大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通が提案する未来のPC「Frame Zero」とは



斎藤邦彰本部長が示した「Frame Zero」

 10月9日に、CEATEC JAPAN 2009で開催されたパネルディスカッション「パーソナルコンピューティングが変わる!」のなかで、富士通のパーソナルビジネス本部 齋藤邦彰本部長が新たなコンセプトのPCを披露した。

 それが、社内で「Frame Zero(フレームゼロ)」と呼ばれるものだ。

 齋藤本部長は、「このFrame Zeroの最大の難点は、動作しないこと」と冗談をいい、会場の笑いを誘ったが、まさにその通りのモックアップの状況。製品化の時期などについてはまったく言及せず、開発コンセプトモデルであることを前提として紹介した。

 Frame Zeroは、ディスプレイの枠がなく、画面一杯に画像やデータを表示できるようにしている。Frame Zeroという名称もそこからきたものだという。紹介された映像では、通常のディスプレイ部だけでなく、PCのディスプレイ背面部にも表示部が用意されており、折り畳んだ状態でも画像などを表示できる。

同じコンセプトの携帯電話とも接続ができる

 さらに、同じコンセプトの携帯電話も用意され、これを接続することで、表示部を拡大できる。家族や友人、会社の同僚などが、PCや携帯電話を持ち寄れば、それに応じて画面サイズを広げることができる。

 広い地図や地下鉄路線図を見るために、つなぎ合わせたPCと携帯電話によって、机一面まで表示部を広げたり、家族の携帯電話を持ち寄れば、それぞれのデータがリンクされ、1日に家族が使用したCO2排出量を計算できたりといったことができる。

 また、複数の機器をつないで大きく表示した地図情報は、端末を切り離したと同時に、自動的にそれぞれの端末に縮小表示。データを共有するといった使い方もできるという。

下がFrame ZeroコンセプトのPC、上がFrame Zeroコンセプトの携帯電話の表示複数のPCや携帯電話を組み合わせることで表示部が広がる
それを切り離すと、それぞれのデバイスで同じデータが共有できる次世代ユビキタス社会に対応したデバイスおよびサービスは「ナチュラル」がキーワード
【動画】富士通が提示したFrame Zeroの活用方法

 冒頭に触れたように、あくまでも開発コンセプトモデルであり、CEATEC JAPAN 2009の富士通ブースにも展示していなかった製品だ。齋藤本部長は、「これは将来のPCの形の一例だが、これからのデバイスの形として必要なものだと思っている。未来のパーソルコンピューティングに求められる要素のひとつとしては、モノとモノのシンクロ、人とモノがシンクロすることが重要なものになる。シンクロさせて画像を表示する未来のデバイスとして紹介した」とした。

 もうひとつ、富士通が未来のPCの形として提案したのが、次世代のユビキタス社会に対応したデバイスの使い方である。

 「いつでも、どこでもといった要素に加えて、これからはナチュラルという要素が加わる。デバイスやサービスが自律的に動き、必要な時に、必要な情報が得られるものとなる」とし、これらを実現するために、ヒューマンイターフェイス、次世代ネットワーク、クラウドコンピューティング、エコロジー、センシングテクノロジーなどの進化が必要だとした。

 次世代ユビキタス社会に対応したデバイスの具体的な事例としてあげたのが次のようなものだ。

 朝、目覚まし時計が鳴り、時計の停止ボタンを押すときに、その指から体温などを測り健康状況をチェック。同時に受信したメールが携帯端末や大画面のテレビに表示され、その場で必要な情報を確認。出かけると、リビングの照明の電源を切り忘れたことがアラームとして携帯端末に送信され、それを外出先からコントロールして消灯する。また、移動する時に自分の位置を確認して、目的地まで最もエコに移動できる方法を鉄道、バス、車などから選択できるほか、オフィスに着くと、持っているデバイスから最新の情報を画面に表示し、仕事が終わるとデータをデバイスに格納して持ち帰る。家に着くと、デバイスを通じて、今日のCO2使用量をチェックすることができる……。

 このように、「使う人に負担をかけず、自然にさまざまな情報を利用できるという仕組み」(齋藤本部長)が、次世代ユビキタス社会というわけだ。

 齋藤本部長は、本部長就任以来、「お客様のライフパートナーを目指す」ことを標榜している。

 ここで示しているのは、24時間365日のなかで、どれだけ多くの時間使用してもらうか、どけだけ多くの人の役に立てるかを、真剣に考えることだとする。

 「いつでも携行してもらえるデバイスであること、あらゆる利用シーンに最適なプロダクトを用意すること、ハードウェアだけでなく、ソフト、サービスも含めて24時間に渡る価値を提供できることが、ライフパートナーの意味」だとする。

 今回、齋藤本部長が示したFrame Zeroや、次世代ユビキタス社会に対応したデバイスおよびサービスは、まさにライフパートナーとして目指すべきゴールのひとつだといっていい。

 そして、今回のパネルディスカッションで参加したPCメーカーのなかで、富士通が唯一、将来のコンセプトモデルを提示し、将来の姿を提示してみせた点も評価したい。

 PCメーカーは、製品の差別化が難しくなり、将来に向けたビジョンを描きにくくなっているのが実状だ。また、経済環境の減速や、PC事業の業績悪化といった動きもあり、余力がなくなっているという現状もある。

 そのせいか、CPUメーカー、OSメーカーを含めて、PC産業の各社から、将来の利用シーンやそれを実現するコンセプト製品の提案が減少している。

 携帯電話キャリアが、将来の利用シーンを積極的に提案してきたのとは対象的な動きともいえる。

 その点では、簡単なビデオとはいえ、富士通が将来の利用シーンを示してみせた意欲は評価に値する。

 PCによって、どんな未来が描かれるのか。それを各社がこぞって提示すれば、自ずとPC産業そのものが活性化するのではないだろうか。

 富士通の意欲的な将来への提案を見て、そう感じた。