元麻布春男の週刊PCホットライン

iPadの魅力を取り込んだMac OS X Lion



 米国太平洋時間の10月20日午前10時(日本時間21日午前2時)、米Appleは「Back To Mac」と呼ばれるプレス向けイベントを開催した。その模様は、ライブWebキャストされたので、その感想を述べてみたいと思う。ちなみに、このライブWebキャストは、最新版のOS(Snow Leopard)をインストールしたIntel Macでしかライブ試聴することはできない(その他の環境向けには、後日、アーカイブされたムービーとして提供される)。

 イベントの冒頭に紹介された製品は、iPhoto、iMovie、GarageBandの3つのアプリケーションで構成されるiLife '11。昔はiTunesもiLifeの一部だったと記憶しているのだが、いつの間にか独立したようだ。それぞれに改良が施されているようだが、筆者はこれらをあまり使い込んでいないので、詳細には触れないことにしたい。同じことは、iPhone 4やiPod touchとビデオ通話するためのアプリケーションであるFace Time for Macにも言える。

 が、1つだけ気になったことを上げるとしたら、iLife'11、特にiMovie'11の説明において、OpenCLの活用といったことには全く触れられなかったことだ。もちろん、ビデオ編集ソフトである以上、外付けGPUの効果はあるハズだが、従来からのGPU利用の枠を超えることはないのだろう。

●Mac OS X Lionを初お披露目

 その次に紹介されたのが、個人的に注目していたMac OS X Lion(以下Lionと略)に関するSneak Peek(のぞき見)だ。2011年夏にリリース予定と発表されたLionについて、ジョブズCEOはMac OS X meets iPadと称した。つまり、iPadの魅力的な部分を取り込んだOS、ということになる。

 iPadの特徴としてジョブズCEOが挙げたのは次の6つ。

  1. マルチタッチ・ジェスチャー
  2. App Store
  3. ホーム画面
  4. フルスクリーン表示のアプリケーション
  5. 自動セーブ
  6. アプリケーションの再起動時に前回の作業状態が自動的にレジュームされる

 これらの特徴を盛り込んだものが、Lionになるというわけだ。

 マルチタッチ・ジェスチャーについては、今さら説明する必要もないだろうが、ここで指摘されたのは、マルチタッチに使うサーフェイスは垂直ではいけない、ということである。その理由はシンプルで、腕が疲れるから、という至極当然な話だ。したがって、Lionを搭載するMacでも、タッチ機能をサポートするのはトラックパッドやマウス(Magic Mouse)、Magic Trackpadであり、画面に直接指で触れるタッチスクリーンはサポートしないという。

 iPhoneやiPadにおけるApp Storeの成功は言うまでもないことだが、ついにMac向けのApp Storeが登場する。App Storeで購入したアプリケーションは、iPhoneやiPadと同じく、ワンタッチで購入し、自動的にインストールされる。このApp StoreはLionには標準搭載されるが、すでに準備は整いつつあるようで、Snow Leopardユーザーを対象に90日以内のオープンが予定されている。サードパーティによるアプリケーションの受付も、11月には開始される。

 3と4は、ユーザーインターフェイスにかかわる部分で、Lionでも基本的にはSnow Leopardと同等のものが維持される。だが、Launchpadのアイコンをクリックすると、画面はiPhoneやiPadのホーム画面のような、アイコンが並んだものに切り替わり、そこからアプリケーションを起動することが可能になる。

 また、Lionではエクスポゼ(GUI上のウィンドウ管理)とスペーシス(仮想デスクトップによるマルチスクリーン機能)を統合したミッションコントロールと呼ばれる機能が追加される。現在、起動しているアプリケーションを俯瞰したり、フルスクリーン状態のアプリケーションと、アプリケーションにより隠されてしまったデスクトップの間を簡単に行き来できるようになる。

 5と6に関して、Lionに相当する機能があるのかどうかには、ほとんど触れられなかった。が、これらはアプリケーションを書き換えない限り実現することが困難なため、たとえOSにそれをサポートする機能を実装したとしても、それが一般的になるまで時間がかかるのではないかと思われる。

新しいMac OS X LionにはiPadの良さが取り込まれる AppleはついにMacに対しても、App Storeでソフトウェアのダウンロード販売を始める
Launchpadアイコンをクリックすると、Macのデスクトップ上にiPhoneやiPadのホーム画面のようにアイコンが並ぶ 簡単なジェスチャーで、起動中のアプリケーション(フルスクリーン含む)を一覧し、切り替えることができる。

●SSD標準搭載ながら8万円台から購入できる新MacBook Air

 Lionのパートが終わると、すっかりおなじみとなった(それも何というか、辛いこと? だと思うのだが)One More Thingの時間となった。今回は、やはり噂になっていたMacBook Airのモデルチェンジである。事前に今度のMacBook Airは11.6インチディスプレイになるといった噂が流れていたが、ふたを開けてみると、登場したのは13.3インチ(解像度1,440×900ドット)と11.6インチ(同1,366×768ドット)の2モデル。何気にアスペクト比が異なっており、前者は16対10、後者は16:9となっている。

13.3インチのMacBook Airは、重量こそ現行のMacBook Airと大差ないが、さらに薄くなっている。 13.3インチモデルのスペック 11.6インチモデルのスペック
4モデルの米国価格。SSDの容量を考えれば、割高ではない

 11.6インチモデルは国内価格も88,800円からと10万円を切る設定がなされており、ベストセラーとなりそうな予感がする。とはいえ、最も高い13.3インチの256GB SSDモデルでも148,800円であり、2008年1月に発表された初代のSSDモデルが40万円を超えていたことを思うと、隔世の感がある。ちなみに米国価格は999ドル〜1,599ドルとなり、国内価格は1ドルあたり88.89円〜93.06円という換算レートだが、米国価格には10%前後のSales Tax(消費税)が含まれておらず、国内価格は内税になっている点を考慮する必要がある。

 今回発表されたMacBook Airだが、画面サイズと解像度を除くと極めて似通っている。プロセッサはいずれもCore 2 Duoで、11.6インチモデルが1.4GHz(3MB L2、オプションで1.6GHz)、13.3インチモデルが1.86GHz(6MB L2、同2.13GHz)。いずれも従来のMacBook Air(第3世代機)と同じ、Penrynコアベースだと思われる。できれば最新のCore i7-620LMあたりを採用して欲しかったところだが、Arrandaleは低電圧版のラインナップが限られているし、Core i7ベースではとてもこの価格は実現しなかっただろう。

 メモリは標準で2GB(DDR3-1066)と標準搭載容量は変わらないが、オンラインのApple Storeではカスタマイズで4GBに増量することが可能だ。これまでMacBook Airは、2回のモデルチェンジ(計3世代)においてメモリ搭載量が2GBに据え置かれてきた。CTOに限定されるとはいえ、メモリの増量が可能になったことは、今回のモデルチェンジでも大きな出来事かもしれない。

 ストレージはすべてSSDで、HDDの設定はない。これも、HDDを持たないiPadが好評だったから、ということなのだろう。上述した最も低価格な88,800円のモデルでも64GB、最も高価なモデルでは256GBのSSDを搭載する。

 ただし、搭載するSSDは、店頭で市販されている1.8インチや2.5インチといった、HDD互換のフォームファクタのものではない。写真のようなモジュール状で、ピンの形状から言って、mSATAのモジュールだと思われる。iPod、iPhoneを抱えるAppleは、世界最大のNAND Flash需要家であり、その購買力は世界一である。SSDをドライブとして購入するより、NAND Flashをチップとして購入した方が割安なのは想像に難くない。自社でチップを購入し、EMS企業にドライブに仕立て上げさせるのであれば、HDD互換にする必要もない、というわけだ。もちろん、モジュールの方が軽量だし、物理的な容積も小さくできる。

MacBook Air 13.3インチモデルの内部。基盤が小型化し、現行モデルより合理的な作りになっている 内蔵するSSDは、専用のモジュールで、HDDと互換の形状ではない

 グラフィックスは全モデルがNVIDIAのGeForce 320Mを採用する。ビデオメモリがメインメモリと共有(最大256MB)とされていることから分かるように、いわゆるチップセット内蔵グラフィックスで、スタンドアローンのGeForce GT 320M(専用ビデオメモリ)ではない。もちろん性能はGeForce GT 320Mより劣るが、同世代のIntel製チップセット内蔵グラフィックスより高性能であることも事実である。

 外部I/Oポートは、USBが左右に各1ポート、外部ディスプレイ接続用にMini DisplayPort、MagSafe電源ポート、そしてヘッドフォンジャックだ。13.3インチモデルのみ、これに加えてSDカードスロットを搭載する。従来のMacBook Airに対して、USBポートが1つ増えたわけだが、個人的には、これにLANポート(RJ-45)が加わっていれば良かったのに、と強く思うが、「Air」という名前の面目にかけても? 有線LANは搭載しないのだろう。無線LANはIEEE 802.11a/b/g/nで、Bluetooth 2.1+EDRを搭載することは従来同様だ。もう1つ変わった部分としては、内蔵スピーカーが初めてステレオになったことが挙げられる。

13.3インチモデルは7時間のバッテリ駆動と30日間のスタンバイが可能

 バッテリ容量は11.6インチモデルが35Wh、13.3インチモデルが50Whとされており、駆動時間は前者がワイヤレス環境で5時間、後者が同じく7時間とされる。このワイヤレス環境というのは耳慣れない言葉だが、従来のバッテリ駆動時間測定方法よりも、もっと現実に近い環境を想定したものだという。従来のMacBook Air(第3世代機、40Wh)もカタログ上、5時間のバッテリ駆動をうたっていたが、11.6インチモデルの5時間は、それよりもっとバッテリ駆動時間が長いという。

 このバッテリ、最近のMacBookと同様、ユーザーが交換することはできないが、MacBook Airの場合は初代から実質的にバッテリを交換することはできなかったから、とりたててマイナスということもない。それより、筆者がMacBook Air(初代)を使っていて一番気になる(最大の不満と言ってもいい)のは、バッテリの充電に時間がかかることだ。3世代機でバッテリが変わったこともあり、最近のMacBook Airでは改善しているのかもしれないが、新しいMacBook Airのバッテリ充電時間が短ければ良いと思っている。

●詳細が気になるMac OS X Lion
メインスピーカーをこなしたジョブズCEOだが、やつれている感は否めない

 以上が発表の概要(iLife'11を除く)だが、いくつか気になったことを挙げておこう。まず最初は、ジョブズCEOの体調だ。先頃、プライベートジェットで来日したとかで、かなり元気になったのかと思っていたのだが、相変わらず痩せたままという印象を持った。声もかすれており、喉の調子が悪いのではないかとも感じた。Appleにとって、代えのきかない人材だけに、健康は気になるところである。

 個人的に注目していたのは、なんと言っても次期Mac OS XであるLionなのだが、今回のSneak Peekでは、64bit化、Grand Central Dispatch(メニーコア化を見越したマルチスレッド対応)、OpenCL(GPGPU)といった、Snow Leopard登場時に喧伝された技術要素について、全く触れられなかった。取り上げられたのは、ユーザーインターフェイスとApp Storeで、技術的な側面は完全にスルーだ。

 現在のSnow Leopardの64bit化は、まだ途上にあり、一般のMacにおいては64bitカーネルは使われない。互換性を考えると、一気に64bit化することは考えにくいが、どのように完全64bit化へと向かうのか、ロードマップが知りたいところだ。Grand Central DispatchやOpenCLについても、もう少し具体性のある話が聞きたい。それを聞きたければ、次回のWWDCへ来いということなのだろうか。安くない参加費を捻出する方法を考えておかねばならないようだ。