元麻布春男の週刊PCホットライン

低消費電力CPU市場を拡大するIntelの戦略



 Intelは5月17日(米国時間)、定例のInvestor Meetingを開催した。機関投資家やアナリストといった金融関係者向けに開催されるもので、今年(2011年)もポール・オッテリーニCEOをはじめとする同社の役員が顔を揃えた。その中からいくつかトピックを拾ってみたいと思う。

 読者的に最も興味があるところはx86プロセッサ、それもメインストリームのクライアントPC向けプロセッサだろう。この分野で最も注目されるのは、IntelがノートPC向けプロセッサについて、消費電力を引き下げたリファレンスを設定する方向性を打ち出したことだ。

 図1は、ポール・オッテリーニCEOが示した、ノートPC向けのメインストリームプロセッサが目標とする消費電力値だ。最新の第2世代Coreプロセッサ(Sandy Bridge)の場合、各製品のTDPは、55WのExtreme、45Wのメインストリーム(クアッドコア)、35Wのメインストリーム(デュアルコア)、25Wのxxx9M(型番末尾が9M、旧称LV、もしくは低電圧版)、17Wのxxx7M(同7M、旧称ULV、もしくは超低電圧版)の4つに分類される。図1は、メインストリームが40W前後、Atom系が5W前後のTDPをターゲットにしていることを示している。

【図1】ポール・オッテリーニCEOが示した、現在のノートPC向け製品の消費電力目標値 【図2】将来に向けたノートPC向け製品の消費電力目標値

 オッテリーニCEOは、これを図2のように変えるとしている。この図が表していることは次の2つ。

1. 現行の40W前後のTDPターゲットに加え、15W前後のTDPターゲットを設定する
2. Atom系プロセッサがカバーするTDPターゲットを上下に拡張する

 まず1だが、TDPが15Wというと、これまでであれば超低電圧版プロセッサがカバーする範疇だ(以前に比べればTDPが上昇しているが、これはメモリコントローラとグラフィックスコアを内蔵したことを反映している)。最近であれば、CULVがカバーするプラットフォームである。

 第2世代Coreプロセッサでは、発表されている15モデルのうち、この分野向けにはCore i7-2657M、Core i7-2617M、Core i5-2537Mの3品種で、その上のLV版を合わせても全部で5品種しかない。が、今後はこれをもっと増やしていく、注力していくということなのだろう。

 そのための具体策として、ダディ・パールムッター主席副社長が示したのが図3だ。ここでHaswellという新しいマイクロアーキテクチャの名前が登場している。順当に考えればHaswellはIvy Bridgeの次のプロセッサと考えられるが、ひょっとすると省電力に注力した派生型なのかもしれない(その根拠は後述の図4で、Ivy Bridgeの次に具体的な名前としてHaswellが入っていないからだが、単なる入れ忘れとも考えられる)。

【図3】22nmプロセスによる2世代目のプロセッサはHaswell 【図4】CoreプロセッサとAtomプロセッサのマイクロアーキテクチャロードマップ。Ivy Bridgeの次がHawellではなく、Future Productのままなのが気にかかる

 いずれにせよ、上のタイムフレームが2012/2013となっていることから考えて、2012年にSandy Bridgeマイクロアーキテクチャの22nmプロセスシュリンク版であるIvy Bridgeが登場し、2013年にHaswellが登場するものと思われる。Haswellという文字が登場するスライドはこの1枚のみで、詳細は不明だが、さらに省電力となる22nmプロセスを武器に、15W級のプラットフォームを拡充する方針であることは間違いないだろう。

 同様に、Atomについても積極的に22nmプロセスおよびさらに次の14nmプロセスの採用を加速させる。図4は、メインストリームプロセッサ(Core系)と省電力プロセッサ(Atom系)のマイクロアーキテクチャロードマップだが、現在市場に投入されているAtomプロセッサは、最新世代(Lincroft/Pineview)も含めてすべて45nmプロセスを前提にしたBonnellコアを用いている。それを年末から2012年にかけて32nmプロセスのSaltwellコアへ移行させ、さらに2013年には22nmプロセスのSilvermont、2014年には14nmプロセスのAirmontを投入するという。

 現時点ではメインストリームプロセッサ向けのプロセスに対し、Atomが利用するSoC向けプロセスは1年から1年半ほど更新が遅れている。図4から採用時期を見れば、22nmプロセスにおいてもなお1年ほどの差がありそうだが、14nmプロセスでは追いついている。高電圧動作を必要とするI/O機能を作り込むこと等を考えれば、SoCプロセスが遅くなるのはやむを得ないとも言えるのだが、これをほぼ同時に更新するようにするというのは、IntelがAtomとAtomがターゲットとする市場に強くコミットする姿勢を見せたものと考えられる。

 2012年に投入される22nmプロセスでは、すでに報じられている通り、3Dトランジスタ技術が初めて実用化される。フィン状のソースとドレインの3方をゲートが包み込む立体構造となるTri-Gate構造のトランジスタで、高価なSOIウェハを用いることなく、完全空乏型SOIと同等のリーク電流抑制(ソース・ドレイン間)と、高いゲート効果によるトランジスタ性能の向上が実現される。Intelは、2003年に導入した歪みシリコン技術で3年、2007年に導入したHigh-K/Metal Gate技術で3年半、他社をリードした(図5)。今回のTri-Gateトランジスタの量産実用化でも、最低3年は他社をリードすると考えられている。

 このプロセス技術における優位性に加え、全世界に展開する最先端Fab(半導体前工程工場)の生産力が、Intelの競争力の大いなる源となっている。今年のInvestor Meetingでは、製造技術本部から、半導体プロセス技術サイドを代表してウィリアム・ホルト上席副社長が、製造サイドを代表してブライアン・クルザニック上席副社長が出席したが、金融関係者向けの本イベントに、製造技術本部から2人も登壇し、スピーチを行なうのは異例のことである。さらに前CFOのアンディ・ブライアント主席副社長も登壇し、最先端工場への投資がますます困難になりつつあること、その一方でIntelにとっては合理的なものであることを説明している(図6)。

【図5】Intelのプロセス技術における優位性。単にノードルールで先行するだけでなく、トランジスタの材料や構造面でも優位性を持つ 【図6】現在、最先端の半導体工場を運営するのに必要な経費は90億ドル(工場建設費、試作ライン、研究開発費の総計)。それを上回る売り上げを持つのは上位8社のみ

 Intelが参入を試みながら、スマートフォンやタブレットといった成長市場に本格参入できないでいるのは、広く知られるところだ。今回、IntelがInvestor Meetingに製造技術本部から2人を出席させたのは、製造技術と量産技術における優位性で、固く閉じられた扉をこじ開ける覚悟を示したもの、とも受け止められる。図2において、SoCの設計目標が1W未満から10W近くにまで拡張されているのは、当然22nmプロセスでの優位性が前提になっているハズだ。

 もちろん、半導体だけではスマートフォンやタブレットを作ることはできない。最も重要なのは、ソフトウェアを含めたエコシステムの整備だ。ソフトウェア部門を統括するリネイ・ジェームズ上席副社長は、Android OSとChrome OSを手がけるGoogleとの良好な関係をアピールすることを忘れなかった(図7)。

 IntelとGoogleはSmartTV(GoogleTV)の開発で協力関係にあっただけでなく、Chromebook(Chrome OSベースのネットブック)にもデュアルコアのAtomが採用されている。ジェームズ上席副社長によると、x86版のAndroidは、スマートフォン向け2.3(Gingerbread)は完成し、タブレット向け3.0(Honeycomb)も最適化中だという。図8は、4月に北京で開催されたIDFで示されたAtomベースのタブレット製品のリリース計画だが、Windows 7ベースの製品に続いてAndroidベースのタブレットが登場することになっている。

【図7】IntelとGoogleの協力関係は、Android搭載機器の分野でも結果を残せるか 【図8】4月のIDFで公開されたAtomベースタブレットの製品展開計画。Winodws 7ベースの項に富士通と東芝の名前が見える

 あとは、このAtomベースのタブレットに、各社がどれくらい力を入れてくれるのか、どれくらい本気か、ということにかかっているわけだが、それは現時点では不明だ。ただ、タブレットに関してIntelに今協力しておくことは、22nmプロセス以降、Atomが低消費電力分野で競争力を高めた際に、良好な関係を維持する基盤ともなり得るわけで、各OEMともむげにはできないところだろう。年内に登場するという、AtomベースのAndroidタブレットの仕上がりが気になるところだ。