実録! 重役飯

幕末大好き、趣味はPokémon GO。日本未公開のスマホも飛び出た~NEC・レノボ留目真伸社長編

いつもご愛顧をありがとうございます。PC Watchは2016年をもって20周年を迎えました。20周年を記念し、PC・IT業界を代表する企業のトップの方にインタビューを行ないました。特別企画ということで、通常であれば企業の戦略や製品について伺うところ、今回はインタビューに対応いただく方の行きつけやお勧めの料理店にて会食を行ないながら、その方の趣味や考え方など人となりに焦点を当てた質問を行ないました。この企画を通じて、企業の経営を担う人の個性や考え方などを知っていただければ幸いです。基本的に全ての方に同じ質問をしていますので、みなさんの違いも面白いのではと思います。聞き手はPC Watch編集長の若杉です。

 第7回目のインタビューのお相手はNECパーソナルコンピュータ株式会社代表取締役執行役員社長とレノボ・ジャパン株式会社およびレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ株式会社の代表取締役社長を兼務する留目真伸氏です。会食の場として選んでいただいたのは、麻布十番にある「麻布 秀」です。

麻布 秀

--:本日はよろしくお願いいたします。まず、こちらのお店を選ばれた理由を教えてください。

留目:以前までレノボ・ジャパンのオフィスが六本木にあったこともあり、この5~6年行きつけのお店です。麻布十番はあまり騒がしくなく、おいしくてしゃれたお店も多くて街自体も好きです。ここは食事もおいしいのと、雰囲気も良く、個室もあるので、お客様をお連れするのにもいいですし、プライベートならカウンターで飲んだりと、使い勝手がいいお店なんです。私は、お客様との会食では、あまり大きいお店には行きたくないんですね。と言うのも、こぢんまりとしている方が落ち着きますし、お客様とも親密になれますので。

NEC・レノボの留目真伸社長

--:本日は、オープン前の15時に特別にお店を開けていただいての会食となっていますが、普段ですと今の時間はお昼と夕食の間くらいですよね。

留目:私は、お昼はあまり取らないんですよ。朝食も取らず、1日1食がほとんどです。

--:それはダイエットとか何か目的があってですか。

留目:もともと朝食は取らなかったんですが、仕事柄、夜の会食で飲んだり食べたりする機会が増えたこともあり、日中はなるべく食べないようにしているんです。

--:それで1日持ちますか。

留目:そもそも会議や移動が多くて、昼食を取る時間も十分にないというのもあるんですね。それで、気付いたらここ数年はそれが習慣になっていました。

大きな仕事がしたいと思った20代

--:20年前は何をしていましたか。

留目:私は今44歳で、今年45歳になるんで、20年前だと24歳です。22歳で就職したので、新卒2年目の年でした。入ったのはトーメンという商社です。学生時代は優秀とは言えず、あまり勉強もしていませんでした。ゼミにも入らず、直前に情報入手して、試験だけで単位を取ってと、思い返すと、何のために大学に通ったのか分からない感じでした(笑)。

--:でも、逆に言うと、要領が良かったということですよね(笑)。

留目:そういう点はあったと思います(笑)。海外旅行もしたことがなく、華のない学生生活を送っていたのですが、就職するにあたっては、「大きな仕事がしたい!」という漠然な気持ちがあったんです(笑)。で、大きなものとは何かと考えた時、工場が一番大きいんではと思ったんですね。商社に入れば、海外で大きな工場を建設するのに携われると思い、商社を選びました。

 トーメンには“逆ドラフト制度”というのがあって、入社前の配属を決める時に内定者が各役員の前でプレゼンテーションをして、自分がどういう理由で、どこの部署に行きたいと説明するんです。それで、うまくいけば指名されて、配属されるんです。で、私は、プラントに行きたい、という話をしました。

 それで実際に海外の発電プラントの担当になったんですが、配属初日から海外から電話がかかってくるんです。当時は英語が全くできなかったので、いつも電話にビクビクしていました(笑)。かろうじて相手の名前と折り返す電話番号だけを聞いて、メモを先輩の机に残すというのが1年目の仕事内容でした。2年目も、概ね仕事内容は変わりませんでした。

--:トーメンには何年くらいいたのでしょう。

留目:6年半ほどです。望み通りの仕事ができ、海外出張にも頻繁に行きました。その中で一番長かったのは、韓国駐在で、2年くらいいました。そこでは建設現場の事務所長を務めていました。

先付け。天然鮎唐揚げ、ゴーヤ

--:その頃の趣味を教えてください。

留目:当時はテニスをやっていていました。大学でもテニスサークルに所属していて、結構頑張っていました。実際学生時代にテニスのコーチのアルバイトもしていました。社会人になってからも実業団のチームに入っており、会社でもテニス部のキャプテンを務めていました。最初、所属していた実業団は10部(10位のリーグ)くらいだったんですが、それを7部にまで引き上げました。

--:では、社会人になってからも週末などにテニスをなさったてたんですね。

留目:はい。当時は社の独身寮に入っており、その近くに会社のコートがあったので、休みの日はだいたいそこで練習をしたり、あとは試合に出たりしていました。

--:試合にはどれくらい出場されていたんですか。

留目:シーズンごとにリーグ戦があったりするので、そこそこの頻度で出ていました。

八寸。あわび肝豆富、尼高貝、岩もずく、鴨ロース皮せんべい

--:トーメンには6年半ほどいらしたとこのとですが、その後の職歴を簡単に教えてください。

留目:韓国に2年いたんですが、発電所って田舎にあるんですね。その発電所の場合、釜山からだと車で3時間くらいです。仕事もそこまでは忙しくないんです。ただ、韓国語も多少は勉強して話せるようにはなりましたが、周りに遊びに行くところもないので、日本からたくさん本を取り寄せて、仕事以外の時間はたくさん本を読んでいました。

 それがきっかけで、本当に大きな仕事というのは、プラントのような物理的な大きさではなく、世の中に大きくポジティブなインパクトを与える仕事なのではと考えるようになりました。そのためには、会社の経営にも携わり、大きな意思決定をする立場になろうと思い始めたんです。また、その頃、戦略コンサルタントという仕事があることも知り、そういう仕事がしたいと思いました。

 で、実際、帰国してから戦略コンサルタント会社に転職しました。今では名前は変わりましたが、モニターカンパニーという会社です。ハーバード大の教授が創設した会社で、クライアントの競争戦略の立案などを行ないます。

 そこでの仕事は楽しかったんですが、コンサルタントはコンサルタントであり、事業の主体者ではありません。そこに物足りなさを感じて、事業会社に行きたいなという思いが生じてきました。

 と言うことで、2年半後にデルに転職しました。

--:事業会社はいろいろある中、PCメーカーを選ばれたのはどういう理由だったんでしょう。

留目:当時デルは非常に成長していましたし、任せられたマーケティングブランドマネージャというポジションは、それまでの戦略コンサルタントの経験も活かせる仕事だと思いました。デルでは、4年半ほどマーケティングの仕事をしました。

 ただ、ヘタにコンサルタントをやっていたがために、デル入社当初はすごく頭でっかちになっていました。今時の言い方だと“KY”な感じでした(笑)。どういうことかと言うと、最初デルでのマーケティング業務は、すごくレベルが低いなと思ったんですね(笑)。「何も分からずマーケティングしてるんだな。なら、俺がマーケティングを教えてやる」というような意気込みだったんです(笑)。入った翌日には、「ここはこうした方がいい」とか積極的に指示を出していました。これは勘違いもいいところでした(笑)。それに対して、外国人の上司は「なら、やってみなよ」という感じで、面白がりつつやらせてくれたんですが、少人数のチームですらうまく動かせず、ほとんどうまくいきませんでした。

 と言うのは、結果を出すには、その組織の能力に見合った計画を立てないといけないからです。いくらいい計画でも、実行できないんじゃ意味がないわけです。私がコンサルタントの時に書いていたような洗練されたプランは、ここでは意味をなさなかったんです。まだ若造だったので、会社がどのように回っているとか、分かってなかったんです。そういうわけで、実現できることから少しずつ取り組み、最終的にはなんとか結果を出せるようになり、営業部門のGMにも信頼されるようになりました。

--:最初うまくいかかった時、具体的には何を変えたのでしょうか。考え方ですか。手法ですか。

留目:今もそうなんですが、それまでの自分の考え方とかやり方には固執しないんですね。常に学習していくことが重要だと思っています。ですので、失敗した時も、じゃぁ次はどうやってやろうか、という風に楽しんで挑戦していきました。

冷鉢。トマトすり流し、さざえ、順菜、土佐酢ジュレ

--:そうして、事業会社での実務の能力はデルで磨いていったという感じでしょうか。

留目:そうですね。そして、その辺りから事業のオーナーシップを持ちたいと考えるようになりました。マーケティングをやりながらも、GMのサポートも行なううちに、自分もGMとして手腕を発揮したいと思うようになったわけです。

 その後、デルも退職し、ファーストリテイリングにも数カ月いたのですが、次にレノボに転職しました。2006年のことです。ですので、今年で10年になります。2015年4月に社長になりました。

--:社長になられての話はまたお伺いしますが、次の質問として、これまでの人生で絶体絶命だと思ったできごとはありますか。

留目:ポジティブ志向なこともあり、そう感じたことはないです。強いて挙げるならデル入社当時に、これまでやってきたことが全く通じず、部下のマネジメントができなかったことでしょうか。とは言え、絶対絶命とまで思ったことはないです。

--:次の質問は、その失敗・危機をどのように乗り越えましたかというものです。留目さんは絶体絶命に陥ったことがないけど、強いて挙げればデルでの入社当初の状況と。それについては、学習して、やり方を変えていったということですが、失敗した時は悩んだりしますか。

留目:コンサルタントをやっていた頃から、物事の本質は何なのかと考えるようにしています。世の中で起きていることは、何かしら繋がりがあり、どこかにレバーがあると考えているんです。マーケティングや部下のマネジメントがうまくいかなかった時も、悲観はせず、その背後の仕組みを理解し、それに正しく働きかける、つまり正しくレバーを引けばうまくいくと信じ、挑戦心を持って取り組みました。

 振り返ると、コンサルタントの時は世の中の仕組みに対してまだ想像力が働いていなかったんですね。自社の戦略を1つ実行するにしても、社内の仕組みを考えないといけないですし、競合と戦うとなると、より大きな視点で仕組みを捉えないといけないなと思います。

造り。水貝、はも、むし鮑、車海老、こち

無制限テレワーク導入で、会社よりも外に出る

--:社長になられて、仕事上一番変わった点はどんなところでしょう。

留目:仕事はあまり変わっていないです。社長になる前も、NECとレノボ双方のコンシューマブランドの責任者でしたので、それに法人向けとサーバーが加わったという感じで、やってることは変わっていないです。

 ただ、自分の影響が及ぶ領域が広くなったとは思います。例えば、今最も重要なIoTに関して、最終ユーザーがコンシューマだとしても、IoTは全ての機器が繋がる世界なので、B2B2C的なものになりやすいんですね。つまり、今までのように作ったものを直販や量販店でエンドユーザーに販売するものではないんです。そういう意味で、タイミングとして、今、自分が社長になったことで、日本の中で他者とパートナーシップを結びながら動いていけると考えています。

--:学生の時から、大きな仕事がしたいと考えられていたとのことですが、今こうして社長、それも世界1位と日本1位のシェアを持つPCブランドの社長になられたことは、1つの目標達成だと考えてらっしゃいますか。

焼き物。江戸前太刀魚かぼ焼き、万願寺

留目:今、私が思う大きな仕事というのは、世の中や人類に対して大きな価値を提供することです。その意味では、社長になることは、ゴールではありません。今は第4次産業革命の時代とも言われていますが、その中では企業の経営者はそれほど重要ではないんです。IoTの世界では、全てを1社でカバーすることはできません。そういう意味で、NEC・レノボのトップになっただけでは、世の中に大きな価値を提供できないと思うんです。製品1つ1つよりも、繋がった製品の総体としてどれだけ価値を与えられるかが重要なんです。今後も企業という形態は残るでしょうが、1社で何かをやるのではなく、たくさんの企業が集まって1つのプロジェクトを遂行していく形になっていくでしょう。そのプロジェクトの中で自分がリーダーシップを取って、遂行できたとしたら、世の中に大きなインパクトを与えられるかなと思います。

--:仕事上のモットーや座右の銘を教えてください。

留目:私は幕末が好きなんですね。坂本龍馬とか新撰組とかが好きなんですが、社長になってからは高杉晋作が特に好きなんです。で、座右の銘としては、彼の辞世の句である「おもしろき こともなき世を おもしろく」です。人の生き方にしても、会社のあり方にしても、おもしろくできるかは、考え方1つで変わると思うんです。

 PCは誕生から30年ほど経ちました。それまでメインフレームにしかなかったコンピューティングパワーが個人にも降りてきたことは非常に革新的でした。そこから、新しいプロセッサや新しいOSが登場し、進化してきました。その中で我々が仕事としてやってきたのは、まさに“パーソナルコンピューティング”、つまり普段の生活や仕事により広くPCを普及させていくことでした。それを単に「PCというハコを作る仕事」と考えると、面白くないですよね。PCの市場が飽和した今、競合を倒してそのシェアを取るとか、もっとコストダウンするとかはどうでもいいと思うんですよ。

 私は、パーソナルコンピューティングはまだ普及していないと思っています。30年前に、例えばSF小説なんかが予言した未来はまだ全然実現していないじゃないですか。SFでなくても、例えば家電メーカーさんは、20年くらい前からホームエンターテイメントとかホームコンピューティングのようなものを思い描いてきたけど、実現できていないです。会社においても、PCの性能は上がったけど、使われ方は本当に変わってなくて、ほとんどの時間、我々のワークライフはコンピューティングパワーの恩恵を受けていないと思うんです。

 これは、我々が業界として反省すべき点なんですが、そういう昔描いたようなビジョンを実現していきたいと思います。例えば自動車業界は自動運転など、昔想像した方向に進化してると思います。一方で、ホームコンピューティング、あるいは今の言葉ならホームIoTが実現してないのは、この業界が共創に取り組んでこなかったからだと思います。テクノロジーやイノベーションを作るのは人と企業ですが、その進歩/普及を阻害するのもまた人と企業なんですよね。そういう垣根を取っ払わないとダメなんです。ちょっと話が広がりましたが、PCについては、こんなもんだ、と思っていたらそれくらいのものしかできません。面白くするのも、イノベーションを引き起こすのも、想像力と実行力次第です。

 と言っても、誰もが思いつかなかったことをやろうとしているわけではないです。何十年も前に想像されているものを実現するにあたり、その実現の阻害要因をなくして行くのが私たちの仕事だと思います。

--:既に前のお答えに含まれているかとも思いますが、尊敬する人物を教えてください。

留目:ビジョンを持っている人や、世の中の新しい仕組みを考えて実現する人と言う意味で、やはり坂本龍馬や高杉晋作は尊敬します。

--:ご自身のセールスポイントを教えてください。

留目:前向きで、落ち込まないところでしょうか。

--:落ち込みやすい人にアドバイスするとしたら、何を伝えますか。

留目:物事には因果関係やシステムがあるじゃないですか、その構造さえ理解できれば、どうやって働きかければいいかのポイントが分かり、解決の糸口が見えてくると思います。

--:出社から退社までの大体の1日の仕事内容を教えてください。

留目:今、弊社はテレワークを推進していまして、4月から無制限テレワークを実施しているんです。

--:それはNECとレノボともですか。

留目:はい。テレワークそのものは子育てや介護など、社員個人の働きやすさを向上させるのも大きな目的の1つなんですが、IoTの時代においては、自分も外に出て繋がらないといけないと思うんですね。ものが繋がるには、会社同士、そして人も繋がらないといけないと思います。そのため、無制限テレワークという施策の中で、あらゆる部署の人間に、外に出て、違う会社の人に会ってくることを推奨しているんです。そうすることで、今までとは違うチェーンの中で価値が生まれてくると思うんです。

 私が最初に就職した商社では、商社の中にしかない情報で仕事が成り立っていましたが、今はそういう時代じゃないんですね。でも、働き方はその時代から変わってないですよね。同じ時間に出社して、同じ席に座って、その日の仕事が終わったら帰る。で、なぜ変わっていないかというと、管理職がそのマネジメントの方法しか知らないからなんです。でも、今となっては、そういう働き方をする必要ないわけです。インターネットによってさまざまなものが配分された今、働く時間も場所も最適化すべきです。なので、必ずしも会社に出社する必要はないんです。

 実際、私は今日出社していません。8時半から会議がありましたが、それは家から参加しました。それからお客様のところに行き、今日は麻布十番での取材だったので、六本木のアカデミーヒルズで仕事し、会議にも参加し、こちらに参りました。

--:テレワークというと、会社に行かなくても、自宅でも仕事ができることですが、御社の場合、それだけでなく、会社に行かず、これまでと違うお客さんのところに行って、新しい知見を得て、取り入れるためにも実施しているわけですね。

留目:そうです。これはまさに共創です。共創を各バリューチェーンの機能の中で実践してもらいたいと思っています。

--:自由な時間、場所で働けるというのはいいことですが、それを実施するにあたっては、例えば電話会議システムなどエコシステムとかがいろいろな場所にないとできないですよね。

留目:そういう点はあります。確かに昔ですとシステムを導入しないとできませんでしたが、今はいろんなイノベーションによって簡単になっています。例えば弊社の場合、MicrosoftのSkype for Businessを採用しており、それによってPC 1台があれば電話会議はどこででもできます。場合によってはスマートフォンででもできます。そして、ここでもそういうイノベーションの普及を妨げるのはヒトと会社なんですよね。

--:旧態依然とした考えだと、イノベーションが生まれないと。

留目:そして新しい市場も生まれません。

--:夜は会食が多いとのことでしたが、それも仕事とすると、留目さんご自身が考えている仕事の時間って、何時から何時くらいなんでしょうか。

留目:そういう意味での時間の感覚はないですね。もちろん日中は働いていると感じていますが、帰宅しても仕事のメールなどをチェックしますし、オンとオフという感覚はないです。

--:僕らも近いものはありますね。Webメディアは、雑誌が週刊や月刊だったりするのに対して、日刊と言われますが、実際は“時間刊”というか“リアルタイム刊”なんですよね。ニュースがあれば、即座に執筆して、公開するので。で、PC Watchの場合、外資系の企業のネタも多いわけですが、米国の朝の発表は、日本の夜1時、2時だったりするわけです。発表が予告されている場合は、自宅で準備して待ち受けるわけですが、まれに、布団に入って、ぼちぼち寝ようかなと思いながら、スマホを見たら、Twitterでニュースのネタをみつけて、慌ててその場で書くということもザラなので、自宅にいても、完全なオフというのはないです(笑)。

留目:今後はみんながそういう働き方になっていくと思いますよ。極端に言うと、株主や投資家からしたら、社員が何時から何時まで働くかというのは、どうでもいいことなんです。結果さえ出せばいいわけです。勤務時間を決めているのは経営者です。で、社員が毎日、何時から何時まで働いていないと経営できませんと考えているから、そういう仕組みになっているだけなんです。弊社の場合、そこまで進んでいませんが、将来的には社員の副業もありだと思います。同じ成果を人より短い時間で出せる人がいたら、その人はその余った時間をほかの仕事に費やしてもいいし、その方が会社の役に立つこともあると思います。

--:Lenovoという会社は、ローカルの戦略はその国や地域のスタッフに任せるんでしょうか。

留目:はい、そうです。Lenovoはその点でバランスが取れていると思います。と言うのは、2005年にIBMのPC事業を買収した時から、アジアとアメリカの会社が統合していて、多様性ある戦略が必然になっているんです。本社はアメリカ・ノースカロライナと中国・北京にありますし、いろいろな地域にまたがっていろいろな重役がいて、その人たちがバーチャルに本社機能を運営しているんです。ですので、統合して効率的なオペレーションを行なう点もあれば、ある程度分散してローカルの特性を活かすという両方を心がけているんです。

温物。おでん盛り、早松茸

--:この連載でお話を伺った重役の方は、スケジュール管理を秘書に任せている人も多くいますが、留目さんの働き方だと、それは難しそうにも思えます。実際、スケジュールはどのように管理していますか。

留目:私も秘書の方に助けてもらっています。

--:携帯電話は何を使っていますか。

留目:今まではモトローラの「Nexus 6」(関連記事)を使っていて、これからは10月にソフトバンクから発売予定の弊社のWindows 10 Mobile機「SoftBank 503LV」(関連記事製品情報)に移行します。これは社内でも導入予定です。

Nexus 6
SoftBank 503LV

--:Windows 10 Mobileには期待していますか。

留目:はい。これからの立ち上がりなので不透明な部分もありますが、大きなチャンスはあると思います。企業には、セキュリティに対する不安からスマートフォンではなく、まだフィーチャーフォンを社用で使っているところもあるので、そういうところで社内システムと相性のいいWindows 10 Mobileは普及していくんじゃないでしょうか。それから、Continuumは面白いですよね。本当にPCのようにパワフルに使えるかはまだ分かりませんが、もしかすると社用PCを持ち歩かなくていい日が来るかもしれません。

--:つまり、Windows 10 Mobileには可能性を感じていて、今後積極展開するということでしょうか。

留目:もちろんです。これに関しても、法人でもまだまだパーソナルコンピューティングの機会は大きなものだと思います。7月から今年も海の家を運営していますが、そこで稼働している指紋認証電子決済の「Liquid Pay」もWindowsで動作しています。これは、今まで専用機のPOSだったところに、Windows PCが入っていく余地があるということですから。そして、データがより分析しやすくなり、他のサービスともインテリジェントに連動できるようになります。

--:プライベートではどのようにPCを使っていますか。

留目:ビデオオンデマンド(VOD)サービスを使って、海外ドラマを観たりしています。

--:スマートフォンではなくPCで視聴されているんですか。

留目:PCでもスマートフォンでもタブレットでも観ます。場所や時間など、状況に応じて使い分けています。それから、それらの端末で読書もします。実は、一度家の書籍を全部スキャナで電子化して、紙は処分したんです。今も本はなるべく電子版を買うようにしています。

--:僕も最近はあまり読んでいないですが、マンガは冊数が多くて、スペースを取るので、買うなら電子版ですね。

留目:私もアメコミが好きで、今は「ウォーキング・デッド」を読んでいます。

--:僕もドラマで1シーズン観ましたが、あれってアメコミだったんですね。

留目:そうです。微妙にコミックとドラマはストーリーが違ったりするんですが。

--:書籍については、電子版が買いやすくてスペースも取らないから便利な一方で、蔵書としてコレクションしたいという気持ちもあるんですよね。なんとなくなですが、じっくり読みたいものは紙で買って、蔵書して、さくっと情報を得たいだけのものなんかは、電子版を買うことが多いです。

留目:私も本や映画なんかは、手元に置いておきたい気持ちはあります。ただ、それはデータとしての話です。例えば、映画やドラマはVODでレンタルもできますが、そうではなくいつでも何回でも観られるよう、買い切りで購入します。

--:映画については、僕はレンタルはせず、映画館に行くことも少なくて、気になる作品はほとんどBDを買って自宅で観るんです。と言うのは、自宅だと時間を気にせず、リラックスして観られるのと、何よりBDだとメイキングついててそれが目当てなんです。メイキングを観ると、制作者の作品に込めた想いとか、撮影方法とかも知ることができて、より堪能できるので。

留目:なるほど。でも、それが電子版にしか付いていなかったら、電子版を買いますか。

--:今のところ電子版は解像度が低いのと、おそらくメイキングは入っていないのがほとんどだと思います。あと、自宅はホームシアターを構築しているんですが、電子版はだいたいステレオ収録で、5.1chを活かせないというのもあるので、今のところ魅力はないですね。もう1つ電子版は、購入者以外がほとんど視聴・閲覧できないのが難点だと思います。紙の本なら友達や家族に読ませられるけど、電子版を誰かにスマートフォンごと渡して読ませるのは現実的でないので。今後は、そのあたりの電子版のアカウントとかの紐付けも柔軟になっていくんでしょうけど。

留目:そうですね。今後はファミリーアカウントみたいなものに変わっていくでしょうね。

食事。かつお茶漬け

--:今の趣味はなんでしょう。

留目:今はあまり趣味らしいものがないんです。

--:テニスはもうやられていないんですか。

留目:今はやっていないです。ゴルフは結構好きなんで、コースを回ったりもしますが、趣味と言えるほどではないです。あ、最近はまっているのは「Pokémon GO」ですね(笑)。

--:まだ出て3日くらい(注:取材は7月末に実施)ですよね。現時点で一番新しい趣味を持っている重役だと思います(笑)。

留目:あれって、未来を感じますよね。このゲームがすごいのは、それまでアニメの世界だったものが、現実世界で実現されたところですよね。ただ。ポケモンが好きと言うよりも、コンピューティングパワーが常時人をサポートするという未来では、観光ってああいうARとかになると思うんです。観光地に行ったら、スマートグラスにそのガイド情報がARで表示されたりとか。ARと言えば、今後こんなものを試す予定です。

PHAB2 Pro

--:おお! これは6月のTechWorldで公開されたGoogleの「Project Tango」対応スマートフォン(PHAB2 Pro)ですね。

留目:Project Tangoも“未来”だと思います。まだ技術適合認定を取れていないため、実際には無線を出して使えないのですが。Pokémon GOのARは2Dですよね。高さはないです。建物の中にいてもポケモンは出てきますが、ポケストップは例えば六本木ヒルズという1つの建物なりに対して割り当てられていて、建物の特定の階の判定はできません。Tangoを使えば、高さのデータも取れるので、3DなPokémon GOも可能になります。観光においても、例えばお城に行ったら、きちんと階を認識して、その階の展示のことについて説明を出すこともできます。

--:この端末って、日本で公開されたことはあるんでしょうか?

留目:日本でマスコミの前に出るのは、今この瞬間が初めてです(笑)。

--:それは貴重な体験をありがとうございます(笑)。TangoってLenovo以外にも採用表明しているんでしたっけ。

留目:初年度は弊社の独占です。

--:ただ、技術を普及させるには他社も採用していく必要がありますよね。

留目:もちろん将来的にはそうなるべきだと思います。

--:留目さんの手元に実機があるということは、日本投入もある程度は期待していいということですね(笑)。

留目:趣味の話に戻ると、幕末が好きなので、その史跡巡りは好きです。昨年は萩や高知に行ったりしました。残念ながら、今の東京や京都では、そういう史跡の多くが焼けてなくなってしまってます。今でも東京や京都は観光名所ですが、幕末好きからすると、今は残っていないものにこそ見たいものが多いんですよね。そういうのがARで再現・再体験できるといいなと思います。それこそがテクノロジーのあるべき姿だと思います。

--:何か特技はお持ちですか。

留目:どこでも寝られることです(笑)。逆に寝なくても働けるのも特技です。飛行機に乗ると、離陸前に寝て、飛んだことすら気付かずに目的地に着くこともあります。

--:飛行機だとビジネスのフルフラットですら寝付けない僕からはうらやましい限りです(笑)。

留目:オーストラリアだと、オーバーナイトで8時間のフライトとかがありますが、これだと通勤すらできると思います(笑)。飛行機の中でぐっすり寝れば、いつもより睡眠時間が長いくらいですから(笑)。

--:東京・オーストラリアで1日ごとに働けますね(笑)。寝なくても大丈夫と言うことですが、今でも仕事で徹夜されることもあるんですか。

留目:今は仕事で徹夜と言うことはもうないですね。コンサルタントの時はそういうこともありました。

--:休日はどのように過ごしていますか。

留目:ゴルフが多いです。後は海外ドラマをまとめて観たりします。

--:個人的なもので(家などを除く)、今までで一番高い買い物は何ですか。

留目:自分の中での価値で考えると、11歳くらいの頃、半分自分で出してPCを買ったのが、一番高い買い物ですね。

--:どちらのPCですか。

留目:NECのPC-98です。「マイコンBASICマガジン」を読んで、プログラムを入力して、ゲームが動くと、本当に嬉しかったですね。

--:僕も11歳くらいの時に最初のPCを買いました。シャープのX1Csです。

留目:赤いかっこいいヤツですよね。

--:そうです。それまではファミコンでゲームをしていたんですが、長い話を一言で言うと、自宅のファミコンを友達に盗まれまして、代わりに買ったのがX1Csだったんです(笑)。

留目:それはすごい話ですね(笑)。

水菓子。白桃コンポート

--:で、ゲームをしたかったわけですが、当時たまたま僕もマイコンBASICマガジンを読んでいて、「PCってもっとすごいゲームができる」ということを知っていたので、中古ですが弟と折半して買いました。そこからPCの道に入りました。

留目:私は父が化学の教師で、電子ブロックとか、ポケコンとかを持っていたので、そういうのに囲まれて育ったんですね。で、いつもそれらで遊んでいたら、そんなに好きならということで、半分出すからPCを買ったらどうだと言われ、お年玉なんかを貯めて購入しました。初歩的なものですが、自分でゲームを作ったり、宿題を解くのに使ったりしていました。

--:NECのPCとの出会いはかなり早かったんですね。

留目:はい。ただ、中学生くらいからあまり使わなくなり、間に使わない時代がありました。今、若者のPC離れと言われますが、小さい頃からPCを使ったり、プログラミングを覚えるのは自分の人生を振り返ると、かなり役に立ったと思います。

--:そういうPCリテラシーやプログラミング技術とかが、実際にこういう風に役立ったという話って、メーカーさんもだし僕らメディアも、今後一層紹介していかないといけないと思うんですよね。ただ、授業でプログラミングが必修になるから、子供に対して押しつけるように「PCを使いなさい!」と言ってもダメで、子供が自発的にそういうことをやってみたいと思って、「PC欲しい。買って!」と言うくらいになるストーリーとか土壌を用意してあげてないといけないと根本的な解決にならないのかなと思います。

留目:そうですね。ただ、それにあたって教室をIT化しなければ、といった議論もありますが、PCやタブレットを子供に与えるのが目的ではないし、本質ではないと思います。

--:今一番欲しいものはなんですか。

留目:欲しいものというか、旅をしたいですね。テレワークの将来形は、旅をしながら働けることだと思うんです(笑)。人生自体、旅だといいますが、旅をすると新しい知見を得られますよね。これまでは仕事と旅は相反するものでしたが、今では海外出張に行ってても、日本の電話会議に参加したりできるわけです。すると、その先には旅をしながらでも、働けると思うんです。いろいろなところに行って、見識や感性を高めていきながら仕事もできたら素晴らしいと思います。そういうことを実現して、自分も旅に出たいです。

--:具体的に行きたい場所や国などありますか。

留目:海外もいいですが、日本の中でもまだ行けていないところはたくさんあるので、日本一周して、新しい発見をできたらと思います。

--:ついでにPokémon GOもできますね(笑)。

留目:そうですね(笑)。幕末でも何でも、何かテーマを持った旅をしたいです。

--:ちなみに、今の御社の無制限テレワークの仕組みだと、1カ月出社しないで仕事することも可能なんでしょうか。

留目:上長の許可を得る必要はありますが、理論的には可能です。とは言え、お客様とのフェースツーフェースのコミュニケーションも重要ですし、難しい点はありますけどね。

--:1カ月とか1年出社しないというのは無理でも、今までだと休暇を取らないと旅には行けなかったのが、数日程度なら、きちんと成果を出していれば、旅行しながら仕事はできるわけですね。

留目:そうです。既に実家に帰省しながら仕事をしている人もいます。

--:僕はここ2年くらい帰省してないですね(笑)。正月は会社は休みですが、毎年ラスベガスでCESがあり、早いと1月3日くらいに出発なので、3が日を落ち着いて過ごすこともできないので、帰れていないんです。

 次の質問です。好きなブランドを教えてください。

留目:もちろんLAVIEやMotorola、Lenovoなど自社ブランドは好きですが、そのほかのものではあんまりブランドにこだわりがないんです。強いて言うと靴が好きで、昔から先輩から靴はいいものを履けと言われていて、クロケットジョーンズやオールデンが好きです。それぞれ英国と米国のブランドなので、欧州に行く時はクロケットジョーンズ、米国ならオールデンと履き分けたりしています。

--:個人的にこのヒト・モノに勝てないというのはありますか。

留目:また幕末ですが、高杉晋作や坂本龍馬ですね。彼らは、まだ若いにも関わらず、新しいビジョンを持って、従来の枠組みを打ち破って行動し、命をかけて実現していったところを尊敬します。しかも利己的でないのが素晴らしいですよね。

20年後、PCは意識して使わずとも、生活をサポートする存在に

--:20年後どのようなことをしていたいですか。

留目:オン/オフの区別をあまりしないので、引退して楽をしたいとかいう気持ちはないんですね。むしろ今より大きな仕事ができたらいいなと思っています。それが会社員という形としてかは分かりませんが、世の中に何か価値を提供していきたいですね。

--:PCは20年後どうなっていると思いますか。

留目:PCというハコはなくならないと思いますが、先ほどもお話ししましたとおり、PCの本質はパーソナルコンピューティングだと思っています。PCやタブレットやスマートフォンなどコンピューティングパワーを持つもの同士や、クラウド、ホームサーバーなどとシームレスに繋がって、24時間そのパワーを人の生活を支えている形になっていると思います。そのコンピューティングパワーが今どこにあるのかは意識しないものになるでしょう。水や空気のようにコンピューティングパワーがどこかに存在していて、音声だったり、タッチだったりでインタラクションしている。あるいは使うという意識すらないけど、PCがTPOに応じた情報を自動的に教えてくれる。それがコンピューティングだと思います。

--:例えば、Googleグラスのようなものを装着していて、コンピューティングパワーがイメージセンサーに写ったものを識別し、さらにユーザーの趣味趣向の情報はクラウドにあり、それをマッチングさせて、同じものを観ていても幕末好きな人には幕末に関する情報がARで表示され、ポケモンが好きな人にはポケモン関連情報が出るとか、そういう進化はしていそうですね。

留目:PCというハコを作るのではなく、そういったことを実現するのが我々の仕事だと思います。

--:これから社会人になる20歳の人に、どのような人生を歩むべきかメッセージをお願いします。

留目:多少IT業界にいて、今共創というプロジェクトにも関わっている中感じているのは、第4次産業革命以降の働き方をイメージして人生を歩んでもらいたいと思います。この10年でがらっと変わるでしょう。そういう意味では、私のキャリアとかは、今後社会に出る人にとっては、本当に幸せなキャリアではないかもしれません。インターネットの最適化・再配分により、優秀であれば自由になれる環境が整ったと思います。どこそこの会社に入るではなく、何とか業界に入るではなく、そういうしがらみが取っ払われた社会を想像し、個人として自由になって、高い価値を見つけて社会に還元するということを目指して欲しいです。

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この企画では、登場いただく方に記念品を読者プレゼントとしてご提供いただいています。留目さんには絹麿✕JOTARO SAITOブランドの扇子をご提供いただきました。普段、ご自身でも使われているそうです。ふるってご応募ください。

応募方法

応募方法:下記リンクの応募フォームに必要事項を入力して送信してください

応募締切:2016年9月2日(金) 0:00まで

応募フォーム

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絹麿✕JOTARO SAITOの扇子