■西川和久の不定期コラム■
これまでワンセグをiPadやiPhoneで観られる周辺機器は少しあったものの、地デジが観られるものはなかなか出てこなかった。そのような中、H.264トランスコーダを内蔵し、Wi-Fi経由でiPadやiPhoneにも対応したUSBタイプの地デジチューナ「テレキング」がアイ・オー・データ機器から発売されたので早速購入、試してみた。
●H.264トランスコーダ内蔵の地デジチューナ
USBタイプの地デジチューナは数多くあるが、このテレキングのハードウェア的な特徴としては、「H.264トランスコーダ」と「ブースター」を内蔵していることだろう。前者は地デジのフォーマットがMPEG-2 TS(DRモード)なので、それをリアルタイムでMPEG-4 AVC/H.264へトランスコードでき、ホストPCへ負荷をかけず、高速に変換可能となる。
録画時の圧縮(最大約10倍)はもちろんのこと、「Netbook SDモード」、モバイル機器へのムーブ/ダビング、そしてiPadやiPhoneへWi-Fiを使いデータ転送する時もこのハードウェアが役に立つ。同社は2010年8月にH.264トランスコーダを内蔵した「GV-MVP/XZ」を発売しているが、このテレキングは小型版的な存在だ。
ブースターは感度を高め、受信を良好に行なうことができる。またそれでも地デジが厳しい時は、ワンセグに切替えることも可能だ。主な仕様は以下の通り。
「テレキング」GV-MVP/FZの仕様
・対応機種:USB 2.0(High Speed)ポート搭載DOS/Vマシン(Intel製、NVIDIA製、AMD製チップセット搭載マシンに限る)
・対応OS:Windows 7(32/64bit)/Windows Vista(32bit)/Windows XP SP2以降(すべて日本語版のみ)
・地上デジタル放送機能:字幕放送/マルチ音声/二重音声
・アンテナ:VHF/UHF入力 F型コネクタ×1
・外形寸法:約23×75×12mm(幅×奥行き×高さ)
・質量:約18g
・価格:10,600円
対応OSはWindowsのみ。Windows 7(32/64bit)/Windows Vista(32bit)/Windows XP SP2以降だ。iPadやiPhoneに対応しているからと言ってMac OS Xにも対応しているわけではない。
CPUは、ノートPCはIntel CPUの場合、 Core i3 330M(2.13GHz)/Core 2 Duo P8400(2.26GHz)以上、またNetbook SDモード利用時はAtom N270(1.6GHz)/Celeron SU2300(1.2GHz)以上。AMD CPUの場合、Netbook SDモード利用時、Athlon Neo X2 L335(1.6GHz)以上。デスクトップPCは、Intel CPUの場合、Pentium Dual-Core E2180(2.0GHz)/Core 2 Duo E4400(2.0GHz)/Core i3 530(2.93GHz)以上、Netbook SDモード利用時、Celeron Dual-Core E1200(1.6GHz)以上。AMD CPUの場合、Athlon II X2 235e(2.7GHz)以上となっている。
用途的にSD画質(720×480ドット)でもよければ、パワーのあるCPUを使っていても「Netbook SDモード」で動かすのもありだろう。この「Netbook SDモード」は、番組情報・番組表の取得、予約録画の番組追従、TV視聴録画の自動終了、データ放送・字幕の表示などを機能制限した従来の「Netbook モード」とは違い、内蔵している「H.264トランスコーダ」を使ってCPUの負荷を低減するものだ。ながら作業するにはちょうどいいモードとも言える。
またグラフィックスやディスプレイに関してもそれなりに制限がある。詳細は同社のサイトをご覧頂きたい。比較的新しいPCなら問題無いと思うが、同社では「地デジ相性チェッカー」を公開しているので、環境が対応しているかどうか事前に試した方が良い。
超小型とまではいかないものの、それなりに小型だ | 後ろの白い部分がminiB-CASカード。手前のコネクタへロッドアンテナかF型コネクタを接続する | アプリケーションCD、ロッドアンテナ、F型コネクタのほか、写真には無いがminiB-CASカードと簡易マニュアルなども付属する |
サイズは約23×75×12mm(幅×奥行き×高さ)、重さ約18gと、以前筆者が紹介した「GV-MVP/HZ3」(約86×29×52mm(同)/約56g)より、同じminiB-CASカードを使っているにも関わらず随分小さくなっている。ワンセグチューナが出だした当初よりもワンサイズ小さい。
セットアップ自体は非常に簡単で、miniB-CASカードを本体へセット、付属のCD-ROMからドライバやアプリケーションをインストール、アンテナを接続、USBへ挿し込みWindowsが認識、地デジの各種初期設定を行なうだけだ。ワンセグから数えてもう随分いろいろなモデルが出ているので、ソフトウェア的にはかなりこなれた印象を受ける。
●PCでの使い勝手主要アプリケーションとしては、従来製品とほぼ同様、TV画面に相当する「mAgicTV Digital」、録画番組を管理する「mAgicガイド Digital for テレキング」、「インターネット番組表」、コントロールなどを行なう「mAgicマネージャ for Digital」、そして出先からネット経由で録画予約ができる「どこでもmAgicTV Digitalサーバー/クライアント」で構成されている。
また、以前レポートした「GV-MVP/HZ3」は、「mAgicTV Digital」を起動するとAeroがOFFになっていたが、このテレキングに添付されている「mAgicTV Digital」は、Intel内蔵GPU以外(詳細は同社のホームページ参照)は、AeroをONのまま起動できるように改良されている。
ただ今回筆者は「iPadで地デジを観る」を主な目的で購入したこともあり、PCでの使い勝手にはあまり興味はなかった。使用したマシンは、少し前にApple TVを購入し、iTunes for WindowsとDLNAサーバーになっている、Intel G33+Core 2 Quad Q8200のWindows Vistaが動くデスクトップPCだ。キーボードやモニタも接続せず必要に応じてTeamViewerでリモートアクセスしている。
念のためにディスプレイとして、液晶TVのミニD-Sub15ピンに接続してインストールしたが、特に問題無くPCで地デジが観れ、予約録画、録画再生できることを確認した。
このテレキングはH.264トランスコーダを内蔵していることもあり、録画モードが増えている。タイプは以下の通り。MPEG-4 AVC/H.264形式のHRとSRが増えたモードだ。ビットレートに応じて複数のモードが用意されている。
従来のMPEG-2 TSを使ったDR/XP/SP/LPモードと比較して、画質を保ちつつより圧縮率が高いものとなっているため、ディスク効率が飛躍的に良くなる。iPadやiPhoneで観ることを主としなくてもユーザーにとっては嬉しいポイントだ。
解像度:1,440×1,080/720×480(放送解像度に依存) | ||
モード | フォーマット | ビットレート |
DR | MPEG-2 TS | 17Mbps |
HR2 | MPEG-4 AVC | 11.5Mbps |
HR3 | ↑ | 7.5Mbps |
HR5 | ↑ | 4.3Mbps |
HR7 | ↑ | 3Mbps |
HR10 | ↑ | 2Mbps |
HR12 | ↑ | 1.6Mbps |
HR15 | ↑ | 1.2Mbps |
解像度:720×480 | ||
SR4 | MPEG-4 AVC | 5.5Mbps |
SR8 | ↑ | 2.5Mbps |
SR16 | ↑ | 1.1Mbps |
SR24 | ↑ | 0.6Mbps |
XP | MPEG-2 TS | 9.4Mbps |
SP | ↑ | 4.8Mbps |
LP | ↑ | 2.4Mbps |
●iPhone/iPadでの使い勝手
テレキングを使い、iPhone/iPadで地デジを観るには、Wi-Fiで同一ネットワーク内に接続する必要がある。VPNも含めネット経由のアクセスはNG。とは言え、一般的にはこの環境でiPhoneやiPadが接続されているので特に問題にはならないだろう。
使い方は簡単だ。先の「mAgicマネージャ for Digital」→「iPhone/iPad配信設定」をONにして、App Storeから視聴用のApp「TVStream」(iPad用)と「TVPlayer」(iPhone用)をそれぞれダウンロード、起動するだけとなる。うまく接続できればサーバー名がAppに表示され、それをタップすればチャンネルが表示される。目的のチャンネルをタップすればストリーミング開始。少し待つと番組が表示される。
この時、「iPhone/iPad配信設定」に画質の設定があり、“標準”と“高画質”が選べる。試した範囲では“高画質”の方がモアレも目立たず良かったが、この辺りは好みの問題だろう。
注意すべき点としては、PC上で地デジを観たり、録画している時は、iPhoneやiPadへの配信はできなくなる。テレキングはシングルチューナなので仕方ない部分だ。
「TVStream」と「TVPlayer」との違いは、例えばTVPlayerに関しては、縦のみの対応(動画再生時は横も対応)、またApp起動時[+]をタップしてサーバーを選択、再生時にAirPlayのアイコンを表示など、若干異なるが、基本的な操作は同じだ。
余談になるが、「TVStream」と「TVPlayer」のInformationパネルを見ると、対応機種として、OneTV 2.6(MT-101F)/Mac版、PCastTV for ワンセグ(DH-MONE/U2V)/Windows版、PCastTV3(DT-F200/U2W)/Windows版の名前も書かれている。前者2つはワンセグ、最後は地デジ用のチューナだ。地デジ用としてバッファロー「DT-F200/U2W」の存在も気になるところ。
さてここまでは予想の範囲。無事、iPadとiPhoneで地デジが観られるようになり大満足! 設定も簡単で手間いらずだ。発色も良く、iPadやiPhoneでも十分楽しめる環境となる。ただ使って行くうちに少し不便なところが見つかった。
まずチャンネルの切替えが異様に遅い。30~40秒近く待たないと切り替わらないのだ。その間切替えようとしても「この番組は再生できません」とのメッセージが表示される。この件はチャンネル切替えに限らず、録画番組を再生する時も同じ現象となる。はじめは分からず故障かと思ってしまうほどの待ち時間だ。これだけチャンネル切替に時間がかかると、適当にチャンネルを操作し、観たい番組を探すような使い方は難しい。
例えばPCをサーバー、iPadやiPhoneをクライアントとする「VideoStream」や、DLNAサーバーで管理しているH.264の動画(1080pも含む)は、10秒も待たずに再生可能だ。
テレキングの場合は、地デジのMPEG-2 TSフォーマットをiPadやiPhoneで対応しているH.264へトランスコードしつつ配信していると思われるが、ハードウェアでトランスコードしているため、ストリーミングしているとは言え、ここまで反応が鈍くなるのは不思議だ。ぜひ改善を望みたい。
また同社のホームページに記載があるので現時点では仕様となるが、Appから予約確認と番組表を使ったiEPG予約はできない。予約確認の画面はPCで録画予約があってもブランク、番組表は閲覧のみとなる。筆者のようにPCはサーバー的に使い、主にiPadやiPhoneだけで操作したいユーザーは少数派かも知れないが、技術的に対応可能であればお願いしたい部分だ。
そしてもう1つ。録画に関しては、iPadやiPhoneで観られる録画モードが限られる。先に書いたように、録画モードは従来のDR/XP/SP/LPモード(MPEG-2 TS)に加え、トランスコーダを使ったHR/SR(MPEG-4 AVC/H.264)と、大きく別けて2種類ある。
まずHR/SRモードで録画したものは、一切ライブラリへ表示されない。画質を保ちつつ高圧縮が期待できるこのモードを使えないのは痛い。同社に確認したところ、H.264→H.264のトランスコードに対応していないのが理由だとのこと。パワーのあるCPUであればソフトウェアでトランスコード可能だが、環境が限定されるため、今のところ対応予定は無いそうだ。第2世代Core iプロセッサやCUDA、ATI Streamを使えば行けそうなだけに少し残念だ。
次に従来のDR/XP/SP/LPモードで録画したものは、ライブラリに表示され、トランスコードしつつiPadやiPhoneで観られるが、レスポンスが悪く少し待つ必要がある(通常1分程度)。
いろいろ実験した結果、モバイル機器に転送用機能としての「転送用同時録画」を使えばサクッと観られることが判明した(mAgicマネージャ for Digital 録画設定の画面キャプチャ参照)。この機能は指定した録画モードに加え、同時にモバイル機器向けに解像度を落としデータを軽くして別途録画する。再生時もほとんど待たずに済む。
ただこの機能は、HR/SRモードで指定できるのは携帯解像度の320×180のみ、XP/SP/LPモードは非対応、DRモードでiPad解像度640×360もしくはiPhone解像度480×270の保存が可能となる。流石にiPadで320×180の動画を観るのは辛いので、事実上DRモードで録画するしか選択肢は無い。
DRモードは地デジのMPEG-2 TSフォーマットをそのまま録画するため30分程度で約2GB必要となる最も効率の悪いモードだ(もちろん画質は綺麗だが)。単にiPadやiPhoneで録画したものを観たいと言う理由だけでこのモードは使いたくない。更にDRモードで録画したデータに、このモバイル用のデータが紐付けられているため、データの大きいDRモードのデータだけ削除、軽いデータだけ残すこともできない。従ってディスク効率を考えると、再生まで1分ほど待つXP/SP/LPモードで録画して観るかの二者選択となる。
以上のような理由から出来れば転送用同時録画せず、iPadやiPhoneでレスポンス良く観られる録画モードが1つ欲しいところだ。例えば転送用同時録画のフォーマット(640×360もしくは480×270)をそのまま主とする録画モード(iPadモード/iPhoneモード)を加えるという手はどうだろうか。
以上のようにテレキングは、これまでiPadそしてiPhoneで観れなかった地デジが観られるようになる面白い周辺機器だ。Wi-Fiが使える家の中ならどこでも観られて利便性も高い。
ただ、チャンネル切替が遅かったり、Appから録画予約の管理ができない、iPadやiPhoneで録画を観るには録画モードが限られるなど、あくまでもPC用が主であり、iPadそしてiPhoneはサブ的な扱いなのは残念なところ。筆者のようにPCをメディアサーバー化して、全てiPadやiPhoneで操作したいと考えているユーザーも多いのではないだろうか。
いずれにしてもまだiPhoneやiPadに対応したばかり。ユーザーのフィードバックを受け、ますます楽しめる製品に仕上がる事を期待したい。