~メガネがいらない裸眼3D立体視対応液晶一体型PC |
PCの最新トレンドの1つが、3D立体視への対応である。PCでの3D立体視技術は、以前からあったが、これまでは広く普及しているとは言えなかった。しかし、昨年(2010年)の半ばあたりから、3D立体視対応液晶を搭載した液晶一体型PCやノートPCが登場してきており、店頭でも注目を集めるようになった。
富士通は、3D立体視に積極的に取り組んでいるメーカーである。2010年夏モデルの液晶一体型PC「ESPRIMO FH550/3AM」で初めて3D立体視をサポートし、2010年秋冬モデルでは、3D立体視に対応した製品が、FH550/3AM後継の「ESPRIMO FH570/3BM」および上位モデルの「ESPRIMO FH900/5MB」、ノートPCの「LIFEBOOK AH570/5BM」の3機種に増えた。
そして今回取り上げる「ESPRIMO FH99/CM」は、2011年春モデルとして発表された3D立体視対応液晶一体型PCだが、これまでの富士通の3D立体視対応製品が、すべて専用メガネ(偏光方式)を利用して3D立体視を実現しているのに対し、ESPRIMO FH99/CM(以下、FH99/CM)は、特殊なフィルターを液晶表面に装着することで、専用メガネを使わずに3D立体視を実現していることが特徴だ。
なお、2011年春モデルで、メガネを使わない3D立体視を実現しているのはFH99/CMだけで、同じ2011年春モデルでも「ESPRIMO FH98/CM」や「ESPRIMO FH58/CM」、「LIFEBOOK AH58/CM」は、専用メガネを使うタイプの3D立体視対応液晶を採用している。
●クアッドコアの第2世代Core i7搭載まずは、PCとしての基本スペックから見ていこう。CPUとして、Core i7-2630QMを搭載する。Core i7-2630QMは、開発コードネームSandy Bridgeと呼ばれていた第2世代のCore iシリーズである。モバイル向けのクアッドコアCPUだが、Hyper-Threadingテクノロジーを搭載しているため、最大8スレッドの同時実行が可能だ。動作クロックは2GHzだが、Turbo Boostテクノロジーにより、最高2.9GHzまでクロックが向上する。
メモリは、標準で4GB実装されているが、2基のSO-DIMMスロットに2GB SO-DIMMが2枚装着されているため、SO-DIMMスロットの空きはない。メモリは、最大8GBまで増設が可能だが、メモリ増設の際には標準実装されている2GB SO-DIMMを外して、代わりに4GB SO-DIMMを装着する必要がある。
HDDは3.5インチで、容量も2TBと大きい。光学ドライブとしては、Blu-ray Discドライブが搭載されている。単体GPUは搭載していないが、PCとしての基本性能は、液晶一体型PCの中でも高いといえるだろう。なお、OSはWindows 7 Home Premium 64bit版がプリインストールされている。
ESPRIMO FH99/CMの背面。左上にナノイー発生装置がある | 背面右上のカバーを外すと、メモリスロットの金属製カバーが現れる |
金属製カバーを固定しているネジを外すと、SO-DIMMスロットにアクセスできる | 右側面には、Blu-ray Discドライブが搭載されている |
●着脱式の3Dコンバージョンパネルを利用して3D立体視を実現
液晶は23型ワイドで、解像度は1,920×1,080ドットのフルHDであり、複数のウィンドウを開いても快適に作業が可能だ。スーパーファインVX液晶と呼ばれる光沢タイプの液晶であり、高色純度と高速応答を誇る。確かに発色は鮮やかで、コントラストは高いが、外光の映り込みが気になることがある。
そしてFH99/CMの最大のウリが、専用メガネを使わずに3D立体視を実現したことだが、その秘密は付属の3Dコンバージョンパネルと呼ばれる着脱可能なパネルにある。液晶パネル自体は通常のパネルなのだが、3Dコンバージョンパネルを液晶に装着することで、メガネなしでの3D立体視が可能になる。3Dコンバージョンパネルには、細かなレンチキュラーレンズが配置されており、3D映像の右目用の画像と左目用の画像を振り分ける役割を果たす。そしてレンズを斜めに配置することで、3D立体視時の解像感が高まるように工夫されている。
3Dコンバージョンパネルは、位置をあわせて押し込むだけで装着でき、外す場合は、左右のストッパーを押してロックを解除し、そのまま取っ手を持って手前に引けばよい。3Dコンバージョンパネルは、あくまで3D立体視時のときだけ装着するパネルであり、通常の2D表示時には外さないと、非常に見にくくなってしまう。
実際に、Blu-ray 3D対応タイトルをいくつか見てみた。3Dコンバージョンパネルを装着すると、画面の周辺部にモアレが多少見えるが、おそらく3Dコンバージョンパネルと液晶表面の間に小さな隙間ができるせいだと思われる。今回試用したのは製品版ではないため、製品版では改善されている可能性もある。3D立体視の感想だが、アクティブシャッター方式や偏光方式などの専用メガネを使うタイプに比べると立体感はやや弱いが、輝度はあまり落ちず、比較的目の疲れも少ないと感じた。また、真正面から見た方が、当然はっきりとした立体感を得られるが、多少正面からずれた場所からでも映像は破綻せず、2~3人で並んで見ても、立体感を得られた。3D立体視に没入したいのなら、専用メガネを使うタイプがオススメだが、気軽に3D立体視を楽しみたいのなら、本製品のような裸眼(グラスレス)3D立体視対応製品が向いている。
液晶は23型ワイドで、解像度は1,920×1,080ドットのフルHDである。スーパーファインVX液晶と呼ばれる光沢タイプの液晶で、色域も広い | 付属の3Dコンバージョンパネル。上部の左右には取っ手が付いており、その取っ手を持って液晶に押し込むようにして装着する | 通常の2D表示時に3Dコンバージョンパネルを装着すると、このように表示が非常に見にくくなってしまう |
【動画】3Dコンバージョンパネルの装着と取り外しの様子。このように着脱は簡単だ |
●3Dカメラを搭載し、3D静止画や3D動画の撮影が可能
FH99/CMは、液晶上部に130万画素カメラを2基備えており、3D静止画や3D動画の撮影が可能だ。3D静止画や3D動画を撮影するには、3Dカメラビューアーというソフトを利用する。もちろん、通常のWebカメラとして、ビデオチャットなどに使うこともできるほか、人の顔を検出する富士通独自の技術「Sense YOU Technology」を搭載しており、人感センサーとして使うことも可能だ。PCの前から離れると画面の電源がオフになり、席に戻ると自動的にオンになるので、無駄な電力消費を防げる。また、PCの長時間連続使用を知らせ、警告してくれる「休憩おすすめタイマー」機能も備えている。
液晶上部に130万画素カメラを2基搭載しており、3D静止画や3D動画の撮影が可能 | 「3Dカメラビューアー」では、3D静止画や3D動画を撮影でき、フレームなどをつけることも可能 | Webカメラを人感センサーとして使う「Sense You Technology」の設定画面。自動画面オフ機能や休憩おすすめタイマーの設定が可能 |
●Blu-ray 3Dや3D番組にも対応、DVD-Videoや動画ファイルの3D変換も可能
3D立体視対応液晶を備えていても、3D対応コンテンツがないとその真価は発揮できないが、プリインストールされている「Fujitsu PowerDVD9 3D Player」は、Blu-ray 3Dの再生に対応しているほか、通常の2DのDVD-Videoタイトルや動画を3D変換する機能も備えている(BDタイトルの3D変換には非対応)。もちろん、最初から3Dで作られたBlu-ray 3Dに比べると立体感は劣るが、タイトルによってはかなり効果的だ。静止画は「TriDef 3D Media Player」で2D→3D変換できる。
また、地上/BS/110度CSデジタル放送対応チューナを2系統搭載しており、TV番組の視聴や録画が可能なことも魅力だ。富士通製の映像エンジン「DixelHD エンジン2」を搭載し、フルHD解像度のまま長時間10倍録画に対応。2TBのHDDに約1,789時間の録画が可能だ。2番組の同時録画が可能なほか、BS11などで放送している3D番組の視聴や録画にも対応する。
「Fujitsu PowerDVD9 3D Player」は、Blu-ray 3Dの再生に対応しているほか、2DのDVD-Videoや動画を3D変換する機能も備えている | 本体左側面に、B-CASスロットが用意されている |
●菌やウイルスを抑制し、臭いを脱臭する「ナノイー」発生ユニットを搭載
本体背面に「ナノイー」発生ユニットを搭載していることもユニークだ。ナノイーとは、空気中の水分子を集めてできた、水に包まれた微粒子イオンであり、元々はパナソニック電工が開発した技術である。ナノイーは、菌やウイルス、カビ菌、花粉を抑制し、臭いも脱臭する効果があり、パナソニックの家電などに採用されている。
ナノイー発生装置を、PCで初めて搭載したのは、FH99/CMの前モデルであるESPRIMO FH900/5BMであり、FH99/CMもそのまま受け継いでいる。ナノイー発生ユニットの制御は、専用ユーティリティ「ナノイーユーティリティ」によって行ない、1時間、2時間、3時間のタイマー動作も可能だ。ナノイー発生ユニットを動作させると、わずかに「ジー」という音が発生するが、通常の環境ではそれほど気にならなかった。
本体背面にナノイー発生ユニットを搭載。発生ユニットはかなり小さい | ナノイー発生ユニット動作中は、液晶下部のナノイーインジケータが点灯する | ナノイー発生ユニットの制御を行なうナノイーユーティリティ |
●USB 3.0対応のほか、HDMI入力も装備
キーボードは、無線方式のワイヤレスキーボードを採用。スリムで場所をとらず、本体とデザイン的にも統一感がある。マウスは、無線のレーザー式で、横スクロールにも対応する。さらに、赤外線リモコンも付属しており、TV機能などを離れた場所から家電感覚で操作可能だ。
インターフェイスとして、USB 3.0を2基とUSB 2.0を4基備えるほか、SDメモリーカードとメモリースティックに対応したダイレクト・メモリースロットや有線LANを搭載。4基のUSB 2.0ポートのうち右側面に装備されている1基は、電源オフ時でもUSB給電が可能な電源オフUSB充電機能に対応している。
さらに、HDMI入力を備えていることも高く評価できる。液晶一体型PCでは、映像入力端子を備えていない製品も多いが、HDMI入力があれば、Blu-ray Discレコーダやハイビジョンビデオカメラ、ゲーム機などの外部機器を繋いで表示ができるのでより便利だ。HDMI入力を備えたFH99/CMなら、1台でTVとPC、Blu-ray Discレコーダの3役をこなし、さらにゲーム機などを繋ぐことが可能なので、PCのほかにTVを置きたくないという人にもお勧めだ。ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11b/g/n対応無線LAN機能を搭載する。なお、電源は付属のACアダプタから供給される。
無線方式のワイヤレスキーボードを採用。キー配列は標準的で使いやすい | ワイヤレスタイプのレーザー式マウスが付属。スクロールホイールは横スクロールにも対応している | 赤外線リモコンも付属。テレビ機能などを離れた場所から家電感覚で操作できる |
左側面には、USB 3.0×2とダイレクト・メモリースロットが用意されている | 左側面のポート部分のアップ |
右側面には、USB 2.0とBlu-ray Discドライブが用意されている。なお、このUSB 2.0ポートは電源オフUSB充電機能に対応している | 背面の右側には、USB 2.0×3と有線LAN、マイク入力、ヘッドフォン出力が用意されている | 背面の中央にはアンテナ入力が、左側にはHDMI入力が用意されている |
電源は付属のACアダプタ経由で供給される | CDケース(左)とACアダプタとのサイズ比較 |
●クアッドコアのCore i7搭載で高い性能を誇る
参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは、「PCMark05」「PCMark Vantage」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」で、比較用として、富士通「LIFEBOOK SH76/C」やソニー「VAIO S」、ソニー「VAIO Y(YB)」、ソニー「VAIO Y(YA)」の値も掲載した。
【表】ベンチマーク結果【表】ベンチマーク結果
ESPRIMO FH99/CM | LIFEBOOK SH76/C | VAIO S(SPEEDモード) | VAIO S(STAMINAモード) | VAIO Y(YB) | VAIO Y(YA) | |
CPU | Core i7-2630QM (2GHz) | Core i5-2520M (2.5GHz) | Core i5-2410M (2.3GHz) | Core i5-2410M (2.3GHz) | AMD E-350 (1.6GHz) | Core i3-380UM (1.33GHz) |
ビデオチップ | CPU内蔵コア | CPU内蔵コア | Radeon HD 6470M | Radeon HD 6470M | CPU内蔵コア | CPU内蔵コア |
PCMark05 | ||||||
PCMarks | 8264 | 7584 | N/A | N/A | 2860 | N/A |
CPU Score | 9378 | 9211 | 8160 | 8163 | 2758 | 3586 |
Memory Score | 9370 | 9846 | 7920 | 8060 | 2034 | 3465 |
Graphics Score | 5388 | 5288 | 6022 | 4067 | 2444 | 1572 |
HDD Score | 6801 | 5676 | 5372 | 5324 | 5097 | 5251 |
PCMark Vantage 64bit | ||||||
PCMark Score | 7353 | 7188 | 5769 | 5343 | N/A | 3219 |
Memories Score | 4606 | 4263 | 3974 | 3424 | N/A | 2045 |
TV and Movie Score | 5811 | 4594 | 3839 | 3813 | N/A | 2331 |
Gaming Score | 5894 | 4864 | 4648 | 3884 | N/A | 2093 |
Music Score | 7018 | 6784 | 5839 | 5726 | N/A | 3529 |
Communications Score | 6956 | 9615 | 5438 | 5388 | N/A | 2829 |
Productivity Score | 6040 | 5241 | 4635 | 4556 | N/A | 2907 |
HDD Score | 4541 | 3593 | 3243 | 3239 | N/A | 3063 |
PCMark Vantage 32bit | ||||||
PCMark Score | 6936 | 6864 | 5438 | 4905 | 2041 | 未計測 |
Memories Score | 4440 | 4081 | 3759 | 3455 | 1553 | 未計測 |
TV and Movie Score | 5775 | 4509 | 3764 | 3593 | 1560 | 未計測 |
Gaming Score | 5169 | 4078 | 4068 | 3385 | 1789 | 未計測 |
Music Score | 6888 | 6308 | 5670 | 5177 | 2510 | 未計測 |
Communications Score | 6251 | 8840 | 5085 | 4773 | 2083 | 未計測 |
Productivity Score | 5501 | 4807 | 4209 | 4144 | 1473 | 未計測 |
HDD Score | 4372 | 3658 | 3242 | 3262 | 2676 | 未計測 |
PCMark05やPCMark Vantageのスコアを比較すればわかるが、第2世代Core i7を搭載したFH99/CMのパフォーマンスは、全般的に第2世代Core i5を搭載したLIFEBOOK SH76/CやVAIO Sを上回っている。動作クロックは、2コア/4スレッドのCore i5-2520MやCore i5-2410Mに比べると低いが、Core i7-2630QMは、4コア/8スレッド動作が可能なので、4スレッドを超えるマルチスレッド環境でその真価を発揮する。特に、動画エンコードなどのマルチメディア系処理に向いている。単体GPUを搭載していないので、最新の3Dゲームで遊びたいという人には向いていないが、それ以外の用途なら性能は十分だ。FH99/CMは、富士通の液晶一体型PCのフラッグシップモデルの名に恥じない性能を持っているといえるだろう。
●気軽に3D立体視を楽しめる全部入り液晶一体型PCFH99/CMは、裸眼3D立体視に対応した液晶一体型PCであり、クアッドコアのCore i7と地上/BS/110度CSデジタルチューナを2系統搭載するなど、高い性能と機能を誇る製品だ。気軽に3D立体視を楽しめ、ナノイー発生ユニットを搭載するのも面白い。Blu-ray Discドライブも搭載した「全部入り」PCであり、さまざまな用途に対応できることが魅力だ。HDMI入力も備えているので、ゲーム機などを接続できることも便利だ。部屋にものをあまり置きたくない、一人暮らしの若者などにもピッタリの製品だ。
(2011年 4月 12日)
[Text by 石井 英男]