大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ラピン社長にレノボ・ジャパンの成長戦略を聞く
~第4世代ThinkPadは予想を上回る出足みせる



 日本におけるレノボの業績が上向いている。2009年第3四半期、第4四半期と2期連続で2桁成長を記録。業界で最も高い成長率を記録する一方、第4世代へと進化したThinkPadも、当初予想を遙かに上回る出足を見せているという。さらに、パートナー戦略の拡充にも積極的に乗り出しており、それにあわせた製品ラインナップの強化にも余念がない。「2010年のキーワードは『Fun』。パーフェクト10(10点満点)の1年にしたい」と語る、レノボ・ジャパン代表取締役社長のロードリック・ラピン氏に、日本におけるレノボ・ジャパンの事業戦略について話を聞いた。


--ラピン社長は今年に入ってから、「2010年はパーフェクト10(10点満点)を目指す」と宣言していますが、その前提条件として、2009年の自己採点は、果たして何点だったと。

レノボ・ジャパンのロードリック・ラピン社長

ラピン 10点満点中、8~9点といったところでしょうか。経済環境が悪化するなか、レノボ・ジャパンにとっては、いい1年だったといえます。日本のユーザーに最適化したプロダクトラインの拡充のほか、価格についても見直しを行ない、製品をより魅力的なものに進化させることができた。また、法人ビジネスを担当するハイタッチの営業体制を確立することもできた。このハイタッチの営業部門は、顧客のもとに直接お邪魔をしますが、最終的にはパートナーがビジネスを完結させる仕組みとする、パートナー支援チームです。こうしたパートナー指向の組織へと再編したのが2009年の大きな取り組みといえます。いわば、成長に向けた足場を確立できた1年でもあった。2009年第3四半期の成長率は対前年同期比35.5%増、第4四半期は46.6%増。業界ナンバーワンの成長を遂げています。これは、2009年初めから取り組んできた戦略が機能しはじめたことの証だといえるでしょう。

--ちなみにマイナスポイントはなんですか。

ラピン 厳しい目を持ち続けることが重要だからです。この業界は満足してしまうとそれで終わりです。レノボにとっても日本は大きな市場であり、まだまだビジネスチャンスがある市場。もっと改善しなくてはならない点がたくさんある。それらを捉えて、2010年は4つの施策を打ち出しました。まだまだスピード感が足りないと感じますから、もっと業務をスピードアップしなてくはならないし、オペレーションの効率化も目指す。また納期の改善や、パートナーとの連携を強化した形での一元化した在庫管理も必要です。2010年はパーフェクト10を目指すとしましたが、これは、ビジネスパートナーからレノボをみた場合にどうかという評価についてです。パートナーから選ばれ、お客様から選ばれるレノボにならなくてはならない。ただ、2010年が、どんなにうまくいったとしていも、私は結果として10点満点にはしないでしょう。それは、常に新たな課題に取り組む必要があるからです。

2009年にレノボ・ジャパンが行なったこと2009年の国内市場は大幅な成長率を記録した2010年はパーフェクト10を目指す

--1年前のレノボ・ジャパンと、今のレノボ・ジゃパンとはどこが違うのでしょうか。

ラピン 2008年10月に私が社長になったときに魅力に感じたのは、ThinkPadという優れた製品があり、それが大和という日本の拠点で開発されているという点でした。ここには優れたチームがおり、信頼性が高い、すばらしい製品を開発している。しかし、その「秘密兵器」を十二分に生かし切れているのかというと、やや不満な部分もあった。そのすばらしさをもっと積極的にアピールしていく必要があると感じたからです。そこで、「ThinkPad. Designed in Japan. Respected by the world.(ThinkPadは、日本で開発され、世界から尊敬されている)」というキャッチコピーを作り、社員全員のメールのヘッダーにこれを入れた。パートナーにもこうした伝統を改めて訴える活動を行ないました。

 また、エンドユーザーがThinkPad製品に直接触りにくい構造も問題だった。量販店に行ってもThinkPadをはじめとするレノボの製品に触れることが難しかったからです。これは、結果として、レノボのどの製品を選んだからいいのかというユーザーの混乱を生むことにもつながっており、これらの問題点を解決する必要があった。一方で、パートナーからもレノボは直販でやるのか、間接販売でやるのかという姿勢が明確に伝わっておらず、混乱を招いていたという点も大きかった。ですから、ビジネス全体を見直して、顧客はなにを求めているのか、パートナーに対してどんな提案が必要なのかということを改めて構築した。いまは、直販は一切行なわずに、100%がシステムインテグレーター、ディストリビューター、量販店といったパートナーを経由したビジネスです。

--ラピン社長から見て、大和の開発チームのモチベーションに変化はありますか?

ラピン 私は、今までで1番モチベーションが高まっている時期にあると感じています。四半期ごとに大和を訪れ、新たなデザインや新たな製品を見せてもらいますが、自信を持って開発に取り組んでいることが伝わってくる。日本においては、日経パソコン誌の調査で、ノートPCとしてはナンバーワンの顧客満足度を獲得することができましたし、この1年でThinkPadのシェアは確実に上昇している。中国をはじめとする新興国市場でも高い評価を得ている。そしてレノボ全体の売り上げも回復している。こうしたことが、自信につながっているのではないでしょうか。

--ThinkPadが第4世代へと進化しました。この狙いはなんですか。またその手応えはどうですか。

ラピン ThinkPadは、プレミアムプロダクツという位置づけであり、品質の高さが評価されている。だが、それに対する価格もプレミアムであった。ユーザーの要求を見ると、ThinkPadの品質、デザイン、信頼性を維持しながら業界他社の価格水準にすることができないだろうかという声がある。そうした観点から開発したのが第4世代のThinkPadです。シンプルであり、お求めやすい価格で提供することを狙ったものです。第4世代として投入したThinkPad Edge 13"や、ThinkPad X100eは、我々の予想を大きく上回る販売実績となっています。とくに、ThinkPad X100eは近年のThinkPadでは最小の製品といえるもので、それでいて、品質、デザインでは妥協しないという大和の真骨頂を見せた製品となっています。

予想以上の販売実績になったというThinkPad X100e(左)とThinkPad Edge 13"

--2010年のレノボ・ジャパンのキーワードをあげるとすれば何になりますか?

ラピン ひと言でいえば、「Fun」。楽しい1年にしたいということですね。

--それはどうしてですか。

ラピン 2010年の前半は厳しい状況が続くでしょう。しかし、後半からは回復の手応えが感じられるはずです。それに向けて、レノボをさらに変革していきたい。その変革と成長を楽しむ年にしたいと考えているからです。2009年に行なった改革に対して、パートナー、ユーザーが強い反応を見せ、それが効果につながっている。この変革をさらに推進したい。

 社内には、ワクワク隊というチームがあります。社員有志が中心となって運営している組織で、仕事環境をよりよいものにしていくことを狙ったものです。例えば一昨年(2008年)、私が社長に就任した時には、社員の勤務時間は無茶苦茶でした。長い時間、労働を続ける人が多かった。そこで、ワクワク隊が、毎週水曜日をノー残業デーとして、午後6時30分には退社することを決めた。木曜日の朝には、午後6時30分以降に何人残っていたのかという結果を報告するのですが、これが毎週10人以下になっている。私は、ノー残業デーを週2回に増やしていきたいと思っています。

 また、スポットアワードとして、毎週月曜日に、前週の活動のなかで功績のあった人を2人表彰しています。こうした活動を通じて、社員がワクワクして仕事ができ、働きたくなる会社を目指しています。

--パートナー、あるいはエンドユーザーから見たレノボの「Fun」とはどんなものになるのでしょうか。

2画面が特徴のワークステーションノートThinkPad W700ds

ラピン レノボ・ジャパンだけが成長し、バラ色になっても仕方がない。パートナーも同じような成長を遂げる必要がある。そのためのパートナー支援策を強化していきます。パートナーが楽しんでビジネスをできるような環境を確立することが、2010年のテーマでもあります。一方、エンドユーザーには、もっともっと注目をしていただけるような製品を投入したい。Windows 7の発売にあわせて、秋葉原でタッチ&トライを行ない、実際に当社の製品に触っていただけるようにしましたが、これが大盛況でした。セカンドディスプレイを搭載したThinkPad W700dsもCADユーザーなどに高い評価を得た。2010年はこうしたイベントも積極的に展開していきたいと考えています。

--1月に、米ラスベガスで開催されたInternational CESでは、いくつかの興味深い製品も発表しましたね。これらの製品の日本での投入時期はいつ頃になりますか。

ラピン International CESで発表した製品の1つが、「Lenovo Skylight Smartbook」です。これは、スマートフォンとネットブックの中間的な製品です。ネットに常時接続して、ウェブやメールを閲覧したり、SNSを楽しむといった用途に最適なマシンと位置づけています。保存容量にはこだわらないというユーザーに向けたものですね。

 もう1つは、「IdeaPad U1 Hybrid Notebook」という製品で、IntelのプロセッサとWindows 7を搭載したPCとして利用できる一方、ボタン1つで液晶部分を取り外すことができ、スレートPCとして利用できる。ここでは、Snapdragon(スナップドラゴン)とLinuxが動作し、3G回線で接続して利用することもできる。これをもとに戻すと、異なるCPU、OS環境でもデータが同期して、利用できるというものです。すでに海外では製品化しているものですが、日本ではまだ検討している段階にあります。まず、量販店をはじめとするパートナーと話し合いを行ない、エンドユーザーからの意見も得て、ビジネスモデルを構築したい。この戦略が固まるまで、3カ月から6カ月の期間を有しますから、仮に日本で発売するとしても、それぐらいの時間はかかります。

2010 International CESでは多くの賞を受賞

 実は、International CESでは、IdeaPad U1 Hybrid NotebookがベストオブCESコンピュータ&ハードウェアアワードを受賞したのをはじめ、PCベンダーで最多となる8つの賞を獲得しました。これは当社が魅力的な製品を投入しているということの証だといえます。

 一方で、日本においては、2010年も製品ラインナップの強化を継続的に進めてきます。日本のユーザーには、オールインワン型の需要が根強いですから、まずはその分野でのラインナップ強化を行ないます。法人向けには、「ThinkCentre A70z」という法人向けオールインワンモデルを投入しています。日本のオフィススペースは狭く、机の上にPCを設置するスペースが限られますから、オールインワン型は、日本市場向けに積極的に展開していくつもりです。また、個人向けのプレミアムオールインワンモデルとして、「Idea Centre A600」を3月に投入するほか、さらに普及型モデルの個人向けオールインワン製品も投入する予定です。

--2010年4月には、六本木ヒルズに本社を移転することを発表していますね。これはパートナー、ユーザーにどんなメリットがありますか。

ラピン 本社を移転する理由の1つに、パートナーの方々に我々の施設を活用していただくという狙いがあります。パートナーの方々に、多くのお客様を連れてきていただき、商談の場として活用していただきたい。製品展示スペースを用意したり、デモ環境を用意したいといったことを予定しています。

--これはコンシューマユーザーも利用できるものなのですか。

ラピン それは考えていません。個人ユーザーの方々には、量販店で製品を見ていただくことになります。しかし、その一方で、ブロガーイベントなどを企画していますし、個人ユーザーの方々と接する場も広げていきたい。ThinkPadにはコアなユーザーの方々が多い。コアなユーザーにも満足していただける製品を投入し続けたいですし、ThinkPadを通じて、ワクワクしてもらいたいし、楽しんでもらいたい。もっとThinkPadの認知度を高めていきたいと考えています。