■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
2010年度(2010年4月~2011年3月)は、下期の停滞感があったものの、総じてみると、PC市場にとっては好調な1年だったといえよう。
業界団体である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の発表によると、2010年度(2010年4月~2011年3月)の国内PC市場は、前年比9.7%増の1,043万8,000台。そのうち、デスクトップPCは、16.2%増の324万8,000台、ノートPCは7.0%増の719万台となった。
四半期ごとにみると、第1四半期が前年同期比23.9%増、第2四半期が同21.9%増、第3四半期が同13.2%増であるのに対して、第4四半期が10.6%減とマイナス成長になっているのが気になるところだが、前年同期のスクールニューディール政策による教育分野へのPCの大量導入があったこと、さらにIntelのチップセットの不具合に端を発した春モデルの出荷の遅れ、それに続く東日本大震災の影響による需要停滞が影響したものといえる。
2010年度の出荷実績(JEITA資料より) | 月別のノート/デスクトップ出荷台数(JEITA資料より) |
地デジチューナ搭載PCは、前年比77.8%増の105万台となり、そのうち、デスクトップPCが82.2%増の79万6,000台、ノートPCが65.3%増の25万4,000台と、書斎をはじめとする個室の地デジ化などにも寄与したといえよう。
なお、JEITAのPC出荷統計は、PCメーカー13社が参加する自主統計であり、日本ヒューレット・パッカードやデルなどは参加していない。
●国内PC市場は下期はマイナス成長に転じる調査会社であるMM総研の調べでも、国内PC市場の好調ぶりが浮き彫りにされる。
同社によると、2010年度の国内PC出荷台数は前年比4.7%増の1,456万5,000台。だが、上期は17.3%増の706万5,000台となったものの、下期は4.9%減の750万台とマイナス成長。同社では、「2009年度下期にあった政府プロジェクトによる学校特需の反動と、東日本大震災によるメーカー出荷の遅延および顧客の導入延期などで法人市場が前年を割り込んだため」としている。
流通ルート別では、個人向けルートが前年比6.8%増の737万台、法人向けルートが2.6%増の719万5,000台となった。個人向けPCはOS更新による買い換え需要が年間を通じて堅調だったことで過去最高の出荷台数を記録。一方で、法人向けは上期は前年比20.5%増と大幅な伸びを見せたが、下期は10.4%減と前年を大きく割り込んだ。
一方、2011年度は、前年比3.5%減の1,405万台の規模になると予測している。
同社では東日本大震災前には前年並みの1,455万台とみていたが、震災の影響で約50万台を下方修正した格好だ。
個人向けルートでは2.3%減の720万台、法人向けルートでは4.8%減の685万台になると予測。「個人向けでは夏商戦に向けて一部部品の不足などが懸念される一方、法人向けは上期は計画停電や業績悪化の影響からPCの入れ替えを先延ばしにする企業が増加し、下期に需要がずれ込むとみている」とした。
●国内主要PCメーカーもPC事業が拡大主要各社の2010年度業績からも、PC事業の好調ぶりが浮き彫りになる。
25周年記念で投入された東芝初の液晶一体型PC |
東芝は、PC事業の売上高が前年比3%増の9,174億円、営業利益は189億円増の101億円と黒字転換した。PC事業を含むデジタルプロダクツの売上高は前年比3%増の2兆3,286億円、営業利益は81億円減の132億円となった。
「PCは、米国、アジア、日本を中心に販売台数が15%増加し、金額でも3%増となった。営業利益は増収の影響と、継続的な原価低減活動、さらには原材料価格の下落などによって大幅に改善し、前年の赤字から、3桁の黒字化になった」とした。2010年度中には、ノートPC発売25周年記念モデルも投入しており、これもプラスに影響。2年連続で国内シェアで連続1位を達成したという。
2010年度におけるノートPC出荷実績は全世界で1,900万台。一方で液晶TVが1,400万台となっており、合計で3,300万台を出荷したという。
2011年度はPC事業で、売上高で前年比9%増の1兆円、営業利益は10%減の90億円を計画。デジタルプロダクツ部門全体では売上高が前年比9.5%増の2億5,500億円、営業利益は68億円増の200億円とした。
2011年度のノートPCの出荷計画は前年比16%増の2,200万台。TVの出荷目標である前年比29%増の1,800万台と加えて、4,000万台を目標とする。
2011年4月1日付けで、TVとPCの組織を統合したデジタルプロダクツ&サービス社を発足。共通プラットフォーム「SmartX」を活用することで、TVとPCの融合商品、サービスを創出する考えを示しており、グラスレス3D PC、フルセグタブレット、モバイルコンテンツビューワなどを2011年7月以降に投入する計画を明らかにしている。
富士通は、全世界のPCの出荷台数が、前年の563万台から4%減となる542万台となった。PCおよび携帯電話の売上高が3%増の8,425億円。計画に対しては124億円の未達となった。また、これらを含むユビキタスソリューションの売上高が0.5%増の1兆1,256億円、営業利益は44%減の226億円となった。営業利益の減少は携帯電話の開発費増加などが影響しているという。
裸眼3D立体視の液晶一体型PC |
PC事業では、前年に教育用PCの需要が増加したことによる反動や、製造工場の被災による操業停止の影響があったという。また、欧州のデスクトップPCは堅調に推移したが、米国およびアジア向けが伸び悩んだ。
一方で、海外PC事業では、前年に私的複製補償金に関する権利者団体との和解に伴う一時的な費用減少があり、営業利益において、この反動が見込まれたが、コストダウンや費用の効率化で補ったという。
2011年度の計画については、部材調達などの不確定要素や顧客のデマンドが見えないとして数値は公表しなかったが、同社の山本正己社長は、「PCや携帯電話は、ユビキタスフロントとして、富士通のソリューションの中で重要なポジションにある。PCは独自にグローバル展開を強化していきたい」などと語った。
ソニーは、2010年度のPCの出荷台数は、870万台となった。2月に公表した年間880万台には届かなかったが、それでも前年の680万台に比べると大幅な増加となった。
新筐体のVAIO P |
PCは全地域で販売台数が増加し、シェアが拡大。これによって、ネットワークプロダクツ&サービス分野の売上高を引き上げた。ネットワークプロダクツ&サービス部門の売上高は前年比0.4%増の1兆5,793億円、営業利益は前年の833億円の赤字から、356億円の黒字に転換した。なお、同部門にはPlayStation 3などのゲーム機ビジネスも含まれており、黒字転換にはPS3のハードウェアコストの大幅改善が寄与している。
ネットワークプロダクツ&サービス分野のうち、PC・その他ネットワークビジネスの売上高は3.6%増の6,947億円、営業利益は21.9%減の1,392億円となった。
PCの四半期ごとの出荷台数は、第1四半期が190万台(前年同期が110万台)、第2四半期が230万台(同140万台)、第3四半期が270万台(同230万台)、第4四半期が180万台(200万台)。第4四半期に前年割れとなったのは、Intelのチップセットの不具合問題と東日本大震災が影響した模様だ。付加価値モデルを中心に展開するソニーにとって、他社よりもチップセット問題の影響が大きかったともいえる。
2011年度の全世界の出荷目標は1,000万台と、同社PC事業において初の1,000万台到達を目指す。
中期的には富士通が1,000万台の出荷計画を掲げているが、ソニーが先に1,000万台到達に王手をかけた格好。1,000万台を突破すると、国内PCメーカーとしては、東芝に次いで2社目ということになる。
新興国における販売拡大と、新たなコンセプトの製品ラインアップの広がりが販売台数の拡大に寄与することになるという。インドではVAIO SHOPの展開を行なっているほか、地域ごとのマーケティング展開を進めていることも、新興国での販売に弾みをつけそうだ。
NECは、PCの出荷台数が前年実績の273万台から1%減となる271万台となった。
NVIDIA 3D Vision対応デスクトップ |
公共分野に強いNECにとって、前年のスクールニューディールの反動が見られたといえる。四半期ごとの出荷台数は第1四半期が約61万台(前年同期は50万台)、第2四半期が70万台(同58万台)、第3四半期が70万台(同69万台)、第4四半期が70万台(同96万台)となっている。
PCと携帯電話によるパーソナルソリューション分野の売上高は3.9%増の7,665億円となったが、営業損益は、208億円減の19億円の赤字転落となった。スマートフォンなど新端末の開発費用増と、既存携帯電話機の販売不振が理由だという。
NECの遠藤信博社長は、「PC事業においてはレノボ・グループとの戦略的提携により、海外に打って出る体制ができた」とし、2011年度はパーソナルソリューション事業は、売上高は前年比0.2%増の7,650億円、営業利益は169億円増の150億円を見込む。PC事業は、コンシューマPC事業が7月にも予定されているレノボとの合弁会社の設立により、非連結対象となるため、コマーシャルPCを中心とするNECにおける2011年度のPC出荷計画は120万台。また、コンシューマPCを対象とするNECパーソナルプロダクツの出荷計画は明らかにしていない。
NECによると、「2011年度は、コマーシャルPCで前年比で若干の減少。コンシューマPCで前年比横ばいを見込んでいる」とした。東日本大震災の影響によって、企業におけるPC導入予算の抑制などを織り込んでいる。
パナソニックは、PCを含むデジタルAVCネットワークが前年比3%減の3兆3,304億円、営業利益が32%増の1,149億円となった。
持ち運べるA4の新シリーズB10 |
全世界のPCの出荷台数は、前年比で2桁増となる64万台。そのうち、Let'snoteが35万台、TOUGHBOOKが29万台となった。
PC事業については、米国以外のすべての地域で前年実績を上回ったという。
2011年度は、前年比15.6%増となる74万台の出荷を目指すという。Let'snoteおよびTOUGHBOOKの発売から15周年を迎える節目の年になることから、大幅な成長を目指す考えだ。
海外のPCベンダーからも最新四半期の決算が発表されている。
中でも好調なのはAppleだ。
2011年1月~3月の同社第2四半期の売上高は過去最高となる246億ドル、純利益も過去最高の59億9,000万ドルとなった。iPhoneやiPadの好調ぶりが取り上げられるAppleだが、Macintoshの販売台数も同四半期だけで376万台を販売。前年同期比28%増となった。なお、iPadも469万台が販売されている。
スティーブ・ジョブズCEOは、「売上高が83%アップ、利益も95%アップとエンジン全開。今年も最後まですべての面で革新を続ける」とのコメントを発表している。
日本におけるMacintoshの販売台数は、前年同期比20%増の15万5,000台。販売金額は56%増の13億8,300万ドルとなっている。
●コンシューマ向けPCが減速するHP、Dell、AcerPCで世界最大の出荷規模を誇るHewlett-Packard(HP)は、2011年度第2四半期 (2011年2~4月) 決算において、PCを担当するPersonal Systems Group (PSG) 部門が、前年同期比5%減の94億1,500万ドル、営業利益は14.6%増の5億3,300万ドルとなった。営業利益率は5.7%となった。
ノートブックPCの売上高は前年同期比9%減の50億3,900万ドル、デスクトップPCは前年同期比4%減の36億4,100万ドル、ワークステーションが前年同期比28%増の5億4,100万ドルとなった。
一方、プリンタを担当しているImaging and Printing Group(IPG)部門は、売上高が5%増の67億4,500万ドル、営業利益は4.2%増の11億4,400万ドルとなった。
また、Dellが発表した2012年度第1四半期 (2011年2~4月)の決算は、売上高が前年同期比1%増の150億1,700万ドル、純利益は177%増の9億4,500万ドルとなった。
だが、これらは企業需要の成長に支えられたもので、コンシューマ向け事業の売上高は、前年同期比7%減の30億ドル、営業利益は1億3,600万ドルとなっている。
IntelのSandy Bridge搭載PCの販売の遅延が影響する一方で、ラインアップを再編したXPSシリーズや、付加価値が高いAlienwareシリーズが好調で、営業利益が改善傾向にあるという。
台湾Acerの第1四半期(2011年1~3月)連結決算は、前年同期比21.2%減の1,277億9,900万台湾ドル(約3,600億円)、純利益は64%減の11億8,500万台湾ドル(約30億円)となった。
低価格ノートPCの販売不振や、欧州地域での販売低迷などが影響しているという。
一方、中国Lenovoが5月26日に発表した2011年度通期(2010年4月~2011年3月)の売上高は前年同期比30%増の215億94,37万ドル、純利益が約2.1倍の2億7,323万ドルとなった。
2011年度第4四半期(2011年1月~3月)の売上高は前年同期比13%増の48億8,000万ドル。純利益は前年同期比約3.2倍にあたる4,200万ドルとなり、大幅な成長を遂げている。
第4四半期の売上高は中国市場では前年同期比12.3%と2桁増になったのに加えて、新興国でも前年同期比14.2%と成長。また、欧米、日本、オーストラリア、ニュージーランドといった成熟市場においても13.4%増となり、すべての市場で前年同期比2桁増になっている。
Appleを除き、日本のPC市場においては、半期ごとの成長率が3半期連続で、最速の成長を遂げているという。
「2011年1月のNECとPC事業での戦略的提携関係を発表。7月上旬には合弁会社を設立する予定であり、日本市場において、さらなる攻勢をかけていく」としている。
Hewlett-PackardとDell、Acerの上位PCメーカーのいずれもがコンシューマ向けPCの減速ぶりが相次ぐ中で、レノボの成長が際立ったといえよう。