森山和道の「ヒトと機械の境界面」
「デジタルコンテンツEXPO2014」レポート
~変形ロボから空中触覚タッチパネルまで
(2014/10/27 17:39)
経済産業省と一般財団法人デジタルコンテンツ協会が主催する「デジタルコンテンツEXPO 2014」が日本科学未来館にて10月23日(木)~26日(日)の日程で開催された。これまでの「デジタルコンテンツEXPO」では、3Dやバーチャルリアリティなどが目立っている時期もあったが、今回はデジタル技術を背景としつつも物理的な体験を伴う出展が多かった。あたかもいわゆる「デジタル世界」から「物理世界」へと、技術が進出しているようなイメージだ。こちらでは「Innovative Technologies 2014」と銘打たれた展示を中心にレポートを記録しておきたい。
実物も飛び出す水のスクリーン「AquaFall Display」
東京工業大学大学院 情報理工学研究科 小池研究室の特別研究学生 的場やすし氏らによる「AquaFall Display(アクアフォールディスプレイ)」は、水と霧を使ったディスプレイだ。水による滝と滝の間に霧が満たされた構造になっていて、平滑で不透明のスクリーンを実現した。面白いのは水と霧を使っているため、スクリーンの中から実物を飛び出させるといったこれまでにない演出が可能な点。また、たとえば霧を可燃性のガスに変えることで、実際に燃えあがるスクリーンを実現することも可能だという。
今回の展示では空気砲のようなデバイスで風を打ち出してスクリーン上のオブジェクトを撃ち落とすというちょっとしたアトラクションをデモしていた。空気砲側に付けられたカメラを使ってスクリーン上の動きを認識させている。打ち出しているのは風なので、実際にスクリーンが大きく揺らぐところも面白い。なお的場氏は昨年(2013年)の「DC EXPO 2013」には、お風呂をスクリーンにしたシステムを出展していた。詳しくは本誌の過去記事「入浴剤で風呂をディスプレイに、Kinectで手術支援、学習する人工脳」をご覧頂きたい。
トランスフォーマー公式認定 変形ロボット「ジェイダイト」
ソフトバンク傘下のアスラテック株式会社は「V-Sido OS」の使用例として、人サイズの変形ロボット「J-deite quarter(ジェイダイト・クオーター)」を出展した。2020年までに全長約5mの巨大変形ロボットの建造を目指す「Project J-deite」の第一歩として公開されたロボットで、人型から車へ、車から人型へと変形することができる。人型での身長は1.3m、重量は35kg。それぞれのモードでの歩行や走行も可能だ。
アニメの「勇者ロボット」等が大好きで、変形ロボット製作を業務とするべく石田賢司氏が6月に起業した株式会社BRAVE ROBOTICSが中心になって開発した。制御システムにアスラテックの「V-Sido OS」が使われている。タカラトミーはプロジェクトサポーターとして参加している。「J-deite quarter」は名前の通り4分の1モデル。今後、2016年を目標として2.5mとなる2分の1モデルを目指して開発を継続する。
スケルトニクス・アライブ
先頃行われた「CEATEC JAPAN 2014」では装着体験に長蛇の列を作り、3回もブース位置自体が変更になった動作拡大型外骨格「スケルトニクス」は、「DC EXPO 2014」でもやはり人気。こちらでも上半身の装着体験のほか、時折、歩行を含めたデモンストレーションを行なっていた。
スケルトニクスそのものについての詳細は、「動作拡大型外骨格『スケルトニクス・アライブ』登場 ~IPA未踏成果報告会」をご覧頂きたい。なおこの時に初公開されたモデルと今回登場したモデルとは外観が少し変更されている。よりマッシブな印象を与える軸構成になり、手指はモーターで動く。
紙飛行機を最適化してくれる「テロミス」
東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 五十嵐研究室は「テロミス」という紙飛行機のデザインシステムを出展。設計したい紙飛行機の絵を描くと、その飛行機がどのように飛ぶか、実際の飛行データから物理特性を機械学習しており、予想される軌跡を示してくれる。飛行機の形を変更すると飛行軌跡もリアルタイムに変更される。よく飛ぶようにしたければ、翼の位置や角度を自動最適化してくれる機能がある。また、飛行機を実際に作るための部品の設計もシステムが行なってくれて、CNCカッターを使って簡単に制作できる。部品を組み合わせるための切りかきも自動で入れてくれる。
空中触覚タッチパネル
体験型が多いデジタルコンテンツEXPOの中でも、東京大学大学院 新領域創成科学研究科篠田・牧野研究室による「空中触覚タッチパネル」はその最たるものの1つだ。超音波を使って、空中に浮かぶバーチャルな像に触覚を与えることができる。虚像を使ったインタラクションの提案は多いが、実は人間は奥行き方向の解像度が低い。そのため単なる虚像ではインターフェイスとしては適していない。だが、触覚によるフィードバックを与えることで、腕の制御性が良くなるのである。
デモでは電卓のデモのほか、小さいヤモリのような生き物の映像が水面を実際に動かしながら動き回るというもの、そしてぼんやりした水の球のような感触を与えるものなどが行なわれていた。最小でおよそ8mmくらいの解像度が出るそうで、実際にやってもらったところ、熱い球のようなものがあるような、そんな感覚を指先で感じることができた。
空中ディスプレイ「ピクシーダスト」
東京大学暦本研究室・落合陽一氏/名古屋工業大学 星研究室は空中ディスプレイの一種「ピクシーダスト」を出展していた。超音波スピーカーアレイを用いて音場を操り、軽い物体を浮揚させることでスクリーンを形成する。多くの人が白い発泡スチレンの球を拾っては振りまいていた。実用性以前に、空中に砂絵を描くような行為自体が非常に楽しいようだ。
みらいのこくばん
株式会社サカワ「みらいのこくばんプロジェクト」は、まさに黒板を拡張するアプリケーションだ。普通の黒板の上に五線譜を投影して音楽教室用にしたり、原稿用紙や、数学用の方眼を投影することもできる。手の動きは黒板上部のセンサーで見ている。
また、一部分をハイライトしたり、ウインドウを任意の場所に開いて、そこに動画を再生するといったこともできる。今回のデモではそれに加えて、「雨」という漢字を描くと黒板に雨が降る光が投影され、雪に変えると雪に、雲と描くと雲が表れるといったデモを行なっていた。また、ドラゴンボールの「カメハメ波」のような光の弾を黒板で撃つといったデモも行なっていた。
教室では黒板に変わってホワイトボード、それどころか、授業すべてをパワーポイントで行なうといった変化が起きている。だが一方で、いまでも現場では「黒板を使いたい」という声も根強いのだという。未来の教室はどう変わっていくのだろうか。
AgIC回路プリンタ
東京大学 大学院 情報理工学系研究科/AgIC株式会社は「AgIC回路プリンタ」を出展。既にこの技術を使ったマーカー等がAmazonなどでも販売されており人気の「AgIC回路プリンタ」は、銀粒子を加工した「銀ナノインク」を使って電気回路を描ける技術である。普通のマーカーと描き心地も変わらないマーカーでさらっと簡単な回路を描くこともできるし、インクジェットプリンタを使えばタッチセンサーやアンテナ、Arduinoのシールドなどを紙やPETフィルムなどに描くことができる。
民間による月面探査
Google Lunar XPRIZEにチャレンジする唯一の日本チーム「Hakuto」を運営する株式会社ispaceは、民間による月面探査を目指す月面探査ローバーを出展していた。2015年末までに月面でのロボット探査を行なうことをミッションとするGoogle Lunar XPRIZEへの挑戦は、技術面のみならず資金面での課題も大きい。だが運営チームリーダーでispaceの代表取締役CEOの袴田武史氏によればGoogle Lunar XPRIZEへのチャレンジだけではなく、同社ではこのローバーを技術開発しながら、その他の宇宙開発ビジネスを今後も進めていくという。
SCE「プロジェクト モーフィアス」
ソニー・コンピュータエンタテインメントは、「プレイステーション4」用のバーチャルリアリティシステムとして開発中の「Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)」を参考出展。「東京ゲームショウ2014」前にバンダイナムコゲームスによる女子高校生の部屋を体験する『サマーレッスン(Summer Lesson)』が話題になったシステムである。開発中のHMDとヘッドフォンを着用して、海中でサメを観察していると……といった設定のミニゲームを体験することができた。
上を見ても後ろを見ても、あるいは下を見ても、その世界で見るはずの映像が見え、音が聞こえる。遅れはほとんど感じられなかった。言葉で伝えることしかできないが、この体験はなかなかのものだった。まさに「お台場の建物の中にいるはずなのに海中にいた」といった体験ができた。海中というのはちょっと大げさだが、自分が展示会のブースの中にいるという感覚は失われて、あたかも360度全天周スクリーンのアトラクションを体験しているようだった。
解像度が高いわけではないが、没入感がすごい。ただでさえ面白いゲームからは離れられなくなるが、視聴覚全体がゲーム世界からの刺激に満たされると没入しすぎてゲーム世界から離れたくなくなってしまうかもしれない。確かにこれが家庭用ゲーム機で使えるようになると、実に面白い展開が生まれそうだ。
このほか、株式会社JINほかによる眼電センサーなどを内蔵したメガネ「JINS MEME」、電通大と株式会社アイプラスプラスによるスマートフォンを活用した視覚障害者向け触覚ディスプレイ「HamsaTouch」、東京大学情報理工学研究科 石川 渡辺研究室による高速ビジョンと高速モーターを使った「勝率100%じゃんけんロボット」、ZMP社による物流支援用ロボット台車「CarrRo」、洗練されたデザインの電動車椅子の「WHILL」、電通による脳波インターフェイス「neurocam」などが出展されていた。
「Innovative Technologies 2014」以外の展示も含めて、今回のDC EXPOは、あちらのブースとこちらのブースで出展されたそれぞれの技術を組み合わせると面白いアプリケーションができそうだなと感じられる展示構成だった。来場者の多くもそう感じたのではないだろうか。