■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
パナソニックAVCネットワークス社ビジネスソリューション事業グループITプロダクツビジネスユニットの原田秀昭ビジネスユニット長 |
「パナソニックのPC事業は、レッツノートソリューション、タフブックソリューションといった領域に踏み出していくことになる」--。2011年7月1日付けで、PC事業を統括するITプロダクツビジネスユニット(ITPBU)のビジネスユニット(BU)長に就任した原田秀昭氏は、こう切り出した。軽量、長時間駆動、堅牢性、高性能という進化を遂げてきたLet'snoteシリーズは、引き続きハードウェアのさらなる進化に取り組む姿勢を示す一方、ハードウェアプラスアルファという新たな領域へと踏み出す宣言とも受け取れる。
そして、これまで3代続いた技術畑出身のBU長から、久しぶりに営業畑出身のBU長の就任となった点も、今後のLet'snote事業の舵取りを捉える上で見逃せないものだといえよう。そして、長年に渡って海外事業を担当してきた原田BU長の手腕は、海外事業のさらなる成長にも生かされるとの期待も集まる。原田BU長に今後のLet'snoteおよびTOUGHBOOKへの取り組みについて聞いた。
パナソニックのPC製品群 |
--2011年度は2ケタ成長の計画を立てていますね。上期におけるPC事業の進捗はどうですか。
原田 上期が終わるまであと1カ月ありますから、まだ最終的な結果をいえる段階ではありませんが、現時点では、ほぼ計画通りに進んでいるといえます。2010年度は、すべての地域で前年実績を上回り、国内および欧州では、リーマンショック後の低迷から強い回復が見られました。しかし、北米においては市場停滞の影響を受け、計画を下回る結果となったことが反省点といえます。これが2011年度上期に入り、欧州に加えて、北米、新興国でも2ケタ成長を遂げています。
国内については、Sシリーズの好調ぶりもあって、コンシューマ市場では前年同期比2ケタ増を維持しています。課題は、国内のコマーシャルビジネスですね。4~6月は東日本大震災の影響を受けて、企業の情報化投資が低迷し、ほぼ前年並みで推移しています。7~9月もほぼ同じ水準で推移しているところです。ただ、事業全体としては目標としている2ケタ増は達成できると考えていますし、元気も出てきている。通期の74万台という出荷計画についても、今のペースでいけば達成できるでしょう。
--上期が前年同期比2ケタ増の高い成長を遂げている要因を、どう自己分析していますか。
原田 国内では、モバイル性と高性能を両立したLet'snoteならではの特徴が市場に受け入れられ、なかでもLet'snote Sシリーズが個人、企業ともに高い評価をいただいています。さらに、Bシリーズ、Jシリーズといった新たな製品も注目を集め、Jシリーズでは、女性の購入比率が上昇していますし、Bシリーズでもここにきてユーザー企業との一括商談の話が進んでいます。Jシリーズを含めて、数千台単位での商談が始まっていますから、今後、これを成約へとつなげていきたい。
私は、さらに「運動量」を増やそうと思っています。運動量というのは、いわば顧客との接点を増やすということです。これまでは、当社のリソースの問題もあり、東京、名古屋、大阪という大都市圏での商談が中心でしたが、今年は北海道、東北、中四国、九州といった地域でも商談会を増やしています。もちろん、大都市圏においてもこれまで以上に深堀した顧客開拓を行なう姿勢を崩しません。これは、国内営業本部と一体化した活動が推進できるようになったことが大きい。そしてパートナーとの連携強化もこれを加速させています。
--9月9日から、秋冬モデルを順次投入しますね。今回の秋冬モデルの特徴はどんな点ですか。
原田 これまで当社が推進してきた高性能という特徴を、さらに加速するものとなっています。低価格路線に走る業界の流れとは一線を画し、秋冬モデルでは、CPUやメモリを強化し、Let'snoteの持ち味を徹底的に訴求していきます。さらに、ピークシフト制御ユーティリティをすべてのシリーズに搭載し、S10では16.5時間という長時間駆動との組み合わせによって、夜間電力の有効活用による電力ピーク時の省電力運用を可能としています。
9月9日より順次発売されるLet'snoteの秋冬モデル |
--秋冬モデルでは、15周年モデルも用意しましたね。
15周年記念モデルも発売されるLet'snote S10 |
原田 Let'snoteは、今年6月に発売15周年を迎えました。それを記念したモデルとして、128GBのSSDを搭載した製品を用意しました。現時点では限定数量とするのか、売り方をどうするのかといったことは最終決定していませんが、この15周年モデルは、Let'snoteが特徴とするモバイル環境における「高性能」を、徹底的に追求した姿だといえます。SSDの標準搭載のほかに、OSの起動時間は約12秒、重量は通常モデルより約40g軽くして1,300g、バッテリ駆動時間も約1.5時間長くなり、約18時間としています。出荷は10月14日からとなっていますが、私は9月からこれを持ち歩いて、多くの人に「見せびらかしたい」と思っていますよ(笑)。
--原田BU長は、3代続いた技術畑出身のBU長とは異なり、久しぶりの営業畑出身のBU長となります。また、海外事業を長年担当しており、その点でも歴代のBU長とは異なります。その経験は、今後のLet'snoteおよびTOUGHBOOKの事業戦略にどんな影響を及ぼしますか。
原田 誰から言われたというわけではないのですが、上層部が私に期待している役割は「持続的な高い事業成長に向けて、舵をとる」ということではないでしょうか。歴代のBU長によって、技術面で優位性を発揮できる体制は確実に構築できた。そして、今後も継続的に技術面からの進化を遂げることができる素地も整っている。来年に向けた新たな進化への動きもすでに始まっています。このベースの上で、次の成長をどう遂げるか、2ケタ成長を維持するためにはどうするか。強い商品を作り続ける一方で、さらなる成長に踏み出す体制、仕掛けという観点からの取り組みが必要だと考えています。
例えば、業界ごとにセグメント化したマーケティング戦略を立案するのも1つの手でしょう。お客様に対して、Let'snoteやTOUGHBOOKをソリューションという観点から、提案することも積極化したい。現在は、パナセンスを通じて、CPUやメモリといったスペックの変更や、天板カラーを変更するといったハードウェアコンフィグレーションサービスを提供していますが、クラウドとの組み合わせによる提案、中小企業が導入する際にもITサポートを提供するといった提案が行なえるような体制へと一歩踏み出したい。神戸工場のインフラの活用や、ビジネスパートナーとの連携によって、「レッツノートソリューション」、「タフブックソリューション」といった提案を進めたいと考えています。保守やサービスといった新たなビジネスを開始することで、ハードウェア+αという新たな収益源を創出していきたい。
--今後のLet'snote事業は、ハードウェアビジネスだけには留まらないというわけですか。
原田 今後、2ケタ成長を継続的に遂げるには、ハードウェア事業だけでは限界があります。ハードウェアの成長に、ソリューションというビジネスを加えることで、持続的な事業成長が可能になる。欧米でも、入札案件にはパナソニック自らが参加してほしいという要望が出ています。その際には、保守までを含めた提案をしなくてはならない。
サポートなどにおいては、パートナーとの連携といった手もありますが、パートナーとの共存共栄を前提にしながら、直接、パナソニックが出ていった方がメリットがある部分については、パナソニックが出ていくことになる。2012年度以降の事業計画のなかに、これを具体的に盛り込んでいくことになります。
Let'snoteおよびTOUGHBOOKが生産されているパナソニック神戸工場 |
--そのためには、パナソニックのITPBUの体制も大きく変化することになりますね。
原田 どういった形でビジネスモデルを変えていくのかという点については、まだ検討段階です。強い商品を継続するなかで、ソリューションという新たなビジネスへと踏み出していく体制を検討していきます。
--原田BU長は海外経験が長いですね。すでにPC事業では、過半数を海外売り上げが占めているようですが、さらに海外でのビジネスが加速することになりますか。
原田 海外ビジネスという点では、とくに欧米市場以外の国での展開がポイントになると考えています。具体的には、アジア・大洋州、中国、そして中南米ということになります。アジア・大洋州では、全社プロジェクトとして推進しているインドプロジェクトとの連動もありますし、市場の要求を考えれば、TOUGHBOOKを中心に事業を拡大していきたい。
また、中国では、Let'snoteとTOUGHBOOKの両面から展開していくことになりますが、特に、日系企業へ対応を強化したい。日本で導入しているのと同様に、中国、アジアでもLet'snoteを導入したいという日系企業のニーズがありますから、日本での信頼関係をベースにした展開を進めることになります。10月からは、海外における日系企業の需要に対応した組織を設置し、より戦略的に取り組みたいと考えています。また、中南米向けには、今年4月から北米地域からアプローチを行なう体制を作り、TOUGHBOOKを中心に展開をしていきます。
全社体制では、北米本部と中南米本部に分かれているのですが、ITPBUでは本部間をまたがる体制としました。日系の会社が中国やアジアに数多く進出しているように、米国資本の会社が中南米に進出するというケースが多いですから、北米での包括契約を背景に展開していくという観点から、北米本部から中南米市場をみる体制の方が適しています。
このように、海外でのビジネスを加速させていきますが、これは海外事業を優先的に展開するということではありません。私が長年海外ビジネスに携わってきたから、海外事業を加速するという考えは一切ありません。日本国内の事業も2ケタ成長を維持しながら、継続的に拡大していく。国内外の構成比は今後も変わらないのではないでしょうか。
--原田BU長が、ITPBUの事業運営において重視したいのはどんな点ですか。
原田 顧客との信頼関係を築くことに力を注ぐという姿勢は、これまでも、これからも変わりません。ただ、私はその点をさらに強化したいと考えています。昨日も欧州から帰国したのですが、フランスとイタリアのお客様を訪問し、1泊3日で帰ってきました。時間が許す限り、お客様のもとにお邪魔したいと考えています。
これまでのLet'snoteおよびTOUGHBOOKの成長を振り返ると、常にお客様からの意見によって進路が決まってきた。軽量、長時間という観点でお選びいただいたお客様から、堅牢性を強化してほしいといわれたことで、タフを追求した。モバイル環境でも高性能にしてほしいという要望をもとに、スピードを強化した。北米市場においてもお客様からの意見によって、TOUGHBOOKは進化を遂げている。お客様との信頼関係があってこそ、Let'snoteも、TOUGHBOOKも、進化を続けることができた。この姿勢は今後も変わりません。
もし2時間の会議であれば1時間10分に縮小すること、会議のための会議を無すこと、あるいは会議の資料の作成のための時間を最小化するといったことで、出来た時間を顧客接点の最大化につなげたい。これを実行するには個人の努力も大切ですが、それ以上に、上が仕組みをどう作るかが大切です。そこにBU長としての役割があると感じています。私は毎朝午前6時30分には出社しています。8時30分までにメールの処理や部下への指示を終わらせて、すべての段取りを終了させる。そうすれば、8時30分以降は人と話をする時間に使える。これも顧客接点の最大化につながる取り組みだといえます。
--ところで、15周年モデルは今後もいくつか投入されることになりますか。
原田 Let'snoteは6月に15周年を迎え、TOUGHBOOKは9月に15周年を迎えます。また、Let'snoteおよびTOUGHBOOKの生産拠点である神戸工場も、最初にワープロ専用機の生産を開発して以来、今年20周年を迎えました。15周年記念モデルは、今回のS10だけに留まらず、年度末に向けて新たな記念モデルの投入を考えていきたいですね。Let'snoteが新たなステージに入ったことを感じさせるようなものも用意したいと考えています。
神戸工場では20周年を記念して植樹を行なった | Let'snoteの15年間の歴史 | TOUGHBOOKも今年15周年を迎える |
--北米では、Androidを搭載したタブレット端末を発表し、2011年第4四半期の発売を予定していますね。Let'snoteおよびTOUGHBOOKでWindowsベースに限定したビジネスを行なっているITPBUが、Androidベースのタブレット端末を製品化することに対しては違和感があります。なぜ、Androidベースのタブレット端末を発表したのでしょうか。また日本での投入はどうなりますか。
原田 日本でも今後投入を検討していくことになります。確かにWindowsベースの製品をやってきたわけですし、Windowsベースのコンバーチブルタブレット型としてCF-C1や、ヘルスケア市場向けのCF-H1という製品もすでにあります。その点では、Androidベースのタブレット端末には違和感があるかもしれません。そして、これまでのLet'snoteおよびTOUGHBOOKのユーザーであれば、Windowsベースの製品にこだわる傾向が強い。しかし、市場の流れを見たときに別の考え方ができます。とくに北米市場においては、Android端末がBtoBの領域において注目を集め始めており、一気にAndroidが加速する可能性もある。そのときに慌てて開発をはじめても追いつかない。市場の変化を見た上で、先に石を置いておくという狙いが強いものです。
一方で、誤解がないように言っておきたいのは、Android搭載のタブレット端末は、AppleのiPadと競合するようなコンシューマ向けの製品ではないということです。ITPBUが製品化するのは、あくまでもBtoB市場であり、堅牢性を追求したモバイルプロフェッショナルのためのツールです。コンシューマ向けの製品はやるつもりはありません。この製品はお客様ととともに勉強しながら、育てていきたいと考えています。