■平澤寿康の周辺機器レビュー■
Intelは6日(米国時間)、同社製の25nm MLC NANDフラッシュメモリ採用の最新SSD「SSD 520」シリーズを発表した。2011年2月に登場した「SSD 510」シリーズ同様、SATA 6Gbpsに対応し、公称シーケンシャルリード速度は最大550MB/secと、SSD 510シリーズを上回る。今回、同製品の240GBモデルをいち早く試用する機会を得たので、ハード面の仕様やパフォーマンスを見ていこう。
●アクセス速度はSSD 510より高速、形状はSSD 320と同等今回発表された、Intelの最新SSDシリーズ「SSD 520」シリーズは、Intel製SSDとして始めてSATA 6Gbpsに対応した「SSD 510」シリーズの後継として位置付けられる製品。60GB、120GB、180GB、240GB、480GBと、容量の異なる5モデルがラインナップされている。
本体の形状は、従来モデルであるSSD 510と異なり、SATA 3Gbps対応の「SSD 320」シリーズとほぼ同等のものに変更されている。高さ約7mmの本体に、約2.5mmのスペーサーが取り付けられた、Intel製SSDおなじみの形状だ。この形状の方が、Intel製のSSDらしいという印象を受ける。なお、120~240GBは、このスペーサーがない7mm厚モデルも用意される。
接続インターフェイスは、SSD 510と同じSATA 6Gbpsに対応。アクセス速度は、シーケンシャルリードが全モデル共通で最大550MB/secと、SSD 510シリーズを上回っている。シーケンシャルライト速度は容量によって異なり、475MB/secから520MB/secと、こちらもSSD 510を上回る。
ランダムアクセス性能はというと、4KBランダムリードで最大50,000IOPS(60GBモデルは15,000IOPS、120GBモデルは25,000IOPS)、4Kランダムライトは最大80,000IOPS(480GBモデルは50,000IOPS)と、SSD 510だけでなく、ランダムアクセス性能に優れるSSD 320をも上回っている。
搭載されるNANDフラッシュメモリは、製造プロセス25nmのIntel製MLC NANDフラッシュメモリで、SATA 3Gbps対応の「SSD 320」シリーズに採用されているものと同等。SSD 520ではファームウェアには手を加えてあり、256bit AES暗号化機能や、End-to-Endデータ保護機能も備えており、一般ユーザーから企業ユーザーまで幅広い用途に対応する。
●最大速度は、コントローラのデータ圧縮機能が最大限発揮された場合
先ほど、SSD 520の公称アクセス速度を紹介したが、このアクセス速度はある条件のもとで発揮される値となる。それは、採用しているコントローラが持つ特徴に起因する。SSD 520には、SSD 510と異なり、SandForce製コントローラ「SF-2281VB1-SDC」が採用されている。SandForce製コントローラ採用ということからピンと来る読者も多いと思うが、先ほど紹介した最大のアクセス速度が発揮されるのは、SandForce製コントローラが持つデータ圧縮機能が最大限発揮された場合となる。そのため、データ圧縮機能が働かない状況では、シーケンシャルライト速度が大きく低下し、表にまとめたように、最も高速となる480GBモデルでも最大275MB/secとなる。また、ランダムアクセス速度も、4KBリードが最大46,000IOPS、4Kランダムライトが最大16,500IOPSに低下する。
ただ、圧縮有効時の最大速度、また圧縮非有効時の最大速度は、どちらも極端な例であり、実際の利用時にはその中間程度の速度が発揮されることになるはず。そういう意味では、バランス的にはSSD 510と同程度のシーケンシャルアクセス性能と、SSD 320と同程度かやや上回るランダムアクセス性能を備える製品と考えてよさそうだ。
60GB | 120GB | 180GB | 240GB | 480GB | ||
シーケンシャルリード | 圧縮有効時 | 550MB/sec | 550MB/sec | 550MB/sec | 550MB/sec | 550MB/sec |
圧縮非有効時 | 430MB/sec | 550MB/sec | 550MB/sec | 550MB/sec | 550MB/sec | |
シーケンシャルライト | 圧縮有効時 | 475MB/sec | 500MB/sec | 520MB/sec | 520MB/sec | 520MB/sec |
圧縮非有効時 | 80MB/sec | 150MB/sec | 170MB/sec | 235MB/sec | 275MB/sec | |
4KBランダムリード | 圧縮有効時 | 15,000IOPS | 25,000IOPS | 50,000IOPS | 50,000IOPS | 50,000IOPS |
圧縮非有効時 | 12,000IOPS | 24,000IOPS | 46,000IOPS | 46,000IOPS | 46,000IOPS | |
4KBランダムライト | 圧縮有効時 | 80,000IOPS | 80,000IOPS | 80,000IOPS | 80,000IOPS | 50,000IOPS |
圧縮非有効時 | 6,900IOPS | 13,000IOPS | 13,000IOPS | 16,500IOPS | 9,500IOPS |
今回試用した240GBモデルの内部基板を見ると、表にSandForce製コントローラSF-2281VB1-SDCと、Intel製の128Gbit MLC NANDフラッシュメモリチップ「29F16B08CCME2」を8個が搭載。裏にも29F16B08CCME2を8個搭載搭載する。この構成は、NANDフラッシュメモリチップの搭載位置こそ異なっているものの、以前取り上げたKingston製の「HyperX SSDシリーズ」の240GBモデルと同じだ。
基板表。SandForce製コントローラ「SF-2281VB1-SDC」と、Intel製の128Gbit MLC NANDフラッシュメモリチップ「29F16B08CCME2」を8個搭載している | 基板裏。こちらには29F16B08CCME2が8個搭載されていた |
●ランダムアクセス性能はかなり高い
では、速度をチェックしていこう。今回は、ベンチマークソフトとしてCrystalDiskMark v3.0.1b、HD Tune Pro 5.00、Iometer 2008.06.28、AS SSD Benchmark 1.6.4237.30508の4種類を利用した。テスト環境は下に示す通りだ。また、別途用意したSSD 510の250GBモデルと、SSD 320の300GBモデルでも同じテストを行なっている。さらに、KingstonのHyperX SSD 240GBモデルの結果も加えてあるが、こちらはテスト環境が異なるため参考値として見てもらいたい。
【ベンチマークテスト環境】
CPU:Core i7-2700K
マザーボード:ASUS P8Z68V PRO/GEN3
メモリ:PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2
グラフィックカード:Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk)
HDD:Western Digital WD3200AAKS(OS導入用)
OS:Windows 7 Professional SP1 64bit
まず、CrystalDiskMarkの結果を見ると、テストデータをランダムデータに設定した場合には、シーケンシャルリードが467MB/secほど、シーケンシャルライトが299MB/secほどであった。シーケンシャルリードは公称値に届いていないが、シーケンシャルライトは非圧縮時の公称値を上回っている。これはランダムデータとはいえ、コントローラの圧縮機能が働いていることによるものと考えていいだろう。また、テストデータを0Fill(中身を0で満たしたテストデータ)に設定した場合では、シーケンシャルリードで495MB/secほど、シーケンシャルライトで485MB/secほどが記録された。こちらも圧縮有効時の公称値には届いていないものの、かなり近い値になっており、圧縮機能が有効に働くデータを利用した場合には、非常に高速な速度が得られることがわかる。
同様にランダムアクセス速度の結果も、テストデータをランダムに設定した時よりも0Fillに設定した時の方が速度が向上していることがわかる。ただ、ランダムデータ時でもランダムアクセス速度はかなり高速で、SSD 510やSSD 320の結果を大きく上回っている。ちなみに、SSD 510やSSD 320では、コントローラが圧縮機能を持たないこともあり、テストデータを0Fillに設定しても結果はほとんど変わってない。
HD Tune Proの結果では、シーケンシャルリードは平均524.5MB/secと公称値にかなり近付いており、シーケンシャルライトも平均463.5MB/secと高速だった(双方とも8MB設定時)。また、ランダムアクセス性能も十分に高速な結果が得られている。ただし、File Benchmark結果を見ると、データパターンがZEROの場合(CrystalDiskMarkの0Fillに相当)でシーケンシャルリードが約489MB/sec、シーケンシャルライトが約463MB/secだったが、データパターンがRandomではシーケンシャルリードが約492MB/secとZEROとほぼ同等であったのに対し、シーケンシャルライトが約294MB/secに低下している。これはCrystalDiskMarkの結果とほぼ同じ。そして、データパターンがMixed(RandomとZEROを組み合わせたデータを利用)の場合には、シーケンシャルリードが約503MB/sec、シーケンシャルライトが320MB/secであった。おそらくこの結果が、実利用時の速度に最も近いはずだ。
これは、AS SSD Benchmarkの結果を見てもほぼ同等だ。Compression Benchmarkの結果は、データ圧縮の有効度によるアクセス速度の変化を計測するものだが、これを見るとわかるように、データ圧縮が有効になるに従って書き込み速度が高速にっていることがよくわかる。もちろん、実利用時には圧縮度が0%や100%となることはほぼないため、中間程度の速度が発揮されることになるだろう。
SSD 520 AS SSD Benchmark | SSD 510 AS SSD Benchmark | SSD 320 AS SSD Benchmark |
SSD 520 AS SSD Compression Benchmark | SSD 510 AS SSD Compression Benchmark | SSD 320 AS SSD Compression Benchmark |
次にIometerの結果だ。こちらは「File Server Access Pattern」を利用したランダムアクセス速度のみをチェックしているが、SSD 510やSSD 320よりも大きく結果が向上していることがわかる。また、Queue Depthを32に設定して計測した場合では、同じコントローラとNANDフラッシュメモリチップを搭載するHyperX SSDよりもかなり優れた結果が得られている。この差が、Intelファームウェアのチューニングによるものなのだろう。この結果からも、SSD 520のランダムアクセス性能の高さが確認できる。
Iometer 2008.06.28 Windows 7 Professional 64bit | Intel SSD 520 240GB | Intel SSD 510 250GB | Intel SSD 320 300GB | Kingston HyperX SSD 240GB * | |||||
Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | ||
File Server Access Pattern | Read IOPS | 2732.625374 | 22557.26801 | 2518.945393 | 3005.251127 | 2304.860035 | 8378.321348 | 3151.019686 | 13345.43979 |
Write IOPS | 684.657207 | 5639.862849 | 630.988051 | 752.059451 | 579.427495 | 2096.996204 | 786.675079 | 3342.926459 | |
Read MB/s | 29.661371 | 243.960157 | 27.21782 | 32.545145 | 24.987403 | 90.699401 | 34.093931 | 144.4343 | |
Write MB/s | 7.422751 | 60.954622 | 6.856002 | 8.11623 | 6.275243 | 22.69001 | 8.489211 | 36.152945 | |
Average Read Response Time | 0.293527 | 1.141611 | 0.354286 | 9.733365 | 0.383403 | 2.132139 | 0.255985 | 1.945536 | |
Average Write Response Time | 0.284175 | 1.104272 | 0.165497 | 3.648021 | 0.195736 | 6.737753 | 0.24209 | 1.802784 | |
Maximum Read Response Time | 43.233803 | 48.061698 | 15.157595 | 773.977776 | 20.440109 | 21.818841 | 36.929914 | 54.308107 | |
Maximum Write Response Time | 6.293818 | 51.212252 | 198.125356 | 773.461918 | 19.457967 | 127.318081 | 7.654241 | 49.077084 |
最後に、ドライブ内でファイルコピーを行ない、その時間を計測してみた。利用したファイルは、メーラーのバックアップファイルやテキストファイルなど、内容のほとんどがテキストデータで、容量が1KBから560MBほどのファイル3,887個と、デジカメで撮影したJPEGファイル613個、WMV形式の動画ファイル5個で、総容量は全て約2.8GBだ。それぞれをフォルダごと同一ドライブの別フォルダにコピーし、コピーにかかる時間をストップウォッチで3回計測した平均を出している。
結果を見ると、どの形式のファイルをコピーした場合でも、それほど差がないことがわかる。同じ方法でSSD 510とSSD 320でもテストを行なったが、SSD 320はもともとの速度が遅いこともあり、かなり時間がかかっているが、SSD 520はSSD 510とほぼ同等の時間でコピーが終了している。SSD 520の圧縮非有効時のシーケンシャルライト速度はSSD 510のシーケンシャルライト速度よりも低いが、ほぼ同等の時間でコピーが終了していることからも、やはり実利用時にはコントローラの圧縮機能が働き、圧縮非有効時よりも高速な速度が発揮されると考えてよさそうだ。
SSD 520 240GB | SSD 510 250GB | SSD 320 300GB | |
テキストファイル 約2.8GB | 約19.0秒 | 約20.4秒 | 約36.0秒 |
JPEGファイル 約2.8GB | 約19.0秒 | 約19.0秒 | 約34.1秒 |
WMVファイル 約2.8GB | 約18.6秒 | 約17.0秒 | 約28.5秒 |
SSD 520は、従来モデルとなるSSD 510同様、他社製コントローラを採用するSSDであるが、コントローラが変更されたことで、特にランダムアクセス性能が大きく向上した。シーケンシャルアクセス速度は、SSD 510も含め、現在市販されているSATA 6Gbps対応SSDとほぼ同等の性能を有する製品であり、特別飛び抜けているわけではない。それでも、Intelのチューニングにより、ランダムアクセス性能が高められていることで、実利用時の快適性を重視したSSDとして魅力があると言える。
ただし、価格を見るとその印象は若干変わる。米国での1,000個ロット時のOEM価格は、60GBが149ドル、120GBが229ドル、180GBが369ドル、240GBが509ドル、480GBが999ドルとされている。現在、SandForce製コントローラを搭載する容量240GBのSSDの中には、実売25,000円ほどで販売されている製品が存在していることを考えると、1ドルを80円で換算したとしてもやや高く感じる。とはいえ、OCZの「Vertex 3 Max IOPS」やKingstonのHyper X SSDなど、同じSandForce製コントローラ搭載SSDでも高性能な製品では、240GBモデルが40,000円前後で販売されており、SSD 520が特別高価というわけではなく、ランダムアクセス性能の高さを考えると、十分納得できる価格とも言える。
256bit AES暗号化機能や、End-to-Endデータ保護機能が用意されている点もあわせ、多少価格が高くてもランダムアクセス性能を重視する個人ユーザーや、企業ユーザーにオススメできる製品だ。
(2012年 2月 7日)