福田昭のセミコン業界最前線

新材料の発見で「大逆転」を狙う強誘電体メモリ

 本コラムの前回では、強誘電体不揮発性メモリ(FeRAM)がかつては「究極のメモリ」とも呼ばれ、数多くの半導体メモリ開発企業がFeRAMの開発に参入したことと、いくつかの弱点によって「次世代大容量」の候補から脱落していった経緯を解説した。

 現在のところ、製品化されたFeRAMの最大容量は4Mbitである(2015年12月時点)。DRAM製品の標準的な記憶容量が4Gbitなので、FeRAM製品の記憶容量はDRAMの約1,000分の1しかない。研究開発レベル(試作チップ)でも最大容量は128Mbitで、4Gbitの32分の1に過ぎない。現在では、FeRAMを次世代大容量不揮発性メモリの有力な候補だと考える半導体メモリ技術者は、ほとんどいない。候補とすら考えていない技術者が、多数派だろう。

サイズ効果が微細化と大容量化の限界を決めた

 前回と少し重複するが、FeRAMの大容量化を阻んだ最大の弱点は「サイズ効果」の存在だった。強誘電体がその性質(電源を切っても分極が残る性質)を発揮するのは、強誘電体薄膜にはある程度の厚みを必要とする。厚みはおおよそ100nm〜200nmである。

 半導体チップを微細化するためには、加工寸法(横方向の寸法)を短くするのに合わせて、厚み方向(縦方向)の寸法を短くしなければならない。厚みが100nm以下にできないということは、微細加工の寸法を90nmくらいにまでしかできないことを意味する。これでは30nmルールや20nmルールなどを駆使するDRAMに、記憶容量で迫ることはほぼ不可能である。

 FeRAMで2000年代までに研究開発の対象となった強誘電体材料は、主に3種類あった。PZT、SBT、BFOである。ほとんどのFeRAM製品にはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が、一部のFeRAM製品にはSBT(タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム)が採用されている。PZTとBSTにはいずれもサイズ効果があり、微細化の壁にぶつかっていた。

FeRAMの候補となった主な強誘電体材料とその結晶構造(2000年代)。富士通の外部向けプレゼン資料から引用した。左は代表的なFeRAM材料であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)。中央は一部のFeRAM製品(埋め込み品を含む)に採用されたSBT(タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム)。左はBFO(ビスマスフェライト)で、製品化されなかった模様

意外かつ身近な材料でブレークスルーが発生

 サイズ効果の壁に孔が開き始めたのは、2011年である。強誘電性を備えた新しい材料が発見されたのだ。この発見は、強誘電体材料の研究者コミュニティに衝撃を与えた。材料は意外なものであり、なおかつ身近なものだった。

 意外だったのは、これまで強誘電体材料として研究されてきたのは主に「ペロブスカイト」と呼ばれる構造の材料であったのに対し、新しく発見された材料はペロブスカイト構造ではなく、しかも想定しなかったほどの単純な化合物であったことによる。新材料はわずかに2つの元素で主に構成されていた。ハフニウム(Hf)と酸素(O)である。新材料は「酸化ハフニウム(HfO2)」だった。

 HfO2は、2011年当時において既に半導体産業にとってはごく普通の材料になりつつあった。先端CMOSロジック製品の製造技術「HKMGプロセス(高誘電体のゲート絶縁膜と金属のゲート電極によるプロセス)」では、高誘電体の代表的な材料がHfO2である。またDRAM製品のセルキャパシタでも、HfO2は70nm世代を中心にキャパシタの誘電体材料として、大量に使われた。半導体産業では量産に使われている、身近な材料系である。

 HfO2と言えば、それまでは常誘電体であり、高い比誘電率を備えた高誘電体として知られていた。もちろん詳細な材料組成(あるいは製造工程)は異なるものの、HfO2が強誘電性を備えるというのは、非常に驚くべき発見だと言えよう。

従来の10分の1以下の厚みで強誘電性を発揮

 強誘電体材料の研究者コミュニティに衝撃を与えた理由はまだある。これまでの常識を超えた「薄さ」でHfO2は強誘電性を備えていたからだ。PZTとSBTの微細化を阻んでいた「サイズ効果の分厚い壁」が、一気に崩されたのだ。

 2011年の国際学会IEDMで披露された「強誘電体」HfO2薄膜の厚みはわずか、7nm〜12nmに過ぎない。PZTやSBTといったペロブスカイト構造の強誘電体材料に比べると、10分の1の厚さである。これまで適用が不可能と思われていた65nmプロセス〜28nmプロセスはもちろんのこと、20nmプロセスや14/16nmプロセスにも十分に適用できそうな「薄さ」だ。

半導体メーカーではなかった新材料の発見者

 「強誘電体」のHfO2薄膜を実現してみせたのは、半導体メーカーではない。ドイツの研究機関Fraunhofer Instituteを中心とする研究グループである。もっとも、半導体メーカーとは協力関係にはある。2011年のIEDMで研究成果を発表した論文には、協力者にQimonda(その後に倒産したDRAMベンダー)の名前がある。また2013年のIEDMで研究成果を発表した論文には、共著者として半導体ファウンドリ企業のGLOBALFOUNDRIESが名前を連ねている。

 「強誘電体」のHfO2薄膜は、シリコン(Si)をわずかに混ぜることで実現した。といっても、Siの比率には最適値がある。あまり多くのSiを混ぜると強誘電体ではなく、「反強誘電体」のHfO2薄膜ができてしまう。

HfO2薄膜の分極特性(分極量)とピエゾ効果特性(変位量)。左は適切な分量のシリコンを混ぜた場合。強誘電性を示している。右はさらに多くのシリコンを混ぜた場合。反強誘電性を示すようになる。IEDM 2011の論文(論文番号24.5)から
上は、ゲート絶縁膜に強誘電体HfO2を導入して試作したMOS FETの電子顕微鏡観察像。HfO2とシリコンチャンネルの間には、きわめて薄い二酸化シリコン(SiO2)層をバッファ層として挿入してある。下の2つの図面は、書き込み動作の原理図。上側の原理図はHfO2が強誘電体の場合。分極によってトランジスタのしきい電圧が変化する。下側の原理図はHfO2が反強誘電体の場合。電荷のトラップによってしきい電圧が変化するので、しきい電圧の変化する極性が強誘電体とは逆方向になる。IEDM 2011の論文(論文番号24.5)から

強誘電性が発現した理由に結晶構造の違いを示唆

 HfO2が強誘電性を備える理由は、明確には分かっていない。発見者であるFraunhofer Instituteを中心とする研究グループは、HfO2結晶を製造する工程の違いが、影響しているとIEDM 2011の論文で述べている。Siを混入させたHfO2でも、強誘電性が発現しない場合があるからだ。

 例えばキャップ層の有無である。下部電極(TiN(窒化チタン))の上にSi入りのHfO2薄膜を形成し、アニーリングによって結晶化する。アニーリングする前に上部電極(TiN)のキャップ層がないと、出来上がったキャパシタの電圧容量特性に非線形性が見られない。ところがキャップ層を形成してからアニーリングによって結晶化すると、キャパシタの電圧容量特性に非線形性が生じる(非線形の存在が強誘電性を示唆する)。

 この時に生じる結晶構造の変化を、Fraunhofer Instituteを中心とする研究グループはIEDM 2011の論文で以下のように説明している。アニールによる加熱直後の結晶構造は正方晶系に近い。冷却する時にキャップ層の有無によって結晶化した時の構造が変わるという。キャップ層がない時は単斜晶系と正方晶系の混晶となり、強誘電性は持たない。キャップ層があると斜方晶系(直方晶系)の構造となり、強誘電性を備えるとする。ただし、詳細なメカニズムには不明な点が少なくない。

アニール工程におけるHfO2結晶の構造変化。左がキャップなし、右がキャップありの場合。IEDM 2011の論文(論文番号24.5)から

不揮発性トランジスタで10年のデータ保持期間を確認

 共同研究グループは、強誘電体のHfO2薄膜をゲート酸化膜とする、不揮発性のトランジスタを試作してみせた。電極はTiN、ゲート酸化膜はHfO2(8.5nm厚)と二酸化シリコンの2層構造。二酸化シリコンはシリコンとのバッファ層で、1.2nmときわめて薄い。

 この構造で幅100×長さ20μmと大きなトランジスタを試作し、データ保持特性を調べた。初期状態での読み出しマージンは1,000mV。1日間経過後の読み出しマージンは800mV、10年経過後の読み出しマージンは650mVと推定された。非常に良好な結果である。

データ保持特性の試験結果。縦軸はしきい電圧、横軸は時間。IEDM 2011の論文(論文番号24.5)から

 HfO2が強誘電体メモリの候補になることを、5年前に予測していた研究者はほとんどいなかっただろう。ところが今、第2世代、あるいは第3世代の強誘電体メモリを実現可能な材料として、急速に注目を集めつつある。不揮発性メモリ材料の研究動向の中でしばらくは、最優先でウオッチすべてテーマになりそうだ。

(福田 昭)