■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
2011年7月1日付けでスタートしたNECパーソナルコンピュータ。レノボとの合弁によって、NECパーソナルプロダクツから社名を変更するとともに、国内向けPC事業に特化した組織へと転換。レノボのグローバルに展開する調達力を生かしたモノづくりがいよいよスタートすることになる。NECブランドのPC事業はなにが変わり、なにが変わらないのか。そしてこの1カ月の取り組みは、どんな成果となって表れているのか。NECパーソナルコンピュータの高須英世社長(以下、敬称略)に、新体制スタート1カ月の取り組みを聞いた。
--NECパーソナルコンピュータがスタートしてから1カ月を経過しました。この1カ月間はどんな活動をしていましたか。
NECパーソナルコンピュータの高須英世社長 |
【高須】7月1日には群馬事業場、米沢事業場を1日で回り、さらに土日を挟んだ7月4日には、東京・大崎の本社において、社員に対して今回の新会社の意図を改めて説明をしました。それぞれ約45分間に渡って説明をしたわけですが、ここではレノボという会社がどういう会社であるのかということ、また、商品企画、開発、調達、生産、営業、マーケティング、サポート体制のすべてにおいて、これまでの体制を維持することを改めて説明しました。さらに、その後は、販売店様へのご挨拶や、NECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンの社員によるキックオフミーティング、そしてバルセロナで開催したレノボグループの先進国ビジネスを担当する世界規模のミーティングへの出席といった活動を行なっていました。
販売店様からは、数多くの期待の声をいただいています。私は、レノボの力を加えることで、レノボ・NECグループで30%という圧倒的なシェアの獲得を目指すと宣言したわけですから、それに対する期待感が高まっていますし、2012年1月からは、使い方相談サービスを無償で提供することを発表するといったカスタマーサティスファクション(CS)の強化などにも評価が集まっています。量販店からは「NECのPCがさらに売りやすくなる」という声をいただいていますし、2011年からレノボのサポートをNECパーソナルコンピュータに移管することで、レノボのPCに対する評価も上がっています。また、コマーシャル向けPCに関しても、これまで取りこぼしていたような案件を獲得できるという歓迎の声がパートナーから出ています。海外に進出する日本の企業に対する販売強化に加えて、国内の入札案件ではどうしても赤字になるために参加できなかったようなものもあったわけですが、コスト競争力を備えることで、こうした案件にも参加できるようになります。
--品質低下を懸念する声はありませんでしたか。
【高須】7月1日以降も、生産体制や品質検査の体制にはなんら変更がありませんし、サポートに対してはむしろ強化する方向になっています。それは何度も説明を繰り返してきたことですし、今回の販売店様へのご挨拶でも改めて説明をさせていただきました。正直なことを言いますと、7月1日以前には、一部で「組織のインテグレーション」という言葉が出ていた時期もありました。購買や人事、開発といった組織において、統合することを検討していたようですが、NECがこれまで行なってきた国内ナンバーワンのシェアを維持している事業体制を尊重してもらい、そうした動きは一切なくなった。7月1日以降は、NECパーソナルコンピュータがレノボとは別の独立した形で事業を継続するという体制がより明確になったといえます。
--NECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンの社員によるキックオフミーティングではどんなことを社員に話しましたか。
【高須】キックオフミーティングは、7月14日に、御成門の東京プリンスホテルで開催しました。NECパーソナルコンピュータからはマネージャー以上の社員が約400人、レノボ・ジャパンからは約100人が出席しました。また、NECからも遠藤信博社長以下の経営陣が出席し、レノボからもヤン・ユアン・チンCEOをはじめとするエグゼクティブチームが参加しました。開発のトップであるピーター・ホテンシャス氏からは、米沢事業場が持つ技術に対する期待が述べられる一方で、スレートPCなどをはじめとする新たな技術に関して情報を共有することができました。参加した社員は、オープンで、風通しがいいレノボの風土を感じることができたと思います。私は、社員に対して、レノボとの提携を発表した2011年1月以降、NECのシェアはまったく落ちていないことを示し、市場の期待感が高く、いい形で新会社がスタートを切れたこと、そして、シェア30%に向けてお互いが協力できる体制が確立できたことを話しました。このミーティングは大変盛り上がりをみせましたし、お互いに一体感というものが生まれたと思っています。1つのグループとして、30%というシェア目標に挑むんだということを共有できた。7月14日を境にして、両社の関係はより緊密になり、ともに成長していくというベクトルが揃ったと思っています。
--NECパーソナルコンピュータの本社は大崎にありますが、実際のオペレーションは山形県米沢市の米沢事業場になりますね。高須社長も基本的には米沢事業場に常駐する形になります。最新情報の入り方が遅れたり、それが製品づくりにマイナスになる可能性はありませんか。
【高須】これまでは商品企画、営業が大崎にいて、開発、生産が米沢という体制でしたから、決して効率的ではなかった。これを米沢事業場に集約するという意味では効率化が図れることになります。営業部門は東京・池之端に拠点を置きますが、ここまではさすがに集約はできません。毎週の競合状況や市場の変化を的確に捉え、これをTV会議システムを使ったフェース・トゥ・フェースの仕組みによって商品企画や調達などに反映させます。それと、最前線のパートナーとの連携が必要な部分もありますから、資材、開発といった部門から、小規模ながらも人を大崎に残します。パートナーとの連携が薄れるということはありません。
--今回の合弁によって得られる最大のメリットは、レノボのボリュームのある調達力を背景にした収益力の改善といえますが、そこで得た資金はどう使いますか。
【高須】どれぐらいの改善ができるのかは完全に見えているわけではありませんが、収益力は確実に高まります。まずはこれをCSの強化に活用したい。これが一番力を入れたい部分です。社内の調査では、総合的な指標ではナンバーワンを維持していますが、一部には弱い部分もある。電話対応をするエージェントの質的向上はこれからも図っていきたいと考えていますし、もっと1人1人のユーザーに対して親身になって相談に乗ることができる体制を作り上げたい。また、CSというのはキーボードが使いやすいとか、筐体が熱くならないといったような製品品質からも評価されることになります。利用者から上がってくるこうした声を、商品企画部門や調達部門にもすぐに反映することも強化していきたいですね。
一方で、商品開発の面においても、収益力の向上によって得た資金を投入していきたい。これにより「安心」、「簡単」、「快適」を追求した製品を前倒しで投入していきたい。ここ数年、製品づくりだけに留まらず、営業、サポート部門においても、「安心」、「簡単」、「快適」という意識が徹底されてきています。これをさらに加速することができる。そして、製品の最終価格にも反映させたいと考えています。ただ、これはコンシューマ向け製品の最終価格が安くなるという点ではあまり目立たないかもしれません。先にも触れたように、コマーシャル分野における入札案件で、より幅広い案件に対応できるようになるといった点での効果が大きいと考えています。
--ちなみに、調達メリットは製品にすでに反映されていますか。
【高須】部品によって対応が異なっています。7月1日付けで調達コストに反映されているものもありますし、次期モデルから反映されるものもあります。現行の夏モデルでは一部部品において調達メリットが反映されていますが、秋冬モデルではかなりの部分で調達メリットが出てくることになるでしょう。また、レノボの技術を今度の秋冬モデルに反映するというところまでは至っていませんが、これは順次反映されることになります。とくに、EE(Enhanced Experience)機能は、早い段階でNECブランドのPCにも搭載したいですね。
--シェア30%の目標達成に向けてはどんな点がポイントになると考えていますか。
【高須】1つはレノボ・ジャパンの製品ラインアップとの組み合わせにおいて、無駄がない品揃えをすることです。ある部分では重複する部分もあるでしょうが、お互いにどこに重点ポイントを置いた製品づくりをしていくかを摺り合わせる必要があります。ただ、これもいくつかの考え方があります。例えばコンシューマ領域はNECが強いが、伸びしろを考えればレノボを強化した方がいいという見方もできる。ほぼ方向性は決まってきましたが、ここは、まだ議論を続けているところです。また、2つめにはやはりCSの強化がある。これはレノボ・NECグループの国内市場における最大の強みにしていきたい。安いだけでは、ユーザーは購入してくれませんよ。そして、最後に、新たな使い方を提案できるようなPCの創出です。デジタルワールドの時代において、新たな端末が登場している。より多くのユーザーに、多くの時間に渡って使ってもらうためのさまざまなデバイスを提供していきたい。「安心」、「簡単」、「快適」という軸からは決してブレることはなく、その上で新たな製品を提供したいと考えています。
--Androidを搭載した端末は、NEC本体で扱っていますね。NECパーソナルコンピュータはWindowsプラットフォームだけの製品を担当するメーカーだと捉えていいですか。
【高須】現時点ではそう考えていただいていいと思います。しかし、LifeTouch NOTEのような、NECブランドのAndroid端末をコンシューマルートで販売するとなると、NECパーソナルコンピュータの販売ルートを活用しなくてはならない。その点ではNECパーソナルコンピュータもAndroid端末を取り扱うことになります。また、今後はNEC本体がAndroid端末の開発を、NECパーソナルコンピュータに委託するということも考えられます。NECブランドのスレート端末をどうするのかといったことを考えた場合に、NECパーソナルコンピュータが一括して展開した方がいいという見方もできる。つまり、事業責任はNECにあるが、実際に、開発から生産、コンシューマ向け営業までをNECパーソナルコンピュータが担当するということも考えられわけです。Android端末に関しては、NECと一体となって取り組んでいくことになります。
--今回の合弁によって、NECパーソナルコンピュータはPC専業としての色合いをより濃くしています。競合他社がTV事業との組織の融合、携帯電話事業との組織の融合に取り組んでいるのに比べると、デメリットともいえる動きにならないかが懸念されますが。
【高須】もはやPC単独でビジネスができる時代を終わっていますし、デジタルワールドの中でいかに携帯電話やTVとの融合を図るかが重要であることは強く認識してします。その点で、PC専業という立場が強まるのは、今回の提携ではデメリットともいえる部分です。しかし、PC事業での生き残りを考えた場合、今回のレノボとの合弁は、最善の判断であった。これによって、決定的ともいえるほどに競争力がつくことになる。この競争力を確保した上で、携帯電話との融合、TVとの融合を図るという次の手を打ちたい。携帯電話では、NECパーソナルソリューションBUの中に、NECカシオモバイルコミュニケーションズがあります。同社も携帯電話単体だけのビジネスには限界があることを熟知している。NECカシオモバイルコミュニケーションズも、NECパーソナルコンピュータも競争力をつけた上で、お互いに「つながる」ための連携を図ることができるようになった。傍目からは、NECのパーソナルソリューションBUにおける連携が薄くなったように見えるかもしれませんが、時代の流れを捉えると連携せざるを得ない。むしろ、両社の連携は強くなったといえます。ただ、TVとの連携に関してはもう少し考えていかなくてはならないですね。
--海外事業についてはどう取り組んでいきますか。
【高須】海外に進出する日本企業に対しての提案とともに、NEC本体の海外ソリューション部門の商談において、NECブランドのPCが販売されるということはあるでしょう。しかし、海外市場を想定したPCの商品化に乗り出すつもりはありません。あとはNECパーソナルコンピュータが持つ要素技術がレノボブランドのPCに搭載されて、世界で利用されるということが考えられます。
--NECパーソナルコンピュータでは、今年度の出荷計画を発表していませんね。
【高須】具体的な数字は発表していません。ただ、コンシューマPC分野においては、前年比10%増を目指します。4月以降、この計画に沿った成長を遂げていますし、7月も同様の結果が出ています。この勢いをさらに加速させたいと考えています。