笠原一輝のユビキタス情報局

MWCで多数のWindowsスマートフォンが発表されたその背景とは

 3月2日からスペイン・バルセロナで開催されているMWC(Mobile World Congress)は、通信関連のイベントということもあり、Samsung Electronicsの「Galaxy S6/S6 Edge」や、ソニーの「Xperia Z4 Tablet」など多数の新端末が発表され注目を集めた。そうした中でも、PCユーザーにとって気になったのは、MicrosoftのWindows搭載スマートフォンが、同社の「Lumia」シリーズだけでなく、中小のOEMメーカーから多数発表されたことだ。

 Microsoftはブログの中で、多くのOEMメーカー、ODMメーカーがWindows Phoneの製造、販売を表明したことを明らかにし、以前のようにわずか数社しか端末を作っていない状態から大きく進化したことをアピールした。

 このようにLumia以外の製品が増えた背景には、昨年(2014年)のMWCでMicrosoftが発表した新戦略が大きく影響している。

Microsoftの大きな路線変更が、低価格なWindows Phoneという流れを生んだ

 今回のMWCでは、日本メーカーのプラスワン・マーケティング株式会社、マウスコンピューター株式会社の2社が開発中のWindowsスマートフォンを公開したほか、大手メーカーとしてはAcerが、そして日本では販売していない他地域メーカーもWindowsスマートフォンを発表した。

プラスワン・マーケティングがfreetelブランドで提供する予定のWindowsスマートフォン
マウスコンピューターが開発しているWindowsスマートフォン
Acerが発表したWindowsスマートフォン

 こうして次々とWindowsスマートフォンが投入される背景には、Microsoftがちょうど1年前のMWCに併せてバルセロナ市内で開催した記者会見で発表した、Windows Phoneに関する新戦略にある(別記事参照)。

 以前Microsoftは、Windows Phoneを製造するメーカーに対して厳格なデザインルールを課していた。例えば、ハードウェアのカメラボタンが必須、などがその代表例で、どの製品を買っても使い勝手が同一というメリットがあったが、メーカーにとっては高コストになるデメリットもあった。そうした要求をしていたのも、当初のライバルはAppleのiPhoneだと考えていたからで、対抗するために仕様を強いていたと考えることができる。

 しかし、グローバルで見ると、市場が選んだのはiPhoneでも、Windows Phoneでもなく、ある程度の混乱を容認したAndroid陣営だった。厳しい制約をせず、どんなOEMメーカーでも参入を認めた結果、2014年の段階で10億台を出荷するまでに成長した。つまり、MicrosoftのWindows Phone戦略は、iPhoneに対抗することもできなかったし、Androidには数で圧倒的され、失敗に終わったと言っていい。

 このため、その戦略大きく軌道修正した。それが昨年発表した新戦略で、従来メーカーに課していた制約はなくし、OEM/ODMメーカーが参入しやすいようにした。かつ、安価に端末を設計できるように、QualcommがAndroid向けに提供していたQRD(Qualcomm Reference Design)を、Windows Phoneでも利用できるようにした。

 QRDは基板やある程度のソフトウェア(例えばファームウェアなど)をQualcommが提供することで、デザインを決める程度の作業で、簡単にスマートフォンを開発できるキット。PCの世界では、汎用のマザーボードが提供されていて、PCメーカーはケースを作れば簡単にPCを設計することができるが、そうした仕組みをスマートフォンでも実現したのがQRDと言っていい。

現状では大きく分けて2種類のスペックに集約される

 その発表から1年経ち、ようやくその成果が出揃い始めたのが、今回のMWCということになる。昨年のMWCでは、中国ODMメーカーのAndroidスマートフォンばかりが並んでいる状況だったが、今年(2015年)はWindowsスマートフォンを並べるところが増えた。そして、そのODMメーカーと一緒に新製品を開発したOEMメーカーが、今回のMWCで多数の製品発表をしたわけである。

 ODMメーカーのブースを巡っていて気がついたのだが、今回のMWCでリリースされた製品の多くは、以下の2つのスペックがほとんどだった。

【表1】MWCで見かけたWindows Phoneのスペック

LTE版 3G版
SoC Snapdragon 410(MSM8916) Snapdragon 200(MSM8216)
ディスプレイ 5型 4型
メモリ 1GB 1GB
ストレージ 8GB 4/8GB
モデム LTE 3G

 つまり、Windows Phone向けのQRDが2種類あるからこの結果になっているのだろう。実際複数のODMメーカーのブースでスペックが2種類になっている原因を尋ねると、「QRDが2スペックだから」という答えが返ってきた。このため、現状ではOEMメーカーが差別化できるポイントは、液晶ディスプレイやタッチパネル、外観デザインという部分になる。

 ただし、この現状は“ジャストスタート”と表現するのが正しい。今後、さらに多くのOEMメーカーやODMメーカーが参入することになれば、デザインにもバリエーションが増え、ディスプレイサイズのバリエーションが増えたり、基板もQRDではなく自社設計が増えていく。市場がが大きくなっていけば、OEMメーカー同士の競争が始まるので、自然とそうしたことが発生して行くだろう。

ソフトウェア開発者を引きつけることにつなげられるかが鍵

 Microsoftにとって重要なことは、この生まれ始めたWindows Phoneの新しい市場を、次のステップへと繋げて行けるかという点にある。その鍵を握っているのは、ソフトウェア開発者の動向だ。

 OSプラットフォームの普及には、“鶏と卵”の議論を避けて通れない。OSプラットフォームの発展にとっては、ユーザーが使いたくなるソフトウェアが必須だ。しかし、ソフトウェア開発者にしてみると、せっかくソフトウェアを作るのであれば、できるだけ多くのユーザーがいるプラットフォームに向けてソフトウェアを作りたいと思うのが当然だ。であれば、既に市場に豊富にある製品に向けてソフトウェアを書きたいと考えるだろう。

 すると、結局シェアが低いプラットフォームは、ソフトウェアが出回らないので、ハードウェアが普及しない。そしてハードウェアが増えないから開発者がソフトウェアを書かないという、鶏と卵のジレンマ(鶏が先か、卵が先かという議論ばかりで先に進めないこと)が延々と繰り返されることになる。

 今回のMWCで多数のODMメーカーやOEMメーカーから製品が発表されたことは、良い影響があると言える。ソフトウェア開発者から見れば、ODM/OEMメーカーが増えることは台数が増えると同義だから、モチベーションは以前よりも高まることになるだろう。従って、Microsoftにしてみれば、今こそそれを活かして、ソフトウェア開発者にソフトウェアを書いてもらい、ユーザーが増え、端末の需要が増える……そうした好循環に持っていくことが何よりも大事なのだ。

 その意味で、Microsoft デバイス事業部担当上級副社長 ステファン・エロップ氏の講演が、開発者向けイベントであるBuild 2015の紹介で終わったことは、非常に象徴的だったとも言える。Microsoftとしてもこれを機を捉えて、開発者にアプローチしたい考えだろう。

初日に行なわれたMicrosoftの記者会見の最後には、4月29日から米国サンフランシスコで行なわれる開発者向けイベントBuild 2015の紹介があった

Windows 10ではユニバーサルアプリを武器に好循環の実現を目指す

 そして、Windowsスマートフォンにとって次の大きなステップとなるのが、Windows 10の登場だ。というのも、Windows 10の登場が、市場を大きく変える可能性を秘めているからだ。

 現在、Windows Phoneがスマートフォン市場で占めているシェアは、上位2陣営(Android、iOS) に比べて圧倒的に小さい。以下は調査会社Gartnerが発表した2014年の、スマートフォンにおけるOSプラットフォーム別の出荷数とそのシェアになる。

【表2】調査会社Gartnerが発表した2014年グローバル市場でのスマートフォンのOS別による出荷台数とシェア(単位:千台、出典:Gartner 2015年3月)
OS 出荷台数 市場シェア
Android 1,004,675 80.7
iOS 191,426 15.4
Windows 35,133 2.8
Black Berry 7,911 0.6
その他 5,745 0.5
合計 1,244,890 100

 スマートフォンという形で切った時には、圧倒的なシェア1位はAndroidでシェア80.7%、出荷台数は10億台を超えている。2位はiOSでシェア15.4%、出荷台数約1億9千万台となる。3位のWindows Phoneはその上位2陣営から大きく離されてシェア2.8%、出荷台数約3,500万台となっている。現状では、上位2陣営に大きく引き離されており、これでは開発者がAndroid版とiOS版ソフトを作るが、Windows Phone版は作らないというのも無理はない。

 しかし、Windows 10の登場はこの現状を大きく変える可能性を秘めている。というのも、Windows 10の世代で導入されるユニバーサルアプリは、PC版のWindowsだけでなく、スマートフォン版のWindows 10でも同じアプリを基本的に使えるからだ(1つのバイナリという意味ではなく、1つのコードで展開できる意味だ)。また、Winodws 10では、従来はPC用とPhone用に分断されていたWindowsストアが1つに統合される見通しだ。

 こうなると、アプリ開発者にとっては、ユニバーサルアプリを作成すると、PC/タブレット/スマートフォンをすべてカバーできることになる。つまりアプリ開発者にとってターゲットとなるデバイスが増えることを意味する。以下は、PC+タブレット+スマートフォンの合計を、OSプラットフォーム別にした予測データだ。

【表3】PC+タブレット+スマートフォン市場での台数の予測(単位:千台、出典:Gartner 2015年1月)
OS 2014年 2015年 2016年

台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア
Android 1,156,111 49% 1,454,760 59% 1,619,030 63%
Windows 330,017 14% 355,035 14% 393,256 15%
iOS/Mac OS 262,615 11% 279,415 11% 298,896 12%
その他 626,358 26% 380,545 15% 261,155 10%
合計 2,375,101 2,469,755 2,572,338

 これを見れば一目瞭然のように、Windows 10がリリースされれば、Windowsスマートフォンに向けてユニバーサルアプリを開発する開発者は年間3,500万台の市場がターゲットではなく、3億5千万台〜4億台がターゲットとなる。その意味はもはや筆者が繰り返すまでもないだろう。

 つまりWindows 10世代ではユニバーサルアプリがソフトウェア開発者にとって魅力的なプラットフォームとなる可能性がある。現在はAndroid用、iOS用にしか作っていない開発者も、併せてWindowsユニバーサルアプリを作ることが増えていく可能性は高い。その結果、さらなるOEMメーカーがWinodwsスマートフォンに参入する、そうした好循環が起こる可能性は十二分にあるのではないだろうか。おそらく、日本市場で投入を決めた2社も、このことを見据えているはずだ。

 それだけに、日本マイクロソフトにはそうした2社をしっかり後押しして欲しいし、自社端末をMVNO市場に投入するなど、これまでのやり方からは思い切って変える施策を打って、Windows 10に備えて欲しいと願い、この記事のまとめとしたい。

初日に行わなれたMicrosoftの記者会見では、ユニバーサルアプリ版のOfficeが紹介された。これはPCと同じユニバーサルアプリがWindowsスマートフォンで動作しているところ

(笠原 一輝)