大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECパーソナル、今年夏にもUltrabookを投入へ
~高塚新社長に抱負を聞く



高塚栄氏

 「レノボNECグループとしての合弁の効果がより明確に発揮される1年になる」--。2012年1月1日付けでNECパーソナルコンピュータ(以下NEC PC)の社長に就任した高塚栄氏は、2012年のNEC PCの方向性についてこう語る。

 NECのマイクロコンピュータ「TK-80」時代から、長年に渡り同社PC事業に携わってきた高塚氏が、いよいよ満を持して社長に登板。これまでの技術畑出身の事業トップとは異なり、マーケティング部門出身ならではの舵取りが注目される。

 すでに、1月1日から、個人向けPCの「使い方相談」電話サポートを購入したユーザー向けに2年目以降も無償化。レノボとの合弁効果によって得られた経営資源をまずはサポート強化に投資したのに続き、今年夏にはUltrabookの投入も示唆。「製品の観点でも合弁の成果が出てくる1年になる」と語る。高塚新社長に、社長としての抱負を聞くとともに、NEC PCの2012年の取り組みについて聞いた。


●安心・簡単・快適の方針を踏襲

--2012年1月1日付けで社長に就任しました。新社長としてどんな舵取りをしますか。

高塚 NEC PCでは、これまで、「安心・簡単・快適」というキーワードを軸にPC事業を展開してきました。この姿勢はこれからも変わりません。いや、これまで以上にこの考え方を追求していきたいと思っています。

 横文字で、もっと格好いいキーワードを掲げないのかという声もあります。私もこの言葉を聞いた時に、最初は「えっ?」と思いましたよ(笑)。しかし、NECのPCに対して、お客様は何を求めているのかということを考えた場合に、安心して使えることが最大の課題であり、NEC PC事業の中核の部分でもある。また、簡単であり、快適であることも重要だと強く認識しています。安心して使えることが前提にない限り、いくら優れた性能のPCを製品化しても、購入していただけません。安心があって、購入につながる。そして、同時に簡単と快適さも提供するというわけです。

 2011年7月に、レノボNECグループが発足し、レノボの調達力を活かすことで、経営資源を新たな領域に投入できるようになりました。その経営資源を真っ先に投入したのが、サポート分野です。2012年1月1日から、個人向けPCの「使い方相談」の電話サポートを、完全無償化しました。2007年11月以降は、購入2年目以降の電話サポートは有償化していたのですが、これを撤廃し、2年目以降も無償で利用できます。無償化したのに電話がつながらないというのではかえって顧客満足度を下げてしまいますから、それに向けて、新たに仙台に121コンタクトセンターの拠点を設けるなどの体制強化を図りました。これも、安心して使っていただくための施策です。

 PCは、最初だけ使い方がわかれば、あとはずっと使い続けられるというものではありません。デジカメを購入すれば、写真を管理したくなるし、友人ともデータを共有したくなる。使い方がどんどん進化する。その進化にあわせて使い方が変化し、わからないことも出てくる。2年目以降もわからないことが出てきたら、121コンタクトセンターに連絡すればいいという安心感は、お客様にとって大きなメリットになるはずです。「安心だから、NECのPCを選ぶんだ」という環境を作りたいと考えています。

●目指すのは実体験型の社長

--高塚社長は、長年に渡り、NECのPC事業に携わってきました。満を持しての登板という印象が強いですね。しかし、その一方で、レノボNECグループが発足して、わずか半年。この時期の社長交代はどういう意味がありますか。

高塚 私が、前任の高須(高須英世氏、2012年1月から相談役に就任)から、社長就任の打診を受けたのは12月初旬のことです。いつもと変わりなく、社長室に呼ばれた時に、突然、「1月から社長をやってもらうから」と言われました。心の準備をしていたわけではなかったので本当に驚きました。こういう時って、返事らしい返事ができないものですね(笑)。最初に、「うっ」とか、「あっ」とか答えたような気がします(笑)。

 時期という点でいえば、確かに1年というような期間が適当なのかもしれませんが、2011年7月から半年間を経過し、1つの区切りがついたと判断したのではないでしょうか。また、私自身も、合弁会社の発足前から、この話に参加し、準備に携わってきています。そこまでさかのぼれば、合弁を発表したのが2011年1月ですから、ちょうど1年という節目でもあります。

--これまで歴代のNECのPC事業のトップは、技術畑出身でした。高塚社長は、マーケティング・営業畑出身であり、その点では初の技術畑以外からのトップ就任といってもいいでしょう。その経験はどう生かしますか。

高塚 振り返ってみますと、これまでのNECのPC事業のトップに共通しているのは、お客様の気持ちに応えることができるメーカーを目指してきたということではないでしょうか。高須前社長が掲げてきた「安心・簡単・快適」というキーワードも、その表れです。技術部門出身であり、スーパー技術者だったからこそ、それをわかりやすいキーワードに置き換えて訴求してきたともいえます。確かにその点では、私は立場が異なります。ただ、私がこれまでずっとやってきたことは、利用者としての意識、目線を忘れないことです。この姿勢はこれからも継続していきます。

--社長室には、iPhoneや、他社のAndroid端末、PCなどが転がっているということに(笑)?

高塚 きっとそうなるでしょうね(笑)。今もこうやってiPhoneを使っていますし、他社のAndroid端末も使っています。いろいろと使ってみて、どんなことができるのか、何が求められているのか、どんな変化が起こるのか、ということを実感して、それを製品づくりに反映させたいと考えています。

 使ってみるとさまざまなことがわかるのです。ある端末を手にすると、自分の中で気持ちが変わることを実感することがあります。また、使ってみるからこそ、製品やサービスについての問題点もわかる。Web販売で最新の技術を活用した使いやすいサイトを用意したとしても、セキュリティがしっかりして、クレジットカードの番号を安心して入力できなければ誰も利用しません。新たな技術だけを見せても使われるものではないのは明らかで、これは、PCも同様です。問題の本質はどこか、求められているものの本質はどこかということを理解するには、使ってみるのが早道。ですから、これからも、新しい製品が出たら、私自らが使ってみることはやり続けていきます。

 NEC PCは、日本に限定して事業を展開しています。つまり、日本のユーザーが何を求めているのか、日本のユーザーが使いやすいPCとはなにかということを追求できるメーカーでもある。私は日本人ですから、自分の体験、実感を、日本人のための製品づくりに生かすことができると考えています。強いて自分のスタイルを表現すれば、実体験型の社長という感じでしょうか(笑)。


●堅実でアグレッシブな企業の実現へ

--一方で、NEC PCにおける課題はなんだと考えていますか。

高塚 NECのPCに対しては、売れ筋製品は揃っているメーカーであること、また安心して使えるPCを提供するメーカーだという印象は定着しつつあると考えています。しかし、その裏返しとして、イノベーティブな製品が出てこないというイメージがあるということです。間違いのない製品を出すが、面白味がない、ということだと思うのです。ここは他社に比べて不足しているところだと強く認識しています。

 これまでは経営資源に余裕がなかったことで、なかなかこういう部分に踏み出せなかった反省もありますが、レノボNECグループになったことで、その点が大きく変わりました。そして、繰り返しになりますが、安心・簡単・快適という強みも継続していきたい。「NECから出てくるPCは、堅実であり、それでいてアグレッシブだ」と言われるようなイメージを作りたいですね。

--経営指標として重視するのはどの点になりますか。

高塚 レノボNECグループの発足にあわせて、今後3年以内に、両社あわせたグループの国内シェアを30%にまで高めると発表しています。まずはこの数字の達成に挑みたい。これは簡単に達成できる数字ではありません。なんとなくやっていれば達成できるなんてことはない。イノベーティブな会社に変わらなければ、この数字は達成できません。製品ラインアップを変える、開発手法を変える、すべての社員が変わるんだという意識を持たなくては達成できないでしょう。

 レノボグループでは、「プロテクト&アタック(守りと攻め)」という取り組みを推進していますが、これに当てはめれば、守る部分は「安心・簡単・快適」であり、攻めの部分は挑戦的な製品群の創出による事業拡大だといえます。

--就任後はどんな活動をしますか。

高塚 1月4日付けで全社員にレターを出しましたが、早い時期にすべての社員に会うつもりです。東京、米沢、群馬の拠点のほか、全国の営業拠点にもなるべく足を運びたい。

 レノボグループも、フェース・トゥ・フェースを大事にする会社です。私も、どんなことを考え、何をしようとしているのかといったことを、直接的なコミュニケーションを通じて理解し合いたいと思っています。

 私は、今後は米沢を本拠地としますが、それでも居る時間は3割ぐらいでしょうね。あとは、全国を飛び回りたいと考えていますし、パートナーやお客様にも数多く足を運びたいです。

 また、今こそ社内に、全体最適の考え方を徹底したいと考えています。たとえば、NECのPCの使い方に関して、121コンタクトセンターに問い合わせがあったときに、これまでは、コンタクトセンター内でいかに的確に回答をするかという点での強化が行なわれていました。回答に5分かかっていたものを3分で回答できるように、データベースを構築し、オペレータがそれをみてすぐに対応できるようにするといった具合です。

 しかし、考えてみれば、PCに付属しているマニュアルがもっと簡単であれば、問い合わせをしないでも解決ができるのではないか、また、画面メニューの設計を変えれば問題そのものも発生しないのではないか、部品品質が高まれば解決できたものではないのか、という可能性もあるわけです。1つの問い合わせを、コンタクトセンターだけの最適化で終えるのではなく、NEC PC全体の問題として捉え、問題を解決し、全体最適化を図っていくという仕組みを作り上げたい。事業部長クラスがこうした意識を強く持てば、企業の体質は大きく変化するはずです。実は、この仕組みづくりには、すでに取り組んでいます。もっと徹底していくことがこれからの課題です。

●2011年は「遭遇」の1年だった

--2011年は、NECのPC事業にとって、レノボグループとの合弁という大きな節目の年になりました。いまこの1年を振り返ってどう感じていますか。

高塚 もし、一言で2011年を表現するとしたら、「遭遇」という言葉が適しているのではないでしょうか。遭うという言葉にはさまざまな意味があります。3月11日の東日本大震災にも遭という言葉が当てはまりますし、レノボグループとの出会いも遭遇であり、PC以外にもタブレットやスマートフォンという新たな端末が広がりをみせたことで、新たな端末に遭遇した人たちが多かったことも挙げられます。

 ただ、その一方で、タブレットやスマートフォンが登場したことで、PCの魅力について改めて感じた人も多かったのではないでしょうか。電車の中で利用するには、スマートフォンが適していますし、喫茶店などではタブレット端末の利用もいいでしょう。しかし、家に帰ってメールを送信する場合にはPCを使っている、あるいは、会社の資料を作成する際は、スマートフォンなどでは限界を感じ、やはりPCを活用するという人も多かったはずです。

 そうした流れの中で、2012年はUltrabookが登場することになります。軽量、薄型で、長時間バッテリ駆動が可能になり、高性能であるUltrabookは、これまでのコンピューティング環境を大きく変化させることになります。スマートフォンやタブレットに対して限界を感じてしまった人が、従来のノートPC以上に持ち運んだ利用に適したUltrabookにより、PCの新たな可能性を認識することができます。

 これからは複数のデバイスを所有するユーザーが増えるでしょうから、NECが得意とするPCとスマートフォン、タブレット端末との連携提案も加速することになる。ここでは、NECグループ各社との連携も強化していきたいですね。

--ちなみに、NEC PCのUltrabookの投入はいつ頃になりますか。

高塚 まだ検討段階ではありますが、初夏のタイミングでの市場投入になりそうです。もともと、レノボとの合弁の効果が製品に反映されるには、新製品の開発期間から逆算して約1年かかるとお話しをしてきましたが、Ultrabookはそのタイミングで市場投入できるものと考えています。ここでは、レノボが持つ技術も製品に反映していきたいと思っています。

●2012年は挑戦の1年に

--2012年のNEC PCは、どんな点に重点をおきますか。

高塚 NECパーソナルコンビュータは、新たな提案をしていく会社であること、イノベーティブな会社であるという印象を作り上げたい。その点では、まさに挑戦の1年になります。

 たとえば、Ultrabookにしても、各社が同じカテゴリの中で、数々の製品を投入することになります。しかし、いくつかのUltrabookの中でも、NECのUltrabookは必ずチェックしておかなくてはならない、あるいはちょっと見てみたくなる製品だ、というポジションを作り上げたい。これはテレビPCやタブレット端末でも同様です。

 そして、クラウドアプリケーションと連動した新たな提案もしていきたいですね。基本となるのは、使用者に立脚したモノづくりです。この軸をブラさずに製品を提供していきたいです。

 また、日本のお客様が望むクオリティを実現した製品を投入しつづけていきます。安心・簡単・快適では、2011年は、とことんサポートPCを投入しましたが、これも継続的に展開していきます。

 2012年は、レノボとの合弁の成果もさらに拡大する1年となるでしょう。共通的に活用していく技術も多くなりますし、とくに、NEC PCの立場からみれば、レノボが持つHDDの高信頼性技術「ハードディスク・アクティブ・プロテクション・システム」や、高速起動が可能な「ラピッド・ドライブ」技術などは大変魅力的です。2012年の秋冬モデルで、こうした成果が数多く出てくることになるでしょう。2012年は、サポート体制の強化から、次は製品レベルでの合弁成果へと発展することになります。

 さらに、人材の交流も積極化させたいです。NEC PCの米沢事業場の技術者と、レノボの大和研究所の技術者との連携も増えていくことになります。2012年は、UltrabookやWindows 8の登場も見込まれる1年となり、PC業界そのものが注目を集める1年になります。その中で、NEC PCのポジションをしっかりと確立したいと考えています。