大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PCは、薄型TVの二の舞になってしまうのか?

〜2014年4月の「3つの出来事」で特需生むPC業界の今と未来

 Windows 8発売以降も低迷が続くPC業界に、これから1年以上に渡って、「特需」ともいえる動きが出てくることになりそうだ。

 その起爆剤は、2014年4月に起こる3つの出来事である。

Windows XPのサポート終了

 1つは、Windows XPの製品サポートライフサイクルが、2014年4月に終了することだ。日本マイクロソフトでは、2014年4月8日を期限として、Windows XPに対する製品サポートを終了。セキュリティ更新プログラムの提供を打ち切ることを公表している。これにより、Windows XP搭載PCを導入している企業や個人ユーザーは、新たに発見される脆弱性や、未知の脅威への対策が打てないという課題を抱えることになる。つまり、安定した環境でPCを活用したいのであれば、新たなOSを搭載したPCに移行する必要に迫られるというわけだ。

 実は、Windows XPを利用しているユーザーの比率は、世界的に見ても、日本が突出して多い。日本マイクロソフトによると、現在、日本国内で稼働している企業向けPCは約3,500万台。そのうち、約40%がWindows XPだという。これだけで、約1,400万台ものWindows XP搭載PCが存在していることになる。

 また、個人向けPCは約4,300万台と見込まれるが、そのうち約30%がWindows XP。約1,300万台規模となる。企業、個人合計で約2,700万台ものWindows XP搭載PCが国内に存在するというわけだ。

 MM総研の調べによると、2012年の国内PC市場の規模は年間1,521万台。これに当てはめれば、2年分近い規模のPCが、あと1年2カ月の間に買い換え対象となっていることになる。

Vチームを編成した日本マイクロソフト

 こうした状況を捉えて、日本マイクロソフトでも、Windows XPへの対策を、今後本格化させる考えだ。

 すでに社内でV(バーチャル)チームとして、Windows XPからの買い換えを促進させるための施策立案に向けた体制を構築。2月14日からその動きを本格化させた。

 このチームは、同社Windows本部の藤本恭史本部長をリーダーに、エンタープライズ分野、官公庁分野、中堅・中小企業分野、コンシューマ分野などの各担当部門の社員が参加するほか、PR、宣伝、テレセールス部門の担当者なども参加。あらゆる角度から、Windows XPからの移行促進策を議論することになる。

 大手企業や公共分野に関しては、ボリュームライセンス制度などがあるといった観点から、日本マイクロソフトの営業部門が直接対応を行なうことも可能であり、それに向けた動きはすでに始まっているという。

 しかし、その一方で、重点的な対策が必要なのが、中堅・中小企業、SOHOなどである。たとえば、中堅・中小企業での採用が多い財務会計ソフト「奉行シリーズ」を開発、販売するオービックビジネスコンサルタント(OBC)の場合、「65%のユーザーが依然としてWindows XP上で、奉行シリーズを稼働させている」(OBC・和田成史社長)という状況だ。ここからも中堅・中小企業でのWindows XP率が高いことが分かるだろう。

Windows XP Professional
Windows XP Home Edition
Plus! for Windows XP

 中堅・中小企業では、IT管理者がいないという場合がほとんどで、Windows XPのサポート終了の事実を知らない場合も多い。ここに対していかに認知を高め、買い換え促進につなげるかが重要な意味を持つ。

 日本マイクロソフトでは、1月中旬に、樋口泰行社長をはじめとする同社幹部が、米国本社で年間業績の報告を行なう「ミッドイヤーレビュー」に出席。そこで米本社幹部とともに、日本における今後の取り組みについて議論したが、その結果、今年6月末までの同社2013年度において、Windows XPに関するマーケティング予算の積み増しを決定。さらに、7月からの同社新年度以降も、重点課題の1つとしてWindows XP対策に積極的に取り組んでいく姿勢を示している。

 具体的な施策については、サポート停止1年前を迎える2013年4月にも明らかにされる公算が強いが、同社ホームページでの告知や、日本マイクロソフトから配信されるメールでのヘッダーでの告知に加え、製品広告などでもWindows XPのサポート期間終了の告知を行なうことが検討されているようだ。特に、課題となる中堅・中小企業向け施策では、システムインテグレータなどのパートナー企業との連携が鍵になることから、パートナーを巻き込んだ施策立案も重要なものになりそうだ。

Office 2003も2014年4月にサポート終了

Office 2003

 2つ目は、Windows XPと同様に、2014年4月8日に、Office 2003も製品サポートライフサイクルが終了するという点だ。

【お詫びと訂正】初出時にOffice 2003のサポートライフサイクル終了を2013年4月8日としておりましたが、2014年4月8日の誤りです。お詫びして訂正させて頂きます。

 大手企業の中では、Windows XPとの組み合わせで、依然としてOffice 2003を利用している企業が少なくない。また、Office 2007から採用されたリボンインターフェイスに移行したくないというユーザーが根付く残っており、それが今でもOffice 2003が広く利用されている要因の1つとなっている。

 日本マイクロソフトにとっては、Windows XPと同様に、Office 2003からの買い換え促進を強化する必要があり、ここでも多くのユーザーに対して、いかに告知し、移行を促進するかが課題となっている。

消費税率引き上げ前の駆け込み需要も

2014年4月に予定されている消費税率の引き上げ

 そして、3つ目が、2014年4月に予定されている消費税率の8%への引き上げを前にした駆け込み需要である。

 これはPC業界に限定することなく、多くの業界で需要拡大を見込んでいるものになるが、PC業界にとっては、先に触れたWindows XPからの買い換えという時限的な要素が組み合わさることから、PCに需要が集中すると期待を寄せる業界関係者は少なくない。

 実際、現行の消費税5%への引き上げが行なわれた1997年4月を前にした駆け込み需要でも、PC業界は大きく潤ったという経緯がある。

 当時の社団法人日本電子工業振興協会(現・一般社団法人電子情報技術産業協会)が発表した国内PC出荷統計によると、消費税率5%への引き上げ直前となる1996年度(1996年4月〜1997年3月)のPC出荷台数は、前年比26%増の719万2,000台と大幅な成長をみせている。そのうち、デスクトップPCは22%増の464万3,000台であったのに対し、ノートPCが拡大基調にあったポータブルでは52%増の254万9,000台と大幅な成長を遂げていた。

 企業における1人1台環境の整備が進んでいた段階であり、消費税率引き上げ前にPC導入を促進したという企業の動きを中心に需要が拡大したというわけだ。今回も同様に、Windows XPからの移行を、消費税率引き上げ前に行いたいとする動きが顕在化する可能性がありそうだ。

特需後の市場拡大策を描けるか

 2014年4月を境にしたPCの需要喚起は、PC業界にとっては大きなチャンスとなる。少なくとも、約2年分の潜在需要がこの1年の間に存在するといっていいからだ。

 しかし、この状況は、2011年7月の地上デジタル放送への移行前の薄型TV市場に似た感じがある。

 年間1,000万台規模で推移していた国内のTV需要は、エコポイント制度などの追い風もあり、2010年度(2010年4月〜2011年3月)には、年間2,500万台の出荷規模にまで膨れ上がった。

 量販店の売り場では薄型TVを購入する人たちで溢れかえり、製品が品薄となり、さらに価格下落も大きく進展することになったのは記憶に新しい。

 PC業界においても、2014年4月のWindows XPのサポート停止や、消費税率引き上げ前の特需によって、これに似たような状況が起きる可能性がある。

 そして、薄型TVの状況をみても分かるように、その後の需要は一気に停滞。2012年度におけるTVの国内市場規模は、2010年度の4分の1となる600万台強に留まると予想されている。

 コモディティ化が一気に進展した薄型TVは、今でも需要再喚起に向けた打開策を模索している段階にある。約7年とされる薄型TVの買い換えサイクルをもとにすれば、需要停滞の長期化を懸念する声があがるのも当然だ。

 PC業界も特需に沸くのはいいが、その後のリカバリー策を真剣に考えておかないと、薄型TV市場と同様の問題に直面することになりかねない。

 幸いPC業界にはタブレット市場という新たな領域が誕生しつつあり、ここにフォーカスした需要拡大も期待される。

 また、欧米諸国に比べて、人口比でのPC出荷台数比率は日本が低いこと、1人1台環境での普及が遅れていること、中小企業でのPC利用率が低いことなど、市場拡大の余地もある。

 薄型TVの経験を横目で見た経験を持つPC業界は、特需だけにフォーカスするのではなく、特需後までを視野に入れた施策立案が重要になるだろう。

(大河原 克行)