大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
「20型4K Tablet」は、業界初のデスクオンPC?
~パナソニック 事業開発センターの奥田所長に聞く
(2013/1/16 00:00)
パナソニック株式会社は、2013年夏を目標に20型4K IPSα液晶パネルを搭載した「4K Tablet」を市場投入することを発表した。
米ラスベガスで開催された2013 International CESで発表、展示された4K Tabletは、20型で4K表示を可能としながら、15:10(3:2)のアスペクト比を実現したユニークな仕様となっている。果たして、この製品はどんな目的で作られたものなのか。パナソニック AVCネットワークス社 事業開発センター・奥田茂雄所長に話を聞いた。
15:10のアスペクト比を持ったタブレット
4K Tabletは、10点マルチタッチを採用した20型IPSαディスプレイ搭載のタブレットPC。画面解像度は3,840×2,560ドット、983万画素を実現。230ppiの画素密度を達成しており、左右176度以上の視野角を持つ。
また、15:10のアスペクト比とすることで、A3サイズの紙面をほぼそのままのサイズで表示できるのも特徴だ。
さらに4K解像度と同等の入力分解機能を持つペン入力インターフェイスを採用。手書きと同じ感覚で画面上にデータを書き込むことができるという。
CPUにはCore i5-3427U(1.8GHz、vPro対応)を搭載。OSにはWindows 8 Pro(64bit)を採用している。4GBのメインメモリ、128GBのフラッシュドライブを搭載。サイズは、474.5×334×10.8mm(幅×奥行き×高さ)。重量は約2.4kgとなっている。
今年中に製品化し、法人向けに販売していく考えだという。
今回の発表で使用された4K Tabletの名称は、一般的な呼称であり、発売時にはなんらかのブランド名が冠されることになる。
顧客起点で開発したタブレット
4K Tabletの仕様を聞いたときにいくつかの疑問が湧いた。
1つは、4Kという解像度が果たして20型という画面サイズにおいて意味があるのかという点。また、20型タブレットはどんな利用シーンが想定されるのかという点。さらに、パナソニックのタブレット製品が、Androidを主軸としているのに対して、なぜこの製品はWindows 8としたのか。そして、15:10というアスペクト比も気になるところだ。
そんな疑問に対して、パナソニックの奥田所長は、「これまでとは異なる製品づくりを行なった結果」という言葉で回答する。
では、これまでとは異なる製品づくりとは何なのか。
それは、今ある部品などを寄せ集めて、そこから用途を提案するというものではなく、まず用途を決めて、そこから必要な部品を集めて構成するという手法のことを指す。
まさにこれは事業開発センターの設置目的を具現化したものだといえよう。事業開発センターは、2011年7月に設置された部門であり、顧客視点でのモノづくりにより、新たな事業提案をしていくことが役割である。「人」を中心にモノづくりを進めるパナソニックのDNAならではの組織へと育てる考えだ。
なぜ、4K、20型、15:10なのか?
4K Tabletの開発の発端は、「紙の置き換えができる端末」の開発であった。
「企業における紙の消費を減らすだけでなく、紙ではできなかったような利用提案まで行ないたい。そのために必要とされる機能を搭載し、それを実現するための部品を探し出した」。
想定した利用環境の1つは、机の上に置いて利用するというものだ。複数の人が集まり、机を囲んで議論する際に、4K Tabletに表示される情報を共有し、そこに直接書き込んで利用するというシーンだ。
「机の上に設置された4K Tabletと、人の眼との距離は約40cm。この距離でリアリティがある画像を見るためには、200ppi以上が必要とされ、そのためには4Kの画素数でなくてはいけない」。
そこに4Kの意味があるという。ちなみに、距離を離れてみる薄型TVの場合には50ppiでいいが、スマートフォンでの視聴距離では300ppiが必要とされるという。
さらにこうも語る。
「人の視野角は、ほぼ真横の位置まであるが、指紋まで確実に識別できるのは左右45度までと言われる。これを40cmの距離である机の位置に落とし込むと、ちょうど20型のサイズになる。そこから20型というサイズを導き出した」。
指紋を識別できるというのは、リアリティのある画像を識別する範囲と言い換えることもできるだろう。4Kで20型というサイズに決定した理由はここにある。
では、16:9ではなく、16:10でもなく4:3でもない、15:10というアスペクト比の理由は何か。
「紙を置き換えるという観点から、世界各国の新聞を取り寄せたり、企業内で利用される用途サイズを調査した結果、一般的に使用される最も大きなものがA3用紙サイズ。これを表示でき、各国の新聞や雑誌、あるいは写真などのコンテンツに最適化した表示が可能になるアスペクト比が15:10だった」という。
Windows 8を搭載した初のタブレット
そして、Windows 8を搭載した点でも、これまでのパナソニックのタブレット戦略とは一線を画すものになっている。
パナソニックブランドでは、すでに企業向けタブレットとして「BizPad」が製品化されているが、同シリーズにはAndroidを搭載。一部製品にWindows CEを搭載しているに過ぎない。Windows 8では、コンバーチブル型の「Let'snote AX2」でタブレット形状での利用を可能としているだけであり、同社が投入するピュアタブレットとしては、4K Tabletが初のWindows 8搭載製品となる。
「企業での利用を想定すれば、セキュリティや、豊富なアプリケーション利用の観点で、Windows 8しか選択肢はなかった」と奥田所長は語る。
また、タブレットでありながら、Core i5-3427Uを搭載するとともに、GPUとしてGeForceを採用した。
「タブレット端末としては過剰なスペックに見えるかもしれない。しかし、4Kで表示されるデータを滑らかに操作するだけのパワーが必要だった」と奥田所長はその理由を語る。利用シーンから逆算すれば、必要不可欠な水準というわけだ。
そして、4K Tabletでは、ファンレス構造としている。これも机の上で紙の代わりに利用するという観点では当然の判断だったという。
「机の上でファンがうるさくては紙の置き換えにはならない」。
ULVプロセッサを利用しているとはいえ、排熱について多くの困難を伴ったという。効率的なレイアウトを実現するために、Let'snoteの開発ノウハウが活用されているという。
デスクトップならぬデスクオン?
4K Tabletでは、4K環境にあわせた高解像度のデジタルペン「Anoto Live Pen」を採用している。
「4K環境において、デジタルペンを使用した細かな作業を行なうために、ペン操作を認識するドットは、3,840×2,560ドットの5倍の細かさ。ドット1つの大きさは0.04mm程度」だという。
写真家が撮影した写真の編集作業を行なったり、建築家が図面に細かな修正を加えるといった際にも、このデジタルペンを利用できる。撮影現場や建築現場に4K Tabletを持ち込めば、スタジオやオフィスに戻らなくても、その場での編集作業も可能だ。
奥田所長は、「4K Tabletの使い方は、デスクオンPC」と冗談交じりに語る。
4K Tabletは、机の上に置いて利用するといったことを前提として開発されたものである。デスクトップPCでも、ノートPCでも、そしてタブレットPCでもない、デスクオンPCという新たな提案を行なう製品という意味では、この表現は、的を射たものだと言えよう。
Let'snoteとケータイのノウハウを活かす
奥田所長は、Let'snoteの初代モデルの開発に携わり、現在の仕事に就くまでは、ビジネスユニット長としてLet'snote事業を統括した経緯を持つ。そうした点でも、4K Tabletには、Let'snoteの開発ノウハウがふんだんに活かされているといもいえる。
そして、事業開発センターには、携帯電話やデジタルAV製品の開発に携わった技術者も参加しており、PCだけにとどまらず、これらの技術ノウハウも活かされることになる。
Let'snoteは、軽量化、長時間バッテリ駆動、堅牢性、高性能にこだわった製品だ。だが、4K Tabletではバッテリ駆動時間は約2時間と長時間駆動はあまり考慮せず、軽量化という点でも、約2.4kgと、オフィス内を持ち運びができる範囲、あるいはバッグに入れて持ち歩ける範囲にした。
机の上に置いて使用するという環境を考えれば、電源を確保できること、持ち運びも基本的にはオフィス内を想定すればいいだけに、1日持ち運ぶLet'snoteのようなスペックは必要としない。
だが、奥田所長がこだわったのは、薄さであった。これはむしろ、Let'snoteではあまりこだわってこなかった部分でもある。
「机の上に置いた時に、厚さがあると箱が置いてあるような印象になってしまう。また、持ち上げやすくするためには、厚みがあるとデザイン面でも大きなものになってしまう。机にぴったりとくっついた一体感を持ち、さらにデザイン性を失わずに両手の指で持ち上げやすい厚さが10mm程度。この厚さにこだわった」。
開発当初のデザインは30mm以上の厚さがあり、机の上に置いたときの存在感はあまりにも大きかったという。
「ツールとして自然に使う、という環境を明らかに逸したものだった」。
タッチパネルのガラスを1枚搭載しながら、10mm程度の厚さを実現するのは至難の業だったという。そこで、薄型化にはスマートフォンの開発ノウハウを活用。部品実装をほぼ片面に集中。インターフェイスも最低限のものに絞り込んだ。
microSDカードスロットを搭載したのは、厚さの観点でスタンダードのSDカードスロットが入らなかったという理由もあるが、ここでもスマートフォンのノウハウを活用したという言い方もできそうだ。
具体的な利用シーンを想定した開発
奥田所長によると、4K Tabletの開発に向けて、欧米の120社の企業にヒアリングを行なったという。その結果、いくつかの具体的な利用シーンを想定した。
1つは、プロ写真家向けソリューションである。
これは、2013 International CESの初日に行なわれたパナソニック・津賀一宏社長の基調講演で4K Tabletが紹介された際に、写真家のダニエル・ベレフューラック氏がビデオメッセージでコメントを寄せ、「写真の編集作業において、高い画質の環境を利用しながら、細かいところにまで修正ができるようになる」としていたのが代表的な使い方だ。
奥田氏は写真家の利用シーンを想定しながら、「撮影した写真を、高画質のまま、その場で確認ができ、レタッチなどの簡易編集作業も可能になる。Windows 8を搭載しているため、さまざまな編集アプリケーションに対応しており、応用範囲は幅広い」とする。
2つ目が、建築家、デザイナー向けソリューションである。
高精細描画および大画面確認が要望される建築図面を4K画質で大きく表示し、建築現場や打ち合わせの時に、ペンで書き込みをするという使い方だ。また、IEEE 802.11a/b/g/nにも対応しているため、離れた事務所と簡単に情報共有ができ、仕事の効率化に役立つとする。
そして、3つ目が、ディーラー向けソリューション。CESのパナソニックブースでも、カーディーラーのソリューションとして、4K画質によるデジタルカタログにより、車の質感や細部をリアルに表現するデモストレーションを行なってみせた。自動車のカラー変更や3D表示も容易であり、印象的なプレゼンテーションや商談が可能になるという。
「そのほかにも、医療、教育などの分野での活用が見込まれる」と、奥田所長はいくつかの具体的な利用シーンを描いているようだ。
夏までにどんな熟成を遂げるのか?
4K Tabletは、2013年夏頃には製品化される予定だという。
だが、今回発表した4K Tabletは、あくまでも試作品であり、商品化するタイミングでは、仕様が変更する可能性もあるという。
「4K Tabletは、これまでの延長線上で生まれてきた製品ではない。それだけに、まずは現物をお見せして、どんな可能性があるのか、どんな用途が考えられるのかということを、お客様と意見交換したい。CESの展示会場でも、いくつかのヒントを頂いている。これを製品に反映していきたい」と奥田所長は語る。
製品化段階では、スタンダードのSDカードスロットの搭載も検討材料にあげる考えであり、その点では筐体サイズを含めて、試作品のスペックとは大きく変更させる可能性もあるだろう。
これから夏までの間に、4K Tabletは、どんな形で熟成されるのか。そして、どんな用途で活用されるのか。今から、その進化が楽しみである。