■平澤寿康の周辺機器レビュー■
バッファローから、ルネサスエレクトロニクスの最新USB 3.0コントローラ「μPD720202」を採用する、PCI Express x1対応拡張カード「IFC-PCIE2U3S2」が登場した。370MB/Secを超える転送速度を実現し、従来モデルと比較してデータ転送速度が1.2倍以上高速化している点が最大の特徴で、USB 3.0対応周辺機器の性能を、これまで以上に引き出せるものとして期待される。そこで、実際に製品を用意し、従来モデルと比較してどの程度転送速度が向上しているのか検証してみた。
●USB 3.0コントローラにμPD720202を採用ではまず、IFC-PCIE2U3S2の仕様を確認していこう。
製品パッケージには、本体となる拡張カードと、PC内部で電源を取るための電源ケーブル、LowProfile用のブラケット、ドライバCD-ROM、マニュアルなどが付属する。カードは従来モデルの「IFC-PCIE2U3S」同様LowProfile対応で、ブラケットの交換でスリムPCなどの拡張スロットにも取り付けが可能だ。
カード自体のサイズは非常にコンパクトで、従来モデルと比べてもひとまわり以上小さい。また従来モデルでは、カードの表側にのみチップやコンデンサーなどが実装されていたのに対し、IFC-PCIE2U3S2では裏側にもチップやコンデンサーなどが実装され、見た目はかなりすっきりとした印象を受ける。
USB 3.0ポートは、ブラケット部に外部ポートが2個用意されており、内部ポートは用意されない。また、カード上には電源コネクタが用意されており、電源ユニットから伸びる内蔵ドライブ用の4ピン小電源コネクタを直接接続するか、付属の変換ケーブルを利用してSATAドライブ用電源コネクタに接続して利用する。このあたりの仕様は、従来モデルのIFC-PCIE2U3Sとほぼ同じだ。
搭載されているUSB 3.0コントローラは、ルネサスエレクトロニクス製の「μPD720202」で、現在でもUSB 3.0コントローラとして広く利用されている「μPD720200A」の後継モデルとなる。
μPD720202の特徴は大きく3つある。1つ目は、データ転送処理回路の改善により、USB 3.0対応周辺機器への書き込み実効速度を従来モデルから約40%高速化している点。2つ目は、周辺機器が接続されていない待機時の消費電力を抑えるとともに、省電力モード時のリーク電流を抑制するよう回路を改良することにより、省電力モード時の消費電力を4.5mWと従来モデルから約90%減を達成している点。そして3つ目は、チップ自体のサイズを従来モデルから約50%小型化するとともに、ファームウェアのダウンロード機能を内蔵することで、従来モデルで必要だったファームウェア格納用のフラッシュROMが不要になり、実装面積を削減できる、という点だ。当然、ユーザー側から見ると、1つめの特徴が大きな魅力となる。
IFC-PCIE2U3S2では、シーケンシャルリード時の速度が実測で371.5MB/secで従来モデルより1.2倍以上高速と、データ読み出し速度の向上をパッケージでアピールしているが、コントローラの仕様を考えると、おそらく書き込み速度も向上しているものと考えられる。この点も実際に検証で確認してみたいと思う。
●読み書きとも従来より高速も公称ほどの向上は確認できず
では、実際に速度をチェックしていこう。まずはじめに、CrystalDiskMark 3.0.1 x64を利用し、USB 3.0対応外付けHDDを接続した状態でデータ転送速度を計測してみた。テストに利用した外付けHDDは、容量3TBの3.5インチHDDを4台内蔵するバッファロー製の「HD-QL12TU3/R5J」で、RAIDモードはRAID 0に設定してテストを行なった。また、比較用として、バッファローのUSB 3.0拡張カード従来モデル、IFC-PCIE2U3Sも用意し、同様のテストを行なうとともに、マザーボードにオンボードで搭載されているASMedia製のUSB 3.0コントローラ「ASM1042」経由でのテストも行なった。テストに利用したPCの環境は下に示す通りだ。
ベンチマークテスト環境 | |
CPU | Core i7-2700K |
マザーボード | ASUS P8Z68V PRO/GEN3 |
メモリ | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2 |
グラフィックカード | Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk) |
HDD | Western Digital WD3200AAKS(OS導入用) |
OS | Windows 7 Professional SP1 64bit |
結果を見ると、IFC-PCIE2U3S2のデータ転送速度は、従来モデルのIFC-PCIE2U3Sはもちろん、オンボードコントローラASM1042経由よりも高速となっていることがわかる。また、当初の予想通り、シーケンシャルリードだけでなくシーケンシャルライトも高速で、加えてランダムリード、ランダムライトも高速となっており、トータルでアクセス性能が向上していると考えて良さそうだ。
ただ、従来モデルとの比較では、シーケンシャルリードが約11%向上、シーケンシャルライトが約27%向上にとどまっている。IFC-PCIE2U3S2のパッケージでは、従来モデルからシーケンシャルリードが実測で1.2倍以上高速とされ、またシーケンシャルライトに関しても、チップ自体のスペックとしては従来モデルから約40%高速化しているとされていることを考えると、少々物足りないとも言える。特に、パッケージに記されているシーケンシャルリード1.2倍以上という速度は実測値とされており、今回の実測でその値に届いていないのは少々気になる。今回のテスト環境とは大きく異なる環境での結果なので、パッケージの数値は参考値として見ておいた方がいいだろう。
また、シーケンシャルライトの結果についても、チップのスペックは理論値であり、シーケンシャルライトの実効値が約27%向上した今回の結果は、悪い数字ではない。少なくとも、従来モデルよりリード、ライトとも高速になるのは間違いなく、またライトに関しては大きなメリットがあると考えて良さそうだ。
ちなみに、比較的転送速度が高速ということで定評のあるオンボードのASM1042経由との比較でも、IFC-PCIE2U3S2の方が若干高速であった。実際に体感できるほどの差とは言えないかもしれないが、μPD720202がASM1042と同等以上のポテンシャルを有していることは間違いないだろう。
CrystalDiskMarkテスト結果 |
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IFC-PCIE2U3S2 |
IFC-PCIE2U3S |
オンボードUSB 3.0(ASMedia ASM1042) |
次に、実ファイルの転送速度をチェックしてみた。デジタルカメラで撮影したJPEG形式の画像ファイル、合計約3GBと、WMV9形式の動画ファイル5個、合計約3GBを、フォルダごとHD-QL12TU3/R5にPCから書き込んだ場合の速度と、HD-QL12TU3/R5からPCへ読み出した場合の速度を、ストップウォッチで3回計測し平均を出している。また、環境は先ほどと同じだが、最大の転送速度が得られるように、テスト用ファイルの読み書きは、別途PCに接続したIntel製SSD「SSD 520」の240GBモデルとの間で行なった。
まず、書き込みの結果を見ると、IFC-PCIE2U3S2経由は、従来モデルのIFC-PCIE2U3S経由に対し、大きな差を付けて高速だった。また、オンボードのASM1042経由との比較では、ほぼ同等ながら、わずかに速いことがわかる。CrystalDiskMarkの結果と同様、書き込み速度は従来モデルから大きく向上しており、メリットがかなり大きいと考えていい。
それに対し読み出しの結果は、IFC-PCIE2U3S2経由が最も高速ではあったが、書き込み時のような大きな差は見られなかった。ただ、動画ファイルの読み出しのように、サイズの大きなファイルを読み出す場合には10%以上高速となっており、こちらもCrystalDiskMarkの結果に近い。また、オンボードのASM1042との比較では、その差は非常に小さく、ほぼ同等の速度だ。
ファイル転送テスト結果(3回の平均) |
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画像ファイル転送 |
動画ファイル転送 |
今回の結果から、IFC-PCIE2U3S2のUSB 3.0ポートは、従来のものよりも高速アクセスを実現しており、USB 3.0経由で外付けストレージを利用する場合には、ストレージ側の速度をより高いレベルで引き出せるのは間違いないと言える。特に書き込み速度の向上度合いが大きく、大量のデータを外部ストレージに書き出す場合などは、転送時間にかなり大きな差が生じることになるはずだ。
ちなみに、今回のテストで、ASM1042がμPD720202とほぼ同等の速度を発揮するコントローラということも確認できたので、ASM1042をオンボードで搭載するマザーボードを利用している人には、あまり大きなメリットはないだろう。それに対し、μPD720200シリーズを搭載するUSB 3.0拡張カードを利用していたり、μPD720200シリーズをオンボードで搭載するマザーボードを利用している人や、これからUSB 3.0を拡張しようと思っている人なら、IFC-PCIE2U3S2を利用するメリットは十分にあり、オススメしたい。
(2012年 3月 26日)