■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
ソニーは26日、2011年秋以降、タブレット端末「Sony Tablet」(ソニータブレット)を全世界で発売すると発表した。9.4型ディスプレイを搭載し、リッチメディアエンタテインメントを提供する「S1」と、5.5型ディスプレイを2画面搭載するモバイルコミュニケーションエンタテインメントを実現する「S2」(いずれも開発コードネーム)の2製品だ。両製品ともAndroid 3.0を搭載し、Wi-Fi機能やWAN機能を搭載することで、Webブラウジングやメール、ビデオやゲーム、電子書籍などを楽しむことができる。
また、同社では、Ultimate Mobile PCやFreestyle Hybrid PCの製品化計画も明らかにした。
Sony Tabletはどんな方向性を持った製品なのか。そして、Ultimate Mobile PCやFreestyle Hybrid PCとはどんな製品になるのか。ソニー 業務執行役員SVP兼コンスーマープロダクツ&サービスグループ デピュティプレジデントの鈴木国正氏に聞いた。なお、インタビューは共同で行なわれた。
--今回発表したタブレット端末は、VAIO Tabletでもなく、BRAVIA Tabletでもなく、「Sony Tablet」という名称にしました。この狙いはどこにあるのですか。
ソニー 業務執行役員SVP兼コンスーマープロダクツ&サービスグループデピュティプレジデントの鈴木国正氏 |
【鈴木】今回の製品は、ソニーのネットワーク系製品として、象徴的なものになるだろうという認識を持っています。ですから、あえてサブブランドをつけずに「SONY」を前面に出しました。製品の筐体に書かれるのも「SONY」という文字だけになります。Sony Tabletは、サブブランドとしての色をつけずに、ソニーが目指す大きな方向性を示す製品であると捉えてください。ソニーが持っている資産をすべて生かすことができる製品であり、ソニーらしさを一番表現する製品が、このSony Tabletだといえます。ソニーの全部が詰まっている製品、あるいは、ソニーユナイテッドコンセプトの製品がSony Tabletとなります。
--Sony Tabletの開発体制はどうなっていますか。また、いつ頃から開発を始めたものですか。
【鈴木】ソニーには、もともと3つのタブレット端末の開発プロジェクトがありました。「種」という部分にまで遡ると、約2年前から開発を始めています。これを、今回発表したS1、S2の2つの製品に集約し、具体的な製品化を開始したのが1年ほど前になります。開発は、コンスーマープロダクツ&サービスグループの中にある、VAIO & Mobile事業本部が担当しています。3つのプロジェクトを集約したわけですから、さまざまな経験を持った人が参加しています。VAIOの開発に長年携わってきた人もいれば、ソフトウェアやネットワークサービスに携わってきた人など、さまざまな経験を持った人たちの混成チームとなっています。一方で、生産拠点については開示していませんが、ありとあらゆる角度から吟味して、競争力がある作り方をしていきます。
--鈴木業務執行役員SVPは、開発チームにどんなことを言ってきましたか。
Sony Tablet S1(左)とS2(右) |
【鈴木】最も重要なことは、「これからの時代を象徴する製品を開発する」というモチベーションを持ち、取り組んできたということです。積み重ね型でハードウェアを作り込んでいくのではなく、その上で、ユーザーになにをしてもらいたいのか、動くアプリケーションはどんなものになるのか、ユーザーの使い勝手はどうなるのかといったことを先に考えた製品です。つまり、開発の根底にあるものが、今までとはまったく違う考え方なのです。「スペックシートで勝つ」製品づくりではなく、「顧客体験」で勝つ製品にすることを目指している。ハードとソフト、サービスが一体化して提供できる顧客体験とはなにか。そうしたことを実現できるチームが開発に取り組んでいます。「未体験の体験ができる製品」。これがSony Tabletの目指すところなんです。
--発表した製品が2モデルとなったのはどうしてですか。
【鈴木】9.4型ディスプレイを搭載した「S1」は、使い方についてもある程度、想像がつくでしょう。一方で、5.5型ディスプレイを2画面搭載した「S2」は、スマートフォンの大きさでもなく、それでいてポケットやバックにも簡単に入る。さらに、2画面表示によって、大画面としての使い勝手の良さもある。これまでにはないアプリケーションも広がりが期待できる製品です。こうした製品は、ソニーが広げなくては、広がらないと自負しています。一部にはスマートフォンユーザーを取り込むという場合もあるでしょうが、新たな体験を提案していくためものであり、ソニーがこの領域の製品を投入することで、2画面タブレット端末としてのデファクトスタンダードができるとも考えています。
プラットフォームはGoogleのAndroid 3.0、そしてNVIDIAのTegra 2に共通化しています。2つの製品を投入するという点では工数が多くなっていいるように見えますが、プラットフォームでみれば、ワンチームで開発できる。使い方に想像がつくような1モデルだけを出しているようじゃ、ソニーじゃない(笑)。2画面のタブレット端末は、ソニーが十分チャレンジする価値がある領域だと捉えています。私は両方の製品を持って歩いてますが、2画面タブレツトト端末の魅力については、まさに未知数ですから、その分楽しみですね。
--なぜ、この時期に発表したのですか。また、2011年秋の発売は、今回の発表からはかなり先という感じがしますが。
「Uniquely Sony」の4つの柱 |
【鈴木】タブレット用のAndroid 3.0が2月から公開され、それからいよいよタブレット端末が数社から製品化が発表されています。もちろん、ソニーももう少し早く発表することもできました。しかし、ソニーが出すタブレット端末は、Androidという同じプラットフォームではありながらも、その上で実現される「Uniquely Sony」という4つの柱が大きな特徴となります。
4つの柱とは、「最適化されたハードェアデザインとソフトウェア」、「サクサクテクノロジー」、「ネットワークエンターテイメント」、「さまざまな機器との連携」です。それを実現するためには、どうしても数カ月の遅れが出てしまう。しかし、この4つが揃えば、競争力がある、顧客にも楽しんでもらえる、他社にはないものが出せると考えています。つまり、数カ月発表が遅れても、この4つの柱によって、強い競争力を保てると判断しました。これには自信がある。
一方で、この時期の発表となったのは、ユーザーからも「ソニーはタブレット端末をいつ出すんだ」という声が出ていたことが背景にあります。我々には、今出すことができる「絵」や「コンセプト」があるのですから、そうしたユーザーの期待に応えられるものを発表できる。さらに、2画面タイプのタブレットについては、サードパーティーに数多くの優れたコンテンツを開発していただきたいという思いもあります。発表して1カ月後に製品を発売というのでは、2画面を活かしたアプリケーションが揃わない。3~4カ月という期間が必要であるということも考慮しました。ソニーから、サードパーティーにSDKを提供していく中では、解像度、アスペクト比、画面サイズといったものを、ある程度固定した形で提案をしていくことになります。2画面を利用したユーザーエクスペリエンスについては、我々が気がつかないようなものをサードパーティーが開発してくれるはずだと期待します。
ユーザーエクスペリエンス中心型の製品は、常に進化をしています。まずは80で製品を出しても、サードパーティーのアプリケーションによって、100に到達し、さらに120にも、130にもある。2画面タブレット端末はそういう発想で進化させたいですね。
--東日本大震災によって、部品の調達に遅れが出るなどの影響はありませんか。
【鈴木】基本的には、当初の予定通りに推移しています。もちろん、電機業界、自動車業界、IT業界、通信業界のすべてにおいて、部品調達に影響が出ている。こうしたことも含めても、秋には、しっかりと全世界に対して製品を投入していくことができるだろうという認識でいます。
--価格設定はどうなりますか。
【鈴木】価格は、まだ未定です。ただし、市場投入する時点での最大の競合を意識した、競争力ある価格設定にしたいと考えています。
--ユーザーターゲットはどんな人たちになりますか。
【鈴木】まぁ、iPadを持っている人にもぜひ購入していただきたいですが(笑)、まだまだタブレット端末の市場はこれから広がることになります。ですから、市場参入が遅いとは思っていませんし、チャンスはたくさんあると考えています。「Uniquely Sony」の4つの柱のどれかに響いてくれる人たちがまずは買ってくれるでしょう。デザイン1つをとっても、見た目と偏重心の良さを感じてくれる人もいるでしょうし、ネットワークサービスでも、ソニーが提供するMusic Unlimitedのサービスは、他のAndroid端末にはないものですから、ここに興味を持ってくれる人もいるでしょう。
例えば、iTunesのライブラリと同期して、クラウド上に上げれば、Sony TabletからMusic Unlimitedを通じて、これらを聞くことができるようになる。この音楽体験が面白いと思ってくれた人はSony Tabletを選んでくれるはずです。一方で、液晶TVのBRAVIAをはじめとするDLNA対応製品との連動もできるようになりますから、この点で響いてくれる人もいるでしょう。こうしたソニーらしさというものを、提案してきたいです。
--企業ユーザーは対象にはならないのですか。
【鈴木】まずはコンシューマユーザーを狙っていきます。ただ、コンシューマに響く枠組みを持っていれば、SMB市場にも入っていけると考えています。VAIOは、もともと紫色のVAIOノート505で、VAIO事業をスタートさせましたが、その時にも明確にコンシューマ市場を狙っていました。だが、結果として、20、30台、100台というように導入する企業の事例が増えていった。Sony Tabletでも同じようなことが起こると考えています。あとはパートナーとの組み方や、ビジネスモデルによって、どう加速するということになるでしょう。
--事業規模はどの程度を考えていますか。
【鈴木】まだ価格が決定していませんから、事業規模に言及できるところには至っていません。ただし、市場競争力を持った、圧倒的に強い製品を投入していくという姿勢は変わらないですし、Android端末の中では、2012年度にはナンバーワンを目指していく。Android陣営として、Apple対抗軸を作ろうという動きはありますから、そこにおいて、ソニーはナンバーワンでありたい。
--3D対応は考えなかったのですか。
【鈴木】ソニーは、3D市場においてはリーディングカンパニーの立場にありますから、当然のことながら、3Dについても検討を行ないました。しかし、Sony Tabletは、3Dにして魅力的なものを提供するという選択肢よりも、高精細LCDを使用し、2Dですばらしい顧客体験を提供したほうが、ユーザーには適していると判断しました。ただし、常に3Dへの展開は考えています。
--最新のOSに追随していけるかどうかも気になるところですが。
【鈴木】発売までのこの数カ月で、仕様を変更しなくてはならないような大きなバージョンアップがあるというわけではありません。もちろん、バージョンの新しいものに追随していくという姿勢は当然です。今回の製品発表の場にも、Googleのモバイル担当上級副社長のアンディ・ルービン氏が登壇したように、Googleとはそれだけの関係をもって事業を推進しているということが分かっていただけると思います。顧客にとって、マイナスにならないような製品展開をしていきます。
--通信キャリアとの連携はどう考えていますか。
【鈴木】これからいろんな形で考えたいが、そこはまだ議論中です。量販店を通じた販売、キャリアとの連携などを含めたトータルのマーケティングプランとして、どうやるべきか。さまざまな組み合わせを検討しているところです。Sony Tabletのビジネスモデルは、ハードウェア、コンテンツサービス、通信サービスといったトータルでのビジネスを考える必要がある。ソニーのほかに、サードパーティー、プロバイダ、コンテンツホルダーなどが、どこで、どうやって収益をあげるかという組み合わせも数多い。それらをトータルで考える必要があります。
--一方で、今回、Ultimate Mobile PCやFreestyle Hybrid PCという新たなVAIOの製品化計画も明らかにしましたね。これはVAIO事業にとって、どんな意味を持った製品になりますか。
【鈴木】新たに発表したVAIOは、あくまでもWindowsをベースにした製品です。そして、VAIOらしさを追求したものです。先ほどタブレット端末で、3つのプロジェクトが走っていたという話をしましたが、残りの1つが、Windowsベースのタブレット端末であり、それを進化させたものが、Freestyle Hybrid PCになります。スライド型としたFreestyle Hybrid PCは、キーボードを搭載したPCとして利用しながらも、ディスプレイをスライドさせるとタブレット端末になる仕組みとなっている。この製品はいいですよ(笑)。ソニーは、VAIOシリーズでも新しいものを積極的に出していきますが、その意味でもFreestyle Hybrid PCは、象徴的な製品です。2010年度に比べると、今年は面白味のある製品がどんどん出てきますよ。ぜひ楽しみにしていてください。
ソニーが公表したVAIOの新たな製品となるUltimate Mobile PCとFreestyle Hybrid PC |