笠原一輝のユビキタス情報局

TDP 10WのHaswellでUMPCが復活となるか



 Intelはサンフランシスコで開催中の「Intel Developer Forum」において、開発中の製品に関する解説を多数実施。この中で、次期CoreプロセッサのHaswellのロードマップ変更などについても明らかにした。Ultrabook向けのHaswellには、現行の第3世代Coreプロセッサ(Ivy Bridge)のUシリーズに相当するTDP 15Wとなる製品だけでなく、TDP 10Wという新しいカテゴリの製品投入を明らかにした。

 これによりPCベンダーは、現在のUltrabookよりもさらに薄く、軽い製品を設計することが可能になる。

●IDF前の第3四半期決算の業績予測を下方修正したIntel

 IDFに先立つ9月7日(米国時間)、Intelは2012年第3四半期(7月〜9月期)の業績予測を下方修正したことを明らかにした。従来の予測では、売上高が138億ドル〜148億ドルという予測だったものを、132億ドル±3億ドルと下方修正したのだ。当初の予測に比べて下方修正することになった要因としては、顧客となるPCメーカーが第3四半期の在庫を圧縮し、企業向けPC市場も引き続き需要は軟調で、かつ新興市場の需要の鈍化があったためだという。平たく言えば、PCの需要がIntelの事前予測よりもさらに低かったため、売り上げの減少につながったということだ。

 PCベンダーと、そこに部材を納入するIntelにとって2012年の第3四半期が厳しい状況になるのは元々予想されていた。それは10月末にMicrosoftがWindows 8を投入するからで、世界中の市場で買い控えが起こることは容易に想像できた。それでも下方修正が発生したということは、Intelの予想以上に買い控えが発生したり、PCメーカーの在庫調整が行なわれたということだ。それだけに今回のIntelの下方修正は、株式市場はもちろんこと、PC業界の関係者にも大きな衝撃を与えることになった。

●PC業界をあげて“Windows 8祭り”でV字回復目指す

 問題はこの落ち込みが、Windows 8買い控えが予想以上に発生したという一時的な要因なのか、それともPC市場全体の落ち込みを意味しているのかという点にある。Intelにしてみれば、Windows 8のリリース後になる今年のクリスマス商戦や2013年以降に、Windows 8を搭載したPCが飛ぶように売れ、“V字回復”を果たせるかが重要になるのだ。そこでIntelは今回のIDFで、“Windows 8祭り”に向けた準備をさかんにアピールした。

 Intel 副社長兼PCクライアント事業本部 事業本部長 カーク・スコーゲン氏は、NECの「LaVie Z」やソニーの「VAIO Duo 11」、東芝の「Satellite U920t」など日本のPCベンダーの製品を含む第3世代Coreプロセッサ搭載Ultrabookを多数紹介し、「第3世代Coreプロセッサを搭載したUltrabookはすでに40製品が市場に投入されており、Windows 8の発表に併せてタッチに対応した製品がさらに40近く投入されることになるだろう」と強調。つまり、Windows 8に向けてIntelがOEMベンダーに採用を呼びかけてきたタッチ操作対応のUltrabookが投入されることになる。

 また、スコーゲン氏は「このIDFにあわせて、Dellから599ドルのUltrabookの販売が開始される(筆者注:XPS 14)。このように、Ultrabookの価格帯は広がりつつある」とし、需要の喚起につなげたいとした。

 さらに「2012年の末にコンシューマ向けノートPCの30%をUltrabookにするという当初の計画に変更はない」と述べ、同社のUltrabookの普及計画が計画通りに進んでいるという認識を明らかにした。

Intel 副社長兼PCクライアント事業本部 事業本部長のカーク・スコーゲン氏 Windows 8のリリースに合わせてタッチ対応のUltrabookが多数計画されている 東芝のSatellite U920tを手に持ちタッチ対応Ultrabookをアピール

●Haswell世代でTDP 10Wの枠を新たに設定

 Intelがアピールしてみせたのは、そうした近い未来だけではない。今回のIDFにあわせて重要なロードマップの変更を行ない、その概要を発表した。

Intelの新しいUltrabook向けプロセッサのロードマップ。従来の17WのUシリーズはHaswell世代で15Wになり、さらに新しいカテゴリとしてコンバーチブル型やセパレート型向け、ミニPCなど向けに10WのHaswellが投入される

 スコーゲン氏は「2013年は、Haswellをより低消費電力なウルトラモバイル向けとして投入する。これは22nmプロセスルールへの最適化やマイクロアーキテクチャそのものの改良により可能になった」とし、TDPが10Wの製品を投入すると明らかにした。また、17Wと10Wの版に関してはすべてがSoCになり、プロセッサとPCHはMCM(Multi Chip Module、1つのチップに複数のダイを実装する技術)になるという。

 これまでIntelはOEMメーカーなどに対して、Haswell世代では、通常電圧版の一般的なノートPC向けの37W/47W版と、Ultrabook向けの15W製品と、3種類の枠があると説明してきた。スコーゲン氏は「37W/47WのTDP枠は依然として残るが、こちらはSoCではなく2チップのままになる。Ultrabook向けの製品のみSoCとなり、15Wと10Wが設定されることになる」とした。

 ただし、この10WのHaswellに関しては、ブランド名はまだ未定であると説明した。「Coreブランドは確かにIntelにとって成功したブランドの1つだが、この10Wの製品はゲームのルールを変えてしまうような製品なので、今後検討をしたい」と、Coreと別ブランドになる可能性を示唆した。

 Haswellのリリース時期に関しては「2013年の前半に最初のHaswellのアーキテクチャに基づいた製品をリリースする。その後ラインナップを拡張していく」と述べ、同時期にまとめて発表するというのではなく、複数の異なる時期に製品を順次投入する計画であるとした。


●TDPの削減はより薄く軽いUltrabookが実現可能に

 エンドユーザーにとって大事なことは、この新しい10WというTDPで何が可能になるかだ。より低いTDPが実現されれば、チップから発せられる熱量が減少し、熱設計、つまりはヒートシンクやファンなどをより簡素化し、本体の容積を小さくできる。

 つまり10WのHaswellは、より小型のUltrabookやタブレットなどを設計可能になる。例えば、かつてAtomベースの製品として設計されていた、ソニー「VAIO X」/「VAIO P」、富士通「LOOX U」のようないわゆる、UMPCと言われてきたモデルや、現在より薄く軽いクラムシェル型のUltrabookを設計できる。

今回紹介されたUltrabookはすべてがタッチ対応だったのだが、その中で唯一タッチ未対応だったNECのLaVie Z。875gという突き抜けた軽さを評価してということだろう。

 例えばNECパーソナルコンピュータの「LaVie Z」は、現行の17WのIvy Bridgeと2Wのチップセットで、重さ875g/薄さ14.9mmというスペックを実現している。これに対しHaswellでは1チップで10Wになるため、基板体積/本体容積の減少、放熱機構の簡素化などによって、さらに薄く軽い製品が現実的になるわけだ。

 日本のメーカーは薄型化や軽量化という技術面で、台湾や中国のODMメーカーなどに対して一日の長があるため、チャンスとなるだろう。今回のスコーゲン氏の記者会見で紹介されたUltrabookは、タッチ機能付きばかりだったが、唯一タッチ対応ではない製品で紹介されたのがNECのLaVie Zだった。それだけIntelも875gの価値を評価しているということだろう。


●ついに“ジャンプ”の時を迎えるUltrabook、そしてUMPCの夢再び
テクニカルセッション(Ultrabook and the Transformation of the PC)で示されたロードマップ。まず来年前半に10WのIvy Bridgeが投入され、後半にHaswellベースで10W以下のTDPの製品が投入されると説明されている

 ところで、別途行なわれたUltrabookの戦略を説明するテクニカルセッションでは、2013年の前半にIvy Bridgeベースで10Wの製品が投入され、その後継としてHaswellの10Wの製品が投入されるということも明らかにされている。また、そのスライドによれば、Haswellではさらに10Wを切るような製品が導入されるという。

 こうした製品が登場することにより、2013年はノートPC市場にとって大きな変革の年を迎えることになるだろう。この10WというTDP枠の導入は、まさにノートPCのフォームファクタを大きく変えてしまう。これまでの小型PCはAtomをベースに作られていた。つまり言ってみればIntelにとっては亜流とも言える製品を利用していた。日本でこそ受け入れられたものの、グローバルマーケットでは追随する海外のPCベンダーがなかった。身も蓋もない言い方をすれば、グローバルマーケットでは他社が追随するほど売れなかったということだ。

 しかし、10WのHaswellはそうではない。メインストリームのCPUが、そのままUMPCカテゴリの製品にも採用できるようになるからだ。従って、そういうことにトライしようとするメーカーは日本のPCベンダーだけでなく、ワールドワイドのPCベンダーも続く可能性がある。これにより、我々が想像もしなかったような新しい革新的なUltrabookが登場しても何も不思議ではないのだ。

 以前Ultrabookを解説した記事で、Sandy Bridgeがホップ、Ivy Bridgeがステップ、そしてHaswellこそがジャンプで本番だと述べた。今回のIntelのTDP10WのHaswellの構想はまさにそのジャンプの上を行くものであり、Ultrabook市場の活性化につながることは間違く、いちユーザーとしても期待したいところだ。

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(2012年 9月 13日)

[Text by 笠原 一輝]