードは、かなり古めの「Radeon HD 5700」を使っているが、どうもIE10との相性がよくないようで、IE10の表示がたまにおかしくなる。ウィンドウ内が真っ白になったり、場合によっては落ちてしまうこともある。もし、これがあまりにも頻繁に起こるようなら、IE10のオプションで、GPUレンダリングをオフにしてみようかとも思っている。また、Silverlightが何かとコンフリクトしているような印象もあるのだが、これはWindows 8とは直接関係がないかもしれない。

 また、VAIO type Pは、グラフィックスのGMA500のWindows 7用ドライバを入れてみたのだが、稼働させたまま放置するといつのまにか再起動してしまう。こちらはGMA500のドライバをアンインストールし、Microsoft の基本ドライバで運用すると、こうしたことは起こらなくなったようにみえる。

 また、常用しているエディタ秀丸には「3Dグラフィックスアクセラレータによる文字の描画」という項目があるのだが、これをオンにしておくと、かえって描画が遅くなってしまうようだ。こうした現象を経験すると、グラフィックスまわりが安定するには、まだ少し時間がかかるかもしれないというのが正直な感想だ。

秀丸エディタでは3Dグラフィックスアクセラレータによる文字の描画を有効にしておくと、環境によってかえって遅くなる場合があるようだ。グラフィックスまわりは、まだ、いろいろと安定するまで時間がかかりそうだ

●大画面ではタッチスクリーンを使うのは無理

 今回、移行した環境だが、タッチスクリーンを持つ環境は1つもない。たとえば、デスクトップ環境は、3台の24型を接続したマルチディスプレイ環境だ。普通に仕事をする姿勢でスクリーンの前に座り、目とスクリーンの距離を測ってみると、約70cmあった。そして、その体制のまま、腕を伸ばしてみると指先がスクリーンに届かないことがわかる。つまり、腕より長い視聴距離が求められるサイズのスクリーンでは、タッチ操作は無理だということだ。だから、今まで通り、マウスとキーボードで効率よく使っていくための方法を確立する必要がある。

 一方、ノートPCだが、ただの使いにくいWindows 7になりそうなものだが、思ったほど不便を感じることはないのがわかった。よく言われるのが、ログイン時に、すぐにクラッシック環境のデスクトップが表示されないので、まどろっこしいという点なのだが、実際の使い方では、スリープとそこからの復帰を繰り返す。LCDを開いてスリープから復帰すると通常通りのロックスクリーン、そこでパスワードを入れれば、スリープする直前の状態が再現される。デスクトップで作業していたなら、その状態になる。だから、今までと何も変わらないのだ。

 スタートボタンが無いことはどうか。確かに不便だ。Windows 8のスタートスクリーンは、Windowsキーで表示されるし、スクリーン左下でポインタを静止させるとスタートスクリーンボタンが表示されて、そのクリックでスタートスクリーンに遷移する。だが、そこに並ぶタイルは、これまでのスタートボタンで参照できたすべての要素ではないので代替は難しい。

 だが、Windowsキーではなく、Windows + Qを使うと、これまで「すべてのプログラム」で表示されていた要素がすべて一覧できる。表示時のフォーカスは検索ボックスにあるので、そこでプログラムの名前をタイプしてもいい。この場合、たとえば「メモ帳」を探すためには、「メモ帳」と入力してもいいし「notepad」と入力してもいいのは便利だ。

アプリの一覧はWindows + Qで表示される。スタートメニューの代わりになるといえばなる。検索もこの場でできる

 また、コマンドプロンプトも、「cmd」と入れれば検索がヒットする。もちろん「コマンドプロンプト」と入れても構わない。もっともこちらは、Windows + Rで、直接cmdを実行した方が手っ取り早いかもしれない。

 ただし、アプリ一覧の中には「スタートアップ」がない。Windows起動時にスタートして欲しいプログラムを簡単に登録できないのだ。

 移行の初期は設定作業が多いので何かと不便を感じることが多く、次の2つのフォルダをファイルエクスプローラ(元エクスプローラ)のタスクバーアイコンのジャンプリストとしてピン留めした。

C:\Users\ユーザー名\AppData\Roaming\Microsoft\Windows\Start Menu
C:\ProgramData\Microsoft\Windows\Start Menu

 これで、すべてのプログラムへのアクセスが簡単にできるようになった。その中にはスタートアップフォルダもあるので、必要な場合には容易にアクセスできる。もっともスタートアップへの登録は、ファイルの右クリックによるショートカットメニューでもできる。

エクスプローラによく使うフォルダをピン留めする。プログラムが2つあるのは、個人用のすべてのユーザー用のフォルダがあるため。そのほか、コントロールパネルなどもピン留めしておいてもいい

 加えて、設定でよく使うコントロールパネルは、別途、タスクバーボタンとしてピン留めした。これは、好みにもよるが、デスクトップに表示させてもいいだろう。こちらは、デスクトップの右クリックや、コントロールパネルから呼び出せる「個人設定」を開き、左ペインにあるコマンドリンク「デスクトップアイコンの変更」をクリックすると、「コンピュータ」「ごみ箱」「ユーザーのファイル」「コントロールパネル」「ネットワーク」の各アイコンをデスクトップに表示させるかどうかを設定することができる。

 これらをデスクトップに表示させておけば、とりあえずは、困る場面は著しく少なくなるはずだ。

デスクトップに各種のアイコンを表示させれば便利かもしれない。デスクトップが白、タスクバーが上なのはぼくのすべての環境で共通。Microsoft IDと紐付けているので、1つの環境でこの設定をすれば、他の環境も同期されてすべて同じになる
個人設定の左上にコマンドリンク「デスクトップアイコンの変更」が用意されている
どのデスクトップアイコンを表示させるか、また、そのアイコンも変更できる。デフォルトはごみ箱だけだ

●新しいOSは気持ちがよい

 もう1つ問題になることが多いのが、再起動やシャットダウン、スリープなどの操作がわずらわしいことだ。でも、よくよく考えてみると、再起動やシャットダウンはさせられるものであって、自分で進んですることはめったにない。ノートPCならLCDを閉じるだけでスリープに移行する。だから、ちょっと言い訳がましいが気にしないことにした。実際、自分で再起動したりすることはほとんどないのだ。

 どうしても必要だと思うなら、

shutdown /s
shutdown /r

といったバッチファイルを作ってどこかに置いておけばいい。/sはシャットダウン、/rは再起動のためのオプションだ。探せばフリーソフトもたくさんある。

 こうして、いくつかの不便は工夫で解消できるわけだが、個人的にどうにも不便に感じるのは、ガジェットがなくなったことだろうか。

 ぼくは、タスクバー右端の日時の表示を小さく感じていたので、カレンダーと時計のガジェットを使っていたのだが、それが使えなくなってしまった。特に時計は、ローカルタイムと、米国太平洋時間の2つを置いていて重宝していた。この仕事ではシリコンバレーの時間が把握できると何かと重宝する。それが使えないのはやっぱり不便だ。

 そこで、とりあえず、TVClockというフリーソフトを見つけて使ってみることにした。時刻をかなり大きなサイズで表示できるので便利だ。欲をいえば日付や曜日を好きな書式で表示できれば嬉しいと思っているが、かなりのお気に入りだ。ただ、最新バージョンはまだベータで、マルチディスプレイ環境で不具合があるようなので、以前のバージョンを見つけて、そちらを使っている。

ガジェットが使えなくなってしまったので、TVClockで大きく時刻を表示するようにした。ファイルの右クリックによるショートカットメニューには、「スタートにピン留め」も用意されている

 というわけで、見かけの上ではAeroも廃止され、ちょっと無骨になってしまったWindows 8だが、エラーなどのシステム音も新しくなり、ちょっと未来的で新鮮なイメージもある。抽象的な言い方だが、使っていて、Windows 7よりも優雅な気持ちになれるのだ。

 Windows 3.1が発売されたとき、Microsoftは「笑ってお仕事。」を大々的にアピールし、そのコピーのCFを大量にオンエアした。かれこれ20年も前の話だが、今回のWindows 8には、なんとなく、そんな雰囲気も感じている。これが、PCのコンシューマライゼーションということなのかもしれない。