■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
NEC Refreshed PCが生産されるNECパーソナルコンピュータ群馬事業場 |
NECパーソナルコンピュータは、メーカー認定の中古PCである「NEC Refreshed PC(リフレッシュPC)」を展開している。NEC自らが、NEC製パソコンを買い取り、それを同社群馬事業場で再生。12社の販売店を通じて販売しているもので、一般的な中古PCとは異なり、6カ月あるいは1年間のメーカー保証や、無償での電話問い合わせが利用できるといった、メーカーならではのサポートが用意されている点も特徴だ。中古PCというと、安心して使えるかどうかといった不安がつきまとうものだが、そうした課題を払拭する中古PCだといえる。今年、発売から10周年を迎えるNEC Refreshed PCの取り組みを追った。
NECパーソナルコンピュータカスタマーサービス本部リフレッシュPC営業部エキスパートの清水康雄氏 |
NEC Refreshed PCは、2003年9月から提供を開始したメーカー認定中古PCで、2011年度には33,000台のNEC Refreshed PCを出荷。発売から10周年を迎える今年度中には、累計出荷が30万台に達する見込みだ。
「世界で初めてメーカー保証を前提とした中古PCとして登場したのがNEC Refreshed PC。当初は、手探りの状態でスタートし、最初の1カ月の実績はわずか99台。その後、着実に台数を増加。ネットブックの登場によって、一時的に販売台数が減少したが、ここ数年は年間3万台を超える実績で推移している」と、NECパーソナルコンピュータカスタマーサービス本部リフレッシュPC営業部エキスパートの清水康雄氏は語る。
続けて、「NECの問い合わせ窓口である、121コンタクトセンターでは、購入相談から使用済み処理まで一貫したお客様サポートを提供し、その中で新製品の購入を前提としない買い取りを実施。これをNEC Refreshed PCとして再生している。一方、NEC Refreshed PCとして再生した製品を市場で販売することにより、PCの長寿命化による廃棄物発生の抑制、資源の有効活用のほか、製造段階を経ずに市場にPCを供給できるため、CO2排出の抑制といった効果もある。ユーザーにとっては、安価な形で必要なスペックのPCとして購入できること、また新製品を購入する際にも下取りの仕組みが整備されており、買い替えを促進することにもつながる」とする。
NEC Refreshed PCの開梱から再生、出荷まで流れ |
NEC Refreshed PCは、NECが直接、個人ユーザーや企業ユーザーから買い取ったPCを再生して販売するものだ。
NEC製PCであれば、同社が用意しているサイトで、買い取り対象モデルになっているかを確認し、さらにそこで買い取り上限価格などを知ることができる。
現在、NECパーソナルコンピュータでは、企業向けPCについては、全て買い取りを行なっており、再生が不可能なPCの場合は金属処理の専門会社などとパートナー契約を結び、適正な処理を行なっている。個人向けPCの場合は、発売から4年までを上限にして下取りしている。
売却をしたいと思ったら、Webやメール、電話などで売却の申し込みをすると、専用の引き取り便を使い、NECパーソナルコンピュータに配送することになる。この引き取りの料金として1,470円がかかり、これはユーザー負担となるが、梱包材料などはユーザーが用意する必要がないのは便利だ。さらに、頻繁に引き取り料金を無料にするキャンペーンを行なっており、これを理由すれば負担は0円になる。
NECパーソナルコンピュータは、群馬事業場で引き取り、査定を行ない、ここで正確な買い取り料金を提示する。所有者が承諾すれば、NECパーソナルコンピュータが買い取り、NEC Refreshed PCとしての再生が開始される。ここで承諾しない場合には、ユーザーが輸送料を払い、ユーザーの元に送り返されることになる。
NEC Refreshed PCの群馬事業場における再生工程は、「開梱」、「エアブロー」、「検品(査定)」、「譲渡待保管」、「HDD消去」、「清掃」、「再生」、「梱包」という順を追う。
NECパーソナルコンピュータ東日本テクニカルセンターの星野敬正センター長 |
NECパーソナルコンピュータ東日本テクニカルセンターの星野敬正センター長は、「開梱からHDD消去の工程までは、主に使用済みPCを売却するお客様にとっての安心、安全に心がけている。一方で、HDD消去から梱包に至るまではNEC Refreshed PCを購入するお客様に向けての安心、簡単、快適、そして安全を提供することに配慮した工程になっている」とする。
NEC Refreshed PCの作業エリアは入退室管理が行なわれており、6カ所の監視カメラが24時間体制で作業エリアを管理している。
入庫した使用済みPCは、専用エリアに置かれ、キーボードなどの添付品はトレイに入れて本体と一緒にセットする。個人からの買い取りの場合には、荷札に貼られた名前や住所などはデータ入力後には回収して、裁断破棄するなど、個人情報の管理も徹底している。
続いてエアブロー工程では、外観のほか、ホコリが入りやすいデスクトップPC内部も清掃する。実は買い取り時に発生しているPC動作の不具合の8%は、エアブローだけで解決するという。
査定を行なう検品工程では、添付品チェック、外観チェック、ソフトウェアを利用した機能確認検査を実施する。ここでは型番、外観、添付品などの項目を入力するだけで、査定価格が自動的に算出されるシステムを構築しており、担当者が変わっても同一基準で査定できるようになっている。
査定金額が決まると所有者に連絡をし、査定結果への同意を待つことになる。ここでは古物営業法の古物の売買にあたるため、譲渡同意書を書面で返送してもらう仕組みとなっている。
所有者からの譲渡が決定すると、まずはHDDの消去を行なう。ここではHDDの全ての領域を対象に3回上書きする米国国防総省NSA規格準拠(NSA標準)方式を採用している。これは市販のHDD消去ツールではなく、メーカーである同社が独自に開発したツールを使用するという。HDDが動作しない場合には、穴あけによる物理破壊を行ない、再生するPCには新たなHDDを搭載することになる。
清掃工程では、本体などに貼られているラベルなどをはがし、専用のクリーナーで全体をきれいにする。ここでは地元の企業と共同開発した98%をアルカリ電解水とした、人体や環境にやさしいクリーナーを採用。従来のアルカリ性洗剤と比較して洗浄力が高いため、清掃時間の短縮も図っているという。
再生工程では、OSやMicrosoft Officeのインストールのほか、同社の最新PCに搭載されているピークシフト設定ツールや、最新のウイルス対策ソフトをインストール。また、最終検査を行ない、再生履歴を管理するための再生情報を、ここでサーバーに吸い上げて、品質管理などに活かすという。
最後の梱包工程では、NEC Refreshed PCのロゴマーク本体に貼付するほか、保証書や電子マニュアルなどを同梱する。梱包箱は、NEC Refreshed PC用に開発した箱のほか、NECロジスティクスの「のびのびBOX」の梱包材を使用したもの、通常の新製品で利用している箱にNEC Refreshed PCのシールを貼付したものと3種類を用意。いずれも、輸送試験、落下試験に合格した箱となっている。
このように、工程の流れを見ると、まさにメーカーとしての製造、診断、修理ノウハウを活用した再生を実現しているといえよう。
もともと群馬事業場は、デスクトップPCの生産を行なっていた拠点でもある。そうした製造ノウハウが、NEC Refreshed PCの再生にも活かされているといわけだ。また、現在は、修理拠点としての役割を持っており、拠点内に部品在庫を確保していることも、NEC Refreshed PCの迅速な再生につながっている。
ここで、NECパーソナルコンピュータ群馬事業場におけるNEC Refreshed PCの工程を写真で見てみよう。
●メーカーならではのいくつも配慮も
再生されたNEC Refreshed PCには、メーカーが再生したPCならではのいくつかの特徴がある。
1つは、Windows正規版および使用許諾済みソフトウェアを標準インストールしている点だ。OSは新製品時に搭載していたものと同じエディションであり、この点では日本マイクロソフトとの協力関係を構築して実現している。
2つ目には、1年間、あるいは6カ月間のメーカー保証期間がついているという点だ。比較的新しいPCは1年間保証がついており、これが全体の4割程度を占めているという。
また新製品を購入したユーザーと同様に121コンタクトセンターの電話相談窓口を利用でき、使い方相談では、2012年1月から新製品購入者が2年目以降も無償で利用できるのと同じく、NEC Refreshed PCでも無償で利用できる。
さらに、NEC Refreshed PC専用の取り扱い説明書を電子データで提供。一部モデルについては、紙媒体でも提供しているという。これもメーカー再生PCならではの特徴だ。
そして、電源ケーブルは全て新品にして添付されることになる。これも安全性に配慮したメーカーらしい取り組みだといえる。
「中古PCに対しては、多くの方々が品質に不安を感じたり、サポートを心配している。こうした中古PCに抱く不安や課題を解決するために、メーカーならではの保証体制で対応している」(NECパーソナルコンピュータ・清水氏)という。
●全国12社の販売店を通じて販売NEC Refreshed PCとして再生されたPCは、12社の販売店を通じて販売されることになる。
NEC Refreshed PC事業の仕組み | NEC Refreshed PCが販売されている店舗 |
NEC Refreshed PCは、もとになったPCがコンシューマ向け、コマーシャル向けを問わず、全てがコンシューマ向け製品と定義され、企業向けPCの販売ルートには流されることがない。全てが店頭で販売されるという仕組みになっているのが特徴だ。
そのうちの1社であるソフマップでは、36店舗で中古PCの販売を行なっており、中でも中古製品専門店として同社最大規模を誇るる東京・秋葉原のソフマップ秋葉原リユース総合館の1階入口付近に、NEC Refreshed PCのノートPCを展示。2階にはデスクトップPCの専用コーナーを置いて、NEC Refreshed PCの展示販売を行なっている。
ソフマップ リユース事業部の田村栄章課長は、「2007年9月にリニューアルアープンして以降、NEC Refreshed PCのコーナーを設置して販売を行なっている。最近では、中古PCの購入が女性層にまで広がっており、初心者が1台目のPCとして購入したり、持ち運び用に2台目以降のPCを中古PCで導入するといった動きもある」としながら、「多くのユーザーに共通しているのは、安心感が高い中古PCを購入したいという点。ソフマップではアウトレット品、中古優良品とともに、NEC Refreshed PCを用意しており、安心して使える中古PCを展示している。NEC Refreshed PCはメーカー保証がついていること、ほとんどのPCにOfficeを標準搭載していること。また、比較的新しい製品が入荷するため、人気が高い」とする。
入荷量によってNEC Refreshed PCコーナーは微妙に変化するが、2011年前半に比べて、NEC Refreshed PCの売り場は約1.5倍に拡大。とくに液晶一体型の製品は高い人気があるという。
「NEC Refreshed PCが登場して以降、中古PCの品質は明らかに上昇している。そのため、PCの使用目的と予算を考えて、新品と中古PCを横並びで検討する人が増えている。ソフマップでも、新品と中古PCという切り分けで提案するのではなく、ユーザーニーズに対応するためのラインアップ強化の1つとして中古PCの販売を位置づけている。今後は、リユース総合館での中古PCの販売ノウハウを他の店舗にも展開していきたい」と、田村課長は語る。
NEC Refreshed PCコーナーが設置されている東京・秋葉原のソフマップリユース総合館 | NEC Refreshed PCのノートPCのコーナー | NEC Refreshed PCのデスクトップPCコーナー。一体型が人気だという |
一品一様の中古PCであるためスペックは詳細に記載。空きスロット数や付属品なども細かく表示している | ソフマップ リユース事業部の田村栄章課長 |
●下取りの発想定着が中古市場の成長を支える?
MM総研の調べによると、国内の中古PC市場は、年間90万台程度で推移しているとみられているが、「製品があれば売れるという状況が続いている。良質なPCを市場から買い取ることができれば、さらに中古PC市場は広がると考えている」とNECパーソナルコンピュータカスタマーサービス本部リフレッシュPC営業部エキスパートの清水康雄氏は指摘する。
実際、ソフマップでも、「いかに再生可能なPCを仕入れることができるかが、中古PCビジネスの成長を左右する。今は質のいい中古PCが入荷すれば、すぐに売れるという状況が続いている」(ソフマップ リユース事業部の田村栄章課長)と語る。
実は、多くのPCユーザーが、PC購入時に下取りという発想を持っていないという。
2008年のデータではあるが、PCを購入したユーザー1,000人を対象にした調査(インターコム調べ)によると、買い替え後に使用済みとなったPCをどうするのかという質問に対して、「併用して使用する」とした回答が28.6%、「保管しておく」とした回答が25.8%となっており、あわせて54.4%が、使っていないPCが家の中で「退蔵品」になっている可能性があるという。
また、「リサイクル申し込み」とした回答は15.5%に達しており、この中には、本来はまだ下取りが可能であるのにも関わらず、リサイクルルートで廃棄されてしまうものも含まれていると考えられる。その一方で、売却申し込みは9.9%に留まっており、まだ一般化していないのが現状だという。ここ数年、個人向け中古PC市場が横ばいであり、市場動向が仕入れ量によって左右されるという今の状況を考えれば、下取りに出して買い替えるユーザーは依然として少ないと想定できそうだ。
「もし、3年程度使用したPCを下取りに出せば、所有者にとっても、比較的高く引き取ってもらうことができ、中古PCとしても良質なものが多く市場に出回ることになり、中古PC市場の活性化にもつながる。退蔵品を減らすことや、中古PCを利用したより効率的なPC購入が可能になるなど、社会的な効果、個人的にメリットは大きい」と、NECパーソナルコンピュータの清水氏は指摘する。
NECパーソナルコンピュータの121wareのサイトでは、機種名を入れると買い取り上限価格が表示され、それを目安に検討することができる。他のPCメーカーでも、メーカーの直接的な買取ではないものの、同様に買い取りの目安を表示している例もある。
「廃品回収やリサイクル回収にまわしたり、いつまでも使わないPCを退蔵させておくというのではなく、PCを3年程度で買い替えて下取りに出すことが、むしろ、環境貢献や循環型社会の実現につながると考えている。国が指導する形で買い取りに対するエコポイント制度や、大規模な告知活動を実施するなど、中古PC市場促進するための施策が求められる時期に入ってきたのではないか」と清水氏は提言する。
これは、中古PCの活用に向けた1つの見方である。
個人ユーザーにとっても、中古PCをうまく利用すれば、少ない投資でPCを導入することにもつながるのは事実であり、これが、ひいては環境貢献や社会的効果につながるというも確かだ。
中古PCに対して、改めてそのメリットを考えてみる時期に入ってきたのかもしれない。