■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
富士通の齋藤邦彰執行役員 |
富士通が、2012年4月1日付けで、PCおよび携帯電話事業における組織改革を行なった。
新たにユビキタスビジネス戦略本部を設置。PCおよび携帯電話に関わるマーケティング体制を一本化。同戦略本部のもとに、PCの開発、設計機能および生産拠点を統括するパーソナルビジネス本部と、携帯電話およびスマートフォンの開発、設計機能および国内のキャリア向けビジネスを担当するモバイルフォン事業本部、そして、サービス事業を担当するユビキタスサービス事業本部をの3本部体制を敷いた。
これまで分散化していたPCとスマートフォンのマーケティング体制の一本化により、富士通はどう変化するのか。
新設したユビキタスビジネス戦略本部の本部長であり、パーソナルビジネス本部長を兼務する、富士通の齋藤邦彰執行役員に、新組織の狙いを聞いた。
●マーケティング機能を一本化
新組織となるユビキタスビジネス戦略本部は、従来、パーソナルビジネス本部と、モバイルフォン事業部に置かれていたマーケティング機能を切り出し、ここに同機能を一本化するとともに、販売計画、製品計画を立案する役割を担うことになる。いわば富士通のユビキタスフロント製品における頭脳を担う組織ともいえ、約340人体制でスタートする。
ここで立案された計画をもとに、PCの製品開発、設計、生産、サプライチェーンを統括するパーソナルビジネス本部と、携帯電話およびスマートフォンの開発、設計、生産を統括するモバイルフォン事業本部に指示を行なうことになり、ユビキタスビジネス戦略本部を通じて、PCとスマートフォンのマーケティング活動のほか、製品計画や販売計画の立案も一本化されることになる。
たとえば、従来の体制ではこんな課題がでていた。
ARROWS Tab |
タブレット端末のARROWS Tabの場合、3Gモデルはモバイルフォン事業本部が担当し、Wi-Fiモデルはパーソナルビジネス本部がマーケティング活動を行なっており、それぞれに独自のマーケティング戦略を立案したり、販売店に個別の製品として、販売プロモーションを提案していたのである。
しかし、これがユビキタスビジネス戦略本部によって、どちらの製品も1つの本部で担当することになり、統一的なマーケティング体制がいよいよ整うことになる。
「PCとスマートフォンを1つのマーケティング体制で展開することによって、より効率的で、効果的な活動ができる。ユビキタスフロント製品において、いかに富士通の強みを訴求するか。次の時代を見据えた組織体制の第1歩」と、富士通の齋藤邦彰執行役員は語る。
●スマートフォン連携、グローバル、サービス強化がテーマ
では、具体的にはどんな効果を狙ってユビキタスビジネス戦略本部を新設したのだろうか。
「ユビキタスビジネス戦略本部は、PCとスマートフォンの連携、グローバル化の促進、サービス事業の強化という3つの観点において、より強く踏み出すことができる組織になる」と齋藤執行役員は語る。
1つ目の「PCとスマートフォンの連携」については、次のように狙いを示す。
「もともとユビキタスビジネス部門として、大きな意味では、PCとスマートフォンを統合した体制としていたが、実際の企画や計画立案はそれぞれの本部が個別にやっていたのが現状だった。今回のユビキタスビジネス戦略本部によって、その垣根が取り払われるようになる。PCとスマートフォン、タブレットを取り扱うチャネルに差がなくなり、ワンストップで対応すること、またワンボイスでメッセージを発信することが重要になってきた。これまで、PC用のOSと、スマートフォンやタブレット向けのOSは別々のものであったが、今後、Windows 8が登場すれば、1つのOSでユビキタスフロントのすべての製品が網羅されるようになる。さらに連動性も高まることになる。結果として、より一本化した形でのマーケティング活動が求められることになる」
ユビキタスビジネス戦略本部は、こうした次の時代を見据えた体制づくりだといえるのだ。
●サービス事業の責任を明確化2つめの「グローバル」では、主にスマートフォン事業の変革がポイントとなる。
「富士通の携帯電話事業は、らくらくホンに代表されるように、ドメスティックなビジネスが中心となっていた。これに対して、PC事業は日本のほかにも欧州、アジア、北米といったグローバル市場で展開している実績がある。このノウハウを活用して、グローバルにスマートフォン事業を展開できるようになる」とする。
PCとスマートフォンを販売するチャネルがグローバルに共通化する流れのなかで、PC事業の経験を、スマートフォンにも生かしていくというのは当然といえば当然だ。
そして、3つめの「サービスの強化」としては、従来のユビキタスサービス戦略室を、ユビキタスサービス事業本部に改称。より事業責任を明確化した点が見逃せない。
「従来の仕組みでは、ユビキタスサービス戦略室で立案したサービスでも、事業責任はパーソナルビジネス本部に置かれるなど、事業責任が不透明な部分があった。サービス事業を切り出して、新たなユビキタスサービス事業本部に統合することで、サービス事業での収益性を、より明確に把握することができる。PCに表示されるアフィリエイト広告など、端末に依存するようなサービスについても、従来のパーソナルビジネス本部から、ユビキタスサービス事業本部に移管することで、サービス事業をより加速する体制を確立する」という。
今後、クラウド型サービスの展開や、富士通の子会社であるニフティのサービスプラットフォームを活用した取り組みなどが、ユビキタスサービス事業本部を中核にして、展開されることになりそうだ。
●戦略的組織となる先行企画統括部フレームゼロ |
もう1つ、今回の組織再編で見逃せない組織がある。
それは、ユビキタスビジネス戦略本部に設置された先行企画統括部である。
同統括部では、目先の製品開発にとらわれるのではなく、中長期的な視点で製品開発、技術開発を行なっていこうというものだ。
「どうしても、目先のビジネスが優先され、将来の方向性といったものを見失ってしまいがちになる。先行企画統括部では、目先のビジネスを追うという流れから切り離して、将来の方向性を模索し、そこにどんな製品や技術が必要とされるのかを検討する組織になる」としている。
富士通では、これまでにもパーソナルビジネス本部のなかに同様の組織を設置し、画面一杯に表示し、複数の端末をつなげることでディスプレイを拡大できる「フレームゼロ」と呼ばれるコンセプトモデルや、筐体が渦を巻いたようなウェアラブルとしての利用が可能な蛇型PCなど、将来に向けたユニークな製品を企画立案してきた。
新たな組織では、PCに加えて、スマートフォンのノウハウも統合され、新たな製品の方向が模索されることになる。
「PCやスマートフォンの延長線上の製品、それぞれを融合したような製品。そして、これまでにはない、まったく新たな領域の製品を含めた形で、将来のユビキタスフロント製品の方向性が示されることになる」と、齋藤執行役員は期待を寄せる。
●PCとスマートフォンの次のフォームファクタを模索では、具体的にはどんな製品が、ユビキタスビジネス戦略本部によって登場するのだろうか。
らくらくホン |
齋藤執行役員は、「富士通にとって、ユビキタスフロントは、重要なキーワードになる」と前置きし、「富士通は、ヒューマンセントリックなインリデジェント社会の実現を目指している。それを実現する上で、人々が直接的に触れるのが、ユビキタスフロントの製品。効率的に、簡単に、さらに利用者にとって役立つような機能、性能を備えた製品が求められる。子供やシニア、女性、ビジネスマンといったあらゆる人々が利用しやすく、あらゆるシーンで利用できるユビキタスフロントの製品を創出することが目的となる」と語る。
PCと携帯電話の連動としては、すでに、シニア向けのらくらくパソコンとらくらくホンとの連携事例などがある。らくらくパソコンに接続したクレードルに、らくらくホンを置けば、らくらくホンで撮影した写真を自動的にらくらくパソコンに吸い上げるといった機能などを実現している。
こうした連携もさることながら、さまざまな形での連携がこれから模索されることになる。そして、そこにはクラウドのようなサービスとの連携も含まれることになりそうだ。
「PCとスマートフォンの次のフォームファクタを、あらゆる可能性から模索していくことになる」と、齋藤執行役員は語る。
●PCとスマートフォン連携の第1歩に
今回のユビキタスビジネス戦略本部は、これまでに触れてきたように、マーケティング機能やグローバル機能において、PCとスマートフォンの一体化を図った組織になる。
しかし、依然として、製品を開発、設計する部門は、PCに関してはパーソナルビジネス本部、スマートフォンおよび携帯電話はモバイルフォン事業本部というように、従来の体制をそれぞれ維持したままだ。
当然のことながら、今後はこれらの部門の統合も視野に入ることになろう。
齋藤執行役員は、今後の組織再編については明言を避けるが、「企業向けタブレットではWindows 8の方が、ユーザーニーズに対応しやすいと考えており、PCとタブレット、スマートフォンを1つの体制で開発した方が効果が発揮しやすいのは確かである」などとの姿勢を示す。
実際、齋藤執行役員は、ユビキタスビジネス戦略本部の新設を「次の時代を見据えた組織体制の第1歩」と定義する。まずはマーケティング機能を一本化し、次の取り組みがその先にあることを示唆しているともいえよう。
東芝がPC事業を薄型TV事業と統合。米Hewlett-PackardがPC事業とプリンティング事業と統合するなど、PC事業の再編が進むなか、富士通は携帯電話事業との統合を図り、新たなPC開発へと取り組むことになる。富士通の選択した道は、PC事業およびスマートフォン事業で高い成長を維持しているアップルに近いものだともいえよう。
いずれにしろ、今後、富士通において、PCとスマートフォン、タブレットとの融合が進むことになるのは明らかだろう。そこにおいて、どんな製品が登場するのか注目したい。