福田昭のセミコン業界最前線

エルピーダ、ついに復活へ



 国内唯一のDRAM専業メーカーであるエルピーダメモリ株式会社の業績が、本格的に復活し始めた。直近の四半期(3カ月)である2009年度(2010年3月期)第3四半期(2009年10〜12月)の売上高は1,510億円、営業利益は304億円と、いずれも四半期業績としては最高記録を樹立した。前の四半期(2009年7〜9月)の売上高は959億円だったので、約6割も売上高が伸びたことになる。

 売上高が急激に伸びたのは、需要が予想以上に拡大したことと、価格が堅調に推移したことが大きい。DRAMビット数換算の需要では前の四半期に、四半期ベースで10〜15%の伸びを見込んでいた。それが実際には、30%と大きく伸びた。そしてDRAM価格は1Gbit DDR3 1,333Mbps品のスポット価格で2.5ドル前後と、比較的安定に推移した。

 エルピーダはDRAMの売り上げを「コンピューティングDRAM」(PC用DRAMとサーバー用DRAM)と「プレミアDRAM」(モバイル用DRAMやデジタル家電用DRAM、グラフィックスDRAMなど)に分けている。売り上げの拡大に寄与したのはコンピューティングDRAMであり、そのほとんどを占めるPC用DRAMである。プレミアDRAMは季節要因による出荷減のため、売上高は前の四半期よりわずかに減少した。その減少分を補ってなお、PC用DRAMは販売を急激に伸ばしたことになる。第3四半期(2009年10月〜12月)の売り上げに占めるコンピューティングDRAMの比率は約8割である。前の四半期には、コンピューティングDRAMの比率は7割弱だった。

エルピーダメモリの四半期業績(売上高および営業損益)の推移。同社の決算資料から抜粋してまとめた
エルピーダメモリの売上高と分野別売り上げ、営業損益の推移。同社の2010年1月28日付け決算発表資料から 2009年1月〜2010年1月におけるDRAM価格の推移。2009年前半は1ドル台で低迷していた価格が2009年7月から上昇し、2009年10月以降は2ドル台で安定に推移している。エルピーダメモリの2010年1月28日付け決算発表資料から

●過去最高の営業利益を記録した2006年と現在の違い

 過去にエルピーダの売上高が過去に最高となったのは2006年度(2007年3月期)第4四半期(2007年1月〜3月)で、金額は1,442億円だった。また営業利益が過去最高となったのは2006年度第3四半期(2006年10月〜12月)で、金額は273億円(売上高は1,426億円)である。

 2006年度第3四半期(2006年10月〜12月)と現在で、大きく違っていることが2つある。1つは、DRAMの価格だ。2006年後半に、DRAM価格は5ドル〜6ドルで推移していた。2009年10〜12月期のおよそ2〜3倍の価格である。2006年前半にDRAM価格は4ドル〜5ドルで推移していたので、2006年後半には利ざやがさらに増えていたことになる。

 もう1つは、エルピーダがPC用DRAMに本格的に参入していった時期であったことだ。エルピーダは坂本幸雄氏が代表取締役に就任した2002年11月以降、PC用DRAMにはあまり力を入れていなかった。DRAMメーカー群の中で弱小勢力(当時)であるエルピーダは、価格競争に巻き込まれにくいプレミアDRAMの比率を増やし、利益を確実に得ることで財務体質を改善することに重点を置いていた。2003年度(2004年3月期)〜の2005年度(2006年3月期)の売上高に占めるPC用DRAMの比率は3割〜4割くらいだった。

2005年10月〜2007年1月のDRAM価格推移。エルピーダメモリが2007年1月25日に発表した決算資料から エルピーダメモリの分野別売上高構成比率(2003年度〜2005年度)。同社が2006年4月25日に発表した決算資料から

 それが2006年度(2007年3月期)には、PC用DRAMの売上高比率を積極的に拡大していく。この頃にエルピーダは、当初の目標である「世界第3位のDRAMメーカー」をほぼ達成していた。DRAMメーカーとしてさらに飛躍し、世界トップのDRAMメーカーを目指すことを決めたのだ。

 2006年12月にはエルピーダと提携関係にあった台湾のDRAMメーカーPSC(Powerchip Semiconductor Corp.)と合弁(資本比率は50対50)でDRAM生産子会社RexChip Electronicsを台湾に設立し、PC用DRAMの大量生産に打って出ることを表明した。同じ2006年12月には、当時のDRAMとしては最も微細な、70nmプロセスによるDRAMチップの生産を開始する。70nmプロセスによる小さなDRAMチップを、直径300mmの大口径ウェハラインで生産することによってコスト競争力の極めて高いPC用DRAMを大量生産することを狙った。

エルピーダメモリの分野別売上高構成比率(2005年度第3四半期〜2006年度第3四半期)。同社が2007年1月25日に発表した決算資料から DRAMメーカーの売上高ベースでみた市場シェアの推移。2006年7〜9月期にMicron Technologyを捉えてDRAMメーカーのトップスリーに入ったことが分かる。エルピーダメモリが2009年5月12日に発表した決算資料から PC用DRAM市場に本格参入する理由。エルピーダメモリが2007年1月25日に発表した決算資料から

●市況低迷に素早く柔軟に対応

2006年〜2008年におけるDRAMスポット価格の推移

 ところが、本コラムで過去に述べたように、2007年にDRAM価格は大暴落する。2006年〜2007年当時の主力製品だった512Mbit DDR2 DRAMの価格は2008年初めには約1ドルになり、次世代の1Gbit DDR2 DRAMも2007年半ばには6ドルだったのがわずか半年で約2ドルへと急落する。1Gbit DDR2 DRAMの価格は2008年後半には1ドルを切ってしまう。これはもちろん、DRAMが誕生してから歴史上、最低の価格であり、DRAMメーカーのすべてが赤字操業に陥いる価格でもある。

 エルピーダは2007年度第3四半期(2007年7〜9月)から2009年度第1四半期(2009年4〜6月)まで、7四半期連続で営業損失を計上してしまう。この間に同社が打った施策は、まことに目まぐるしい。2009年2月6日に発表された決算説明会資料には「その他、あらゆる施策を検討中」との一文があるが、その言葉通りに数多くの手段を講じてきたと言える。

 DRAM市況の回復を見込み、中国の投資ファンドとの合弁でDRAM生産子会社を中国に設立して2010年1〜3月期には操業を開始することを2008年8月に表明する。しかし、DRAM市況の低迷が長引いたことから、わずか3カ月後の11月には操業開始を延期し、市況回復を待つことを発表する。

 一方でPSCとの合弁で設立したRexChip(レックスチップ)の生産能力を有機的に活用すべく、株式の所有比率を増やして子会社化した。2008年11月にエルピーダはレックスチップの子会社化を発表し、PSCの持ち株の一部を買収して2009年3月に子会社化を完了した。これでエルピーダの主力生産工場である広島工場とレックスチップの生産ラインを連携して柔軟に活用できるようになった。

 2009年に入ってからは、台湾のDRAMメーカーと相次いで提携した。台湾メーカーが生産したDRAMをエルピーダが引き取り、エルピーダが販売する。2008年のDRAM史上最低価格の一因は台湾DRAMメーカーの増産と投げ売りによるものといわれている。台湾DRAMメーカーが生産したチップをエルピーダが販売することで、価格の暴落を防ぐねらいがある。これまでにProMOS Technologies、Winbond Electronicsとエルピーダは生産委託契約を結んだ。

市況低迷と収益悪化に対してエルピーダが採った施策の例。同社が2009年2月6日に発表した決算資料から エルピーダ広島工場とレックスチップの生産計画。エルピーダが2008年11月6日に発表した決算資料から

●チップ価格が2ドルでも利益が出る構造へ

 製造コストの低減では、シュリンク(縮小)版チップを開発しつつ、微細化の手を緩めずに進めた。

 ArFドライ露光で加工できる65nmプロセスでシュリンク(縮小)版チップの開発を手掛け、2008年10月には開発完了を発表した。開発したのは1Gbit DDR2 DRAMのシュリンク版で、300mmウェハ当たりのチップ取得数が20%向上する、言い換えるとチップコストが20%下がる。シュリンク版には新たな設備投資をせずに、チップコストを低減できるメリットがある。続いて65nmプロセスのスーパーシュリンク版の開発にも着手し、2009年12月には1Gbit DDR3 DRAMでの開発完了を発表した。1Gbit DDR3 DRAMのシュリンク版に比べると、スーパーシュリンク版は300mmウェハ当たりのチップ取得数が25%増える。チップコストはさらに下がることになる。

 微細化の推進では2008年11月に、50nmプロセスによる1Gbit DDR3 DRAMの開発完了を発表した。50nm以降のプロセスではArF液浸露光で加工する。このためリソグラフィ装置を新規に導入しなければならないものの、シリコンダイの面積が小さくなるので製造コストが下がり、長期的には設備投資の回収と収益の改善が見込める。そして2009年10月には、40nmプロセスによる2Gbit DDR3 DRAMの開発完了を発表した。50nmプロセスに比べ、ウェハ当たりのチップ取得数は44%増加する。2009年12月には、広島工場で40nmプロセスによる2Gbit DDR3 DRAMの量産を開始した。

65nmプロセスのスーパーシュリンク版(XS版)の概要。エルピーダが2010年1月28日に発表した決算資料から 65nmプロセス(図中では60nm世代)と50nmプロセスによるウェハ当たりのDRAMチップ取得数。エルピーダが2009年2月6日に発表した決算資料から 40nmプロセスによるDRAMの概要。エルピーダが2010年1月28日に発表した決算資料から

 この間、エルピーダにおけるDRAMの製造コストは急速に下がっていったとみられる。2009年5月12日の決算発表会で同社は「1.5ドルでDRAM事業収支がトントンとなり、2ドル近くになると企業全体の収支が均衡する」と述べていた。3カ月後の2009年8月4日に開催された決算発表会では「DRAM全体のチップコストが現在は製造コストで1.3〜1.4ドル、事業コストで1.5〜1.6ドルであると述べていた。2009年9月にDRAMの販売価格が1.8ドルくらいで推移すれば、収支均衡を狙える」と質問に回答しており、収支均衡のラインが2ドルから1.8ドルに下がっていることが分かる。

 DRAM価格が2ドルでも黒字が出る。これは凄いことだ。エルピーダは今後も製造コストを下げ続けることで、「DRAM価格が安定的に下がることが望ましい」と繰り返し述べている。それがDRAMユーザーにとって利益になるからだ。エルピーダが警戒するのはDRAM価格の乱高下である。価格が暴れることは、DRAMメーカーとDRAMユーザーの双方に不利益をもたらすからだ。

 過去最高の売り上げと利益を計上したことで、エルピーダの通年業績見通しは一気に明るくなった。2009年度(2010年3月期)の4分の3に相当する9カ月累積の営業損益は109億円の営業赤字であるものの、2010年1月のDRAM価格が2ドル台後半であることから、2009年度通年の営業損益は黒字に転換することがほぼ確実である。そして2010年度(2011年3月期)は、DRAM価格が2ドル台を維持すれば、あるいは2ドルを少し割っても、エルピーダは利益を稼ぐだろう。過去に684億円の営業利益を計上した2006年度(2007年3月期)を超える好業績となる可能性がある。

 もちろん韓国DRAMメーカーの大増産による価格急落という事態が考えられないわけではない。しかし増産を急いでも2010年度には間に合わない、というのがエルピーダの予測である。次に価格競争が激化するのは、2011年度(2012年3月期)になるだろう。

エルピーダの売上高と営業利益の推移(2000年度〜2008年度)

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(2010年 2月 4日)

[Text by 福田 昭]