ASUS「VivoTab RT TF600T」
~クラムシェルにもなるWindows RTタブレット



「VivoTab RT TF600」

11月11日 発売
価格:59,800円



 ASUSTeKの「VivoTab RT TF600」(以下、TF600T)は、Windows RTを搭載するタブレットだ。発売は11月11日で、価格は59,800円。

 Windows RTは、一言で言うとARM版Windows 8で、ARM SoCプラットフォームでWindows 8と同じUIを実現している。ただし、Windows 8と完全な互換性があるわけではなく、従来のx86用アプリは動かず、Windows 8/RTから採用されたWindowsストアアプリも全体の1割ほどはWindows RTで動かない。また、デバイスドライバも互換性がないので、Windows 8機に比べると周辺機器の対応状況は限られる。

 これだけだと、Windows RTを選ぶ理由がないように見えるが、Windows RT機の利点は、その軽さにある。Windows RTはARM向けにゼロから開発されており、OS自体の軽快さはWindows 8に勝るとも劣らないという。また、Windows RTに採用されるARM SoCはもともとスマートフォンなどのモバイル機器向けということもあり、基板や冷却機構を小型化できるため、マシン自体も薄く軽くできる。加えてWindows RTには、標準でOffice 2013(現在はプレビュー版)が付属するという特典もあり、コストパフォーマンスも高い。

 本国アメリカでは、Microsoft自身がWindows RTタブレット「Surface」を発売し、反響を呼んでいるが、国内ではまだこのVivoTab RT TF600と、NECパーソナルコンピュータの「LaVie Y」しか発表されていない。また、システム性能を計測するベンチマークアプリもまだない。そのため、今回は、Windows RT機の現状を探るという点に主眼を置き、レビューしてみたい。

●Androidタブレットとほぼ同じ本体スペック

 まずは、本製品のハードウェアを見てみよう。CPUはNVIDIA Tegra 3(1.3GHzクアッドコア、ビデオ機能内蔵)、メモリ2GB、ストレージ32GB、1,366×768ドット表示対応10.1型Super IPS+液晶を搭載と、Androidタブレットと全く同じ内容と言っていい。OSはARM用に新規に開発されたものだが、Windows環境でこのハードウェアがどの程度の性能を発揮できるのかは、後に検証する。

 インターフェイスは、IEEE 802.11b/g/n無線LAN、Bluetooth 4.0、Micro HDMI、microSDスロット、200万画素前面カメラ、800万画素背面カメラ、マイク/ヘッドフォン共用ジャックを装備。別売(14,800円)のモバイルキーボードドックには、USB 2.0がある。このあたりも、同社のAndroidタブレット「ASUS Pad」シリーズと何ら変わりない。PCとして見たときは、USBが1ポートのみで3.0ではない点、有線LANがない点が気になる。

 センサー類として、GPS、電子コンパス、環境光、加速度、ジャイロスコープ、NFCを搭載するのもAndroidでは見慣れているが、これらは従来のクラムシェルWindowsマシンにはほとんど搭載されなかったものだ。これらにより、Windows環境でも地図アプリによるナビや、本体の傾斜などを利用したゲームなどのインターフェイスが一般化していくことだろう。

 本体サイズは、タブレットだけで262.5×170.9×8.3mmと、既存のASUS Padと同等だが、おおむね15mm程度あるWindowsタブレットと比較すると、厚さは半分近くになっている。重量も約525gとかなり軽い。これはひとえに、ARMプラットフォームを採用したことによる恩恵だ。ただ、薄くしたことでタブレット本体のインターフェイス類は、Micro HDMIとmicroSDに限定されてしまっている。ただし、付属のドッキングコネクタUSB変換アダプタを使うと、USB機器を接続できる。

正面背面左側面
上面右側面下面
左側面のレバーは後述のドック取り外し用左側面にmicroSDスロットと、Micro HDMI
右側面には、ヘッドフォン/マイクジャックと、もう1つはSDスロットにも見えるが音量ボタン背面左上にNFC背面中央にカメラ
下面の穴はドック用だが、左側には充電などに使う独自コネクタがある正面中央にもカメラ重量は実測で537gと公称よりやや重かった

●モバイルキーボードドックにより、クラムシェルでも利用可能

 前述の通り、本製品の大きさはAndroidタブレットとほぼ同等。重量は最軽量部類で、ほぼ同じ液晶サイズのiPadより100g以上軽いので、家庭内での利用はもちろん、常に鞄に入れて持ち運んでも苦にならない。

 本製品はオプションでモバイルキーボードドックが用意されているのも大きな特徴だ。モバイルキーボードドックのヒンジにタブレットを装着すると、完全なクラムシェル状態になる。モバイルキーボードドックには、日本語87キーと、タッチパッド、USB 2.0が搭載され、セカンダリバッテリも内蔵する。価格は14,800円と高いが、文章入力が多いユーザーには必携のオプションといえる。

 モバイルキーボードドックの厚さは10.4mmで、重量は約538gなので、合体させた状態では厚みが約18.7mm、重量が約1,063gということで、10.1型のUltrabook相当ということになる。

 公称バッテリ駆動時間は本体のみで約9時間、モバイルキーボードドック装着時で約16時間となっているので、1日の外出なら充電なしに利用できる。

 実際の製品では、モバイルキーボードドックは日本語仕様になるのだが、今回は機材の都合で英語版となっている。そのため、この部分は製品版と使用感が異なる可能性があることを了承頂きたい。

モバイルキーボードドック。製品版は日本語配列背面右側面にUSB 2.0
左側面に独自コネクタと充電LEDTF600Tを装着したところ合計重量の実測値は1,082gだった

 メインのキーのピッチは実測で約18mm。十分タッチタイプできるが、慣れるまではちょっと窮屈な印象を受けるだろう。アイソレーション式ということも手伝って、打鍵時のたわみはほぼない。ただ、キー全体が、内部に沈み込む設計になっており、ドックとキーの表面がほぼ同じ高さに揃っている。そのため、スペースキーを押したときに、パームレストに親指が触れて、押しにくく感じる。日本語入力でも英語入力でも最も多用するキーの1つだけに、やや気になる。ストロークの深さは不明だが、タッチはかなり堅い。

 なお、本製品がAndroid機でないと一目で分かる証として、中央下部にWindowsのロゴがある。ここにはタッチセンサーがあり、Windowsキーとして機能するが、ドック装着時は機能しなくなるので、キーボード側のWindowsキーを使うことになる。

キーピッチは約18mmタッチパッドはボタンの区切りがないタイプ本体正面下部にタッチセンサー式Windowsボタン

 本体色は、やや紫がかったシルバーで、落ち着いた雰囲気がある。モバイルキーボードドックをつけると、筐体に金属素材を多用していることもあって、見た目よりもずっしりくるが、それでも大抵のモバイルノートPCよりは軽い。それでいて、剛性はかなりあり、本体の端でつまんで持っても、たわんだりすることはない。

 液晶はSuper IPS+パネルで、上下左右とも視野角が広い。タブレットは特に色々な角度で使うことがあると思うが、色が変化/反転するようなことはない。ただ、発色はやや青っぽい。表面は光沢処理されているので、画面が暗い色の時は映り込みがあるが、Webページのように白がメインだとほとんど気にならない。解像度は1,366×768ドットあるので、2つ目のアプリを画面端に表示させるスナップに対応する。

 付属品は、ドッキングコネクタUSB変換アダプタ、充電器、ドッキングコネクタUSBケーブル。電源コネクタは独自だが、ドッキングコネクタUSBケーブルは、片方がUSB端子なので、USB対応の充電器からも充電できる。手元では、出力1.5Aのモバイルブースターはもとより、PCのUSB 2.0ポートからも充電できた。本製品の充電器はとても小さいので、持ち運びに不便はないが、USB充電器があるなら、そちらにまとめることができる。

たたんだ状態はノートPCそのもの液晶は光沢のIPSパネル左からTF600T、AndroidのLifeTouch L、Core i5搭載のSeries 7 11.6" Slate
充電器充電ケーブル。一方の端はUSBなので、USB充電からでも充電可能USBメモリなどを接続するためのアダプタ

●ベンチマーク上はCore i5搭載機と大きな性能の開きが

 前述の通り、Windows RTでは十分なベンチマーク環境が整っていないので、限定的ではあるが性能を検証してみた。比較対象には、SamsungのタブレットPC「Series 7 11.6" Slate」を用いた。本製品はもともとWindows 7搭載機だが、MicrosoftがWindows 8アプリ開発のリファレンス機として選んだもの。CPUはCore i5-2467M(1.6GHz、ビデオ機能内蔵)、メモリは4GB、SSDは128GBを搭載。液晶は1,366×768ドット表示対応11.6型で、OSはWindows 8 Pro(64bit)を入れてある。果たして、ARM+Windows RTとx86+Windows 8でどのような結果が出るのかを見比べてみたい。

 ベンチマークの前に、TF600Tの内部構成を簡単に見ておこう。先にも書いたとおり、CPUはTegra 3で、メモリは2GB、ストレージは32GB。ストレージの空き容量は13.2GBで、Windows機としてみると、かなり心許ない。TF600Tには、無償で32GBのクラウドストレージ(3年間)利用権が付属するし、MicrosoftのSkyDriveを活用するのも手だが、コンテンツの保存用にmicroSDカードは用意していた方が良いだろう。メモリの量も少ないが、タスクマネージャーで見ると、OS起動後は650MB程度しか使っておらず、1.3GBが空いているので、どうやらこの容量でも問題はなさそうだ。

 ちなみに、通信コントローラは「Broadcom 802.11bgn Wireless SDIO Adapter」となっており、SDIO経由でつながっているようだ。

デバイスマネージャーCPUは4コアがきちんと認識されているメモリは2GBだが、2/3は空いている
SSDは空きが13.2GBしかないバッテリは本体とモバイルキーボードドックに積まれるので、システムからはこのように認識されるネットワークコントローラはSDIO接続

 それでは、Windowsエクスペリエンスインデックスを算出するための「WinSAT.exe」の結果から見てみよう。数字上はTegra 3は1.3GHzのクアッドコアで、Core i5-2467Mは1.6GHzのデュアルコアでHT対応と、大きな隔たりはないように見える。だが、結果を見ると、Core i5の方が2~3倍高い結果となっている。プラットフォームおよびOSの違い、Core i5はTurbo Boostで最大2.3GHzまでクロックが上昇するなどの差を加味する必要はあるが、Core i5の方がスペック以上の差をつけている印象だ。グラフィックおよび、メモリ、ストレージもCore i5の方が数倍高い結果になっている。また、互換性の問題からか、グラフィックについてTegra 3では計測できていない項目がある。なお、同じTegra 3搭載のNECパーソナルコンピュータ「LaVie Y LY750/JW」とはほぼ同じ結果になっている。

【表1】WinSAT.exe
 TF600TSeries 7
CPU LZW圧縮 (MB/sec)88.40153.58
CPU AES256暗号化 (MB/sec)30.1780.63
CPU Vista圧縮 (MB/sec)214.00396.31
CPU SHA1ハッシュ (MB/sec)274.94468.21
ユニプロセッサ CPU LZW圧縮 (MB/sec)22.4170.41
ユニプロセッサ CPU AES256暗号化 (MB/sec)7.5342.65
ユニプロセッサ CPU Vista圧縮 (MB/sec)54.79183.00
ユニプロセッサ CPU SHA1ハッシュ (MB/sec)71.03257.66
メモリのパフォーマンス (MB/sec)1049.898873.81
Direct 3D Batchのパフォーマンス (F/sec)48.81120.03
Direct 3D Alpha Blendのパフォーマンス (F/sec)49.61115.87
Direct 3D Texture Loadのパフォーマンス (F/sec)9.9238.30
Direct 3D Batchのパフォーマンス (F/sec)0.00101.35
Direct 3D AlphaBlendのパフォーマンス (F/sec)0.0098.69
Direct 3D ALUのパフォーマンス (F/sec)0.0034.27
Direct 3D Texture Loadのパフォーマンス (F/sec)0.0031.48
Direct 3D Geometryのパフォーマンス (F/sec)0.0085.40
Direct 3D Geometryのパフォーマンス (F/sec)0.0087.45
Direct 3D constant Bufferのパフォーマンス (F/sec)0.0040.07
ビデオメモリのスループット (MB/sec)1467.262690.99
メディアファンデーションデコード時間 (sec)0.481.31
Disk Sequential 64.0 Read (MB/sec)45.87240.90
Disk Random 16.0 Read (MB/sec)21.85165.40

 次に、V8 Benchmark Suite Version 7とGUIMark 3の結果を見てみよう。いずれも、ブラウザで動作するベンチマークで、前者はJavaScript、後者はHTML5を使ったグラフィック性能を見ている。ここでも、V8 Benchmarkでは4~5倍の差があり、GUIMark 3は、Bitmapこそ拮抗するものの、残りの2つはTF600Tの性能の低さが目立つ。

【表2】V8 Benchmark Suite Version 7
 TF600TSeries 7
Richards895.24325
DeltaBlue709.82855.4
Crypto10946495.8
RayTrace693.83305.8
EarleyBoyer1403.46438
RegExp394.81696.4
Splay574.61917.6
NavierStokes8667337.8
Score775.83768.2

【表3】GUIMark 3
 TF600TSeries 7
HTML5 Bitmap63.50860.046
HTML5 Vector25.76860.044
HTML5 Compute1759.962

 最後に、ストレージ関連のテストを行なってみた。1つは、起動および再起動にかかる時間の測定、もう1つはUSB 2.0経由でのファイルコピーにかかる時間の測定だ。WinSAT.exeの結果にも出ているように、TF600TのSSDは高速ではない。そのため、起動、再起動時間もそこそこかかっている。また、Windows RTにはWindows 8で採用された高速起動のオプションがないのも、起動が遅い要因の1つのようだ。

 USB経由でのファイルコピーは、3.92GBのISOファイルと、1,018個で計3.11GBのJPGファイルの転送時間を測った。これについては、読み書きよりもUSB 2.0がボトルネックになり、たいした差は出ないと予想していたのだが、実際には大きな差がついた。

【表4】ストレージ
 TF600TSeries 7
起動時間(秒)3515
再起動時間(秒)4410
USB File Copy(ISO、秒)243137
USB File Copy(1,018files、秒)462115

 このように、TF600Tは、x86 Windows 8に比べると、ベンチマークではかなり分が悪い。だが、実際にマシンに触れてみるとそのような差は感じられないのだ。OSの挙動や、ブラウザでWebページを閲覧する程度なら、体感の快適さは両者で区別できない。むしろ、今回使ったSeries 7より、TF600Tの方がタッチの追随性は若干高いのではと感じるほどだ。また、Officeアプリでの文書作成においても、別段重いと感じることはなかった。

 もちろん、3Dゲームなど重めのアプリを走らせると、TF600Tではつらいという局面もあるとは思うが、ちょっと前のWindows 7搭載ネットブックよりも断然快適だ。

【動画】TF600Tを操作しているところ

●課題はアプリの数

 普段のPCのレビューであれば、ここからまとめに入るのだが、Windows RTを語る上で避けて通れないのがアプリの問題だ。「PCはアプリがなければただの箱(今であれば板だろうが)」と言うように、その多様な用途はアプリに依存している。ところが、Windows 8/RTが正式発売になった今でも、Windowsストアアプリは数えるほどしか本数がない。

 11月7日現在、TF600Tでストアアプリからアプリのカテゴリを選択して、その本数を確認したところ、ゲーム78、ソーシャル45、ユーティリティ73、ショッピング12、旅行16、ニュース&天気36となっていた。ただ、これは標準の設定が日本語対応のものを優先検索することになっているためで、他の言語のものまで含めると、ゲーム1,193、ソーシャル200、ユーティリティ790、ショッピング63、旅行321、ニュース&天気448となる(なお、これ以外のカテゴリもある)。

【11月9日14時42分追記】初出時のアプリの数が日本語対応のもののみであるという指摘を読者の方から頂き、他の言語のものを含めた数も追記させて頂きました。ご指摘に感謝します。

 気になるのが、Windows RTには、Facebook、Twitterという定番のSNSアプリが少ない点。いずれもブラウザからならアクセスできるが、Twitterについては、なにかと専用クライアントの方が使い勝手が良い。Microsoft純正のPeopleアプリにはTwitter機能もあるが、お世辞にもあまり良いできとは言えない。サードパーティ製であればMetroTwitというフリーのTwitterアプリがあるが、これも高機能ではない。Facebookはブラウザで不都合なく使えるが、ブラウザでは専用アプリには搭載されるであろう通知機能が使えない。一方、mixiはアプリが用意されている。

 Googleマップもモバイル端末で頻繁に使われるアプリ。これについても、ブラウザからは使うことはできるが、ブラウザ上ではGPSなどが利用できないので、地図や経路は表示できても、ナビ機能は利用できない。ちなみに、Windows 8/RT標準の地図アプリはGPSで現在地表示はできるが、経路検索もナビもできない。せっかくのセンサー類が宝の持ち腐れ状態になっている。

 電子書籍系はKindleアプリがあるが、日本語には対応していない。検索した限りでは「androbook for Windows 8」が用意されているくらいで、あとはブラウザでの閲覧に対応したサービスでない限り利用できない。

 ゲームは、Angry Birds Spaceはあるが、Androidと違い有償(400円)。有償なのはiOSも同じなのでいいのだが、ソリティア、マインスイーパ-などMicrosoft純正がことごとくx86のみの対応で、Windows RTでは動作しないというのは同社の姿勢に疑問を抱く。

 他方、そこそこ充実しているのがニュース系、グルメ系、2chまとめ系アプリ。ニュース系、グルメ系は大手のアプリが揃っている。

 また、すでに書いたとおり、プレビュー版ではあるがOffice 2013は付属するし、Evernoteアプリもあるので、外出先でメールやEvernoteを参照したり、添付のOfficeファイルを確認/編集といったビジネスモバイル機としての用途はそれなりに現実味がある。

Word 2013Excel 2013
PowerPoint 2013One Note 2013

 ただ、ビジネスにおいても、Windows RTはドメインに参加できないというのが、障壁となるユーザーも少なくないと思われる。会社ではデスクトップ、外出先ではWindows RTタブレットという使い分けは、イメージとして悪くないと思うが、現実問題としては、x86 Windows 8タブレットにしておけば、1台で済ませられる場合があるので、諸手を挙げてお勧めできないというのが正直なところだ。

 さらに、当のASUSを含む各社からは、Clover TrailことAtom Z2760搭載タブレットがすでに発表されており、近日中にも発売となる。これらの製品は、厚さが9mm以下だったり、重量も500g台のものもあり、薄型軽量という特徴はWindows RT製品の専売特許ではなくなってしまった。そして、Clover Trailであれば、既存のデスクトップアプリが動く。

 Clover Trail Windows 8タブレットに対するWindows RT機のメリットは価格くらいということになる。ASUSのClover Trail機「VivoTab TF810C」は79,800円、富士通の「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」は10万円前後(Office 2010込み)なので、数万円の開きがある。

 だが、この価格差が、数少ないWindowsストアアプリとブラウザアプリしか動作しないことの穴埋めになるかどうかはユーザー次第だが、個人的には広くお勧めできるとは言いがたいのが偽らざる感想だ。

 ただし、これはTF600Tの問題ではなく、全てのWindows RT機に当てはまる話だ。アプリの少なさの根本的な原因は、Microsoftが各アプリベンダーに十分な働きかけをしなかった、あるいはしたのだが、時間が足りなかったり、賛同を得られなかったことに尽きるということを明記しておく。10.1型タブレットとして見たとき、TF600Tのハードウェアは、ASUSだけあってこなれており、反応も小気味良く、これと言った不都合は見当たらない。

 まとめると、Windows RT機に手を出すのは時期尚早だろう。いい利用シーンがあまり想像できない。ただ、MicrosoftのデスクトップOSに対する開発者のエコシステムは裾野が広いので、Windowsストアに将来性がないわけではない。時間が解決してくれるだろう。

 ハードウェアの素性は良いので、本製品が自分の用途を満たせると判断した上で、1年くらいは使い倒してやるという余裕のあるユーザーであれば、楽しめるかもしれない。

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(2012年 11月 9日)

[Text by 若杉 紀彦]