西川和久の不定期コラム

USBデバイスサーバー アイ・オー「ETG-DS/US」レポート
~自宅の地デジをネットを使って事務所で観る!



 2009年も残すところあと僅かとなった年末、アイ・オー・データ機器から面白い周辺機が発売開始となった。USB機器をネットワーク経由でPCへ接続、そして共有できる「USBデバイスサーバー」と呼ばれる機能を持つ「ETG-DS/US」だ。このちょっと変わったデバイス、いったい何に使えるのか非常に興味のあるところ。早速試してレポートしたい。


●「ETG-DS/US」の接続可能なUSB機器

 USB機器をネットワーク経由で接続と聞くと、まず最初に思い浮かぶのが、HDDや光学ドライブ、そしてプリンタや複合機となるだろうか。ただ、これらは最近高性能&多機能化した、NASやルーターでもUSB経由で接続できる機能を持っているので、あまり目新しいものではないし、既に市場ではこれらをネットワーク上で共有出来る同様のボックスも販売されている。

 そこで同社のHPで対応一覧を見てみると、USB接続のストレージ系はもちろんであるが、Webカメラ、外付けグラフィックス(DisplayLink)、TVキャプチャ、Bluetooth、そしてiPod/iPod touchなどまでが載っている。この中で筆者的に興味を持ったのはTVキャプチャだった。リストを見るとUSB接続の地デジチューナにも対応しているのだ。

 もともとUSBタイプの地デジチューナは、出始めた頃の初期モデルを購入し、1つ持っているのだが、自宅はノートPCで、USBに接続し、その先に同軸ケーブルがアンテナのコネクタまで伸びているので、どうも使い勝手が悪く気になっていた。それがネットワーク経由で接続できるのなら非常に便利になる。

 「ETG-DS/US」の仕様はシンプルなもので、ネットワークインターフェイスはGigabit Ethernetに対応、USB 2.0×2ポート、USB Hubを使って最大15インターフェイスまで接続可能となっている。ただし、バスパワーでの電源供給ができるデバイスの数は1台のみなので注意が必要。USB Hubに関してはセルフパワーのもののみの対応となる。またこの15インターフェイスと言うのは、接続できる物理的なUSB機器の台数ではなく、1つの機器で複数のインターフェイスを持っているものもあるので、このような表記になっている。仕様は以下の通りだ。

アイ・オー・データ機器 ETG-DS/US仕様
ネットワークインターフェイス10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T、AUTO MDI/MDI-X対応
デバイスインターフェイスUSB 2.0×2ポート(※バスパワーでの電源供給ができるデバイスの数は1台のみ)、RJ-45×1ポート
対応プロトコルTCP/IP
最大接続インターフェイス数15(※USB Hubの多段接続は未サポート)
消費電流(最大)待機時250mA[typ]、動作時490mA[typ]、1.5A[MAX]
外形寸法本体:50×100×28mm(幅×奥行き×高さ)、ACアダプタ:50×33×93mm(同)
質量約95g(本体のみ)
対応OSWindows 7(32/64bit版)/Vista(32bit版)/XP(32bit版)、Mac OS X 10.4~10.6
価格7,400円(io PLAZA直販価格)

フロントにUSB 2.0のコネクタが2つ並ぶリアにネットワークと電源入力。100円玉と比較しても小さいことが分かる付属品はドライバCD、ACアダプタ、簡易マニュアル

 パッケージは非常にコンパクト。売り場に並んでいてもなかなか見つけにくいサイズだ。秋葉原のショップでの購入価格は6,980円。人気があるらしく品切れ続出。結構探し出すのに苦労した。付属品は本体、ACアダプタ、ドライバCD、簡易マニュアルのみ。USBケーブルやLANケーブルなどは付属しない。

 ACアダプタを接続し起動すると、初期設定では無線ルーターなどのDHCPサーバーから自動的にIPアドレスなどを取得し作動開始する。

 肝心のドライバ自体は、Windows 7(32/64bit)/Vista(32bit)/XP(32bit)、Mac OS X 10.4~10.6と幅広く対応しているのがありがたい。セットアップ自体は非常に簡単で、「アプリケーションのインストール」→「コピー先のフォルダー指定」→「Windowsファイアウォールの除外リスト設定」→「自動接続の既定値」、これだけだ。特に変える必要が無ければ[次へ]を押して行くだけでいい。リブートする必要も無く、「net.USBクライアント」が起動する。

 これでETG-DS/USを使う準備が整った。後は、PCのUSBポートへ周辺機を接続する替りにETG-DS/USのフロントにあるUSBポートへ接続するだけとなる。

非常にシンプルなインストーラーWindowsファイアウォールの除外リスト設定。TCP/UDPのポート何番を使っているのか不明であるが、この設定を行なわないと、Windowsファイアウォールがコントロールを止めてしまうnet.USBクライアント。ETG-DS/USのUSBポートへ機器を接続するとここに表示され、接続/切断の操作ができる

 なお、最新版のnet.USBクライアントは1.01(アクティベーションの改善)、ETG-DS/USのファームウェアは1.01(地デジチューナとiPodとの接続性の改善)となっている。筆者の購入したものは、どちらも1.00だったので、同社のHPからダウンロードした。ファームウェアのアップデートは、NASやルーターなどでよくあるパターン。ブラウザから“http://[ETG-DS/USのIPアドレス]/”で管理メニューが表示されるので、そこからアップロードを行なう仕掛けだ。IPアドレスを固定したり、いろいろな設定を行なうことが可能だ。

●地デジチューナ「GV-MVP/HZ3」

 さて、ETG-DS/USに接続するUSBタイプの地デジチューナであるが、筆者の手持ちのものはWindows 7未対応、B-CASカードも従来のカードサイズ、他社製なので接続できない可能性もある。そこで新しく買い直すことにした。

 同社の製品は大きく分けて5種類。GV-MVP/VZ、GV-MVP/HZ3、GV-MVP/HZ2シリーズ、そしてGV-MC7/VZ、GV-MC7/HZ3だ。MVPが付くものは、ソフトウェアがオリジナルの「mAgicTV Digital」を使用、MC7が付くタイプはWindows 7の「Windows Media Center」専用となる。筆者の場合、まだWindows XPとWindows 7の混在環境なので、MC7タイプは選べない。

 すると残るはMVPタイプの3種類となるのだが、その中で「ネットブックモード」を持ち、「地デジ/ワンセグ」デュアルモードに対応しているのは「GV-MVP/HZ3」だけ。なぜワンセグも必要なのかは後述するが、このGV-MVP/HZ3は、miniB-CASカードを採用し、ボディも非常にコンパクトにまとまっている。価格は13,600円(io PLAZA直販価格)と、リーズナブルだ。実際の購入価格は12,800円だった。

GV-MVP/HZ3。どちらがフロントかリアか分からないが、F型コネクタと、miniB-CASカードが入るこちら側はUSBポートのみ
従来のカードサイズからグッと小型化されたminiB-CASカード付属品。USBケーブル、簡易マニュアル、miniB-CASカード、ロッドアンテナ、アプリケーションCD

 パッケージは本体サイズの割にはかなり大きく、売り場では結構目立つ。ただ、容量的には先のETG-DS/USと同程度のパッケージでも大丈夫そうなので、もう少しエコに配慮した方がいかも知れない。

 また、本体が小さいと言っても、他社の例えばバッファロー「ちょいテレ・フルDT-F100/U2」のように、ノートPCへ直接挿すことは想定しておらず、USBケーブルでの接続となる。この辺りは個人の好みでどちらがいいかは意見が別れるところだろう。

 GV-MVP/HZ3は、地デジが観られる以外にも、録画やCM自動検出機能でCMカット、電波状況に応じて地デジ/ワンセグ自動切り替え、BD/DVDへダビング、ネットブックなどパワーが無いマシンでも再生できる「ネットブックモード」など、機能が豊富で価格の割にはお買い得感が高い。

●ネットワーク接続で地デジを観る

 役者が揃ったところで早速ネットワーク接続で地デジを観る環境を構築する。と言っても、既に自宅のノートPC、ThinkPad T43/Windows XPにはnet.USBはインストール済みだ。従って単純にGV-MVP/HZ3のドライバとアプリケーションをインストールするだけの作業となる。

 手順は、ETG-DS/USのUSBへGV-MVP/HZ3を接続する前に、GV-MVP/HZ3のアプリケーションCDから、ドライバ、次にmAgicTV Digitalの順でインストール、そして1度リブートが必要になる。これでHDDの中には必要なソフトウェアが全て入ったので、ETG-DS/USのUSBポートへアンテナを接続したGV-MVP/HZ3をUSBケーブルから接続すると、ThinkPad T43の画面上にnet.USBクライアントが表示され、「I-O DATA DEVICE, INC. I-O DATA GV-MVP/HZ3」のリストが見える。ダブルクリックすると接続開始。プラグアンドプレイで先にインストールしたドライバが自動的に組み込まれる。

 ここまで来れば、あとはデスクトップ上にある「mAgicTV Digital初期設定」のアイコンをクリックし、「チャンネルスキャンの開始」、スキャン終了後、mAgicTV Digitalが起動し、地デジが観られる。

 これからも分かるように、一旦net.USBクライアントさえ組み込んでしまえば、USBポートがPC側にあるのか、ネットーワーク先のETG-DS/US側にあるのか、ドライバそしてアプリケーションからみた場合は意識せずに操作が可能になる。

 もちろん結果はバッチリ! もともとThinkPad T43は、Pentium M 770/2.13GHz/2MB L2キャッシュ/533MHz FSB、Intel 915GM Expressチップセット、PC2-4200 DDR2 SDRAM×2/2GBと、現在のネットブックとあまり変わらないため、パフォーマンスが気になったが、ネットワーク経由で再生してもCPU使用率は65%前後と十分楽しめている。ノートPCからUSBケーブルが一本減りスッキリ。これはなかなかご機嫌な環境だ。

デバイスを接続しプラグアンドプレイでドライバのインストール開始。ネットワーク経由でUSBデバイスを接続しているのに妙な気分だI-O DATA GV-MVP/HZ3ドライバが組み込まれた。net.USBクライアントで、リスト上のデバイスを接続/解除できるネットワーク経由で地デジが再生できた! ネットブックモードを使えば更にCPU使用率は低下する

 以上のように、GV-MVP/HZ3→ETG-DS/US→ネットワーク→ThinkPad T43/Windows XPという環境で、地デジを観ること自体は問題無くできているのだが、気になった点が1つ。

 mAgicTV Digitalを起動すると、毎回サウンド・ミキサーのWAVEのマスター音量がゼロになってしまい、結果、音が出ず、スライダーを設定し直さなければならないことだ。サウンド・ドライバなどの環境にもよるのだろうが、同社のFAQによると、音が出ない時はサウンド・ミキサーのWAVEのマスター音量を上げるようにと、書かれているが、そうではなく、サウンド・ミキサーのWAVEのマスター音量が変わらないように対応して欲しいところだ。

●VPN接続で事務所から地デジを観る

 さて、実はこの組み合わせで試したかったことがもう1つあったのだ。以前書いたかも知れないが、筆者の事務所はケータイの電波以外はAM、FMラジオ、ワンセグ、アナログTV、そして地デジと、電波と名が付くものは一切入らない陸の孤島になっている。これは半地下という立地条件の問題だと思うのだが、更に運が悪い事に、アンテナの引き込み口も無く、全く何も観れない状態なのだ。

 もちろん普段は仕事をしているので、TVなどは観ないのだが、例えばWBCなど、仕事中でもどうしてもリアルタイムで観たいものがあっても、絶対に観れない(WBCの時は事務所の外へ出てワンセグで観ていた)。これはちょっと悲しいので、以前から何とかしたかった。

 そこで登場するのが今回のシステムだ。地デジチューナGV-MVP/HZ3は、電波状況の非常に良い自宅へ設置、ETG-DS/USを使って自宅のLAN上へ公開……と、ここまでは書いた通り。加えてVPNを使って事務所から自宅へ接続し、事務所側のPCでnet.USBクライアントを起動、そしてmAgicTV Digitalを使って地デジが観られるのでは!? と言う実験だ。

 この時、問題になるのはネットワークのパフォーマンスとなるのだが、自宅も事務所もUSENの光が入っているので、速度的には何とかなりそうだ。仮に転送レートが不足して不安定もしくは再生不能の場合は、ワンセグモードに切り替えれば大丈夫だろうと言う目論見。従って、冒頭で書いた地デジチューナ選びに地デジ/ワンセグのデュアルモードが必要と言う話だったのだ。

 まず第一関門は、自宅側にVPNサーバーを立てる必要がある。これに関してはバッファローの「WZR-HP-G300NH」という無線ルーターを使っているので、標準装備となっている。VPN専用サーバーではないので、スループットの問題が懸念されるものの、実験としては十分だろう。余談になるが、このルーターは結構面白く、ルーターなのにVPNサーバー、USBポートにストレージを接続すればNASになったり、DNLAサーバー、そしてBitTorrentと、盛り沢山の機能が入っている。既に環境は構築済で、事務所からVPNでアクセスできることは事前に確認済みだ。

 まず、net.USBクライアントを、事務所のPCへインストールする。テストに使ったマシンは、日本エイサー「AspireRevo ASR3610-A44」。64bit版のWindows 7だ。インストール自体は問題無く完了。ただし、この時点ではVPNを接続していないので、net.USBの表示はネットワークエラーでETG-DS/USが見つからないとなっている。

 次にVPNで自宅に接続。しかしこれでもETG-DS/USが見つからないとなる。「まずい……動かないのか!?」と思ったが、net.USB設定のパネルでダイレクトにnet.USBのIPアドレスを入力したところ無事見つかり、自宅内のLANの時と同様、「I-O DATA DEVICE, INC. I-O DATA GV-MVP/HZ3」がリストに現れた。「これは行けた!」とダブルクリックし、接続開始したところ……いつまで経っても接続中のメッセージが消えず、実際プラグアンドプレイも始まらない。

 ここで考えられるのはVPN接続時、net.USBが使っているTCP/UDPポートがWindowsファイアウォールにブロックされている可能性があることだ。ネットで検索し、使用ポートを探してみたが見つからない。仕方なくWindowsファイアウォールをOFFにしたところ、今度は無事に接続され使用可能な状態になったと同時に、プラグアンドプレイでGV-MVP/HZ3のドライバが組み込まれた。この辺りの仕様に関しては、できれば公開して欲しいと思う。

 続いてmAgicTV Digitalの初期設定を開始。チャンネルのスキャンで次々アクティブなチャンネルが追加されて行く。そしてmAgicTV Digitalを起動したところ……見事に地デジが事務所でも観られるようになった。念願の事務所で地デジ。実験成功だ!

バッファロー「WZR-HP-G300NH」。無線ルーターなのに、VPNサーバー、USB経由でストレージを接続すれば、NAS、DNLAサーバー、BitTorrentなども機能するWZR-HP-G300NHの管理画面/VPNサーバーの設定。VPNサーバーの機能をONにし、接続用のID/PWを設定する事務所からVPNを使って自宅へ接続。自宅はUSENの光なので固定IPアドレス。WZR-HP-G300NHで設定したID/PWでアクセスする
自宅→VPN→事務所でのスループットは約18Mbps。VPNを経由しないと倍以上になるため、場合によっては専用のVPNサーバーを用意した方がいいかも知れないnet.USBのIPアドレスを直接設定。自動検索ではETG-DS/USが見つからず、直接IPアドレスを指定する無事、事務所で地デジが観れた。感動モノであるが、AeroがOFFになるのはちょっと興醒めだ。是非Aero対応をお願いしたい

 CPUやネットワークのパフォーマンスを見ても思っていたほどの使用率にはなっていない。これならワンセグに切り替える必要も無いだろう。仕様的に転送レートが足りているのか分からないが、半日つけっ放しにしても映像や音声が途切れること無く安定して動いている。

 この環境があれば、海外でもインターネット接続に対応しているホテルなどで地デジを観られる可能性もあり、転送レートが確保できない時は、ワンセグへ切り替え観ればいい。いずれにしてもこれでネットさえあれば、その場所の電波状況そして国内外問わず、日本のTVを観ることができそうだ。

 ただ残念なのは、再生時はAeroがOFFになってしまうことだ。縮小表示モードもあり、何かしながら観ることもできるが、AeroがOFFでは、作業効率も描画パフォーマンスも悪く、Windows 7の意味がない。ぜひAeroがONのまま使えるよう、改善を望みたい。先に挙げたWAVEのマスターボリュームの件は、この環境では発生しなかった。

 もう1つ、これはハードウェア的に変えないと無理なのかも知れないが、他社も含めて、USBタイプの地デジチューナは、Windows 7の「Windows Media Center」専用機と、オリジナルのソフトウェア専用機と製品構成が別れている。技術的に可能であれば、できれば後者でもWindows 7の「Windows Media Center」に対応して欲しい。特にmAgicTV Digitalは作動が重めだ。気楽に観るときはWindows Media Center、フルファンクションが必要な時はmAgicTV Digitalと、状況に応じて使い分けたい。


 以上のように、ETG-DS/USは、ルーターやNASへUSBストレージやプリンタを接続するレベルとは全く別次元のUSBポートをネットワーク上に公開できる非常に面白いシステムだ。何を接続するかはユーザー次第。次回の用途その2では、また違うUSB周辺機を接続してみたい。