石井英男のデジタル探検隊

5万円を切る低価格3Dプリンタ「ダヴィンチ Jr.1.0」レビュー

〜筐体サイズもダヴィンチに比べて大幅に小型化

 一時は「何でも作れる夢の機械」のような報道もなされた3Dプリンタだが、最近はそうした過剰な反応も落ち着いた感がある。しかし、その間も3Dプリンタは着々と進化を続けている。

 数年前まで安いものでも数十万円はしていた3Dプリンタだが、2013年あたりから10万円前後の製品が登場し、個人でも手が届く範囲に下りてきたということで、パーソナル3Dプリンタへの注目が高まった。2014年3月にXYZプリンティングジャパンから登場した「ダヴィンチ 1.0」は、税込69,800円(その後2014年9月に価格改定が行なわれ、現在は64,800円)という価格の安さと使い勝手の高さで、人気を集めた。筆者も、ダヴィンチ 1.0を試用してレビューを書いたが、印刷の失敗も少なく、印刷品質も価格を考えれば十分満足がいくものであった。しかし、ダヴィンチ 1.0は、筐体サイズが468×558×510mm(幅×奥行き×高さ)と、個人で使うにはやや大きいことが難点であった。

 XYZプリンティングジャパンが2015年4月に発売した「ダヴィンチ Jr.1.0」は、その名の通り、ダヴィンチシリーズの弟分にあたるパーソナル3Dプリンタであり、ダヴィンチシリーズの印刷品質や使い勝手のよさはそのままに、筐体サイズをコンパクトにし、価格を49,800円に下げた製品だ。ダヴィンチ Jr.1.0の特徴や詳しいスペックについては、発表会の記事を見ていただきたいが、ここでは実機を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。

セットアップ作業は簡単

 まず、ダヴィンチ Jr.1.0を箱から取り出して、3Dプリントを行なうまでの手順を紹介する。箱を開けて付属品や本体を取り外したら、エクストルーダやプラットフォームが配達中に動かないように固定している発泡スチロールやダンボールを外す。次に付属のSDカードをPCのSDカードスロットに挿入して、SDカードから専用ソフト「XYZware」をインストールする。

 XYZwareには自動アップデート機能があり、起動時に最新版があるかどうかのチェックを行なう。SDカードからインストールせずに、最初からXYZプリンティングのサイトから最新版をダウンロードしてインストールしても良い。次に、ACアダプタを本体に接続し、付属のUSBケーブルを利用してPCと接続後、電源スイッチを入れると、PCにドライバが組み込まれる。

ダヴィンチ Jr.1.0の付属品。ACアダプタやガイドチューブ、SDカード、スクレーパー、クリーニングブラシ、クリーニングワイヤー、USBケーブル、プラットフォームテープ3枚が付属するほか、お試し用フィラメントも付属する
SDカードは、4GBのmicroSDカードとSDカードアダプタの組み合わせになっていた
電源はACアダプタ経由で供給される
ダヴィンチ Jr.1.0では前面カバーが上に開くようになっている
このように前面カバーを上に持ち上げる
さらに前面カバーを開いたところ
前面カバーを最後まで開けると、そのままの状態で保持される

 次に、フィラメントが送られる際の経路となるガイドチューブを取り付ける。ガイドチューブの片側を本体上面のチューブ移動エリアのスリットを通して、エクストルーダ上部のフィラメント口に挿入し、反対側を材料注入モジュールの上部の穴に挿入すれば完了だ。

ガイドチューブをエクストルーダ上部のフィラメント口に挿入する。チューブの反対側は、材料注入モジュールの上部に挿入する
ガイドチューブは上面にスリット状に開けられたチューブ移動エリアを移動するようになっている
ガイドチューブを取り付けたダヴィンチ Jr.1.0
ダヴィンチ Jr.1.0の左側面。オレンジ色の半透明な樹脂が使われており、中の様子を確認できる
ダヴィンチ Jr.1.0の右側面。電源スイッチや電源コネクタ、USBコネクタが用意されている
右側面のコネクタ部分のアップ
ダヴィンチ Jr.1.0の背面。ファン搭載用の穴が2つ用意されているが、ダヴィンチ Jr.1.0では、ファンは1基しか搭載されていない
ダヴィンチ Jr.1.0の上面
前面には4行表示が可能な液晶パネルと6つのタッチボタンが用意されている

 ガイドチューブの取り付けが終わったら、フィラメントのロードを行なう。ダヴィンチ Jr.1.0では、基本的にサードパーティ製フィラメントは利用できず、XYZプリンティングジャパン純正のPLAフィラメントを利用する必要がある。別売りの純正フィラメントは1巻600gだが、ダヴィンチ Jr.1.0に付属しているフィラメントはお試し用で、重量が半分の300gとなっている。

 付属フィラメントにはフィラメントリールが装着されている。フィラメントリールには、フィラメントの色や種類などの情報が格納されたセンサーチップ(NFCチップ)が内蔵されている。このセンサーチップがないフィラメントは利用できないようになっているのだ。付属フィラメントをそのまま使う場合は、フィラメントリールを外す必要はないが、ほかの純正フィラメントを利用する場合は、フィラメントリールを外して中のセンサーチップを交換する必要がある(センサーチップは純正フィラメントに付属するが、フィラメントリールは本体に付属のものを使う)。

 フィラメントを本体内部左側のフィラメントホルダーに取り付け、フィラメントを引き出し、材料注入モジュールの材料注入口の手前のリリースアームを引いて、フィラメントの先端を材料注入口に押し込む。ダヴィンチ Jr.1.0のメニューから「ユーティリティ」→「フィラメントヲコウカン」→「ロードフィラメント」の順に選択すると、エクストルーダのヒーターの加熱が開始される。加熱が完了すると、材料注入モジュールのフィラメントフィーダーが動き出し、フィラメントのロードが行なわれる。フィラメントがエクストルーダへ送り込まれ、先端のノズル穴から溶けたフィラメントが出てくればOKだ。

付属のフィラメント。別売りのフィラメントは600gだが、付属のフィラメントは半分の300gとなっている
付属フィラメントの色はホワイトであった
付属フィラメントにはフィラメントリールが装着されている。他の純正フィラメントを利用する場合は、フィラメントリールを外して中のセンサーチップを交換する必要がある
フィラメントリールを2つに分解したところ。右側にセンサーチップが入っている
センサーチップを取り出したところ。フィラメントの色や種類などの情報を格納したNFCチップが搭載されている
フィラメントを本体左側のフィラメントホルダーに取り付ける
フィラメントを引き出し、材料注入モジュールの材料注入口の手前のリリースアームを引いて、フィラメントの先端を材料注入口に押し込む
トップメニューから「ユーティリティ」を選択する
「フィラメントヲコウカン」を選択する
「ロードフィラメント」を選択する
エクストルーダのヒーターの加熱が開始される
加熱が完了すると、フィラメントのロードが開始される
エクストルーダからフィラメントが出てくる
【動画】フィラメントをロードしている様子
純正のクリアイエローのフィラメント。右がフィラメントの情報が記録されているセンサーチップだ
クリアイエローフィラメントをダヴィンチ Jr.1.0に取り付けたところ
「ジョウホウ」メニューから「フィラメントデータ」を選択すると、フィラメントの情報を知ることができる
フィラメントの全容量と残り容量をm単位で知ることができる
フィラメントの色も表示される。今入れているのは、付属のホワイトではなく、オプションとして販売されているクリアイエローである
フィラメントの材質も表示されるが、ダヴィンチ Jr.1.0ではPLAしか利用できない
「ユーティリティ」メニューから「ノズルヲクリーニング」を選択すると、エクストルーダが加熱され、前方に移動するので、ペンチで付属のクリーニングワイヤーをつかんで、ノズルに挿入してクリーニングを行なう
ダヴィンチ Jr.1.0の内部。内部には白色LEDが用意されており、ボタンを押すと点灯するので、印刷の状況がよく分かる

SDカードからスライスデータを読み込みスタンドアロンでの印刷が可能

 ダヴィンチ Jr.1.0は、ダヴィンチシリーズには搭載されていなかったSDカードスロットを備えており、PCを接続しなくても、SDカードから印刷用のスライスデータを読み込んで印刷することが可能だ。実は、ダヴィンチシリーズでも、スライスデータをPCからダヴィンチ本体に転送してしまえば、PCの接続を外してもそのまま続けて印刷できるのだが(公式には推奨されていないとは思うが)、スライスデータを転送する際にはPCを接続する必要がある。それに対し、ダヴィンチ Jr.1.0では、PCとダヴィンチ本体を接続する必要が一切なく、ダヴィンチ本体とPCを別々の部屋に置くこともできるので、より便利だ。

 通常、3Dプリンタで印刷を行なう場合、3D CADや3D CGソフトを使って作成したり、Thingiverseなどの3Dデータ共有サイトからダウンロードしたSTLデータをスライサーと呼ばれるソフトを使って、3Dプリンタを制御するためのスライスデータに変換、その後、3Dプリンタ制御ソフトで3Dプリンタにスライスデータを転送して、印刷を行なうという手順になる。大手メーカー製3Dプリンタの場合は、スライサーと3Dプリンタ制御ソフトが1つになっていることが多いが、STLデータをスライスデータに変換するという手順は同じだ。

 ダヴィンチ Jr.1.0では、ダヴィンチシリーズと同じく「XYZware」と呼ばれるスライサー/3Dプリンタ制御ソフトを利用する。XYZwareは、オブジェクトの拡大縮小や回転など、必要十分な機能を備えており、UIもシンプルなので初心者にも使いやすい。

 PCとダヴィンチ Jr.1.0を接続して印刷する場合は、「印刷」をクリックすれば良いが、SDカードにスライスデータを書き出す場合は、「書出す」をクリックすれば良い。ダヴィンチ Jr.1.0では、3w形式のスライスデータが使われており、書き出し先をSDカードに指定すれば、SDカードにスライスデータが書き出される。

XYZwareにThingiverseで公開されている「TreeFrog」のSTLデータを読み込ませたところ
ダヴィンチ Jr.1.0とPCを接続した状態で、「印刷」をクリックすると、直接印刷が開始される
「書出す」を選択すると、PCから直接印刷するのではなく、SDカードなどにスライスデータ(拡張子は3w)を書き出せる
予想印刷時間や必要フィラメント量などの情報を確認できる
XYZwareでは、オブジェクトの拡大縮小や回転なども自由にできる。こちらはThingiverseで公開されている「Owl statue」のSTLデータを読み込ませたところ

印刷中の動作音も静かで、嫌な臭いもしない

 ダヴィンチ Jr.1.0は、PLA専用でヒートベッドは搭載していないため、プラットフォームが熱くならず、火傷などの心配もない。プラットフォームはガラス製なので、そのままではフィラメントの食いつきが弱く、印刷中に造形物が剥がれてしまうことがある。そこで、フィラメントの食いつきを良くするためにプラットフォームテープを貼る必要がある。プラットフォームテープは3枚付属しているが、なくなったらマスキングテープで代用できるほか、糊を塗るという方法もある。

 スライスデータを保存したSDカードをダヴィンチ Jr.1.0のSDカードスロットに挿入し、メインメニューから「SDカードプリント」を選択し、スライスデータを指定するだけで、出力が開始される。動作中の騒音もかなり小さく、夜でもあまり気にならないレベルだ。また、ABSと異なり、PLAは溶解時に嫌な臭いがしないこともメリットである。

プラットフォームはガラス製なので、フィラメントの食いつきを良くするためにプラットフォームテープが3枚付属する
印刷を行なう前にプラットフォームテープをプラットフォームに貼る。プラットフォームテープがなくなったら、代わりにマスキングテープなどを貼れば良い
SDカードスロットは、液晶パネルの後ろに用意されている
SDカードスロットに、スライスデータを書き出したSDカードを挿入する
PCを接続せずにスタンドアロンでSDカードから印刷する場合は、メインメニューから「SDカードプリント」を選択する
SDカード内にあるスライスデータのファイル名が表示されるので、印刷したいデータを選択する
印刷開始確認メッセージが表示されるので「イエス」を選択すれば、印刷が開始される
【動画】SDカードから印刷中の様子。印刷中の音もかなり静かだ
印刷が完了したTreeFrog。右側のラインはノズルの先端に付いた余分なフィラメントを取るために、最初に印刷されるものだ

印刷品質は兄貴分のダヴィンチと同等以上

 ダヴィンチ Jr.1.0のスペックは、最大出力サイズを除けば、ほぼ兄貴分のダヴィンチシリーズと同じだが、メカ設計は大きく変わっている。そこで、Thingiverseに公開されている「TreeFrog」と「Owl statue」を印刷してみた。条件は、ラフトとサポートは無し、品質は「非常に良い」に設定した。印刷結果は下の写真に示した通りである。

 TreeFrogは、カエルの顔の下の部分がかなりきつめのオーバーハングになっており、サポート無しではなかなか綺麗に印刷できないのだが、ダヴィンチ Jr.1.0では顔の下の部分もあまり乱れずに綺麗に出力されていた。ABSとPLAという材質の違いもあるだろうが、同じものをダヴィンチ 1.0で印刷したものと比べても、カエルの顔の下の部分の印刷品質はダヴィンチ Jr.1.0のほうが上であった。

 積層段差の目立ち方や位置決め精度については、ダヴィンチとほぼ同等であり、このクラスのパーソナル3Dプリンタとしては満足できるレベルだ。もちろん、AFINIA H480など、印刷品質がさらに高い3Dプリンタもあるが、4倍程度の価格差があることを考えれば、コストパフォーマンスは高いと言える。

ダヴィンチ Jr.1.0で印刷したTreeFrog。ラフトとサポートは無し、品質は「非常に良い」に設定した。フィラメントの色はクリアイエローである
TreeFrogの側面
顔の下の部分のオーバーハング部分も綺麗に印刷されている
ダヴィンチ Jr.1.0で印刷したOwl statue。印刷条件はTreeFrogと同じである
Owl statueのアップ。こちらもなかなか高品質だ
フクロウの耳もサポート無しで問題なく印刷されている

プラットフォームの調整はオフセットの値のみ

 FDM方式の3Dプリンタは、プラットフォームの水平出しとプラットフォームとノズルの隙間の調整が重要である。ダヴィンチシリーズでは、キャリブレーション機能が搭載されており(全自動ではないが)、メニューからキャリブレーションを選ぶことで、プラットフォームとノズルの間隔が適切か、またプラットフォームが水平になっているかを知ることができる。

 ダヴィンチシリーズでキャリブレーションを実行すると、液晶に3つの数値が表示されるので、その数値が適切な範囲内で揃うように3本のネジを回せば良い。キャリブレーション機能を装備していない3Dプリンタに比べれば手間はかからないが、それでも初心者にはなかなか面倒なものだ。

 しかし、ダヴィンチ Jr.1.0では、プラットフォームの水平出しが不要な設計になっており、ネジを回して調整を行なう必要はない。プラットフォームとノズルの隙間については、「ユーティリティ」→「Zオフセット」によって調整できる。基本的には、出荷時に正しい値が設定されていると思われるが、筆者の試用機の場合、出荷時の値ではうまく出力ができず、Zオフセットの値を3.0mmにすることで、問題なく出力されるようになった。

 また、ダヴィンチ Jr.1.0は、FDM方式の3Dプリンタの最も重要なパーツであるエクストルーダを簡単に交換できる構造になっていることも高く評価できる。ドライバーなどの工具を使わずにエクストルーダの取り外しや取り付けが可能なので、メンテナンスもしやすい。

「ユーティリティ」→「Zオフセット」の順に選択することで、ノズルとプラットフォームの隙間を調整できる。試用機の場合、3.0mmが適正な値であった。調整項目はここだけだ
ダヴィンチ Jr.1.0のエクストルーダ。工具が不要で、簡単にエクストルーダを交換できる構造になっていることも評価できる

3Dプリンタの入門機としてお勧めの1台

 ダヴィンチ Jr.1.0は、ダヴィンチシリーズの弟分として位置付けられる製品だが、ダヴィンチシリーズには搭載されていなかったSDカードスロットを備え、プラットフォームの水平出しも不要な設計になっているなど、進化している点も多い。

 筐体サイズが、ダヴィンチシリーズの約半分に縮小されたことで、日本の一般家庭にも置きやすくなったことも評価できる。PLAしか利用できないというのは、用途によっては弱点となるだろうが、機械的強度や加工性をそれほど重視しない用途なら、そう問題はない。3Dプリンタとはどういうものか、実際に使ってみたいという人に特にお勧めしたい製品と言える。

(石井 英男)