バグは本当に虫だった - パーソナルコンピュータ91の話

第1章 コンピュータ黎明期から汎用コンピュータの時代(2)

2017年2月21日に発売された、おもしろく、楽しいウンチクとエピソードでPCやネットの100年のイノベーションがサックリわかる、水谷哲也氏の書籍『バグは本当に虫だった なぜか勇気が湧いてくるパソコン・ネット「100年の夢」ヒストリー91話』(発行:株式会社ペンコム、発売:株式会社インプレス)。この連載では本書籍に掲載されているエピソードをお読みいただけます!

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人工知能の父「チューリング」悲劇の生涯 1950年

キャッツやライオンキングで有名な劇団四季の演目に「プレイキング・ザ・コード―暗号と道徳を破った天才の物語」があります。昭和六十三年秋に劇団四季・創立三十五周年記念公演として上演されました。一般には知られていない人工知能の父、アラン・チューリングの悲劇的な生涯を描いています。文字どおり暗号(コード)と道徳というコードを破る生涯でした。

 アラン・チューリング(イギリス人数学者)が1950年に論文を発表します。“機械は考えることができるか”という実に哲学的な主題で、この論文に触発され、1955年に人工知能学会が旗揚げし、現在に続く人工知能研究が幕開きます。人工知能のきっかけを作ったのがチューリングです。

 人工知能にはチューリング・テストという判定テストがあります。これは機械が人工知能かどうかを判定するためのものです。別の部屋に機械もしくは人を配置し、キーボードを使って会話をしますが、相手が機械か人かはわかりません。会話している相手が人間だと判定した時に実際の相手が機械だったなら、それは人工知能(知的な存在)とみなす判定テストです。もちろん考えたのはチューリングです。

 1982年公開のハリソン・フォード主演の映画「ブレードランナー」のもととなったのがフィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』です。小説の主題はアンドロイドに感情移入が可能かで、このチューリング・テストが扱われています。

 チューリングは第二次世界大戦時、イギリスの暗号解読センターで働き、Uボート(ドイツの潜水艦)の暗号解読などに活躍、連合国の勝利に貢献しました。情報工学の基礎を築いた功労者でもありましたが、1954年にマンチェスターの自宅で青酸カリを飲み自殺します。同性愛の罪で逮捕されるなど精神的にまいっていたようで、まだまだ若い四十二歳でした。また花粉症で、ガスマスクをかぶり自転車に乗っていたという逸話もあります。

コンピュータ業界のノーベル賞 チューリング賞

 アメリカ計算機学会ではチューリングを称え、彼の名を冠した賞を毎年コンピュータ科学で活躍した人々に授与しています。チューリング賞はコンピュータ業界のノーベル賞といわれており、受賞者の顔ぶれを見るとジョン・マッカーシー(アメリカ人。世界最初の人工知能国際会議を主催。LISP言語の開発者でも有名)、マービン・ミンスキー(アメリカ人。認知科学者で人工知能の父と呼ばれている)、アラン・ケイ(アメリカ人。パソコンの父と呼ばれている)など、コンピュータ業界で有名なメンバーが受賞しています。

 チューリング賞を受賞するということはコンピュータ業界の第一人者という証となります。

サンタさんは本当にいる 1955年

皆さんはサンタクロースが実在することをご存じですか? ノーラッドというアメリカとカナダの防空を担当する軍隊が、クリスマスになると全勢力をあげてサンタクロースを追跡し、全世界に中継しています。きっかけは1955年にかかってきた子供からの間違い電話でした。

 ノーラッド(NORAD)の正式名称は北アメリカ航空宇宙防衛司令部でアメリカ合衆国とカナダが共同で運営する統合防衛組織です。二十四時間態勢で地球上の核ミサイルや戦略爆撃機などの動向をレーダーで監視し、なにかあれば戦闘機がスクランブル発進します。司令部はコロラド州のピーターソン空軍基地にあります。このノーラッドがクリスマス・イヴになると戦闘機や人工衛星を駆使し、世界中にプレゼントを配りまわるサンタクロースを追跡します。

 このサンタ追跡プロジェクトが始まったのはアメリカとソ連との間で冷戦まっさかりだった1955年。そもそもはノーラッド司令部があるコロラド州の大手スーパーが配ったチラシに問題がありました。チラシには子供向けサンタクロース・ホットラインの電話番号が掲載されていましたが、これが間違った電話番号を記載。よりにもよってノーラッドの司令長官用ホットラインの番号でした。

 さっそく子供から司令長官に電話がかかってきます。「サンタさんはどこにいるの?」という子供の問い合わせに対し、シャレのきいた司令長官だったようで「レーダーで調べた結果、サンタさんが北極から南に向かった形跡がある」と子供に回答。それ以来、クリスマス・イヴになるとノーラッドが全勢力をあげてサンタを追跡する伝統が始まり、現在まで六十年以上続いています。

ノーラッドが総力をあげてサンタクロースを追跡

 毎年クリスマス・イヴになると、ノーラッドでは北極を出発するサンタクロースをレーダーで確認、サンタクロースの飛行を追跡します。追跡はルドルフ(先頭のトナカイ)の赤い鼻から放射される熱をレーダーで感知するシステムになっています。ノーラッドがもつ偵察衛星、イージス艦、戦闘機などを駆使し、サンタクロースを追跡し報告。多くのボランティアが子供からかかってくる問い合わせに応対します。

 インターネット時代となり、「ノーラッド サンタ追跡サイト」というウェブサイトが登場します。当初は戦闘機に搭載されたサンタカメラを使い、地球各地でプレゼントを配るサンタの写真が掲載されていましたが、時代の進化とともにどんどんサンタ追跡の技術が向上。今では地図上で疾走するサンタクロースを追跡できるようになり、動画中継されています。日本では富士山をバックに新幹線を追い抜くサンタクロースを見ることができました。

サンタクロースが近づく時、子供は寝なければならない

 サンタ追跡サイトは期間限定のサイトでクリスマス前後だけ公開されます。今では日本語版サイトも用意されています。

 サンタクロースの目的は世界中の子供たちにプレゼントを配ること。そこでノーラッドからサンタクロースが接近している国の子供たちに対して、早く寝るように警告が出されます。サンタ追跡サイトには図書館があり、トナカイのソリは「K クリングル&妖精社」製で初飛行は西暦343年12月24日、また燃料(トナカイのエサ)は干し草、麦、にんじんであるといったウンチクが掲載されています。

水谷 哲也

水谷哲也(みずたに てつや) 水谷IT支援事務所 代表 プログラムのバグ出しで使われる“バグ”とは本当に虫のことを指していました。All About「企業のIT活用」ガイドをつとめ、「バグは本当に虫だった」の著者・水谷哲也です。1960年、津市生まれ。京都産業大学卒業後、ITベンダーでSE、プロジェクトマネージャーに従事。その後、専門学校、大学で情報処理教育に従事し2002年に水谷IT支援事務所を設立。現在は大阪府よろず支援拠点、三重県産業支援センターなどで経営、IT、創業を中心に経営相談を行っている。中小企業診断士、情報処理技術者、ITコーディネータ、販売士1級&登録講師。著作:「インターネット情報収集術」(秀和システム)、電子書籍「誰も教えてくれなかった中小企業のメール活用術」(インプレスR&D)など 水谷IT支援事務所http://www.mizutani-its.com/