バグは本当に虫だった - パーソナルコンピュータ91の話
第5章 検索の時代へ(2)
2017年6月1日 06:00
2017年2月21日に発売された、おもしろく、楽しいウンチクとエピソードでPCやネットの100年のイノベーションがサックリわかる、水谷哲也氏の書籍『バグは本当に虫だった なぜか勇気が湧いてくるパソコン・ネット「100年の夢」ヒストリー91話』(発行:株式会社ペンコム、発売:株式会社インプレス)。この連載では本書籍に掲載されているエピソードをお読みいただけます!
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フラッシュメモリは日本発 2000年
フラッシュメモリを発明したのが、東芝に勤めていた舛岡富士雄氏です。フラッシュメモリの市場規模は約一兆円といわれ、東芝に多大な貢献を果たしますが、処遇をめぐって会社と対立します。東芝を退職後、青色発光ダイオード訴訟と同様に古巣を訴え、“技術者の反乱”と話題になりました。2006年7月に東芝との和解が成立し、東芝は八千七百万円を支払うこととなります。
フラッシュメモリは書き換え可能な記憶装置で、電源を落としても内容が消えません。私たちがふだんよく目にするフラッシュメモリはデジカメのメモリカードやUSBメモリの形になっています。変わったところでは寿司ネタやエビフライのような変わり種USBメモリがあり、海外へのお土産などで喜ばれています。
アップルのiPodシャッフル、iPodナノはハードディスクでなくフラッシュメモリが使われ軽量化、縮小化されています。最新のノートパソコンでもフラッシュメモリの値段が下がったことにより、ハードディスク代わりに使われることが増えてきました。
フラッシュメモリはモーターが不要で消費電力が少なく、またハードディスクのような読み取りヘッドがないため耐衝撃性が高くなり、またハードディスクよりも読み出し速度が速くなります。また電源を入れてからの立ち上げがスピードアップされる点が魅力的です。ただフラッシュメモリは消耗品で、ずっと使えるわけではありません。何度も書き換えをおこなっていると徐々に劣化していきますので、十万回程度までしか書き換えが保証されていません。
このフラッシュメモリを発明したのが、東芝に勤めていた技術者の舛岡富士雄氏。希望して開発部門から営業部門に異動した時に、さまざまな顧客の声を聞いたことが後の研究に役立ちます。DRAM(Dynamic Random Access Memory:おもに主記憶に使われるメモリ)開発のプロジェクトに入った時、市場規模が大きい半導体メモリを作ることができないか研究を開始します。これがフラッシュメモリの試作に結びつきますが、当時は磁気テープとディスクドライブの時代でしたので、かなりの先見性がないと思いつかない研究です。
舛岡富士雄氏は東芝を離れ、三次元構造の半導体の開発を進めています。コロンブスの卵的発想ですが、平面のチップを円柱形にして、専有面積を数分の一にする半導体です。十倍以上の高速・高集積化が可能といわれており、画期的な半導体が日本から誕生するかもしれません。2016年秋には瑞宝重光章の叙勲を受章しています。
ウィンドウズXPの草原は実在する 2001年
ウィンドウズXPのデスクトップでよく見かけたのが「草原」の壁紙。青い空に雲がかかり、緑の丘には日があたっています。世界中のウィンドウズ・ユーザが毎日、見ていた画面ですが、この丘はCGではなく実在していました。
場所はアメリカ・カリフォルニア州にあるソノマバレーにある丘です。
鴨の羽色から草原へ
昔からウィンドウズのデスクトップでは青色が重視されました。ウィンドウズ3・1では無味乾燥なアイコンが画面に並びましたが、ウィンドウズ95から現在のデスクトップにちかいデザインになります。
デスクトップは机をあらわしていますので、鴨の羽色(かものはいろ)というおとなしい色が採用されました。マガモの頭の羽の色からとられた青緑色の一種です。英語ではティールグリーンと呼ばれる基本十六色の一つです。
2001年に発表されたウィンドウズXPでは草原の壁紙がデフォルト表示されるようになります。この草原があるソノマバレーはワイン生産で有名で、ブドウ畑が広がっています。現地に住んでいるカメラマンはワインにまつわる風景写真をよく撮影しているため、日常的に行き来する丘でした。ある日、カリフォルニアの青い空に積雲が広がるなか、丘の緑が見事なコントラストになっていて思わず撮影しました。
この時に撮影した写真がウィンドウズXPのデスクトップの壁紙に採用され、世界中のウィンドウズ・ユーザが見ることになります。
もっとも、この撮影したカメラマン、実はマックユーザだそうです。