森山和道の「ヒトと機械の境界面」
動作拡大型外骨格「スケルトニクス・アライブ」登場
~IPA未踏成果報告会
(2014/6/30 12:17)
6月21日に行なわれた独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)による第20回「未踏IT人材発掘・育成事業」成果報告会で、「スケルトニクス」(第55)が公開された。
ご存知の方も多いと思うが、改めて説明すると、「スケルトニクス」とは動作拡大型外骨格の一種で、当時は沖縄高専の学生たちだった「チームスケルトニクス」によって自作されたもの。2011年2月末に動画共有サイト「ニコニコ動画」上で「『アームスーツ』っぽいものつくってみた」というタイトルで公開され、大いに話題になった。その後、スケルトニクスは2013年度グッドデザイン賞を獲得し、「チームスケルトニクス」は「スケルトニクス株式会社」(2013年10月設立)へと発展している。名前の「Skeletonics」は、SkeletonとMechanicsを組み合わせた造語である。
独自のパンタグラフ機構を使った搭乗型の機械式マスタースレーブで、動力は人間である。股関節を中心として着用した人間の動作を上半身で2倍、下半身で1.5倍程度に拡大することができる。竹馬のように単に四肢の末端だけが伸びているのではなく、四肢の関節位置そのものが拡大している点に、「スケルトニクス」の特徴がある。
初期型では上半身パーツと下半身パーツはそれぞれ別れており、上半身は15kg、下半身は10kg程度の重さがある。しかも動力が人間なので「稼働時間」に限界がある点が難点だった。上半身部分の負荷は肩に載っており、下半身部分の負荷は太ももに縛り付けてスーツを動かしていたので、おおよそ5分あまりしか保たなかったのだ。
IPA「未踏」で発表された第55「スケルトニクス・アライブ」は、上半身パーツと下半身パーツを1つにし、上半身部分の負荷を下半身部分に逃がした。脚部では膝部分を思い切って簡略化、平行リンク機構を使った。そして、自由度がなくなる「特異姿勢」を積極的に利用することで重量を機構自体が支えるようにした。これによって立っているだけの状態であれば人体には負荷があまりかからなくなり、無動力にこだわりつつ、動作可能時間を1時間以上と大幅に伸ばすことに成功した。一言でいえば「簡単、快適」になったという。
立っている状態だけだとバランスを取るためだけに体力を使っている感じだという。ただし、歩き回る時に負荷がかかるのは同じなので、いかに立ったままの状態をうまく使うかがデモや舞台での利用では重要になりそうだ。なお、センスのある人ならば数時間程度で乗りこなせるようになるとのこと。高さは2.8m、重さは40kg。骨格はアルミニウム。カウル部分はスクーターなどのありものを転用して使っている
なお、スケルトニクス株式会社では動力を使って補助するいわゆるパワードスーツの研究も行なっており、試作モデルも開発している。だが、負荷のかかる膝だけモーターで軽くなっても、股関節がきつくなってしまっては元も子もない。「このあたりがパワードスーツの難しいところだ」と語った。
着用するための時間も、初期型では6分程度かかっていたが、最新型は最短で50秒程度と、大幅に短縮できた。これによって例えば舞台袖でパッと役者が着用して出て行くようなことも現実的になった。手首のひねり動作も可能になり、表現力も向上した。例えば、ねじったパンチのような動作が可能になり、サーベルのような長物も振り回せるようになるという。
「第55スケルトニクス・アライブ」には、可動する頭部も付いており、着用者がHMDを付け、頭部に搭載したカメラ映像を見られるようにすれば「ロボット視点を体験できる」という。だが、実際にやってみると「危ない」そうだ。いわば「HMDを付けて車を運転するような感覚」だという。人間の視野や視覚をカメラやHMDを使って拡張することは、動作拡大よりもずっと難しいようだ。
「未踏」に採択されたのは2013年9月。採択テーマは「外部動力に頼らないメカニカルスーツの開発」で、とにかく「無動力を極める」ことが狙いだったという。成果報告会の当日は、スケルトニクス代表取締役の白久レイエス樹(しろく・れいえすたつる)氏が発表、取締役の阿嘉倫大(あか・ともひろ)氏がスケルトニクスに実際に搭乗してデモを行なった。なお、「未踏」の事業だが、「コードは1行も書いていない」(白久氏)そうだ。PMの石黒浩氏は「まさに未踏」と評価した。
今後は安全性の向上を図っていく。新しい技術については特許も出願中で、スケルトニクス株式会社では「スケルトニクス」自体の販売(4,980,000円)や、レンタル事業も行なっている。2014年4月末からは「ハウステンボスリゾート 光のナイトパレード」で、スケルトニクスが実際にパレードに参加しているという。なお、スケルトニクスは「搭乗者の身体を採寸し,オーダーメイドで製作する」そうだ。
個人的には、以前彼らが構想を聞かせてくれた、「EXONNECS(エグゾネクス)」という名前の、変形し走行もできる動力付き外骨格の発表を楽しみにしている。