元麻布春男の週刊PCホットライン

バッファローに、AirStationが10年続いた勝因を聞く



●2003年から国内無線LAN市場を制覇
バッファロー本社ビル

 携帯電話を除いて、最も普及している無線技術と言えば、無線LANだろう。セキュリティに厳しい企業向けに一部搭載していない製品もあるものの、今やノートPCで無線LAN機能を標準搭載していないものなどほとんどない。デスクトップPCも、TVサイドにおけるような製品を中心に、無線LAN標準搭載品が増えてきている。Bluetoothの高速化技術に無線LANが採用されたり、Intelが無線LANベースのPAN技術をMy WiFiとして展開したりと、PC分野ではすっかりお馴染みだ。

 それどころか、今では家電の分野でも無線LAN技術を採用するものが増えてきている。ニンテンドーDSやPSPといったゲーム機、さらには液晶TVの中にも無線LANを内蔵したモデルが登場してきた。携帯電話にしても、3Gの帯域不足を補う手段として無線LANが注目されており、無線LAN機能を内蔵した端末も増えている。

 わが国の無線LAN関連機器市場で、圧倒的なシェアを誇るのがバッファローだ。全国量販店のPOSデータ集計に基づき算出されるBCN AWARDで、この分野が登場した2003年以降、8年連続でナンバーワンに選出されている。しかもそのシェアは、2位以下を大きく引き離しており、50%を切ったことがない(2003年以降)という。累計出荷台数は2,000万台を突破した。

BCNによるシェア推移。常に過半数を維持しているAirStationの累積出荷台数と代表的な製品

 そのバッファローの無線LAN機器と言えば、「AirStation」シリーズということになるが、このAirStationシリーズが今年で10周年を迎えた。そこで名古屋のバッファロー本社を訪ねて、10年の歩みと今後について、同社ブロードバンドソリューションズ事業部でファームウェア開発グループリーダーの田村佳照氏と、同ハードウェア開発グループリーダーの田村信弘氏にお話をうかがった。ちなみに、両氏とも田村姓であるが、親戚関係等ではないとのことである。

田村佳照氏田村信弘氏

 バッファローが最初に無線LAN機器を販売したのは1999年1月のことだ。そこから数えると11年ということになるが、実は最初の製品は「AIRCONNECT」といい、AirStationブランドではなかった。このAIRCONNECTブランドの製品「WLA-T1」は、2MbpsのIEEE 802.11に準拠した製品(アクセスポイント)で59,000円、子機(PCカード)2枚とのセットで98,000円と、今の感覚からするととても高価な製品である。

 しかし、バッファローが躍進できた最初のきっかけは、この価格設定にあった。この当時、市販されていた他社製のIEEE 802.11準拠のアクセスポイントと子機2枚のセットは、30万円近くした。そして、「これならウチ(バッファロー)でやれば、きっと安くできるハズ」というのが、同社が無線LAN機器に参入したきっかけだったとのことである。また、この時点では無線LANの通信速度は2Mbpsに過ぎなかったが、すでに10Mbps級の規格(1999年10月に11MbpsのIEEE 802.11bとして成立)の話はあり、当時10Mbpsの有線LAN(10BASE-T)もまだ使われていたことを考えれば、無線LANは十分実用になるという感触があったという。

最初の無線LAN製品。「AIRCONNECT WLA-T1」AirStationシリーズの初号機「WLA-L11」

 バッファローは、2000年4月、IEEE 802.11bに準拠した初の製品をリリースする。これがAirStationシリーズの初号機となる「WLA-L11」である。4ポートのスイッチングHubを内蔵し、33,000円という低価格を実現したWLA-L11は、爆発的に売れた。そして、アナログモデムやISDNを内蔵したルーターモデルなどのバリエーションが追加され、国内メーカーとしては初めてとなるWi-Fi認証も取得した。

●確実に繋がることへのこだわり

 すべてが順調のように思えたが、落とし穴があった。それは、ユーザーサポートだ。当時の無線LAN機器は、まず設定の際に固定アドレスをPCに割り当て、直結した状態で設定を行なわなければならず、設定が難しかった。11bになってユーザーが増えたことで、サポート電話の件数が爆発的に増えてしまったのである。

 これを受けて2001年1月に、バッファローは社内プロジェクトとして、AirStationサポートプロジェクトを立ち上げる。その最初の成果として、同年3月、日本のメーカーとしてはおそらく初めて、ルーターが内蔵するDHCPサーバー機能を“オン”にして出荷を始めた。それまでは、DHCPサーバー機能を内蔵した製品でも、“オフ”の状態で出荷していた。DHCPサーバーがネットワーク上に1台しか存在できないことを踏まえた判断である。

 しかし、同社製品ユーザーの95%はコンシューマであり、ネットワーク内でDHCPサーバーがぶつかる可能性は低い。それを根拠に、初期状態でDHCPサーバーが有効になっていると明記した上で、製品を出荷するようにしたところ、サポート電話が3分の1に激減したという。

 この体験が生きたのか、バッファローは2003年11月に「AOSS(AirStation One-Touch Secrure System)」を発表する。その名前の通り、ワンタッチの設定で、親機と子機間をセキュアに接続するもので、現在はバッファロー製品だけでなく、ニンンテンドーDSやPSPをはじめとするゲーム機、パナソニック製のTVやBlu-ray Discレコーダ、さらにはエプソン、キヤノン、ブラザーのプリンタなど、多くの他社製品にも採用されている。

 2003年11月のリリース時は、ファームウェアアップデートで提供されたため、当時の主力機「WHR2-G54」では、専用ボタン(AOSSボタン)のないAOSSだった。2004年3月にリリースされた「WBR2-G54」から専用ボタンを押す現在のAOSSと同じ形になっている。

2003年の「WHR2-G54」では、底部にある初期設定ボタンを「AOSSボタン」として使用した2004年の「WBR2-G54」から、専用のAOSSボタンが用意された

 多くの家電製品にも採用されるなど、国内ではデファクトスタンダードに近い存在となったAOSSだが、この機能があるから売れた、ということではないようだ。バッファロー製品のシェアの高さに支えられて、AOSSがデファクトスタンダードになった、という形に近いという。そして、AOSSが普及する上で大きかったのは、任天堂に採用されたことだったようだ。以降、家電メーカーによる採用が増えることになる。

 無線LANの簡単設定というと、AOSS以外にも、Wi-Fiアライアンスが制定したWPS(Wi-Fi Protected Setup)などがある。AOSSはバッファローの知的財産であり、その採用にはライセンス料(あるいはロイヤリティ)が発生する。今回、金額については教えてもらえなかったが、かなり戦略的に判断されている感触だった。それに対して、WPSはWi-Fiアライアンスの規格であり、それ自身にライセンス料等は発生しない。

 にもかかわらず家電メーカーがAOSSを採用するのは、これが国内でデファクトに最も近いものであることに加え、バッファローのサポートがあるからのようだ。WPSの場合、PCであれば無線LANチップベンダーからファームウェア等を入手できるが、家電製品の場合、自力でWPS互換のファームウェアを何とかする必要がある。この差が大きいようだ。

 AOSSもWPSも、ワンプッシュで無線LANの親機と子機を接続する規格(あるいは方式)であるわけだが、実はAOSSに対応した現行のバッファロー製ルーターは、WPSもサポートしている。2007年6月に発表された「WHR-AMPG」シリーズ以降、ほとんどの製品はWPSの子機もワンタッチで接続できる。WPSが正式に規格化されたのは2007年1月だから、半年と経たない時点でサポートを行なったことになる。バッファローは、AOSSがなければWPSが登場することはなかったのではないかと言うが、WPSが3年以上あとに規格化されたことを考えれば、あながち間違ってはいないのだろう。

 AOSSの目標は、簡単・確実に繋がることだが、確かにバッファローの製品には繋がることへのこだわりが感じられる。その現れの、もう1つの例がハイパワーモデルだ。2004年7月に登場したWZR-HP-G54以降、たびたび投入されている。また、独自形状のアンテナも、繋がることにこだわった結果だろう。バッファロー製無線LAN機器には、着脱できる3本アンテナ等、他社製品には見られないユニークなアンテナが少なくないが、コンシューマ向けの製品でアンテナ等の設計を国内でやっているところは極めて少ないのだという。チップセットベンダーが提供するリファレンスデザインをそのまま採用するのではなく、さまざまな調整を繰り返す、その試行錯誤を積み重ねたノウハウがあのアンテナに込められている。そのため、社内には4部屋の電波暗室が設置されている。

バッファローの無線LAN機器はアンテナに特徴のある製品が多いゲインを得るため太いケーブルで直結されたアンテナ目立つ
外付けアンテナもバッファローの特徴。こちらは指向性のあるタイプこちらは無指向性のタイプ

●立ち後れた5GHz帯対応は、AV対策として追加

最新機種の「WZR-HP-AG300H」では、5GHz帯も同時使用できる

 こうした「つながなること」へのこだわりが、裏目とは言わないまでも、プラスに働かなかった面もある。それは5GHz帯無線LAN(IEEE 802.11a)への取り組みだ。2002年12月に世界で初めてドラフトベースのIEEE 802.11g対応製品をリリース、以後、積極的にIEEE 802.11g対応製品に取り組んできたバッファローだが、より広帯域の期待できるIEEE 802.11aに対応した製品の数は少なく、積極的とは言い難かった。

 その理由について同社は、すでにIEEE 802.11bが普及していた状況で、それと互換性のない規格はダメだろう、という判断があったことは否定できないという。ただ、2009年にコーポレートステートメントを「デジタルライフ、もっと快適に」に変えてから、IEEE 802.11aへの取り組みを強化しているとのことだ。現在バッファローは、TVをはじめとするAV家電機器のワイヤレス化を積極的に推進中だが、その中で無線LANについて、従来製品との互換性を持つ2.4GHz帯をPC用に、電波干渉等の少ない5GHz帯をAV機器用に住み分けることを提案していきたいとしている。同社は6月にTV用ワイヤレスユニットを発表したが、IEEE 802.11n対応で、2.4GHzと5GHzの両対応、自動選択(5GHz優先)となっている。

 このTV用ワイヤレスユニットに代表されるように、現在バッファローでは家電機器向けの無線LAN製品に注力している。それがコーポレートステートメントにある「デジタルライフ」を快適にする上で、一番必要なことと判断しているからだ。

 バッファローの、ここ10年の勝因をまとめると、(1)新規格への早期対応、(2)使いやすさ/繋がりやすさへのこだわり、の2点だろう。無線LANがPCだけの技術ではなく、ゲーム機やAV機器を含めたデジタルコンシューマ機器全体の共有資産となっていることを考えると、特に後者は重要な技術と言えるだろう。AirStationの次の10年の課題は、現在の利点を生かしながら、国内市場に留まらず、海外市場での存在感と出荷量を高めていくかということだろう。