~国内メーカー初のWindows RTマシン |
NECパーソナルコンピュータは、Windows RT対応のハイブリッドノート「LaVie Y LY750/JW」を発表した。Windows RTは、Windows 8とほぼ同等の操作性を実現したARMアーキテクチャで動作するOSで、マイクロソフトの自社開発Windows RT機「Surface」の投入でも話題となっているが、国内大手メーカーが投入するWindows RT機はこのLaVie Yが初となる。今回、試作機を試用する機会を得たので、ハード面を中心に見ていきたいと思う。ただし、今回の試用機は開発中のため、製品版とは仕様が異なる可能性がある点はご了承願いたい。
●ノートPC形状とタブレット形状のどちらでも使えるコンバーチブルスタイルLaVie Yは、ARMベースのプロセッサで動作するWindows RT機だが、見た目は通常のノートPCと大きく変わらない。基本形状はクラムシェルスタイルで、液晶部を開けるとキーボードやタッチパッドが現れ、通常のノートPCと全く同じ感覚で利用できる。そして、液晶部は360度回転するようになっており、360度開くことでタブレットスタイルでも利用可能となる。
ノートPCとタブレットのどちらの形状でも使えるハイブリッド型マシンでは、液晶面の回転機構を実現するとともに、タッチパネルも搭載するために、本体が厚く、また重量も重くなる傾向にある。しかしLaVie Yでは、高さは15.6mmと、十分な薄さを実現するとともに、重量も約1.24kgとまずまずの軽さを実現している。ちなみに、試作機の実測の重量は1,164gと、公称値よりもかなり軽かった。
このような、薄型軽量ボディを実現しているのは、消費電力の低いARMベースのプロセッサである、NVIDIAのTegra 3を採用している点も大きな要因と言える。プロセッサの消費電力が低ければ、放熱のための機構を簡略化できるとともに、搭載バッテリも容量を少なくできる。そのため、一般的なx86/x64ベースのCPUを採用するノートPCに比べ、薄型化や軽量化も容易となる。また、後で紹介する板状ヒンジを利用した液晶面の360度回転機構を採用している点も、薄型化や軽量化に貢献しているはずだ。
もちろん、NECは900gを切る軽さを実現したノートPC「LaVie Z」を投入していることを考えると、重量的にはやや物足りなく感じるのも事実。実際に手にすると、まずまず軽くは感じるものの、圧倒的に軽いという印象はなく、タブレットデバイスとして考えると逆にかなり重く感じてしまう。だが、このあたりはコストや開発期間とのトレードオフとなる。Windows RT機第1弾としての投入されることを考えると、まずまず妥当な仕様と言っていいだろう。
フットプリントは、298×204mm(幅×奥行き)と、11.6型ワイド液晶を搭載する製品として標準的なサイズ。天板および底面はほぼフラットで、天板のNECロゴも控えめとなっており、比較的シンプルで落ち着いたデザインとなっている。
本体カラーは天板および底面がシルバー、キーボード面および液晶面がブラックとなり、ブラックとシルバーをサンドイッチにしたようなデザインとなっている。ちなみに、ノートPCモードでは外がシルバーで内がブラック、タブレットモードでは外がブラックで内がシルバーとなる。
左側面。高さは15.6mmと、ハイブリッド型ノートとしてはかなり薄い。よく見ると、前方が若干薄くなっている | 背面部分。左右の四角い部分がヒンジだ |
右側面。ブラックのボディをシルバーの外装でサンドイッチしたようなデザインとなっている | 重量は、実測で1,164gだった。800g台の重量を実現するLaVie Zの存在を抜きにしても、やや重く感じる |
●IdeaPad Yogaと同等の液晶回転機構を採用
液晶部の回転機構は、両端に2本の回転軸を持つ板状のヒンジを利用することで実現。この板状のヒンジで本体部と液晶部が接続され、それぞれの接続部が独立して回転することで、360度の開閉を可能としている。
まず、液晶部を閉じている状態から液晶部を180度まで開くまでは、2つの回転軸のうち液晶部側の回転軸のみが回転し、180度以上開こうとすると、本体側の回転軸のみが回転するようになっている。これによって、ヒンジ部が変に動くことがなく、常に安定した開閉を可能としている。
この機構は、パナソニックのLet'snote AX2やレノボのIdeaPad Yogaが採用する回転機構とほぼ同等。ちなみに、NECとレノボは国内のPC事業を統合している。また、今回試用した試作機の型番は「YogaN-SVT2-005」と、“Yoga”という文字も見える。このことから、LaVie YとIdeaPad Yogaは事実上兄弟機と考えられ、この回転機構自体も全く同じものと言ってよさそうだ。
ヒンジは板状で、上下2つの回転軸を持ち、それぞれの回転軸が液晶部と本体部に接続されている | 0度から180度までの間は、液晶側の回転軸のみが回転するようになっている | 液晶を180度開いた様子 |
180度から360度までの間は、本体側の回転軸のみが回転する | タブレット形状はもちろん、本体側を底面にして液晶面のみを立てても使える | このように、テントのように置いて利用することも可能 |
【動画】LaVie Yを使用している様子 |
●1,366×768ドット表示対応の11.6型液晶を搭載
搭載する液晶ディスプレイは、1,366×768ドット表示対応の11.6型スーパーシャインビュー液晶だ。バックライトはLED。IPS方式の液晶パネルを採用しており、視野角は広い。多少視点がずれても色合いや明るさの変化は感じられない。もちろん、タブレットモードにして縦持ちや横持ちにしても、表示品質が大きく変化するといったことはない。パネル表面は光沢処理が施されており、発色もなかなか鮮やかで、表示品質は申し分ない。ただし、外光の映り込みは若干気になる。
パネル表面には静電容量方式のタッチパネルを搭載。タッチ操作は最大5点のマルチタッチに対応。タッチ操作の快適度は申し分なく、実際に操作しても不満を感じることはなかった。ただ、タッチ操作を行なうことでパネル表面には指紋の痕が残るため、常にクロスで拭くなどのメンテナンスは不可欠と感じた。
●レノボ製ノートPCとほぼ同等のキーボードを採用
キーボードは、キーの間隔が開いたアイソレーションタイプのものを採用している。ただ、LaVie Zなどの従来のNEC製ノートPCで採用されていたものとはキー形状が大きく異なっている。特に、キー下部が若干湾曲したキートップデザインは、これまでのNEC製ノートPCに採用されているキーボードにはない特徴だ。
このキーボードはどこかで見たことがあるという人もいると思うが、レノボ製ノートPCで広く採用されているものとほぼ同等。おそらく、ヒンジの機構と同様に、このキーボードもレノボと同じものを採用していると考えていいだろう。つまり、レノボ・ジャパンが国内で発表しなかった「IdeaPad Yoga 11」が、NECブランドのLaVie Yとして投入されていると見て差し支えないだろう。
キーピッチは、主要キーは実測で約18.5mmと、比較的余裕がある。配列は自然でストロークも薄型のノートPCのキーボードとしては比較的深く、クリック感もしっかりしているため、まずまず扱いやすく感じる。ただし、ファンクションキーが標準でFnキーとの併用になっている点と、Enterキー付近の一部のキーピッチが狭くなっている点は若干気になった。
ポインティングデバイスは、パッド式のタッチパッドを搭載。Ultrabookなどで標準的に採用されている、クリックボタン一体型のものだが、面積が広くなかなか扱いやすい。
これらキーボードとタッチパッドは、液晶部を180度以上に開くと動作しなくなるようになっている。タブレットモードで使用する場合には、キーボードとタッチパッドが液晶の背面側に位置することになるが、誤動作の心配はない。
●ポートは全てフルサイズ
LaVie YはWindows RT機ということもあり、一般的なノートPCとはスペックが大きく異なっている。まず、CPUは冒頭でも紹介したように、NVIDIAのTegra 3(クアッドコア動作時1.3GHz、シングルコア動作時1.4GHz)を採用している。メインメモリはPC3-12800対応DDR3 SDRAMを2GB(増設不可能)、内蔵ストレージは64GBのフラッシュメモリをそれぞれ標準搭載。無線機能は、IEEE 802.11b/g/n対応の無線LANとBluetooth 4.0を標準搭載する。
側面の端子類は、左側面にヘッドフォン/マイク共用ジャックとUSB 2.0ポート×1、HDMI出力を、右側面にUSB 2.0ポート×1とSDカードスロット、電源コネクタをそれぞれ備える。これらポート類は全てフルサイズで、変換コネクタなどを利用せずに直接周辺機器が利用できる点は嬉しい。また、前面に電源ボタン、左にボリュームボタン、右に画面表示の自動回転のオン・オフボタンも備える。
ところで、本体の電源コネクタはLaVie Zで採用されたものと同じ角形コネクタとなっており、付属のACアダプタもLaVie Zに付属するものと同じものとなっている。ACアダプタの重量は、電源ケーブル込みで実測304.5gとやや重く、面積もやや広いが、薄型のため携帯性は悪くない。
●動作は非常に軽快、バッテリ持ちも優れる
LaVie YはWindows RT機ということで、これまでのWindowsノートと同じ土俵で比べるのは難しい。というわけで今回は、試作機ではあるが、LaVie Yを利用した上でのWindows RT機の動作感を、筆者の主観で紹介していきたいと思う。
まず、LaVie YでのWindows RTの動作だが、思っていた以上に軽快だと感じた。Windows 8 UIや、Windowsストアアプリの動作もキビキビとしており、全くストレスを感じない。Tegra 3を搭載するAndroidタブレットも軽快に動作するが、利用時の感覚はそれに匹敵する。当初、リッチなWindowsシステムをARMベースで動作させるのはかなり厳しいのではないかと思っていたが、それは杞憂だったと言っていい。
また、標準で搭載されるOffice 2013 RTのPreview版も、かなりキビキビと動作する。Office 2013 RT Previewには、Word、Excel、PowerPoint、OneNoteが含まれるが、どれも快適に利用できる。また、LaVie Yにはキーボードが付属するため、ノートPC同様の感覚で利用したり文字入力が行なえる。そして、何より嬉しいのが、Androidなどの他のタブレット端末では互換性を気にしながらの利用になるのに対し、Office 2013 RTならそういった心配が全くないという点だ。実際に、手持ちのExcelやWordのファイルを読み込ませてみたが、表示が崩れることは一切なかった。
Office 2013 RTでは、マクロやアドインなどの機能には対応しないため、Officeのフル機能が利用できるわけではない。それでも、手持ちのExcelやWord、PowerPointのファイルを、互換性を気にせず利用できる点は非常に大きな利点となるはず。この点だけでも、Android端末などよりはるかにビジネスシーンでの利用は有利と言えそうだ。
また、バッテリ駆動時間も優れている。公称でのバッテリ駆動時間は、フルHD動画の連続再生で約8時間、無線LAN接続時のインターネットアクセスで約8時間とされている。そこで、バックライト輝度を40%に設定し、無線LANとBluetoothをオンにした状態で、Windowsストアアプリ版のInterlet Explorer 10を利用し、YouTube Discoを利用してYouTube動画を連続再生したところ、6時間経過時点でもまだバッテリ残量は46%であった。この条件なら、おそらく10時間は余裕で持つものと思われるため、1日外出する場合でも、バッテリ駆動時間を気にする必要はほとんどないと考えて良さそうだ。
Office 2013 RTのPreview版はデスクトップモードで動作。マクロなどには対応しないが、当然表示が崩れることはなく、動作もなかなか軽快で、ビジネスシーンでも全く問題なく活用できる | システムのプロパティーやデバイスマネージャーなども用意されている。ただし、Windowsエクスペリエンスインデックスはない |
ちなみに、現時点ではWindows RT機用の標準的なベンチマークソフトは存在しない。また、Windows RTにはWindows 7などに用意されているWindowsエクスペリエンスインデックスの表示機能も用意されていない。ただ、実はWindowsエクスペリエンスインデックスを計測する「Winsat.exe」はWindows RTにも存在し、管理者権限のコマンドプロンプトで実行可能(コマンドプロンプトから「Winsat formal -restart」で実行可能)となっている。LaVie YでもWinsat.exeを実行してみたので、その結果を掲載しておく。
LaVie Y Winsat.exeの結果 | |
CPU LZW圧縮 (MB/sec) | 87.98 |
CPU AES256暗号化 (MB/sec) | 30.18 |
CPU Vista圧縮 (MB/sec) | 212.98 |
CPU SHA1ハッシュ (MB/sec) | 273.86 |
ユニプロセッサ CPU LZW圧縮 (MB/sec) | 22.26 |
ユニプロセッサ CPU AES256暗号化 (MB/sec) | 7.52 |
ユニプロセッサ CPU Vista圧縮 (MB/sec) | 54.45 |
ユニプロセッサ CPU SHA1ハッシュ (MB/sec) | 71.03 |
メモリのパフォーマンス (MB/sec) | 982.21 |
Direct 3D Batchのパフォーマンス (F/sec) | 47.46 |
Direct 3D Alpha Blendのパフォーマンス (F/sec) | 50.4 |
Direct 3D ALUのパフォーマンス (F/sec) | 10.98 |
Direct 3D Texture Loadのパフォーマンス (F/sec) | 7.89 |
Direct 3D Batchのパフォーマンス (F/sec) | 0 |
Direct 3D AlphaBlendのパフォーマンス (F/sec) | 0 |
Direct 3D ALUのパフォーマンス (F/sec) | 0 |
Direct 3D Texture Loadのパフォーマンス (F/sec) | 0 |
Direct 3D Geometryのパフォーマンス (F/sec) | 0 |
Direct 3D Geometryのパフォーマンス (F/sec) | 0 |
Direct 3D constant Bufferのパフォーマンス (F/sec) | 0 |
ビデオメモリのスループット (MB/sec) | 1352.79 |
メディアファンデーションデコード時間 (sec) | 0.52038 |
Disk Sequential 64.0 Read (MB/sec) | 35.68 |
Disk Random 16.0 Read (MB/sec) | 17.56 |
Windows RT機であるLaVie Yの動作は非常に軽快で、通常のWindows 8ノートと比べても、使用感で大きく劣るということはなかった。ただ、これを持ってWindows RT機を手放しでおすすめできるとは少々言いにくい。なぜなら、Windows RT機ではこれまでのWindows用ソフトが一切利用できず、Windowsストアで配布されるWindowsストアアプリしか利用できないからだ。
現時点でLaVie Y上からWindowsストアアプリを確認してみると、まずまず数は揃っているように感じるものの、定番と呼べるアプリはあまり見あたらないのが現状だ。もちろん、標準でMail、ピープル、カレンダー、IE 10、SkyDriveなどのアプリは用意されているため、Webアクセスやメールのやりとり、FaccebookやTwitterなど各種ソーシャルネットワークの利用などは問題なく行なえるものの、自分好みのアプリを活用するというレベルにはまだまだ到達していない。当然、アプリが揃わない限り、Windows RT機の活用の幅も狭まってしまう。
今後、アプリが豊富に出揃い、自由にアプリを選んで機能を自在に強化できるようになれば、Windows RT機の魅力も高まるとは思うが、それにはまだ多少時間がかかるだろう。そう考えると、現時点でWindows RT機であるLaVie Yの評価を下すのは、かなり難しいと言わざるを得ない。ハード的な完成度だけを見ると、十分に優れているのは事実で、そういった意味では魅力のある製品である。しかし、今後のアプリの動向次第で大きく評価が変化するということを考えると、ここでは評価を下さずに、今後のアプリの動向などを注視しながら判断したいと思う。
(2012年 11月 7日)
[Text by 平澤 寿康]