大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

これが「NEC品質」を実現する厳しい試験の数々だ!
~NEC PCが米沢事業場の品質保証施設を初公開



 「レノボグループになったことで、品質が落ちたとは言わせない。むしろ、実感として良くなったと思ってもらえる製品づくりに取り組んできた」--。製品品質を担当するNECパーソナルコンピュータの中土井一光執行役員は強い口調がこう切り出した。

NECパーソナルコンピュータ米沢事業場NECパーソナルコンピュータ 中土井一光執行役員

 2011年7月からスタートしたレノボとのジョイントベンチャーにおいて、ユーザーの懸念材料の1つに挙がっていたのが、NEC製PCの品質の低下であった。「安心・安全・快適」をキーワードに高い品質を求める日本人ユーザーの要求に応え続けてきたNECが、レノボグループ入りしたことで、品質に対する姿勢を変化させるのではないかと、危惧する声があがっていたからだ。「NEC製PCの品質は、これまで以上に高まっている。安心して購入していただくために、引き続き徹底した品質検査を行なっている」と、中土井執行役員は語る。それを証明するように同社では各種の品質試験を実施している。このほど、山形県米沢市の米沢事業場における品質保証に関する試験施設の様子を公開した。報道関係者にこの施設を公開するのは今回が初めてのことだ。

●2011秋にHDDの全量受け入れ検査を実施 

 「時間やコストがかかってもいい。入荷したHDDは全量を検査する」。

 2011年10月半ば、NECパーソナルコンピュータ 中土井一光執行役員は、社内に向かってそう宣言した。

 それまでNECパーナルコンピュータでは、入荷したHDDの受け入れ検査は、ロット単位での検査としていたが、この時ばかりは別だった。

 2010年10月初旬。タイの洪水被害の影響により、HDDメーカーの工場が浸水。HDDの調達が難しくなるという課題が浮上した。調達部門の努力があって幸いにも優先的にHDDを調達することができたが、品質保証部門にはいくつかの懸念事項があった。

 その1つが、調達するHDDは、A級品の充当を前提としていたが、場合によってはB級品が混じる可能性もあるのではないかという点だ。

NECパーソナルコンピュータ 品質保証本部・鈴木孝一本部長

 NECパーソナルコンピュータ 資材部キーパーツ技術品質担当の鈴木和徳主任は次のように語る。

 「磁気ヘッドや磁気ディスクといった主要部品が調達難となっているため、一部にB級品が充当される可能性や、タイ以外の工場への生産移管により生産環境が劣悪化し、クリーン度が低い生産工程で作られたHDDが流れてくる可能性があった」。

 HDDの生産では、0.5μm~0.3μmという微細塵を除去するような管理が行なわれ、品質を維持している。それだけにクリーン度が悪化した環境での生産は、品質悪化に直結する。

 そこで、NECパーソナルコンピュータでは、10月中旬から2012年12月末までの特別措置として、入荷したHDDの全量を検査することにした。

 特別検査の内容は、磁気ヘッドの劣化、磁気ディスクの微細傷の検出、微細塵のヘッドおよびディスク間への挟み込みダメージの検出といったものだ。抜き取りで行なっている恒温槽(チャンバー)でのエージング試験のほかに、HDDの起動確認やランダムライト検査、リード検査などを全量で実施。1台あたり約3時間をかけて検査を行なった。

 全量を検査するため、協力会社の支援を受けて、装置を倍増し、24時間体制で実施。最大で月間30万台の検査が行なえる体制にまで引き上げたという。


部品受け入れ検査などが行なわれる米沢事業場八幡原工場HDDの受け入れ検査の様子。5℃~55℃の温度で検査する恒温室は4基導入しており、一度に200台のHDDを検査できる

●品質保証本部が品質を決める

 生産現場や営業現場では、いち早く部品や、製品が欲しいところであったが、中土井執行役員は全量検査することを決して譲らなかった。

 「安定した品質でお客様のもとにお届けすることが最優先。それがNECパーソナルコンピュータの品質に対する姿勢である」。

 NECパーソナルコンピュータでは、2009年に、品質保証本部を独立した組織として設置。量産化の最終判断は品質保証本部が行なうことになっている。つまり、品質保証本部がOKを出さない限り、量産はできない。その一方で、市場投入した製品に不具合が発生した場合、設計開発部門や製造部門、あるいは部材を供給するベンダーが責任を負うのではなく、品質保証本部が全責任を負うことになる。

 「良くて当たり前という品質において、すべての責任を持つのは辛い」と中土井執行役員は笑うが、品質保証本部という独立した組織の存在が品質重視の姿勢をより強めることにつながっている。

 品質保証本部は、NECブランドのPCの品質を維持するための「最後の砦」ともなっているのだ。

 実際、10月中旬から実施した全量試験の結果、品質の観点から生産ラインへの投入ができないHDDも一部発見されたという。

 「12月までに試験を行なったHDDを搭載し、生産したPCの初期不良率を追ってみると、今年7月までの時点で、正常時品のレベルと同等水準を維持している。全量検査の効果があったと判断している」(NECパーソナルコンピュータ・鈴木和徳主任)と語る。

●HDD、ODD、パネルで実施する受け入れ検査

 NECパーソナルコンピュータでは、品質を保証するために、部品受け入れ検査と信頼性評価試験の体制を取っている。

 部品受け入れ検査は、生産ラインに投入する前に、HDDや光学ドライブ、液晶ディスプレイをロットごとに抜き取り、耐久性、信頼性を検査するものだ。

 HDDでは、一度に200台を収納できる恒温槽を4基導入。5℃の低温から55℃の高温までの環境で、50時間をかけて、試験を行なう。

 光学ドライブでは、一度に96台を検査できる体制を取っており、DVD-R、CD-R、BD-Rの各ディスクを入れ替えて、全面リード試験を行なう。平均するとDVD-Rで約3時間、CD-Rで約12時間、BD-Rで約3時間という検査時間だ。さらに、ここから一部を抜き取り、DVDディスクを使用したライト試験を実施する。これらを1週間に2サイクル行なうため、毎週200台の光学ドライブが検査されている計算になる。

 また、液晶ディスプレイでは、パネルを9台ずつ並べることができる試験ラインを4本用意。36台を同時に試験できる。1週間で72台の液晶ディスプレイを抜き取り検査できる体制だ。

 1日半に渡り、50度の温度環境の中でディスプレイを稼働。色ムラの変化などを1台ずつ目視で確認することになる。

 「液晶パネルは高い温度の動作環境でその差がわかる。機械を使って検査するよりも、目視がもっとも変化の差がわかりやすい」(NECパーソナルコンピュータ 資材部キーパーツ技術・品質担当の小林良一主任)とし、1日半の間に5回に渡って、パネル1台ずつの表示品質を確認する。

 「液晶パネルの場合、生産初期段階での品質にバラつきが多いため、主に初期製品で重点的な検査を行なっている」という。

光学ドライブの検査工程。一度に96台のドライブを検査するこちらはデスクトップに内蔵している光学ドライブの検査検査はDVD-R、CD-R、BD-Rの各ディスクを利用して行なわれる
液晶ディスプレイの検査を行なう工程。36台の液晶ディスプレイを50度で動作させ、目視で色ムラなどを確認こちらはディスプレイ一体型の液晶パネル。1日半の間に変化を4~5回確認する

●過酷な温度サイクル試験も実施

 量産直前の出荷判定前と、量産抜き取りフェーズで実施しているのが温度サイクル試験だ。

 「温度ストレスによる負荷を与え、温度マージン不足の部材およびデバイスの誤動作を誘発させ、不具合の早期検出を目的とした検査になる」と、NECパーソナルコンピュータ 品質保証本部品質保証部・対間くに子氏は説明する。

 温度35℃/湿度30%、または温度5℃/湿度20%という環境において、それぞれ22時間ずつ稼働。これを1機種で2サイクル実施するという過酷な試験だ。この間、200回に及ぶリブートや、18時間に渡るスクリーンセーバーの稼働、長時間の光学ドライブの稼働などが行なわれ、検査スタッフはその都度、恒温槽の中に入り、実際にキーボードを打鍵して感触を確認するなど、細かいチェックが行なわれる。

 この恒温槽は、PCメーカーが持つものとしては大規模なもので、室内の広さは約73平方m。ノートPCを96台、デスクトップPCを72台の合計168台を同時に検査することができる。ノートPCだけであれば約200台の検査が同時に行なえるという大きさだ。

 さらに、このほかにも、より過酷な環境での試験を実施することができる恒温槽を用意している。ここでは温度40℃、湿度85%という環境で試験が行なわれているという。

●開発機種に対する3つの信頼性評価試験

 一方、開発しているPCを対象にした信頼性評価試験としては、環境試験、安全性試験、耐久性試験の3つが行なわれている。

 信頼性評価試験が行なわれているのは、米沢事業場内にある評価室である。

 現在のNECパーソナルコンピュータ米沢事業場の前身となる米沢製作所時代からある平屋の社屋を利用しており、PC-9800シリーズ時代から、この場所に評価室は置かれている。いわばNEC製PCの品質保証の基本となるノウハウが詰まった場所である。

 品質担当執行役員や、品質保証本部長でも、自らのセキュリティカードでは立ち入ることができない部屋であり、報道関係者に公開するのもこれが初めてだ。

 NECパーソナルコンピュータ商品開発本部設計技術部・遠藤賢一主任は、「エンドユーザーが使う環境を想定し、それを疑似的に作り出してシミュレーションすることができる施設」とする。

 環境試験は、温度や湿度、輸送時の振動といった、日常、PCを利用する際に想定しうる負荷に耐えられるかを事前に確認するもので、恒温槽を利用した5℃~35℃による高温および低温動作試験のほか、静電気耐力試験、磁界耐力試験、人工汗滴試験。さらには、加圧振動試験、ランダム振動試験、片持ち支持衝撃試験、装置単体落下試験などが行なわれる。

 「衝撃試験機では、内部にまで衝撃を与えることで、内部の構造的に弱い部分を探し出すという目的がある。さらに振動試験機では、サスペンションがない台車などで運ぶといったシーンを再現し、それを30分間続けるといった試験を行なう。また、外圧試験機では、ノートPCの天板上に手のひらを置いて体重をかけた際の耐久性を試験するものであり、荷重をかける丸い金属を活用する。この丸い金属の大きさなどにノウハウがある。また、どれぐらいのへこみ方であれば大丈夫なのかといった点でも長年の経験値が生かされている」と遠藤主任は語る。

 落下試験や振動試験では、PCの動作時や非動作時、あるいはノートPCでは液晶部を開いた場合や閉めた場合、あらゆる方向からの落下などの試験が行なわれる。

 また、安全性試験では、ユーザーがやけどや感電するといったことがないように安全性を確認する絶縁耐力試験、漏洩電流試験、表面温度上昇試験などを実施。さらに、チェックリストを用いて、ACアダプタやバッテリ、電源ユニットなどの安全性を事前評価するという。

 そして、耐久性試験では、コネクタの抜き差し試験や、ノートPCの開閉試験、キーボード強度試験などを実施しているという。

 同社独自の試験として特筆されるのは、環境試験の1つである、ほこり試験である。

 ほこり試験では、ほこりに類する試験用の材料を一定時間飛ばしたのちに、PCが適正に動作するかを確認するというものだ。

 ほこりに類似した試験用の材料は、社員が家庭の掃除機のゴミをお互いに持ち寄るなどの経緯を経て、独自に開発したものである。

 「日本の住生活環境では綿ぼこりが多い。これがPCの一部に詰まって、不具合が発生するという問題が数年前に起こった。それ以来、ほこり試験を導入し、開発時点でその対策を施している」(NECパーソナルコンピュータの遠藤主任)という。

 これも日本人のためのPCを開発しているNECならではの試験内容だといっていいだろう。

大規模な恒温室を持っており、最大200台のPCを同時検査できる温度サイクル試験の様子。出荷直前のUltraBook「LaVie Z」が検査中だった実際に操作をしてキーボードの反応などを1台ずつ確認する
デスクトップPCの温度サイクル試験も同時に行なわれていた試験は出荷直前の量産品と量産中の製品を対象に行なっている生産ラインでも全量エージング検査が行なわれている。奥の棚で試験を実施
生産ラインでは試験プログラムを稼働させた検査を全量で実施しているNECパーソナルコンピュータ米沢事業場下花沢工場。ここに評価室がある開発中の製品を対象に信頼性評価試験を行なう評価室。報道関係者には初公開となる
この評価室は旧米沢製作所時代の平屋建て。PC-9800シリーズ時代から使われている。長年の試験ノウハウが蓄積された空間だ人体から発する静電気への対策を行なう静電気耐力試験機器
落雷などが発生した場合のPCへの影響を検査する機器瞬時の停電の際の影響を検査する機器。デスクトップPCだけでなく、ノートPCも対象に実施するキーボードを連続的に叩いて強度を検査する機器
衝撃試験機。上から下へ落とし、200~300Gの衝撃を与える落下試験機。各方向から落下させて内部への影響を確認する振動試験機。台車での移動や自動車の振動などを再現する
ホコリ試験の様子。ホコリがあるなかでも不具合を起こさないように確認するホコリ試験を行なう機器。恒温室を改良して使っている
【動画】落下試験機でのテストの様子
【動画】細かい振動を与えているのがわかる

●ThinkPadは大和と米沢の良いところ取り

 このように、NECパーソナルコンピュータでは、開発段階や部品受け入れ段階、量産開始直前、量産後の抜き取り検査といったように数々の試験を行ない、品質を高めることに取り組んでいる。さらに生産ラインでも全量で出荷前のエージング検査を行なっている。

 そして、この姿勢はレノボとのジョイントベンチャーを開始して以降も変化がないとする。

 中土井執行役員は、「誤解を恐れずにいえば」と前置き、「レノボとのジョイントベンチャーを開始した今だからこそ、品質に対してはこれまで以上に配慮している」と語る。

 そして、続けてこうも語る。

 「レノボグループになったことで、品質が落ちたとは言わせたくはない。むしろ、実感として良くなったと思ってもらえる製品づくりに取り組んできた」。

 実際、ユーザーや販売店をはじめとする業界関係者の間では、レノボグループ入りしたことで、NEC製PCの品質が落ちるのではないかという懸念の声があがっていた。それだけに、品質保証本部では、品質の維持に多くの労力を割いてきた。冒頭に紹介したタイの洪水被害の影響に伴うHDDの全量検査もその姿勢の表れだ。

 品質保証本部の鈴木本部長は、「実際、ここ数年、初期不良率は大幅に減少している」と胸を張る。

 さらにレノボグループとなったことで、品質面において、プラスの効果につながった部分もあるという。

 「レノボが米国市場向けに投入している製品において、ある部品の不良が見つかったという場合にも、これに関する情報がすぐに入るようになった。部品の不良に関する情報は、なかなか入手できないものだが、世界第2位のPCメーカーであるからこそ、品質に関する多くの情報が共有できるようになったのも事実。これに類する部品を特別監視することで、事前に対策を取れるようになり、これが品質向上にもつながっている」(中土井執行役員)とする。

 加えて、レノボとの連携によって、神奈川県横浜市にあるレノボの大和研究所とも情報交換を行なう場が設けられている。

 「ThinkPadに対する品質保証試験では、こちらに取り入れたいと思う内容もある」(鈴木本部長)として、これが、今後のNEC製PCの品質向上にも寄与することになりそうだ。

 今年秋以降、米沢事業場ではThinkPadの生産が開始される。

 米沢事業場で生産が行なわれる以上、「米沢品質」を実現するのは当然。そのためには、NECパーソナルコンピュータの品質保証本部が、最終的にはThinkPadの量産判定をすることも想定される。

 つまり、米沢事業場で生産されるThinkPadは、「大和品質」と「米沢品質」とのいいところ取りの形での生産が行なわれることになるともいえよう。

●品質を差別化に据えるNECパーソナルコンピュータ

 NECパーソナルコンピュータにおける品質保証に関して、今後の課題をあえて聞いてみた。

 鈴木本部長は、「Make(生産)する部品の品質は一定の水準まできた。次の課題はBuy(購入)の対象となる部品の品質。購入品における品質のバラつきをどう抑えるかが鍵になる。これが解決できれば、品質面においては、ダントツに抜け出すことができる」とする。

 一方で中土井執行役員はこう語る。

 「品質はよくて当たり前。だからこそ、それを実現できれば、大きな差別化になる。品質、サービス、サポートといった製品のスペックや価格以外のところでも、NECを選んでいただける状況を作りたい。品質がいいからNECを選ぶというサイクルができれば、次もNECの製品を選んでいただける」。

 NECパーソナルコンピュータの品質へのこだわりは、NEC製PCの重要な差別化ポイントになる。

PC-9800シリーズをはじめとする歴代PCや最新PCが展示されている米沢事業場のショールームコンシューマPCのVALUESTARおよびLaVieシリーズの最新モデルビジネスPCであるMateおよびVersaProの最新モデル。これも米沢事業場で生産されている
こちらは歴代PCの展示コーナー。PC-9800シリーズなどが並ぶ初代のPC-9801。エポックメイキングなデスクトップPCだ1984年に生産したPC-8401A。米国で発売されたモデル