大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

縮小するPC市場。柔軟な生産体制で対応する富士通アイソテック

福島県伊達市にある富士通アイソテック

 デスクトップPCの生産を行なう富士通アイソテックは、デスクトップPCの生産数量を、前年比5%増に拡大。2016年10月に予定されているWindows 7搭載PCの生産終了に伴う、法人向けPC需要の増大にも柔軟に対応する姿勢を見せた。

 一方で、2016年度上期中には、生産ラインの間締めを通じて、ライン1本あたりの長さを3分の2にまで短縮。空いたスペースを活用して外部倉庫に保管していた部品を内在化。年間数1,000万円の在庫削減に繋げる予定だ。さらに、POSシステムの生産開始や機能別組織へと移行など、生産品目の拡充や業務効率化、生産性向上にも取り組む。富士通アイソテックの取り組みを追った。

効率化を背景に新たにPOSの生産を開始

 富士通アイソテックは、福島県伊達市に本社を持ち、富士通のデスクトップPC「ESPRIMO」シリーズを始め、PCワークステーション「CELSIUS」シリーズやIAサーバー「PRIMERGY」シリーズを生産。その一方で、自主事業として、シリアルインパクトプリンタおよびサーマルプリンタの設計、製造、販売のほか、新たに溶融金属積層方式金属3Dプリンタを独自に開発。今後、市場投入するなど、メーカーとしての機能も持つ。

 さらに、2016年4月からは、これまで富士通フロンテックで生産していたPOSの生産も開始している。現在、PCでは6本の生産ライン、サーバーでは3本の生産ラインが稼働。さらにPOSの生産ラインが1本稼働している。

 「3年前に、PCとサーバーの生産ラインを1つのフロアに統合。サーバーの生産ラインでも、PCの生産を行なえるような体制を構築しており、これが需給変動にも柔軟に対応できる生産体制の維持に繋がっている。POSという新たな品目の生産に対しても、柔軟に対応できる体制を整えることができたのは、この取り組み成果が大きい」と、富士通アイソテックの岩渕敦社長は振り返る。

 富士通アイソテックでは、トヨタ生産方式をベースにした独自のFJPS(Fujitsu Production System)を展開。生産革新活動を続けてきた。

 PCの製造手番の大幅な削減を始めとする生産性向上を実現。不良率の低減にも成果があがっている。生産ラインの効率化によって、従来は、4本あったサーバーの生産ラインを3本に縮小しながらも、同じ数量の生産が可能になっているのは、こうしたFJPSの取り組み成果が見逃せない。サーバーの生産ラインを、POSの生産ラインへと移管することができたのもそのためだ。

富士通アイソテックの岩渕敦社長

生産台数の急増急減に対応できる生産ライン

 この2年間に渡り、デスクトップPCの生産量は減少傾向にある。Windows XPのサポート終了に伴う特需に沸いた2013年度に比べると、2015年度実績で、国内PC市場は約4割減となっている。それに合わせて生産体制も縮小する必要があったのは、どのPCメーカーの生産拠点も同様だった。

 統計資料を振り返ってみると、一般社団法人電子情報技術産業協会のPC出荷統計では、2015年度の出荷台数は、Windows 98の発売前年となる1997年度の水準近くにまで落ち込んでいる。実に20年近く前のPC市場の規模にまで落ち込んでいるのだ。過去最高の出荷台数を記録した2013年度から、わずか2年間での急ブレーキ。それに合わせて、生産体制を対応させなくてはならなかったわけで、PCの生産拠点にとっては、よほどの柔軟性と効率化が実現できなくては達成できないものだ。

 富士通アイソテックでは、生産フロアの統合により、部材供給の効率化、PCとサーバーを混流生産できる体制とすることで、需要変動にも対応してきた。需要が急増した2013年度はサーバーの生産ラインを活用して、PCの生産を行ない、旺盛な需要に対応。その後の需要の減少に合わせて、PCの生産ラインの稼働をコントロールしてきた。

PCサーバーの生産も行なっている
2011年3月にはPCサーバーの累計生産が100万台に到達。その記念モデル

 また、同社で生産するPCの約8割が法人向けということもあり、生産時点でユーザー企業固有の設定やソフトウェアのインストールを行なうカスタムメイドプラスサービスを拡張。こうしたサービスの強化も、生産拠点の新たな取り組みとして注目される。

1994年6月にデスクトップPCの生産を開始し、2015年2月に累計2,000万台を達成

 実は、2016年10月には、Windows 7搭載PCの生産が終了となるため、法人需要を中心にした需要が見込まれている。現時点では、前年比5~10%増の範囲内だろうという見方が多く、Windows XPほどの特需は見込まれていない。だが、富士通アイソテックでは、「Windows XPの時にもそうだったように、予想に反する場合も想定しなくてはならない。最大で前年比1.5倍の生産量を確保できる体制を確立し、対応できる体制を取っている」(富士通アイソテックの岩渕社長)という。

 2016年度に入ってからは、PCの生産台数は前年同期比5%増で推移。7月以降は、土曜日にも生産を行なったり、10月の増産に向けて、新たな人員を採用するといった動きも既に開始している。

 こうした需要変動への対応が行なえる柔軟性を持っているのが富士通アイソテックの特徴だと言える。

間締めにより生産ラインを3分の2に縮小

 その一方で、生産ラインにおける効率化への取り組みには、依然として手綱を緩めるつもりはない。

 2016年度上期の取り組みとして、現在、実行に移そうとしているのが、生産ラインの間締めである。ラインによっても異なるが、平均して約3分の2にまで縮小するという大胆な変更だ。

デスクトップPCの生産ライン。これを3分の2の長さに縮小する

 「1人1人の作業スペースの考え方を抜本的に見直し、ライン全体の長さを縮小する」というのが基本的なコンセプトだ。

 富士通アイソテックのPC生産ラインは、一定の工程で作業台が移動し、その間に作業者が自分に与えられた作業をこなすという仕組みだ。これまで1人の作業者に対して、自分が作業をする「作業ゾーン」、作業が遅れた時に追い込みをかける「追い込みゾーン」、そして、遅れた作業を別の人が支援してくれる「応援ゾーン」で構成されていたが、このうち応援ゾーンをなくし、それでいて、遅れた作業を隣の人が応援できる仕組みを維持する形へと変更する。

 「外観検査などではほかの作業者が応援できないが、こうした工程はもとより、組み立てライン全体において、応援ゾーンをなくすことで、ライン全体の長さを3分の2にまで削減できる」というわけだ。

 生産ラインを縮小することで生まれたスペースは、部品倉庫のスペースに活用することになるという。

 「従来は外部に倉庫を持ち、そこから定期便で構内に移送。その後、生産ラインへと部品を供給する仕組みとしていた。間締めによって空いたスペースに、部品を置けるようになり、倉庫代や移送コスト、投入までの時間短縮などが可能になり、年間で数1,000万円規模の削減が可能になる」という。

 今回の生産ラインの間締めも、トヨタ生産方式をベースとしたFJPSの取り組みの一環となる。

 「まずはトライアルラインでの間締めを実行するが、これをPCラインだけでなく、プリンタの製造ラインなどを含めて広く横展開していきたい」とする。

 プリンタの生産では、自ら開発、設計体制を持っていることから、生産ラインと連動したモノづくりが可能。生産しやすい開発、設計が可能であり、生産ラインの改革にも貢献しやすい環境にあると言える。

 その一方で、生産ラインにおける自動化の導入については、慎重な姿勢を見せる。

 「重いものを持ち上げたり、移動したりといった場合、あるいは外観検査などにはロボットや自動検査機を活用することは有効。だが、デスクトップPCの生産数量が減少傾向にあり、むしろ、自在にラインを変更することが重要になる。その点では人手の作業による付加価値を重視し、いつでもラインを変更できるように構築することが大切。柔軟性を維持するためには、治具を活用した『からくり改善』の方が効果を出しやすい」とする。

横串型組織で効率化を追求

 富士通アイソテックでは、2016年5月に、大規模な組織改革を行なった。

 これまでは、PCやサーバーなどの富士通からの受託生産と、プリンタなどの自主ビジネスといったビジネスユニットごとにわけていた組織を、機能別組織へと転換。これまでのビジネスユニット型組織に横串を指す体制とした。

 具体的には、生産管理や品質保証などの組織を、受託生産と自主事業を横断した形で一本化。これにより、これまで縦割りだった組織のノウハウを共有するほか、重複部分の無駄を省き、効率化を実現。迅速な意思決定にも繋げることができるとしている。

 「まだ具体的な成果が出ている段階までに至ってはいないが、それぞれのリソースを一本化することでのメリットが生まれることを期待している」と岩渕社長は語る。

新たな自主事業も開始

 もう1つ富士通アイソテックの新たな取り組みが、自主事業の1つとして開始した溶融金属積層方式金属3Dプリンタである。溶融金属積層方式を採用しており、切削加工や粉末金属積層方式に比較して、装置価格やランニングコストとなる材料費を低減できる点が特徴だ。

自主事業として行なっているシリアルインパクトプリンタおよびサーマルプリンタ
富士通アイソテックが開発した溶融金属積層方式金属3Dプリンタ

 もともと切削加工では、素材から加工する際に多くの部分が切粉として廃棄され、材料が無駄になるほか、加工時間が長くなるという課題があった。また、粉末金属積層方式は金属粉末を数10μmの厚さで敷き詰めた後に、レーザーで選択的に焼結して一層分を形成し、これを繰り返して造形するため時間がかかるという問題があった。

 富士通アイソテックが開発した溶融金属積層方式金属3Dプリンタでは、金属ワイヤー先端からのアーク放電により金属ワイヤーを溶融し、これを積層することによって造形するため、材料費が安く、造形時間が短いという特徴を持つ。最終仕上げでは、切削を必要とするが、切粉はほとんど出ないため、材料費や加工時間での課題が解消できるという。

 同社では、「粉末金属積層方式に比較して、造形速度が速く、生産量の面でも有利となる。また、同時に5軸の制御が可能であることから、複雑な形状を造形が可能になる点も特徴。これらの利点を活かし、弱体化する国内ものづくり産業の復活や、空洞化する国内の精密加工技術の維持、発展の両立を目指したい」と意欲を見せる。

 ステンレス、アルミニウム、インコネル、ニッケル合金、銅合金などの金属の加工が可能であり、これらの金属を組み合わせた金属加工も可能になる。

 2016年5月に、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された「富士通フォーラム2016」に参考展示を行ない、作製した造形サンプルなどを公開した。3Dプリンタの現物展示がなかったのは残念であったが、来場者の注目を集めていたという。

国内生産拠点として生き残る富士通アイソテック

 富士通アイソテックには、年間2,000人の見学者があるという。

 数少ない国内のPC生産拠点の1つとして、地域からも高い関心を集めていることが裏付けられる。

 今後、PCの需要変動は、Windows XPのサポート終了時ほど大きくぶれることはないだろうが、細かな増減はありそうだ。また、デスクトップPCのデザインの変化や、2in1 PCの広がりなど、新たなカテゴリの製品が登場する可能性もあるだろう。

 富士通アイソテックは、そうした変化にも柔軟に対応できる体制づくりに力を注いでいる。だからこそ、国内のPC生産拠点として生き残っているのだろう。