~超低電圧版Core i5を搭載した12.1型高性能スレートPC |
ASUSTeKから登場した「Eee Slate EP121」は、Windows 7ベースのスレートPCである。スレートPCとは、キーボードを搭載せず、タッチパネル付き液晶を備えた板状のデバイスである。
スレートPCは、決して新しいジャンルの製品というわけではなく、以前からタブレットPCなどと呼ばれ、主に法人向けとして販売されてきたが、昨年Appleから登場した「iPad」がコンシューマーにもヒットしたことで、再び注目が集まっている。なお、スレートPCと似た製品に、タブレット端末があるが、基本的にはWindowsベースの製品をスレートPC、AndroidやLunuxベースの製品をタブレット端末と呼ぶことが多い。
スレートPCは、携帯性やバッテリ駆動時間も重要であり、あまり高性能なCPUは搭載しにくく、オンキヨーの「TW117A4」や富士通の「STYLISTIC Q550/C」など、Atomベースの製品が多い。AtomベースのスレートPCは、携帯性やバッテリ駆動時間は合格でも、Windows 7の利用には性能的に不満を感じることもあるが、今回レビューするEee Slate EP121(以下、Eee Slate)は、超低電圧版Core i5を搭載しており、一般的なノートPCとほぼ同等のパフォーマンスを実現していることが魅力だ。
●12.1型液晶搭載で、重量約1.1kgを実現まずは、外観やサイズから見ていこう。Eee Slateのサイズは、312×207×16mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約1.1kgである。片手で長時間持つにはやや重いが、カバンなどに入れて気軽に持ち運べる。iPad(242.8×189.7×13.4mm、約730g)に比べれば大きく重いが、Eee Slateは、iPadの9.7型液晶よりも2周り大きな12.1型液晶を搭載しているので、許容範囲であろう。筐体デザインは比較的シンプルで、液晶面に用意されたハードウェアボタンは、ホームボタンのみとなっている。背面はホワイトで、すべりにくいように細かな凹凸のテクスチャが施されている。全体的な質感も満足できるレベルだ。
Eee Slate EP121の液晶面。液晶面のハードウェアボタンは、ホームボタンのみで、デザインはシンプルですっきりしている | 「DOS/V POWER REPORT」誌とEee Slate EP121のサイズ比較。Eee Slate EP121の方が、幅が35mm大きいが、奥行きは2mm小さい | 背面はホワイトで、細かな凹凸のテクスチャが施されており、手が滑りにくくなっている |
●Core i5-470UMと4GBメモリを搭載し、視野角の広いIPS液晶を採用
Eee Slateは、前述したようにPCとしての基本スペックが高いことがウリだ。CPUとして、Core i5-470UM(1.33GHz)を搭載する。Core i5-470UMは、デュアルコアCPUだが、Hyper-Threadingテクノロジーを搭載しており、最大4スレッドの同時実行が可能である。また、Turbo Boostテクノロジーにより、最大1.86GHzまでクロックが向上する。通常電圧版に比べるとクロックは低いが、Atomに比べると格段に性能は高い。メモリは4GBで、増設はできない。ストレージとしては、64GBのSSDが搭載。OSは、Windows 7 Home Premium 64bit版がプリインストールされている。
液晶は12.1型ワイドで、解像度は1,280×800ドットである。iPadの解像度は1,024×768ドットなので、縦横ともEee Slateの方が高い。また、一般的なTN液晶ではなく、視野角が広く、発色も美しいIPS液晶を搭載していることも特徴だ。iPadもIPS液晶を採用しており、その表示品位の高さには定評があるが、Eee Slateの液晶もiPadに負けず劣らず美しく見やすい。
タッチパネルは、静電容量式と電磁誘導式の両方に対応しており、指でも付属のペンでも操作が可能である。ペンは本体内に収納できるようになっているので便利だ。指で操作する場合(静電容量式)は、2本指でのマルチタッチにも対応する。タッチパネルの反応もよく、快適に操作が可能だ。iPadなどと同じく、加速度センサーを搭載しており、本体を回転させると、液晶の表示方向も変わる(スイッチで回転ロックが可能)。液晶上部には、200万画素カメラが搭載されており、ビデオチャットなどに利用できる。
液晶は12.1型ワイドで、解像度は1,280×800ドット。視野角が広いIPS液晶を採用。バックライトはLEDである | 液晶上部に、200万画素カメラが搭載されており、ビデオチャットなどに利用できる | 付属のペンは、本体内に収納できる |
ペンは電磁誘導式であり、液晶面からわずかに離しても反応する | ペンは上面から出し入れできる |
加速度センサーを搭載しており、本体を回転させると、液晶の表示方向も変わる(スイッチで回転ロックが可能) |
●Bluetooth対応ワイヤレスキーボードが付属
Eee SlateはスレートPCであり、キーボードは搭載しておらず、文字の入力はソフトウェアキーボードや手書きで行なうが、長文の入力を行なうにはやはりハードウェアキーボードのほうが効率がよい。しかし、Eee Slateには、Bluetooth対応のワイヤレスキーボードが付属しているので、長文入力にはキーボード、ビューアとして使うのが中心ならタッチパネルと使い分けられる。
付属キーボードの中身は、Microsoft Bluetooth Mobile Keyboard 6000で、人間工学に基づいたコンフォートカーブキーを採用しており、快適にタイピングが可能だ。ワイヤレスキーボードの厚さは13mmと薄く、本体と一緒に気軽に持ち歩ける。電源は単4アルカリ電池2本で、約5カ月間動作する。なお、単体販売されているMicrosoft Bluetooth Mobile Keyboard 6000には、独立したテンキーユニットもセットになっているが、Eee Slateにはテンキーユニットは付属していない。
●miniHDMI出力を搭載、スタンドにもなる専用ケースも付属
インターフェースもモバイルノートPCとほぼ同等で、USB 2.0×2、MiniHDMI出力などを搭載するほか、SDカードスロットも用意されている。このあたりの拡張性については、Dockコネクタしか備えていないiPadよりも優れているといえる。
液晶面に用意されているホームボタンは、押すことでフリップ3D表示になり、長押しでログオン画面となる。上面には、電源スイッチのほかに、ソフトウェアキーボード(バーチャルキーボード)の表示/非表示を切り替えるバーチャルキーボードボタンと表示方向の回転をロックするスクリーン回転ロックスイッチが用意されている。ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11b/g/n対応無線LANとBluetooth V3.0+HSをサポートする。
専用ケースが付属していることも嬉しい。ケースは合皮製で特に高級感があるというわけではないが、本体にぴったりフィットし、持ち運びの際に液晶に傷をつけてしまう恐れもなくなる。また、スタンドとなる機構も備えており、横画面や縦画面の状態で、スタンドの足を開いてたてかけることも可能だ。ただし、スタンドの足もケースと同じ材質で、それほど強度は高くない。動画などを流しっぱなしで見るときに使うのがよいだろう。ACアダプタは薄くて軽く、携帯性は優秀だ。本体への電源供給以外に、USBポートも用意されており、USBバスパワーを供給できるのも面白い。ケータイやデジタルカメラなど、USB充電に対応した機器を一緒に使う場合、とても便利だ。
Eee Slateは、iPadと同じくバッテリの交換はできない。公称バッテリ駆動時間は約3.5時間とあまり長くはないが、高性能CPUを搭載していることとのトレードオフであろう。実際に、バッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebサイトへのアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ(電源プランは「バランス」、輝度は中)、結果は3時間46分となった。無線LANを常時ONにした状態で、公称を上回る4時間近くの駆動ができたというのは、本体重量や性能を考えると、なかなか健闘しているといってよいだろう。
●モバイルノートに負けない性能を実現
参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは、「PCMark05」「PCMark Vantage」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」で、比較用として、ソニー「VAIO S」、ソニー「VAIO Y(YA)」、ソニー「VAIO Y(YB)」、パナソニック「Let'snote J9ハイパフォーマンスモデル」の値も掲載した。
Eee Slate EP121 | VAIO S(SPEEDモード) | VAIO Y(YB) | VAIO Y(YA) | Let'snote J9ハイパフォーマンスモデル | |
CPU | Core i5-470UM(1.33GHz) | Core i5-2410M(2.3GHz) | AMD E-350(1.6GHz) | Core i3-380UM(1.33GHz) | Core i5-460M(2.53GHz) |
ビデオチップ | CPU内蔵コア | Radeon HD 6470M | CPU内蔵コア | CPU内蔵コア | CPU内蔵コア |
PCMark05 | |||||
PCMarks | N/A | N/A | 2860 | N/A | 7746 |
CPU Score | 4580 | 8160 | 2758 | 3586 | 7149 |
Memory Score | 4202 | 7920 | 2034 | 3465 | 5629 |
Graphics Score | 1564 | 6022 | 2444 | 1572 | 2239 |
HDD Score | 10731 | 5372 | 5097 | 5251 | 28319 |
PCMark Vantage 64bit | |||||
PCMark Score | 4547 | 5769 | N/A | 3219 | 未計測 |
Memories Score | 2382 | 3974 | N/A | 2045 | 未計測 |
TV and Movie Score | 2112 | 3839 | N/A | 2331 | 未計測 |
Gaming Score | 3588 | 4648 | N/A | 2093 | 未計測 |
Music Score | 5341 | 5839 | N/A | 3529 | 未計測 |
Communications Score | 2472 | 5438 | N/A | 2829 | 未計測 |
Productivity Score | 5349 | 4635 | N/A | 2907 | 未計測 |
HDD Score | 7280 | 3243 | N/A | 3063 | 未計測 |
HDD Score | 7207 | 3242 | 2676 | 未計測 | 未計測 |
3DMark03 | |||||
1024×768ドット32ビットカラー(3Dmarks) | 2872 | 12115 | 5633 | 2802 | 3345 |
CPU Score | 747 | 2126 | 426 | 613 | 1144 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | |||||
HIGH | 1515 | 6878 | 2124 | 1317 | 2445 |
LOW | 2229 | 9893 | 3286 | 1910 | 3893 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | |||||
DP | 88.67 | 99.97 | 56.6 | 77.7 | 98.27 |
HP | 100 | 99.97 | 99.97 | 99.97 | 99.97 |
SP/LP | 100 | 99.97 | 99.97 | 100 | 99.97 |
LLP | 100 | 99.97 | 99.97 | 100 | 99.97 |
DP(CPU負荷) | 34 | 17 | 72 | 37 | 29 |
HP(CPU負荷) | 14 | 7 | 61 | 21 | 13 |
SP/LP(CPU負荷) | 10 | 4 | 41 | 20 | 8 |
LLP(CPU負荷) | 8 | 3 | 44 | 14 | 6 |
CrystalDiskMark 2.2 | |||||
シーケンシャルリード | 132.5MB/sec | 81.37MB/sec | 70.34MB/sec | 88.75MB/sec | 189.4MB/sec |
シーケンシャルライト | 51.86MB/sec | 80.86MB/sec | 75.5MB/sec | 87.92MB/sec | 154.6MB/sec |
512Kランダムリード | 100.4MB/sec | 31.90MB/sec | 30.76MB/sec | 35.09MB/sec | 172.5MB/sec |
512Kランダムライト | 14.24MB/sec | 33.41MB/sec | 39.55MB/sec | 43.82MB/sec | 106.2MB/sec |
4Kランダムリード | 7.162MB/sec | 0.415MB/sec | 0.422MB/sec | 0.443MB/sec | 12.8MB/sec |
4Kランダムライト | 1.947MB/sec | 1.143MB/sec | 1.395MB/sec | 1.500MB/sec | 20.91MB/sec |
BBench | |||||
Sバッテリ(標準バッテリ) | 3時間46分 | 3時間37分 | 5時間28分 | 5時間14分 | 未計測 |
Windowsエクスペリエンスインデックスの値。プロセッサやメモリ、プライマリハードディスクの値はかなり高い |
PCMark05のCPU Scoreの値は4580で、さすがに通常電圧版の第2世代Core i5を搭載したLIFEBOOK SH76/CやVAIO Sにはかなわないが、AMD E-350を搭載したVAIO Y(YB)やCore i3-380UMを搭載したVAIO Y(YA)よりも高い。また、ストレージとしてSSDを搭載しているため、HDD ScoreはHDD搭載ノートPCの2倍程度と高い。
Windowsエクスペリエンスインデックスを計測したところ、プロセッサが5.6、メモリが5.6、グラフィックスが3.2、ゲーム用グラフィックスが4.7、プライマリハードディスクが5.9という結果になり、グラフィックスがやや低いものの、それ以外はかなり優秀である。実際の使用感も非常に快適であり、動作速度に不満を感じることがあるAtomベースのスレートPCとは全く別物だ。
●快適に使えるスレートPCが欲しい人にお勧めEee Slateは、高い性能が魅力のスレートPCであり、ワイヤレスキーボードと一緒に持ち歩けば、モバイルノートPC代わりとしても十分使える。バッテリ駆動時間がやや短いことが残念だが、直販価格は99,800円であり、スペックを考えるとコストパフォーマンスも高い。
普段、ノートPCやデスクトップPCで使っているWindowsアプリケーションがそのまま動くことが、WindowsベースのスレートPCの最大の利点だが、AtomベースのスレートPCでは、アプリの動作が遅くてイライラさせられることも多い。しかし、Core i5を搭載したEee Slateなら、パフォーマンスに不満を感じる場面はほとんどない。Windowsアプリが快適に使えるスレートPCが欲しいという人や、ペンでお絵かきをしてみたいといった人にお勧めしたい製品だ。
(2011年 4月 15日)
[Text by 石井 英男]