後藤弘茂のWeekly海外ニュース

IDF Beijingで発表されたOak TrailとCedarview



●AtomファミリにフォーカスしたIDF

 Intelは先週北京で開催した技術カンファレンス「Intel Developer Forum(IDF) Beijing 2011」で、Atom製品ラインを刷新した。タブレット向けと銘打った45nm版Atom Zの派生品「Oak Trail(オークトレイル)」を「Atom Z670」として正式発表。32nm版Atomファミリの最初のチップ「Cedarview(シーダビュー)」のウェハと動作デモを公開。Atomファミリのプロセス技術の移行もスピードアップすると宣言した。

 Intelは、現在、拡大するタブレットとスマートフォン市場への対応に追われている。特に、昨年(2010年)のiPadで一気に立ち上がったタブレットは、ホームPCの市場を脅かす恐れがあるため、Intelにとって重要だ。しかし、現状ではタブレット市場は、ARMアーキテクチャのCPUにほぼ独占されており、x86 CPUの影は薄い。そこで、Intelはタブレット市場をカバーするOak Trailを、今回のIDFでは大々的にプッシュした。

 Oak Trailは45nmプロセスのAtom系SoCだ。45nmのAtomコア「Bonnell(ボンネル)」とPowerVR系GPUコア「Intel GMA600」、1チャネルのDDR2-800などを統合する。タブレット向けと銘打ってはいるものの基本的なスペックは、スマートフォン向けのAtom SoCである「Lincroft(リンクロフト)」と同じだ。そのため、Oak Trailは、Moorestown(ムーアズタウン)プラットフォームのLincroftを流用し、タブレット向けのIOHを組み合わせるものだと見られてきた。しかし、今回のIDFでは、その部分に若干の疑問も生じてきた。

Atom Z670の概要 拡大するタブレット市場

●2種類のOak Trailのダイ写真の謎

 IntelはIDF前後に、Oak Trailの鮮明なダイ写真も公開した。ただし、2種類の異なる写真だ。

 下の左のスライドはIntelのDoug Davis氏(Vice President, General Manager, Netbook and Tablet Group)がIDFのキーノートスピーチで紹介したOak Trailのダイ写真。後述するが、このダイは、明らかにLincroftと同じレイアウトだ。

 ところが、IDF直前のOak Trailの発表スライドには、次のような、明らかに異なるダイの写真がある。そして、IntelのWebサイトで、Oak Trailのダイとして提供しているのは、こちらのダイ写真だった。こちらは、明瞭にLincroftとは異なるダイで、それどころか、これまでに発表された、どのAtom系ダイとも異なる。

IDFのキーノートスピーチで紹介したOak Trailのダイ写真 IDF直前のOak Trailの発表スライド

 ダイをよく比べてみると、違いがもっとよくわかる。下の図は、Lincroftと、2つのOak Trailのダイ写真を並べたものだ。左端がLincroftで、中央がIDFでのOak Trailダイ、右がIDF直前に発表されたOak Trailダイだ。並べると、右の2つが全く別物であることが明瞭になる。右端のOak Trailは、I/Oなどのモジュールがはるかに多い。それだけではなく、CPUコアの大きさと形も異なっている。

Oak TrailとLincroftを並べたところ
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 ただし、右のOak TrailのCPUコアは、幅だけが狭まっており、基本のレイアウトは同じように見える。つまり、横につぶれたようなCPUコアになっている。そのため、右端のダイ写真は、実際のダイの横幅を縮小した不正確なダイ写真である可能性が高い。その点を修正したダイ写真比較は次のようになる。右端の写真のプロセッサは、従来のAtom Zよりかなり大きめのチップに見える。

ダイの横幅を修正した写真
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 ちなみに、これまでに明らかにされたAtom系製品のダイは下の通り。IDF前に発表されたOak Trailのダイ写真は、既存のAtomのどれともレイアウトが異なることがわかる。機能的には、Oak TrailはLincroftと同設計である可能性が高い。もしそうだとすると、IDF前に発表されたダイの正体は何かという疑問が生じる。今のところ疑問は解けていない。

これまでに明らかにされたAtom系製品のダイ
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●意外と大きなCedarview

 IDF Beijingでは、Atom系CPUで初の32nmプロセス製造となるCedarviewプロセッサのアップデートもあった。Cedarviewはネットブック/ネットトップ向けで、現在のAtom N/Dシリーズ「Pineview(パインビュー)」の後継だ。IntelのDoug Davis氏(Vice President, General Manager, Netbook and Tablet Group)はキーノートスピーチで、Cedarviewのウェハを公開。CedarviewをベースとしたCedar Trailプラットフォームのネットブックでの動作デモも行なった。また、CPUの動作周波数がアップすることと、グラフィックスのパフォーマンスが上がり機能が拡張されること、TDP枠が50%に下がることなどが明かされた。

 下がIDFで公開されたプレゼンテーションで、キーノートスピーチでは、Davis氏が実際のウェハを掲げて見せた。実ウェハで計算すると、Cedarviewのダイは、300mmウェハ上で縦に36個近く、横に41個以上が配置されている。プレゼンテーション上のウェハでもダイ個数同じで、画像が本物であることがわかる。

IDFのプレゼンテーションで紹介されたCedarviewのダイ

 ダイ個数からCedarviewのダイサイズを計算すると、概算で60平方mm程度となる。ダイサイズで特長的なポイントは、それほど小さくはないことだ。45nmプロセスのPineviewはシングルコアで66平方mm、デュアルコアで87平方mm。公開されたウェハのダイがCedarviewデュルコア版だとすれば68%に縮小したことになる。プロセス微細化で期待できる50%のダイサイズではない。

 もっとも、これは不思議ではない。まず、I/Oパットはプロセス微細化でほとんど小さくならない。またI/OパッドとI/O配置のためのエッジ長の確保のために、どうしてもダイサイズ縮小の限界がある。また、Cedarviewでは物理的にGPUコアも大幅に拡張されている。ダイがある程度のサイズを保つのは自然だ。製造コストは、パッケージとテストに一定のコストがかかるため、CPUの場合はダイを小さくしても比例してコストが下がらない。そのため、Intelは、ある程度のダイサイズを維持しつつ、機能を増やそうとしていると考えられる。

ダイサイズの移行図
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●プロセス移行を加速するIntel

 IntelはLPIA系の製品のプロセス移行を加速することもアナウンスした。現在のAtom系チップの製造プロセスは45nm。しかし、2年の間に32nmを経て22nmへと移行させるという。

 「今後数年は、我々はムーアの法則より速く移行する。3年の間に、3世代に渡るプロセス技術の新製品を出す。現在、45nmの量産品を出荷しているが、次の6カ月で32nmの量産出荷を始める。そして、24カ月で22nmの量産出荷を始める」とDoug Davis氏は語った。

 つまり、32nmプロセスの製品は今年の年末商戦向けに登場。22nmの製品は、2013年の前半までには製品が出ることになる。通常のプロセスノードの移行は24カ月間隔なので、Atom製品のプロセスロードマップは、ムーアの法則を超えているように見える。

 ただし、これにはトリックがある。それは、Atom製品の新プロセス技術への移行が、これまで遅かったことだ。IntelはAtomの新プロセスへの移行を早めて、ある程度PC向けCPUに追いつかせることで、見かけ上のAtomのプロセス移行を早めようとしている。

 そもそも、IntelのCPU製造プロセス技術には大きく分けて2つの系統がある。1つはPC&サーバー向けCPUのための従来のパフォーマンス重視のプロセス技術、もう1つは携帯機器や組み込み向けのSoC(System on a Chip)プロセス技術。SoCプロセスはLincroftのような携帯機器向けや組み込み向けのAtom製品に使われる。Intelは、最初にPC&サーバー向けプロセスを立ち上げ、やっかいなSoC向けプロセスを後に立ち上げるパターンを取っている。例えば、45nmプロセスでは、高パフォーマンスの「45nm P1266」は2007年の第2四半期に、SoCの「P1266.8」は2008年第3四半期に立ち上がった。

 45nmはSoCプロセスを最初に導入した世代で、SoCプロセスを派生するまでに、1年以上の期間が空いてしまった。そのために、実際のSoCプロセス製品の投入にも時間がかかった。しかし、昨年のIDFでは、SoCプロセスの開発をスピードアップすることが明かされた。32nmでは汎用プロセスからSoCプロセスを約2四半期遅れで立ち上げ、22nmでは約1四半期遅れで立ち上げるという説明だった。

 Atom系の32nmのSoC製品は、今年のホリデーシーズンの投入予定。PC&サーバー向けの32nmから1年と3四半期で、やや早まった。22nmは計画通りになるなら、PC&サーバー向けの22nmより1年と1四半期程度の遅れで登場することになりそうだ。

Atomのロードマップ