笠原一輝のユビキタス情報局
見えてきたWindows 10世代のハードウェア
~新世代SoCで進化するWindowsスマートフォン
(2015/3/26 06:00)
先週、中国の深センで行なわれたMicrosoftのハードウェア開発者向けカンファレンスWinHECでは、Windows 10の発売時期が今年(2015年)後半から今夏に前倒しされたことが発表された。本連載では、その今夏というのが、7月になるという見通しをお伝えしたが、今回の記事ではWinHECで発表された内容を元に、7月のリリースに向けて見えてきたWindows 10のハードウェアに関する情報をお届けしたい。
MicrosoftはWinHECで公開した資料の中で、“One Core OS”という表現を利用して、複数用意されるWindowsが、全て1つのベースに基づき、PC(タブレット/2-in-1/ノートブック/デスクトップ)向け、スマートフォン/ファブレット向け、ゲームコンソール向け、さらにはIoT向けのバージョンと派生させていくことを明らかにした。それらを、半導体メーカー各社の新世代のSoCが支える形となる。
また、OEMメーカー筋の情報によれば、Windows 10の世代でもPC向けの製品のSKU構成も分かってきた。
1つのコアOSから複数のフォームファクタへと展開していくWindows 10
以前から本連載でお伝えしているように、Microsoftは複数あったWindows OSをWindows 10世代で1つにまとめる。これまでは、Windows Mobileが元になっているOS(Windows Phone 8.1など)と、Windows NTが元になっているOS(Windows 8.1など)が併存してきた。そんな中、Windows Phone 8.1、Windows 8.1の世代では、Windows Universal Appsという概念が導入され、開発者の側では同じコードから展開先を変えるだけで両方のOSに同じアプリを展開できるようになった。しかし、依然として2つのOSは別のカーネルから構成された製品で、アプリの配布を行なうアプリストア(Windowsストア)も別々のままだった。
Windows 10ではそれらが完全に1つのOS、ストアとして統合される。下のスライドはMicrosoftがWinHECで行った講演「Windows 10 Hardware Platform Overview」で公開されたものだが、Windows 10の基本的な考え方をよく示した資料と言える。
このように従来はそれぞれ別の製品として存在していたWindows Desktop、Windows Phone、XboxのOS/アプリが1つに統合され、さらにIoTやHoloLensといった新しいジャンルが追加され、1つのWindows 10として展開されていくことになる。
またMicrosoftは、Windows 10にはフォームファクタ別に複数の製品があることを明らかにしている。それをよく示しているのが以下のスライドだ。
このように1つのコアOSから、UIなどの若干の調整を加えることで、複数のカテゴリのハードウェアに展開できる。これがWindows 10の最大の強みだ。
例えばPC向けには、従来のWindowsと互換性を維持するために、Windowsデスクトップの機能が追加され、Windows 7的なスタートメニューとWindowsデスクトップアプリケーションを実行できる。スマートフォン向けであればタイルUIを利用し、操作しやすいようにする。Xbox向けならコンソールゲーム向けのUIが追加されている……と言った具合だ。
WindowsスマートフォンはまずARMベースで展開し、後IAベースも追加される
多くの読者にとって、PC向けとスマートフォン向けのWindows 10が最も気になるところだろう。WinHECで発表した内容などを元に違いをまとめたものが以下の表になる。
Windows 10 for PC | Windows 10 for Phone | |
---|---|---|
ディスプレイサイズ | コンシューマ向け8型以上/企業向け7型以上 | 3~7.99型 |
ISA | IA | ARM/IA(*1) |
UI | Windowsデスクトップ/Modern UI | タイルUI |
ストア | Windowsストア | |
Windowsデスクトップアプリ(Win32/Com) | ○ | - |
Windows Universal アプリ(WinRT) | ○ | ○ |
*1 リリース時にはサポートされず |
Windows Phone 8.1の実質的な後継となるWindows 10 for Phones(資料によってはWindows “Mobile”)とWindows 8.1の後継となるWindows 10 for PCs(資料によってはWindows “Desktop”、いずれも仮称だと思われるが、WinHECの資料ではこうした呼び方が使われていたので以下統一)だが、2つの製品の分岐点はディスプレイサイズになる。
ディスプレイサイズが3型~7.99型のデバイスにはWindows 10 for Phones、8型以上のデバイスはWindows 10 for PCsが利用されるというのが、Microsoftが現在考えている分岐点だ。ただし、企業向け製品では7型以上でfor PCが利用可能になっており、ここでは若干のクロスオーバーが発生することになる。
ただ、この切り分けから明らかなことは、8型や10型などの既存のWindowsタブレットに関しては、引き続きWindows 10 for PCsとIAプロセッサの組み合わせで、Windows 10 for Phonesの方はファブレットと呼ばれるスマートフォン(電話機能があるかはおいておくとして)の延長線上にあるタブレットを作って欲しいと考えていることだ。
また、Windows Phone 8.1になかった特徴として、ARMアーキテクチャだけでなく、IA(Intel Architecture、IA32/AMD64)もサポートされることになった。これまで、MicrosoftはWindows 10 for PhonesでIAをサポートするとは公式にはアナウンスしてこなかったが、WinHECで公開した資料(Minimum System HW Requirements & Compatibility for Windows Platforms)の中で、サポートするSoCにAtom x3 LTE(SoFIA LTE)(別記事参照)があることを明らかにし、実質IAのサポートを表明している。
だが、Windows 10 for PhonesでIAのサポートがいつ開始されるのかは明白ではない。OEMメーカーの関係者によれば、IntelのSoFIA LTEは元々のスケジュールから遅れ気味であり、まずはAndroidのサポートが優先されているという(3G版の方は順調で既に製品の製造が開始されている段階)。Intelの幹部は記者説明会の中で「Windows 10のサポートはSoFIA LTEファミリでサポートする予定」と発言しており、SoFIA LTEという具体的な製品ではなく、複数あるSoFIA LTE製品(SoFIA LTEとSoFIA LTE2)のどれかでサポートするという微妙な言い回しを使っている。つまり、Windows 10 for Phoneのサポート開始は2016年に投入される予定のSoFIA LTE 2までずれ込む可能性がある
QRDベースのWindowsスマートフォン向けのSoCをSnapdragon 425/210へと進化
このため、7月のWindows 10リリース時点では、まずARMのサポートのみでスタートすることになる。現時点ではWindows 10 for PhonesでサポートされているSoCはQualcomm製のSoCだ。Windows Phone 8.1世代で、MicrosoftはQualcommと強力なパートナーシップで展開してきたが、Windows 10世代でもひとまずその状況は続くことになる。しかし、既にIA版が存在していることからも分かるように、SoCベンダーの幅は広げていく方向だと考えられており、今後MediaTekなどにも広げられていく可能性は残されている。
MicrosoftがWinHECで公開した資料によれば、以下のようなQualcommのSoCがWindows 10では新たにサポートされるという。
モデルナンバー | ブランド名 | CPU | GPU | モデム |
---|---|---|---|---|
MSM8994 | Snapdragon 810 | Cortex-A57(クアッド)+Cortex-A53(クアッド) | Adreno 430 | LTE(X10) |
MSM8992 | Snapdragon 808 | Cortex-A57(デュアル)+Cortex-A53(クアッド) | Adreno 418 | LTE(X10) |
MSM8952 | Snapdragon 425 | Cortex-A53(オクタコア) | Adreno 405 | LTE(X8) |
MSM8909 | Snapdragon 210 | Cortex-A7(クアッドコア) | Adreno 304 | LTE(X5) |
MSM8208 | Snapdragon 208 | Cortex-A7(デュアルコア) | Adreno 304 | 3G |
なお、資料で公開されていたのはMSMのモデルナンバーだけだが、Snapdragonの型番とスペックは筆者が付け加えた。ハイエンド向けモデルにSnapdragon 810/808が、ミドルレンジの製品にSnapdragon 425が、ローエンド向けの製品にSnapdragon 210/208が採用されるとなるだろう。
Windows Phone 8.1世代では、QualcommがODM/OEMメーカーにリファレンスデザインとしてQRD(Qualcomm Reference Design)を提供してきたが、Windows 10世代でも引き続き提供される。QualcommがWinHECで公開した資料によれば、Windows 10向けのQRDとして、Snapdragon 210(MSM8909)、Snapdragon 425(MSM8952)が提供される。現在Windows Phone 8.1向けにはSnapdragon 410(MSM8916)、Snapdragon 200(MSM8216)がQRDとして提供されていたことを考えると、1世代進むことになる。
おそらく、リリース当初にでてくるQRDベースのWindows 10スマートフォンは引き続きSnapdragon 410/200ベースだと考えられるが、今年の後半から来年(2016年)にかけて出てくる新製品に関してはSnapdragon 425/210に置き換わっていくと考えることができるだろう。
with Bingが消滅
現在Windows 8.1ベースで出荷されている、8型~12型のタブレット、2-in-1デバイス、クラムシェル型ノートPC、デスクトップPCなどはWindows 10 for PCがプリインストールされて出荷されることになる。ここは基本的にWindows 8.1世代と大きく変わらない。ただ、Windows RTに相当するARMアーキテクチャのデスクトップOSは消滅する。従って、Windows 10世代のWindowsタブレットはすべてIAベースのSoC、Intelで言えばAtom X7/X5(Cherry Trail)とCore MないしはCore(Uプロセッサ)だし、AMDで言えばCarrizo/Carrizo-Lベースの製品となる。
現時点ではMicrosoftはSKU構成について公式には何もアナウンスしていないが、OEMメーカー筋の情報によれば、現在のWindows 8.1で展開されているPro/無印/with Bingという3つのSKUから、Pro/無印の2つのSKUへと統合される可能性が高いという。ただ、with Bingが廃止されるということではなく、with Bing相当の価格モデルは無印へと統合となり、同じ無印SKUであっても、製品によってライセンス料金が違うといった形になるようだ。ユーザーから見れば、現状with Bingと無印の違いはほぼ皆無なので、そうした形に整理されるのは歓迎していいだろう。
なお、現時点では具体的な名称までは分かっていない。Windows 8世代ではProと無印という形になっていたが、Windows XP時代のようにProfessionalとHomeといったより分かりやすい名称にすることも検討されているようだ。