■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
レノボ・ジャパンが、クラス最小サイズとなるコンパクト性を追求した、デュアルCPU搭載の高性能ワークステーション 「ThinkStation C20」および「ThinkStation C20x」を出荷して、約2カ月が経過した。130×444×427mm(幅×奥行き×高さ)、容積24Lというコンパクトな筐体は、42インチラックに14台を収納することができ、省スペースが求められる日本のオフィス環境に適した設計になっているといえよう。
また、静音性にも配慮。ここには、ThinkPadなどで培った長年の設計ノウハウが活かされているという。来日したレノボのアンバサダーであるMatthew Kohut(マシュー・コーハット)氏に、レノボのワークステーション事業への取り組みと、ThinkStation C20および同 C20xの特徴などについて聞いた(以下、敬称略)。
--まず、レノボのワークステーション事業の現状について聞かせてください。
レノボのアンバサダーであるマシュー・コーハット氏 |
【コーハット】3年前のレノボには、コンシューマ向け製品もありませんでしたし、中小企業向けのサーバーもなかった。そして、ワークステーションのラインアップも3年前にはありませんでした。その点では歴史は浅いとはいえますが、この3年の間に、ワークステーションの製品ラインアップを整え、同時にワークステーション領域における数々のイノベーションも提供してきました。
すでに、ドリームワークスのアニメーション制作で利用されたり、製造業や石油業界などでも数多くの導入実績が出ています。日本においては、まだレノボのワークステーションに対する認知度が低いという課題がありますが、それでも着実に、その性能の高さ、信頼性の高さが認知されはじめているという実感はあります。というのも、レノボのワークステーションを導入したユーザーがその良さを口コミで広げ、それが日本におけるワークスーションビジネスの拡大につながっているからです。
また、性能の高さでだけでなく、環境配慮という点での評価も高まっています。当社のワークステーションは、再生プラスチックを40~60%利用しており、こうした試みをしているのはレノボだけです。さらに、静音性にも優れている。他社のワークステーションは、まるで掃除機をかけているような騒音がしますが、当社のワークステーションは、ThinkPadよりも静かだという評価も出ていますよ(笑)。
ThinkStaion C20 |
--今回、新たに投入したC20およびC20xは、どんな位置づけの製品になりますか。
【コーハット】ワークステーション市場には、大きく4つのカテゴリがあります。1CPU製品と2CPU製品というカテゴリ、そして、エントリー製品とハイエンド製品分野の製品。これらの組み合わせで市場が構成される。レノボでは、ThinkStationシリーズとして、クアッドコアのIntelプロセッサを1基搭載したThinkStation S20と、2基搭載したThinkStation D20、さらに、CADやデジタルコンテンツを制作するエンジニアやアーティスト向けの製品としてThinkStation E20を投入してきました。今回のThinkStation C20およびC20xで、小型でパワフルなワークステーションという領域に新たに進出した。ワークステーションに求められる、あらゆる顧客ニーズに対応できるようになったといえます。
--ThinkStation C20およびC20xの特徴はどこにありますか。
【コーハット】Xeon 5600番台プロセッサーをを2基搭載したワークステーションのなかでクラス最小となる130×444×427mmのサイズ、容積24Lの筐体が最大の特徴です。C20はメモリスロットを6つ持ち、最大48GBのDDR3が搭載可能であるのに対して、C20xは、12個のスロットがあるため、最大96GBのDDR3を搭載することができます。
また、どちらの製品もHDDを最大3台搭載可能で、グラフィックスは、NVIDIA Quadro NVS 290/295/450、NVIDIA Quadro FX 380/580/1800/4800、AMD ATI FireMV 2260が搭載できます。
小型化を実現し、さらに、性能も犠牲にしていないというのがC20シリーズです。これは大きな革新だといえます。C20シリーズの筐体を100とした場合に、HPは130%、デルで150%ぐらいの筐体サイズになる。
Intelは、4Uサイズのワークステーション向けにXeon 5600番台のCPUとして、90W版と135W版の2種類の製品を用意しています。しかし、3Uサイズとした場合、135W版を搭載するのは、これまでの設計技術では無理といわれていました。135W版のCPUを搭載すれば、当然、90W版に比べて、1つのCPUごとに45Wも大きくなる。その分熱くなりますから、冷却のために、どうしても筐体を大きくしなくてはならない。レノボでは、トリプル・チャンネル・エア・フローと呼ぶ、特有の冷却設計手法を、今回のC20シリーズで初めて採用しており、これが小さな筐体でありながらも、高性能を実現することにつながっています。
--トリプル・チャンネル・エア・フローとは。
【コーハット】冷却を3つのセクションに分けて、それぞれに最適化した冷却を行なう仕組みです。1つ目の経路がHDD専用のもの。2つ目のゾーンがビデオカード向けの風の通り道。そして、3つ目がCPUの部分。ここが最も熱くなる部分なので、しっかりとエアフローを確保しています。それぞれにファンを用意し、風がまっすぐ通れるような「道」を確保しています。とくに電源まわりに専用ファンを用意しているのはレノボだけです。
これらの冷却の仕組みは、結果として、システムコンポーネントの長寿命化を実現することにもなります。また、風を効率的に通すには、ケーブルの配線が通り道を邪魔しないようにしなくてはならない。ケーブルがシンプルに配線されているということは、そのままエアフローの効率化につながるんです。C20シリーズの筐体の中で配線がどうなっているのかを見れば、どれぐらいエアフローが効率的であるかということが自ずとわかるでしょう。
ThinkStation C20は冷却を3つのセクションに分けたトリプル・チャンネル・エア・フローを採用 | ケーブルがシンプルに配線されているということは、そのままエア・フローの効率化につながる |
電源ケーブルは、新たにフラットなものを採用し、これを筐体とシステムボードの3.5mmの隙間を通しています。これが効率的なエア・フローと薄型化を実現している要因です。そしてケーブル配線がシンプルであるということはメンテナンス性の向上にもつながります。
電源ケーブルは、新たにフラットなものを採用した | 従来製品では太いケーブルを使用し、ケーブルの配線も複雑だった |
メンテナンス性としては、ツールレス・デザインの採用により、ドライバーを使用せずにHDDやメモリ、ビデオカードなどの追加や交換作業を可能にしたほか、照明付きI/Oアイコンを採用して周辺機器への接続を簡素化し、誤ったシャットダウンを予防するために埋め込み式の電源ボタンを導入しています。このように、C20シリーズはワークステーションに大きな進化もたらした製品だと言えます。
--小型化のメリットはどんなところに生きていますか。
【コーハット】4U以上のワークステーションですと、42インチラックに搭載できるのは10台以下となる。これに対して、3Uであれば14台のワークステーションを搭載できる。省スペースを求めるユーザーにとっては大きなメリットがある。とくに、日本のユーザーは、小型化された筐体に大きな価値を感じる場合が多いようです。ある半導体企業のお客様に対して、ThinkStation S20を提案したところ、1台あたりの導入コストが上昇しても構わないので、ThinkStation C20で提案をして欲しいという声があがりました。数十台規模や100台単位で、ThinkStation C20を検討したいというお客様も出ています。このサイズだからこそ、多くのワークステーションを導入できるという声が、いくつもあがってきています。
--消費電力に関してはどうですか。
【コーハット】省電力性は、C20シリーズのもう1つの大きな特徴です。ENERGY STARへの適合のほか、80PLUSプログラムが推進する、電気機器の省電力化プログラムで認証を受けた電源ユニットに対して与えられる「80PLUS」認証のなかで、最も厳格な規格である「Gold」に認定されているのは、レノボだけです。このほかにもレノボが培った長年のコンピュータ事業に関するノウハウが、C20シリーズの低消費電力化、小型化、静音性を実現しています。
--低消費電力化、小型化、静音性を実現した要素としては、ほかにどんな点が挙げられますか。
【コーハット】例えば、鮫は、肌の表面部がザラザラしていることで水の中をスムーズに泳げることに着目し、冷却ファンの表面部を鮫の肌のように加工したり、設置する足の部分にはThinkPadのノウハウを活用し、外部からの衝撃を吸収できるような構造を用いました。これは同時に静音性も確保することにもつながっています。
また、本当に小さなことですが、タワー型とデスクトップの両方向で利用することができるようにしたこと、オプティカルドライブは、右利きでも、左利きでも利用しやすいように、両方の向きに自由に挿入できるようにしたこともこだわりの1つです。オプティカルドライブの向きについては、見た目には大したことはないと感じるかもしれませんが、この機構を作り出すには大変な苦労があり、これに関してレノボは特許を取得しています。
設置する足の部分はThinkPadのノウハウを活用し、外部からの衝撃を吸収できるような構造 | オプティカルドライブは、右利きでも、左利きでも利用しやすいように、両方の向きに自由に挿入できるようにした。レノボの特許によるもの |
冷却ファンを止めているネジをゴムにしているのも、レノボのこだわりです。ファンを振動させないメリットがあるため、ファンから共振した音を出さないで済みます。ゴム自体のコストは高くなりますが、ユーザーにとっては、静音性とともにファンを長寿命化できるというメリットもあります。
冷却ファンを止めているネジをゴムにしている | フロントカバーの穴の形状はレノボ特有のもの。空気の流れをスムーズにする。C20シリーズではLenovoのロゴではなく、ThinkStationのロゴが大きく表示されている |
また、空気の流れをスムーズにするために、フロントカバーの穴の形状もレノボ特有のものとしています。これもやはり静音性につながっています。USB端子は、前面に2つ、背面に8つのUSB 2.0ポートを搭載していますが、真横に並べてしまうと、1台のUSB機器を接続しただけでほかのUSBポートに接続できないという場合もあります。フロントのUSB端子をバラバラの位置に設置したのもそうした利用シーンを想定した配慮からです。
さらに、S20やD20では、ハンドルが外側にあったのですが、これを内側にできないかという声があったため、C20シリーズでは設計を変更し、内側に取っ手をつけた。内側を触るとゴムがついていて、滑りにくく、手にしっくりくる。C20シリーズでは、こうした細かな工夫も施しています。
フロントのUSB端子をバラバラの位置に設置している | ハンドルを内側に配置し、小さい筐体ながらも持ちやすさを実現した |
--ThinkStation C20およびThinkStation C20xは、どんなユーザーからの引き合いがありますか。
【コーハット】まずユーザーターゲットとなるのは、金融機関ですね。「時は金なり」というような、処理能力を重視する使い方。16画面まで対応できるという点でもディスプレイを多用する金融機関には適しています。また、ソフトウェア開発、ビデオ編集などのグラフィックを活用するユーザー、ハイエンドCAD/CAM/CAEユーザー、そしてIT部門での活用も期待しています。これらのユーザーでは、これまで大型の筐体を持ったワークステーションを使っていることが多かったのですが、C20シリーズによって、より省スペースな環境で使用してもらえるようになります。
S20やD20だけでは、あらゆる用途に最適な提案ができているとはいえなかった。一部のユーザーには、S20やD20で少し無理をして導入していただいた例もあった。CPUを重視するユーザー、グラフィックを重視するユーザー、ストレージを重視するユーザーといった形で、よりお客様のニーズに適したものを提供できるようになる。結果として、これがレノボの成長にも寄与することになります。
--日本のユーザーに対してメッセージをお願いします。
【コーハット】「ThinkStation C20」および「ThinkStation C20x」は、とくに日本のユーザーの声を反映した製品だといえます。小型化では日本のユーザーの声を明らかに反映したものですし、また省エネという点でも、電気代が高い日本のユーザーの声が反映できたといえます。
さらに、日本市場からは、騒音に対して解決してほしいという要求も高い。日本は狭いオフィスにたくさんの人がいますから、これまでのワークステーションの騒音は仕事をする環境には適さない。C20シリーズではそれが解決できるという声もいただいています。
スペック表だけで比較すると、競合他社と同じような製品に見えるかもしれませんが、環境配慮1つをとっても、他社との差は明確ですし、パワフル性と静音性という観点では、他社が真似できない優位性を発揮できています。競合他社がこれと同じものを市場投入できるようになるまで、恐らく、18カ月から2年ぐらいはかかるのではないでしょうか。それだけ、レノボの技術は進んでいるといえます。レノボの最新技術の集大成といえるのが今回のThinkStation C20およびThinkStation C20xということになります。