瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Noctua「NH-D9L」

~全高110mmの低背・サイドフローCPUクーラー

 今回はNoctuaのサイドフローCPUクーラー「NH-D9L」を紹介する。購入金額は約1万円だった。

ミッドシップレイアウト採用のコンパクトなツインタワーヒートシンク

 Noctua NH-D9Lは、92mm角の冷却ファンをヒートシンク中心部に備えた、ミッドシップレイアウト採用のサイドフローCPUクーラーである。サイドフロー型でありながら、全高を僅か110mmに抑えた低背設計を特徴とし、IntelのLGA115x/2011/2011-v3、AMDのSocket AM2(+)/AM3(+)/FM1/FM2(+)をサポートする。

 NH-D9Lのヒートシンクは、4本の6mm径ヒートパイプ、接地面に銅を用いたベースユニット、35枚のアルミニウムフィンからなる放熱ユニット2基によって構成されている。ヒートシンクの全面には、銀色のニッケルめっきが施され、ヒートパイプと放熱フィン、ベースユニットの接続部は、熱伝導効率を高める目的でろう付けされている。コンパクトなヒートシンクながら、ろう付けやめっき処理を怠らないところに、ハイエンドクーラーメーカーとしてのNoctuaらしさが感じられる。

 標準搭載の92mm角ファンは、単品販売もされている「NF-A9 PWM」。四隅に防振ゴムを標準で取り付けた25mm厚のフレームを採用し、PWM制御により400(±20%)~2,000rpm(±10%)の範囲で回転数を調整できる。また、同梱のアダプター(L.N.A./Low-Noise Adapter)を用いることで、最大回転数を1,550rpm(±10%)に抑えて運用することも可能だ。

 ファンの取り付けには専用の金属クリップを用いる。このクリップは4本(2組)同梱されており、25mm厚の92mm角ファンを1基追加することで、デュアルファン構成での運用が行なえる。

NH-D9L CPUクーラー本体
リテンションキット
リテンションキットのLGA115x用バックプレートは「Rev.2」が採用されており、一部マザーボードとの干渉問題が改善されている
冷却ファンの「NF-A9 PWM」。92mm角25mm厚ファンで、PWM制御に対応する
ファンクリップ、追加ファン用の防振ゴム、静音化アダプター(L.N.A./Low-Noise Adapter)の「NA-RC7」
ファン搭載時。25mm厚の92mm角ファンであれば、NF-A9 PWM以外のファンも取り付け可能
各ソケット毎の取り付けマニュアル、プラスドライバ、サーマルグリス「NT-H1」。
メモリスロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE取り付け時)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE取り付け時)

 CPUソケット周辺パーツとの干渉については、今回テストに用いたASUS MAXIMUS V GENEとの組み合わせでは、メモリスロット、拡張スロットともに干渉問題が発生することは無かった。92mmファンに最適化されたコンパクトなヒートシンクと、その中央部にファンを収める構造により、CPUソケット周辺パーツとの間に十分なクリアランスが確保できるようである。

 リテンションキットは、Noctuaオリジナルのブリッジ式リテンションキット「SecuFirm2」。これは以前紹介したNoctua NH-U12Sに付属していたものと同じ名称だが、リビジョンチェンジが行なわれており、一部マザーボードとの組み合わせで発生していた、バックプレートと基板実装部品との干渉問題が解消している。

冷却性能テスト

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定。それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。

【グラフ】テスト結果

 テスト結果を確認してみると、3.4GHz動作時のCPU温度は、PWM制御100%設定時に58℃、50%設定時に67℃を記録。20%設定時は94℃を超えたためテスト中止となった。50%設定および100%設定で記録したCPU温度は、CPU付属クーラーの85℃より18~27℃低い温度となっており、CPU付属クーラーより高い冷却性能を持っていることは間違いない。20%設定時にテスト中止となったことについては、92mm角の小型ファンを460rpmまで絞った際の結果であり、これは仕方のない結果であると言えよう。

 オーバークロック動作でのテスト結果については、4.4GHz動作時に77~93℃、4.6GHz動作時はPWM制御100%設定で89℃を記録し、50%設定では過昇温でテスト中止となった。テストを行なう前の時点では、発熱の大きい4.6GHz動作のCore i7-2600Kを冷却できるとは思っていなかったので、この結果からは予想以上に冷やせているという印象を受けた。もっとも、120mm以上の大口径ファンを搭載したサイドフローCPUクーラーより、大きく劣る冷却性能であることには違いない。

 動作音に関しては、PWM制御50%設定時の約1,150rpm以下では、風切り音はかなり小さく抑えられており、軸音やヒートシンクのビビリ音なども無く、大変静かに運用することができる。回転数1,500rpmを超えるあたりから風切り音が大きくなりはじめる。静粛性を重視するなら、CPU温度に応じたPWM制御設定が可能なマザーボードと組み合わせて利用したい。

 参考までに、Low-Noise Adapterを利用した際のCPU温度は、3.4GHz動作時61℃、4.4GHz時82℃、4.6GHz時94℃だった。ファンの回転数は約1,680rpm。

全高110mmという高さに価値を見出したい高級CPUクーラー

 ヒートシンク、冷却ファン、リテンションキット、いずれもNoctuaらしさを感じられる、隙の無いクオリティの逸品だ。だが、冷却性能テストの結果を見ると、約1万円という販売価格は高すぎると感じるのではないだろうか。正直なところ、純粋な冷却性能だけで言えば、NH-D9Lが価格に見合う性能を持っているとは言えない。

 NH-D9Lの価値は、その低背設計にある。標準的なフルハイト仕様の拡張カードの幅(=高さ)が約107mmであるため、全高110mmのNH-D9Lは、フルハイトの拡張カードに対応したPCケースの大半で利用できる。これは、横置きのHTPCケースやラックマウントケースのように、一般的なサイドフローCPUクーラーの導入が困難なPCケースを使うユーザーにとって、NH-D9Lが唯一無二の選択肢となり得るほどの価値がある要素である。

 HTPCケースやラックマウントケースを使うことが一般的とは言い難い国内の自作PC市場において、NH-D9Lが大変ニッチな存在であることは確かだ。それでも、1つの選択肢として、NH-D9Lのように完成度の高い低背・サイドフローCPUクーラーが存在することは、間違いなく有益であると言えるだろう。

Noctua「NH-D9L」製品スペック
メーカーNoctua
フロータイプサイドフロー
ヒートパイプ6mm径×4本
放熱フィン70枚(35枚×2ブロック)
サイズ(ファン搭載時)95×95×110mm(幅×奥行き×高さ)
重量(ヒートシンクのみ)428g
付属ファン92mm角ファン「NF-A9 PWM」×1基
電源:4ピン(PWM制御対応)
回転数: 400(±20%)~2,000rpm(±10%)
風量(最大):78.9立方m/h
ノイズ(最大):22.8dBA
サイズ:92×92×25mm
対応ソケットIntel:LGA1150/1155/1156/2011/2011-v3
AMD:Socket AM2/AM2+/AM3/AM3+/FM1/FM2/FM2+

(瀬文茶)