大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

世界初、PCとTVの融合組織はどんな製品を生むのか?
~東芝・デジタルプロダクツ&サービス社の大角社長に聞く



 東芝は、2011年4月1日付けで、社内カンパニーであるデジタルプロダクツ&サービス社を発足した。

 従来、PC事業を担当していたデジタルプロダクツ&ネットワーク社と、TVやBDレコーダなどのデジタル家電事業を担当していたビジュアルプロダクツ社を統合し、発足した新組織。東芝の執行役上席常務であり、デジタルプロダクツ&サービス社社長を務める大角正明氏は、「TVとPCの融合を加速し、新たなデジタル市場を創出する商品展開を行なう」とする一方、「TVやPC、タブレットと連携したサービスをいかに加速させることができるかが鍵になる。頭の中の半分はサービス事業に使いたい」と語る。そして、過去20年以上、東芝社内で続いてきた商品別事業部門体制を崩し、横断型商品統括部門を新設。地域別事業体制を軸とした展開を開始するという点でも、大角氏の手腕が試される。PCとTVの融合組織は世界初の取り組みでもある。

PC事業とTV/レコーダ事業を統合

 デジタルプロダクツ&サービス社の狙いと製品戦略、今後の方向性について、デジタルプロダクツ&サービス社・大角社長と、同カンパニー営業統括責任者の檜山太郎氏に話を聞いた。


--2011年4月1日付けで、TV事業とPC事業を融合した「デジタルプロダクツ&サービス社」を発足した狙いをお聞かせください。

大角 東芝の事業体制を振り返りますと、少なくとも20年以上はプロダクトオリエンテッドな組織体制となっていたわけです。これをどこまで壊せるのか。壊したあとになにができるのか。それが求められている組織が、デジタルプロダクツ&サービス社だといえます。新体制の中では、TVとPCの横断型商品統括部門を新設しました。これによって、双方の技術やノウハウを生かした製品づくりが可能になります。

 その一方で、地域別事業体制を敷き、「日本地域担当」、「北米・欧州・豪州・ロシア・中南米地域担当」、「アジア・インド・中近東・アフリカ地域担当」、「中国地域担当」といったそれぞれの地域別事業部門が、それぞれの地域において、どんな要求があるのか、どんなものが求められているのかといったことを吸い上げ、地域密着型のスピードを持ったマーケティング、販売活動を図ることになります。これまでのPC事業で培ってきた調達力、ODMを管理する能力、少数精鋭による開発体制などのコスト構造においても優位性が出せる組織てあり、軽さとスピードが新たな組織の武器になると考えています。

●技術の完全統合にまでは踏み出さない理由とは

--組織の融合というのは、どのあたりまで踏み込んでいるのですか。

檜山 4月1日から、TVとPCの商品企画部門を同じフロアに集め、双方の社員が連動しやすいようにしました。TVとPCの技術がより融合した製品を開発する際に、プロジェクトとして双方の社員を集めて展開しやすくなりました。

大角 営業、マーケティングは、地域別という括りにしているわけですから、ここではPCとTVの融合型組織がすでに出来上がった。これらの地域別組織の役割は、地域ごとのニーズを捉え、商品開発や技術部門にフィードバックすることにあります。つまり、デジタルプロダクツ&サービス社の動きは、まず地域のニーズを吸い上げることから始まる。ここが起点です。そして、それを横断型の組織が持つノウハウを生かして、できる限りPCやTV、BDレコーダといった枠を越えた形で製品化すること、同時にサービスを創出していくことになります。言い方を変えれば、地域ごとに異なるニーズに対応し、それぞれの地域で、どういうコンテンツを、どういう端末に対して配信していくかということまで考えていく組織体制となります。

 一方で、設計部門については、青梅事業所(東京都青梅市)にいるPC部門と、深谷工場(埼玉県深谷市)にいるTV部門とは、これまで通りで別々の体制をとっています。ただ、圏央道を使えば45分程度で行き来できる距離にありますから、物理的な移動を含めて、臨機応変に対応できる。また、将来的には、設計部門の融合も視野に入れる必要性も検討に入れています。すべてを統合するといったことはないにしても、青梅のエンジニアの一部を深谷に、あるいは深谷の一部のエンジニアを青梅に異動したりといったことも考えていきます。設計部門におけるフレキシブル性を持たせることにはこだわります。ただ前提として、PCとTVは別の製品ですから、それぞれに切り分けた製品戦略を取ることには変わりません。量販店では売り場が違うわけですし、仕入れを担当するバイヤーも異なる。しかし、技術的にはかなり共有できる部分がある。この領域において、一緒になることでのシナジーを出していきたい。

--なぜ、技術部門の完全統合には踏み出さないのですか。

大角 もともと生い立ちが異なる技術部門、設計部門です。青梅のエンジニアの平均年齢は30代であるのに対して、深谷のエンジニアの平均年齢は40代。ざっくりと10歳ぐらいの差があります。感性も違うし、やってきたことも違う。この同質化を図るのは、極論すれば無理だと考えています。ただ、融合製品の開発については、開発者1人1人が能動的に壁を壊していく意識を持つこと、そして仕事のやり方を変えていことが必要です。今、PCとTVの間に大きな壁があるのは確かです。今回の新たな組織の中で、最もサイロが高いのは、営業、生産、調達ではなく、技術部門です。この高いサイロは2年経てばかなり崩れるでしょう。ただし、技術部門のサイロは全部潰す必要はない。例えば、半分の人たちは、融合製品のところをやってもらい、あとの半分の人たちはTVのところ、PCのところといった専門性を追求してもらうことになるでしょう。

--TVとPCの技術部門は、水と油のような存在なのでしょうか(笑)。

大角 TVとPCは、本質として違う製品ではあるものの、使い方という観点を考えると共通項も多い。例えば、ネットワークを介在したサービスを利用するデバイスという点では共通項があります。しかも同じサービスを双方のデバイスで利用するといったこともこれからは増えてくるでしょう。もし、「水と油」という表現を用いるのならば、それを混ぜ合わせる役割を果たすのが、商品企画部門だといえます。商品企画が出した次代の製品コンセプトを具現化するには、TVとPCのエンジニアが一緒に仕事をやる必要がある。次の製品を開発するためには双方の技術ノウハウの融合が必要になります。

--PCとTVの技術融合という点では、約10年前に、青梅事業所のPC開発部門に、映像部門の技術者などを集結させ、PCとTV、携帯電話の融合型製品の創出に乗り出したことがありました。この時との違いはなんでしょうか。

檜山 一言でいえば、「ネットワーク」ということになります。当時は、3,000人のエンジニアを青梅に集結し、PCにおいてTVの視聴が可能な製品を開発することに成功しました。その成果は、現在でもQosmioシリーズとして展開し、東芝のPC事業の大きな差異化につながっています。このときには、双方の技術者の連携によって、TVチューナ機能を名刺サイズにまで縮小させ、PCに搭載することが可能になりました。ただ、あくまでも単体製品の中での融合だったといえます。今は、それぞれの製品がネットワークでつながり、その中での利用提案が求められています。ネットワーク時代の新たな組織としての融合が、今回のデジタルプロダクツ&サービス社ということになります。

4月20日の発表会グラスレス3DノートPCREGZAタブレット

大角 CPUの性能やパネルの性能などを最大限に高めるといった、個々の製品に求められる技術要素の進化はこれからも追求していくことに変わりはありませんが、これをあらゆる製品に広げていくということになります。例えば、2010年末に、グラスレス3D TVを発売しましたが、これを2011年6月には、グラスレス3DノートPCに展開、今年(2011年)秋にはタブレット端末にもこの技術を展開し、さらに本命となる大型TVでも展開していくことになる。こうした技術の広がりが、あらゆる形で表面化してくることになります。

檜山 設計という点では、PCとTVの構造が近づいてきており、基板も共通化しています。この流れは、東芝の強みが発揮できる環境になってきたというこもできます。例えば、小型化という点では東芝はどこにも負けない。こうした技術も東芝らしさの実現につながる。あらゆるデバイスのインターフェイスを統一した環境のもとで提案することも可能になります。

●社名に冠した「サービス」に込めた意味とは

--カンパニー名をデジタルプロダクツ&サービス社としたわけですが、ここで「サービス」という言葉を使った理由はなんですか。

大角 先ほど触れたグラスレス3D技術も、各種デバイスに展開するだけでなく、その上でどんな楽しみ方ができるのか、どんな美しい映像を見ることができるのかということが重要になってきます。ハードとソフト、サービスの結合といったことがますます重視される。東芝自身は、コンテンツを持ってはいません。しかし、ネットワークサービスは東芝独自の提案として注力していく考えです。すでに、東芝プレイスやRegza Apps Connectというサービスも開始しており、東芝のハードで、東芝のサービスを利用すると、こんなに面白いことができるという提案が、「東芝らしさ」の創出につながるとともに、最大の差別化になるといえます。

 機器同士がつながればつながるほど、何を楽しむか、どんな楽しさを提供できるかということが重視される。

 東芝は、デジタル分野において、上から下まで製品を取り揃えている。ここまでデバイスが揃っているメーカーは、グローバルにみても少ないのではないでしょうか。

 東芝は「これまでサービス事業では失敗の繰り返し」と言われますが、それを恐れずに、改めて挑戦してみたいと考えています。

 そこに東芝のハードウェアの魅力が生まれるはずですし、メーカーの意地、東芝ブランドの意地がある。アップルワールドや、サムスンワールドとは異なる東芝ワールドを作り上げたい。

--サービスに対しては、どれぐらいのリソースを投入しますか。

大角 キャッシュをどのぐらい投入するのか、エンジニアリングリソースのどれぐらい割くのかといったことは現段階では明確にはできません。また、東芝グループとしてどこまでやるのか、M&Aに踏み出すのかといった点でも明確なことは言えません。もしかしたら、サービスを強化するために1つの会社を設立するといったこともあるかもしれません。一方で、すでにReal Dとは、英国ロイヤルオペラハウスによる世界初の3Dオペラの映画化において連携し、今後も3D映像コンテンツの普及に向けて協力関係を築いていきますし、凸版印刷とも電子書籍ストア「ブックプレイス」において連携しています。こうした連携はこれからも増えていくことになるでしょう。

 現時点でサービスに対して事業構造の半分を占めるリソースを持っているわけでもありませんし、それだけ投資をしているわけではない。しかし、極端な言い方をすれば、私が考えていることの50%ぐらいはサービスに対するものになります。製品とサービスに対する姿勢は50対50。デジタルプロダクツ&サービス社という社名が示すように半分はサービスです。問題は、ハードウェアでガチガチだった東芝社員の頭の中をどう変えていくということになりますね(笑)。

●TVとPCの融合製品は2011年秋には投入する

--大角社長は、デジタルプロダクツ&サービス社の社員に対してどんなことを言っているのですか。

大角 最も強く言っていることは、「早く商品を出せ!」ということです。TVとPCの融合製品をいち早く投入して欲しい。これが最初の成果だからです。2013年度に、TVで2,500万台、ノートPCで3,500万台の合計6,000万台の出荷を目指すという数値目標を掲げていますが、これは、TVとPCの出荷台数を積み上げた数字であり、融合製品が出ても出なくても達成しなくてはならない数字。この数字の意味するところは、TVもPCもボードを作るという点では変わりがありませんから、年間6,000万枚の規模でボードを生産し、それにあわせてSCMを回すことで、大きな経済的効果を得ることにすぎません。結果的な数字であり、デジタルプロダクツ&サービス社が目指す本質的な目標ではない。本質は、デジタルプロダクツ&サービス社から創出される、東芝らしい融合製品の投入ということになる。東芝の技術を使った東芝らしい製品を世の中に送り出して、新たな市場コンセプトを作り出していくことが大切です。

 TVという観点では、スマートTVがこれから注目を集めることになります。スマートTVの実現には、インターネット機能などをTV向けにしっかりと作り込むことが必要です。しかも、日本で求められるスマートTVと、米国、欧州、新興国でそれぞれに求められるスマートTVの形は違ってくるでしょう。TVは地域によって差が出やすい製品ですから、そのあたりを考慮する必要がある。「東芝が出すスマートTVはこれだ!」というものを投入したいですね。

檜山 商品会議では、TV、PC、BDレコーダの社員が参加しています。最初はなかなか会話がつながらない状況ですが(笑)、お互いの立場に関係なく、ユーザーは、どういった製品が必要なのか、融合することでユーザーにどんなベネフィットを提供できるのか、という観点から活発なやりとりが行なわれています。ここに他社にないアプローチがあります。

--PCのエンジニアに対してはどんなことを要望していますか。

大角 いや、PCのエンジニアにこそ、スマートTVを考えてほしいといっているんです。スマートTVは、TVという製品でありながらも、PCやネットワークを入れた込んだものになります。そこに、サムスンやアップルにはできない東芝ならではのスマートTVの可能性がある。体制としては、TVの商品企画や設計の中に、PCの人たちが入ってくるという考え方もあれば、PCの人たちをベースにして、TVの思想を入れるというやり方もある。いずれにしろ、PCの開発部隊にこそ、スマートTVを考えてほしいというのが私の本音です。

●秋の融合製品の投入を「こうご期待」

--合格点に達しそうな商品企画は生まれていますか(笑)。

大角 それは、こうご期待です(笑)。

--いつまで待てばいいですか? (笑)。

大角 今年(2011年)秋までには明確にします。4月20日の発表では、REGZAブルーレイを進化させた「REGZAサーバー」を商品化することや、世界初のグラスレス3DノートPC、大画面のグラスレス3Dレグザ、タブレットを製品化することを発表しました。この中で発表しなかった新たな融合製品も考えています。ですから、こうご期待というわけなんですよ(笑)。

 欧州のIFAではどこまで出せるかという点で微妙な部分もありますが、CEATECでは、日本の市場において、東芝が何をするのかということを、具体的な製品展示として示します。そして、そこで発表する融合製品は、すぐに発売するものになります。単なるショーモデルではなく、すぐにお手元にお届けできるというインパクトを持ち、迫力がある形で発表する予定です。また、2012年1月のCESでも米国市場に対する提案を行ない、2012年の早い時期には、インドやインドネシアといった新興国市場向けの製品提案を具体化し、東芝のブランドを全世界で高めていきたい。それぐらいのスピード感で製品を投入していきます。

●dynabookの戦略はどうなるのか?

--一方で、今後のdynabookの製品戦略はどうなりますか。デジタルプロダクツ&サービス社という組織の中では、必然的にBtoC色が強く出そうな感じがしますが。

大角 BtoCとしては、家で利用するPCとはどんなものなのかという、いわば原点回帰の観点から改めて考えていくつもりです。スマートTVとタブレットがあれば、PCを代用できてしまうという考え方も一部にはありますし、そうした中で、家の中でPCそのものをどう使うのかといったポジションも考えなくてはならない。REGZAワールドでは、新しいTV、新しいタブレット、新しいPC、そしてREGZAサーバーのようにものもある。さらに、富士通と進めているREGZA Phoneとの連携も含まれます。また、そこにRegza Apps Connectを含めたソフト、サービスの仕掛けも必要。その提案も、日本での提案とは別の形で、米国、欧州、新興国の提案を考えなくてはなりません。

--BtoB向けのdynabookは、REGZAワールドの中から離れるようにも見えますが。

大角 今の段階では明言できるものはありませんが、BtoBに関しては、秋までにはもう少し明確に方向性を出していく必要があると感じています。dynabookは長年に渡って、BtoBとBtoCの双方の製品ブランドとして受け入れられていますし、東芝ノートPC=dynabookというイメージは、日本のユーザーには深く浸透しています。この実績を活かした上で、新たなサービスを加えたブランディングしていく必要もあるでしょう。今、東芝プレイスというものがありますが、例えば、REGZAプレイスといった場合には、何をもっていうのか、どの機能までを含めていうのかということも、1つのブランディング戦略の中で考えていきたい。いま、デジタルプロダクツ&サービス社の中で、BtoBとBtoCをやっていますが、ソリューションを含めたBtoBの提案をどうするのか。個人的意見ですが、東芝として、1年以内になんらかの再編をする必要があるのではないかと考えています。

●2011年度はTV、PCともに黒字化維持へ

--2010年度の業績発表では、TV事業の黒字維持に加えて、PC事業も黒字転換しました。2011年度の事業計画はどうなりますか。

大角 2011年度の事業計画では、TVは年間1,800万台、PCは年間2,200万台の販売を目指します。TV事業では、前年の1,400万台に比較して29%増となる台数成長ですし、ノートPCは前年の1,900万台に対して、16%増となる成長率です。市場全体の成長を遙かに越える成長率になる計画ですから厳しい事業目標だといえます。

 日本の状況をみますと、4月、5月の販売実績は、前年を上回っており、我々の想定よりも売れているという状況です。TVは前年同期比50%増以上、BDレコーダは70%増、PCが15%増というのが市場全体の動きです。特に東北地方では、3月11日以降は、買うという状況ではなかったものが、ここにきて急速に需要が回復している。一方で、北米は計画並に推移していますが、欧州ではTVもPCも厳しい状況にあります。数値目標の達成も重要ですが、最も大事なのは、黒字を継続すること。これは必達目標としてやっていきます。

 ただ、震災の影響が、今後、どんなところに出てくるのかがわからないというのも実状です。部材不足に関しては、4~6月は顕在化しないとはみていますが、7月以降は見えていない部分もあります。こうしたことも踏まえて事業を推進していく必要があるでしょう。いずれにしろ、新たな組織として、積極的な成長戦略を描いていくことは明らかだといえます。まずは秋の新製品に期待していてください。