バグは本当に虫だった - パーソナルコンピュータ91の話
第5章 検索の時代へ(3)
2017年6月5日 06:00
2017年2月21日に発売された、おもしろく、楽しいウンチクとエピソードでPCやネットの100年のイノベーションがサックリわかる、水谷哲也氏の書籍『バグは本当に虫だった なぜか勇気が湧いてくるパソコン・ネット「100年の夢」ヒストリー91話』(発行:株式会社ペンコム、発売:株式会社インプレス)。この連載では本書籍に掲載されているエピソードをお読みいただけます!
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プレイステーションと同じCPUで冥王星へ 2006年
「すいきんちかもくどってんかいめい(水金地火木土天海冥)」と覚えた冥王星。太陽系第九惑星と学校で習いましたが、2006年8月に冥王星は惑星ではなく準惑星に分類されてしまいました。「美少女戦士セーラームーン」ではセーラープルートが登場していましたが、まさか冥王星が準惑星になるとは原作者も思っていなかったでしょう。
まだ冥王星が惑星だと信じられていた2006年1月、冥王星を目指してNASAが打ち上げたのが探査機「ニュー・ホライズンズ」。人類初の太陽系外縁天体の探査をおこなう探査機です。発射後九時間で月軌道を通過し、十三カ月後に木星をスイングバイ(木星の引力を利用して探査機を加速)しました。
ニュー・ホライズンズは太陽からどんどん離れていきますので、太陽電池は使えません。代わりに原子力電池を搭載しています。ミッション用機器の他には1930年に冥王星を発見したクライド・トンボーの遺灰が搭載されています。
冥王星に近づき探査を開始
打ち上げ以来、九年間をかけて冥王星に近づき、2015年から、いよいよ観測を開始しました。太陽から約五十六億キロも離れていますので、冥王星軌道からの通信速度はたったの800bpsほど。1980年代後半にはやったパソコン通信時代によく使われていたモデムが9600bpsでしたので、パソコン通信の十二分の一という遅い通信速度です。
ニュー・ホライズンズには8GBのフラッシュメモリが搭載されていて、まずフラッシュメモリに探査データを蓄積してから、数カ月かけて地球へ送り届けます。2015年7月から冥王星や衛星カロンの本格的観測に入り、データを地球へ送っています。冥王星の大気は青いなど新発見が相次いでいます。
初代プレイステーションと同じマイクロプロセッサが搭載されている
ニュー・ホライズンズにはマイクロプロセッサが搭載されていますが、同じマイクロプロセッサはいろいろな分野で使われ、ソニーでは初代プレイステーションとプレイステーション2に採用されています。映画「ジュラシック・パーク」作成で使われたシリコングラフィックス社のコンピュータにも採用されています。
過酷な宇宙空間を行く探査機に搭載するので要求されるのは信頼性。高性能なマイクロプロセッサもありますが、肝心な時にトラブルを起こしてもらったら困ります。いわゆる枯れた技術が使われますので、アポロ十一号の月着陸で使われたコンピュータは高機能電卓やファミコンよりも処理能力が劣りました。
冥王星探査を終えた後、ニュー・ホライズンズは2020年頃、彗星の故郷といわれるエッジワース・カイパーベルト(天体が密集した、穴の空いた円盤状の領域)を観測し、その後は太陽系を脱出していきます。
iPhoneの時刻が9時41分なのはなぜ 2007年
2007年、偉大な発明品が登場します。それがiPhoneです。携帯電話は基本的に電話を携帯するものでしたがiPhoneはパソコンそのものを携帯し、電話は付随機能です。人類は本当の意味で、モバイルパソコンを手に入れたことになります。
2007年以前、電車内で見かけたのが本や新聞を読む姿。今や絶滅状態で、ほとんどの人が見ているのがスマホです。iPhoneがマックワールドエキスポ2007で発表され、同じ年の11月にグーグルからアンドロイドが発表され、2007年がスマホ元年になりました。
今や客先までの道路案内や新幹線の切符予約など、スマホはビジネスパーソンの必須ツールになってしまいました。
iPhoneの時刻は9時41分
iPhoneの公式サイトを見るとiPhoneに映っている時刻が9時41分になっています。9時や10時ではなく、なぜ中途半端な9時41分なのでしょうか。しかもライバルのアンドロイドは10時08分や12時45分などバラバラなのに対し2007年に発表された初代iPhoneから歴代機種の画面もずっと9時41分です。
実はiPhoneの発売に先立って、スティーブ・ジョブズがおこなったマックワールドエキスポ2007でのプレゼンと関係があります。
「今日、われわれはここで歴史を作ることになる」という発言でプレゼンをはじめたのがスティーブ・ジョブズ。マッキントッシュを発売し、キーボードでコマンド入力するというコンピュータの世界をマウスで画面を見ながら操作する世界に変えました。その後、iPodとiTunesを送り出し、CDを買って聞くという音楽の世界をネットで聞く世界に変えてしまいます。アップルによってエポックメーキングになった二つの製品をまずプレゼンで紹介します。実際、コンピュータ業界、音楽業界は業界構造そのものが大変革となりました。
ここで三番目のエポックメーキングとなる製品が紹介されます。「アップルは今日、電話を再発明する」とスティーブ・ジョブズがしゃべった後に、プレゼンで映し出されたのがキーボード付きの携帯電話。次にスタイラスペンが紹介され、「こんなインターフェースは使わないと」いう前フリをし、観客の笑いをさそった後に登場したのがiPhoneです。
iPhoneの登場が9時41分
プレゼンはマッキントッシュのプレゼンソフトであるキーノートを使っていますが、iPhoneの登場を四十分後に設定していました。プレゼンでiPhoneが映し出された時、iPhoneの時刻と聴衆の時刻が同じ9時41分になるように考え、画面のiPhoneの時刻を9時41分にしました。
アップルではプレゼンが始まって四十分後に製品の紹介が始まり、目玉製品の画像が大きく映し出されることになっていて、この四十分間は「アップルの秘密の魔法の時間」と呼ばれています。スティーブ・ジョブズが亡くなってからも9時41分という時刻はアップルでシンボル的に使われるようになり、最新のiPhone7の発表でも使われています。またiPodの時刻も同じ9時41分になっています。
アップルウォッチの時刻は10時9分
ところが腕時計型コンピュータであるアップルウォッチは9時41分ではなく、なぜか10時9分になっています。アナログ時計メーカーが出している腕時計の広告を見ると、ほぼすべての時計が10時8分から10時11分のどこかに設定されています。これは短針・長針の位置のバランスが美しく見えることや、文字盤にある時計メーカーのブランド名が見えることが理由です。
たとえばセイコーは10時8分42秒で統一されています。シチズンは10時9分35秒。カシオは10時8分36秒になっています。
デジタル化され短針・長針がなくなり時刻表示だけになりましたが、機械式時計の長い歴史に敬意を払い、10時9分という時刻がアップルウォッチで使われることになりました。