~AMD E-350を搭載したモバイルノート |
富士通から登場した「LIFEBOOK PH50/C」は、AMDの最新モバイル向けプラットフォーム「Brazos」(コードネーム)を採用したモバイルノートだ。
Brazosは、AMDがFusion APUと呼ぶ、CPUとGPUを同じダイに統合した製品の第1弾である「AMD E」シリーズまたは「AMD C」シリーズと、サウスブリッジの役割を果たすFCHから構成されている。前者のTDPは18W、後者のTDPは9Wであり、消費電力が低いことが特徴だ。AMD Eシリーズは、IntelのCULV CPU対抗であり、AMD CシリーズはAtom対抗として位置づけられる。
LIFEBOOK PH50/Cは、富士通のノートPCで初めてBrazosを採用した製品である。今回、そのLIFEBOOK PH50/C(以下、PH50/C)を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。
●最厚部27.5mmのスリムなボディを実現PH50/Cは、LIFEBOOKシリーズの新ラインナップとして登場した製品であり、筐体も新たに設計されている。角がやや丸みをおびており、柔らかい印象を受けるデザインだ。カラーバリエーションは、シャイニーブラック、ナイトブルー、ルビーレッドの3色が用意されており、好みに応じて選べるのも嬉しい。本体のサイズは、285×209×27.5mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約1.5kgである。本体はスリムで、天板がフラットなので、カバンなどへの収まりもよい。11.6型ワイド液晶搭載モバイルノートとしては、標準的な重量だが、気軽に持ち歩ける範囲だ。
CPUとしては、AMD E-350(1.6GHz)を搭載する。AMD E-350は、現在発表されているAMD Eシリーズの中で最上位に位置する製品であり、デュアルコアCPUである。また、DirectX 11に対応したRadeon HD 6310 Graphicsと呼ばれるGPUを同じダイに集積していることが特徴だ。Radeon HD 6310 Graphicsは、CPUに統合されているGPUとしては高性能であり、H.264/VC-1/DivX/Xvidのハードウェアデコードに対応した動画再生支援機能「UVD3」を搭載する。なお、ソニーのBrazosプラットフォーム採用機であるVAIO Y(YB)も、同じAMD E-350を搭載しており、製品コンセプトも似通っている。
標準搭載メモリは2GBだが、SO-DIMMスロットを2基備えており、最大4GBまで増設が可能だ。HDD容量は500GBと、このクラスの製品としては余裕がある。ちなみに、同じくAMD E-350を搭載したVAIO Y(YB)のHDD容量は320GBであり、HDD容量はPH50/Cのほうが大きい。プリインストールOSは、Windows 7 Home Premium 64bit版である。
PH50/Cの上面。試用機のボディカラーはナイトブルーだったが、他にシャイニーブラックとルビーレッドも用意されている | 「DOS/V POWER REPORT」誌とPH50/Cのサイズ比較。フットプリントはほぼ同じだ | 底面のカバーを外すと、メモリスロットやHDDにアクセスできる。メモリスロットとしてSO-DIMMスロットが2基用意されており、標準で2GB SO-DIMMが1枚装着されている |
●11.6型ワイド液晶を搭載
液晶として、11.6型ワイド液晶を搭載。解像度は1,366×768ドットで、このクラスのノートとしては標準的だ。光沢タイプなので、発色は鮮やかだが、周囲の外光の映り込みが気になることがある。液晶上部には、有効画素数約130万画素のWebカメラが搭載されており、モノラルマイクも装備しているので、ビデオチャットやUstream配信などに利用できる。
キーボードは全88キーで、キーピッチは約19mm、キーストロークは約1.8mmだ。キー配列は標準的で、キーピッチも十分広いため、快適にタイピングが可能だ。ただし、「\」キーや「[」キーなどの一部のキーのピッチは約12mmと狭くなっている。
ポインティングデバイスとして、フラットポイントと呼ばれるパッドタイプのデバイスを搭載する。フラットポイントは、ジェスチャー操作にも対応しており、操作性も良好だ。
●必要にして十分なインターフェイスを搭載
インターフェイスも、このクラスの製品としては十分なものを搭載している。USB 2.0×3、アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)、HDMI出力、Gigabit Ethernetなどを備えているほか、メモリーカードスロットとして、SDメモリーカードとメモリースティックに対応したダイレクト・メモリースロットを搭載する。ワイヤレス機能は、IEEE 802.11b/g/n対応無線LANとBluetooth 3.0+HSをサポートするが、WiMAXには非対応だ。底面の手前左側には、ワイヤレススイッチが用意されており、確実にワイヤレス機能のON/OFFを行なえるので便利だ。
左側面には、ミニD-Sub15ピン、HDMI出力、USB 2.0が用意されている | 右側面には、ヘッドフォン出力、マイク入力、USB 2.0×2、Gigabit Ethernetが用意されている |
正面には、SDメモリーカードとメモリースティックに対応したダイレクト・メモリースロットが用意されている | ダイレクト・メモリースロットのアップ |
●公称約7.3時間の長時間駆動を実現
従来のAMDのモバイルプラットフォームは、Intelに比べて消費電力が大きく、バッテリ駆動時間があまり長くないという印象があったが、Brazosプラットフォームは、消費電力についても大きく改良されており、Intelのモバイルプラットフォームと比べても、遜色のない低消費電力を実現している。PH50/Cの公称バッテリ駆動時間は約7.3時間であり、モバイルノートとして十分合格点を付けられる。
実際に、バッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でWebサイトへのアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、5時間49分の駆動が可能であった(電源プランは「バランス」に設定、バックライト輝度は中)。無線LANを有効にした状態で、これだけ持てば優秀といえる。
ちなみに、似た構成のVAIO Y(YB)のバッテリ駆動時間の実測値は5時間28分で、公称バッテリ駆動時間も約6時間と、PH50/Cよりもやや短い。ただし、VAIO Y(YB)には、オプションとして大容量バッテリパックが用意されているが、PH50/Cは標準バッテリ以外のバッテリパックは用意されていない。
なお、ACアダプタもコンパクトで軽く、本体と一緒に気軽に持ち運べる。
PH50/Cのバッテリ。10.8V/5,800mAhの6セル仕様である | CDケース(左)とバッテリのサイズ比較 |
ACアダプタもコンパクトで軽い | CDケース(左)とACアダプタのサイズ比較 |
●AMD E-350搭載機としては標準的な性能
参考のために、ベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」「PCMark Vantage」「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」で、比較用にソニー「VAIO Y(YB)」、ソニー「VAIO Y(YA)」、パナソニック「Let'snote J9ハイパフォーマンスモデル」、NEC「VersaPro UltraLite タイプVC」、NEC「LaVie M」の値も掲載した。
PCMark05のCPU Scoreは2830で、同じAMD E-350を搭載したVAIO Y(YB)とほぼ同じスコアとなっている。Intelプラットフォームとの比較では、CULV CPUであるCeleron SU2300とほぼ同程度のスコアで、Core i3-380UMよりは低い。AMD E-350は、統合GPUの描画性能が比較的高いことが特徴であり、Graphics Scoreは2555と、Core i3-380UMやCeleron SU2300などに比べて高い。総合的にみて、CPU性能はCore i3-380UMの8割程度だが、グラフィックス性能は2倍程度と考えればよいだろう。動画再生については、YouTubeの1080p動画は多少コマ落ちしてしまうが、720pなら問題なく再生が可能であった。
Windowsエクスペリエンスインデックスの結果は、プロセッサが「3.8」、メモリが「5.5」、グラフィックスが「4.1」、ゲーム用グラフィックスが「5.6」、プライマリハードディスクが「7.0」であり、プロセッサがやや低いが、それ以外はなかなか優秀だ。
なお、富士通ではPH/50Cの特徴の1つとして、解像度の低いネット動画を高画質で綺麗に再生できる「くっきり機能」の搭載を挙げているが、これは富士通の独自機能というわけではなく、AMD E-350に搭載されている動画高画質化機能である。くっきり機能に関する設定は、Catalyst Contol Centerから行なう。
【表】ベンチマーク結果LIFEBOOK PH50/C | VAIO Y(YB) | VAIO Y(YA) | Let'snote J9ハイパフォーマンスモデル | VersaPro UltraLite タイプVC | LaVie M | |
CPU | AMD E-350(1.6GHz) | AMD E-350(1.6GHz) | Core i3-380UM(1.33GHz) | Core i5-460M(2.53GHz) | Core i7-620UM(1.06GHz) | Celeron SU2300(1.2GHz) |
ビデオチップ | CPU内蔵コア | CPU内蔵コア | CPU内蔵コア | CPU内蔵コア | CPU内蔵コア | Intel GS45内蔵コア |
PCMark05 | ||||||
PCMarks | N/A | 2860 | N/A | 7746 | 5092 | 2826 |
CPU Score | 2830 | 2758 | 3586 | 7149 | 3596 | 2966 |
Memory Score | 2056 | 2034 | 3465 | 5629 | 3965 | 3066 |
Graphics Score | 2555 | 2444 | 1572 | 2239 | 1684 | 1397 |
HDD Score | 4803 | 5097 | 5251 | 28319 | 16265 | 4948 |
PCMark Vantage 64bit | ||||||
PCMark Score | 2271 | N/A | 3219 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Memories Score | 1634 | N/A | 2045 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
TV and Movie Score | 1496 | N/A | 2331 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Gaming Score | 2042 | N/A | 2093 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Music Score | 2607 | N/A | 3529 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Communications Score | 2363 | N/A | 2829 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Productivity Score | 1568 | N/A | 2907 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
HDD Score | 2617 | N/A | 3063 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
PCMark Vantage 32bit | ||||||
PCMark Score | 2191 | 2041 | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Memories Score | 1527 | 1553 | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
TV and Movie Score | 1576 | 1560 | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Gaming Score | 1777 | 1789 | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Music Score | 2526 | 2510 | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Communications Score | 2153 | 2083 | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
Productivity Score | 1520 | 1473 | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
HDD Score | 2655 | 2676 | 未計測 | 未計測 | 未計測 | 未計測 |
3DMark03 | ||||||
1024×768ドット32ビットカラー(3Dmarks) | 5845 | 5633 | 2802 | 3345 | 2714 | 2048 |
CPU Score | 547 | 426 | 613 | 1144 | 771 | 495 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | ||||||
HIGH | 2238 | 2124 | 1317 | 2445 | 1631 | 1367 |
LOW | 3487 | 3286 | 1910 | 3893 | 2410 | 1995 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | ||||||
DP | 59.67 | 56.6 | 77.7 | 98.27 | 100 | 76.43 |
HP | 99.97 | 99.97 | 99.97 | 99.97 | 100 | 99.97 |
SP/LP | 99.97 | 99.97 | 100 | 99.97 | 100 | 99.97 |
LLP | 99.97 | 99.97 | 100 | 99.97 | 100 | 99.97 |
DP(CPU負荷) | 62 | 72 | 37 | 29 | 27 | 68 |
HP(CPU負荷) | 48 | 61 | 21 | 13 | 13 | 42 |
SP/LP(CPU負荷) | 29 | 41 | 20 | 8 | 8 | 28 |
LLP(CPU負荷) | 22 | 44 | 14 | 6 | 8 | 22 |
CrystalDiskMark 2.2 | ||||||
シーケンシャルリード | 78.38MB/sec | 70.34MB/sec | 88.75MB/sec | 189.4MB/sec | 164.2MB/sec | 60.31MB/sec |
シーケンシャルライト | 77.35MB/sec | 75.5MB/sec | 87.92MB/sec | 154.6MB/sec | 39.58MB/sec | 66.25MB/sec |
512Kランダムリード | 32.48MB/sec | 30.76MB/sec | 35.09MB/sec | 172.5MB/sec | 142.6MB/sec | 27.50MB/sec |
512Kランダムライト | 33.71MB/sec | 39.55MB/sec | 43.82MB/sec | 106.2MB/sec | 34.53MB/sec | 31.19MB/sec |
4Kランダムリード | 0.448MB/sec | 0.422MB/sec | 0.443MB/sec | 12.8MB/sec | 7.629MB/sec | 0.369MB/sec |
4Kランダムライト | 1.081MB/sec | 1.395MB/sec | 1.500MB/sec | 20.91MB/sec | 13.66MB/sec | 0.984MB/sec |
BBench | ||||||
Sバッテリ(標準バッテリ) | 5時間49分 | 5時間28分 | 5時間14分 | 未計測 | 4時間23分 | 3時間39分 |
Lバッテリ | なし | 未計測 | 未計測 | 10時間15分 | 未計測 | 7時間26分 |
Xバッテリ | なし | なし | なし | なし | なし | なし |
PH50/CのWindowsエクスペリエンスインデックスの結果。プロセッサのスコアが3.8とやや低いが、それ以外は4を超えており、なかなか優秀だ | Catalyst Control Centerのその他のビデオ設定で、動画の高画質化機能の設定が可能だ。富士通のサイトには推奨設定が記載されている |
●モバイルノートとしての完成度は高く、コストパフォーマンスも魅力
PH50/Cは、AMD E-350を搭載したことで、モバイルノートとして十分なパフォーマンスとバッテリ駆動時間を実現しており、製品としての完成度は高い。
ライバル機のVAIO Y(YB)と比べた場合、HDD容量はPH50/Cが500GB、VAIO Y(YB)が320GBなので、PH50/Cのほうが多い。バッテリ駆動時間についても、PH50/Cのほうが優秀であり、実売価格もPH50/Cは8万円前後で、VAIO Y(YB)の10万円前後に比べて安い。
一方、バンドルアプリケーションに関しては、VAIO Y(YB)が「Office Home and Business 2010」がプリインストールされているのに対し、PH50/Cは「Office Personal 2010」なので、PowerPointやOneNoteが必要ならVAIO Y(YB)をお勧めするが、WordとExcel、Outlookだけでいいのなら、コストパフォーマンスの高いPH50/Cをお勧めする。動画エンコードなどの重い作業をしないのなら、十分メインマシンとして利用できるマシンであり、ネットブックからのステップアップにもぴったりだ。
(2011年 2月 17日)
[Text by 石井 英男]