山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
エプソンの新ドキュメントスキャナ「DS-560」を試す(後編)
~Wi-Fi経由のスキャン、OCR、オプション項目をチェック
(2014/1/15 06:00)
最大50枚のA4原稿を同時にセットでき、300dpiカラーで毎分26枚の高速読み取りを可能とするエプソンのドキュメントスキャナ「DS-560」。速度や画質など基本性能をチェックした前編に続き、後編となる今回は、本製品の目玉機能であるWi-Fiを経由したPCおよびタブレットからの読み取りや、OCR機能の評価、さらに読み取りオプションについてチェックしていく。
Wi-Fi経由での利用に対応。速度はやや遅め
前回のUSB接続に続き、今回はまずWi-Fi経由でPCと接続する手順について見ていこう。
Wi-Fi経由での接続方法は2通り。PCと1:1でアドホック接続するWi-Fi直接接続モード(アクセスポイントモード)と、アクセスポイント経由で接続するインフラストラクチャーモードだ。アドホックモードが使用できるのは、ScanSnap iX500と比較した際の強みだが、どちらかというとスマートフォン/タブレット向けの機能だろう。今回は後者、インフラストラクチャーモードで利用する。
インフラストラクチャーモードで利用する場合は、背面のボタンを使ってAOSSまたはWPSでアクセスポイントと接続。その後製品添付のCD-ROM内のインストールナビからユーティリティ「EpsonNet Setup」を実行し、本製品を検出すれば、あとはUSB接続時と同じように使用できる。ネットワークの設定時にWPSだけでなくAOSSが利用できるのは、ScanSnap iX500と比較した際の強みだ。
セットアップの手順そのものは難しくなく、あらかじめUSB接続で利用していれば5分もせずに使えるようになるが、全体の段取りがやや見えにくく、一旦つまづくと何をしてよいのか分かりにくい。これについては、ScanSnapのウィザードのほうが全体の手順が把握しやすく、またステータスも把握しやすいと感じた。
ではUSB接続の場合と同様、読取速度について見ていこう。条件は前回と同じで、解像度は300/600/1200dpi(本製品のみ)の3パターン、カラーモードはモノクロ(白黒)、グレー、カラーの3パターンの組み合わせだ。
DS-560 | ScanSnap iX500 | ||
---|---|---|---|
白黒(モノクロ) | 300dpi | 1分23秒 | 0分46秒 |
600dpi | 3分06秒 | 1分04秒 | |
1,200dpi | 3分33秒 | - | |
グレー | 300dpi | 1分22秒 | 0分56秒 |
600dpi | 3分29秒 | 2分52秒 | |
1,200dpi | 4分02秒 | - | |
カラー | 300dpi | 1分46秒 | 0分56秒 |
600dpi | 5分07秒 | 2分52秒 | |
1,200dpi | 8分57秒 | - |
DS-560 | ScanSnap iX500 | ||
---|---|---|---|
白黒(モノクロ) | 300dpi | 8.8MB | 6.0MB |
600dpi | 25.3MB | 21.7MB | |
1,200dpi | 37.4MB | - | |
グレー | 300dpi | 24.2MB | 38.7MB |
600dpi | 102.1MB | 126.6MB | |
1,200dpi | 269.4MB | - | |
カラー | 300dpi | 23.9MB | 41.6MB |
600dpi | 102.9MB | 130.8MB | |
1,200dpi | 306.9MB | - |
速度については、前回のUSB接続時は300dpiでほぼ互角、600dpiではグレーで本製品が優勢、カラーでScanSnap iX500が優勢だったが、このWi-Fi接続ではいずれの設定値でもScanSnap iX500の圧勝である。ScanSnap iX500はUSBでもWi-Fi接続でも読み取り速度にほとんど違いはないが、本製品はWi-Fi接続では露骨に遅くなるため、大きな差がついてしまうというわけだ。
特にカラーの場合は、もっとも一般的な300dpiでも、本製品のほうが2倍近い時間がかかっている。挙動を見ていると、読み取り後の処理が追いつかずに紙送りが途中で停止したり、読み取り完了後の処理に長時間待たされることが多い。USB接続時も600dpi以上でこの症状が多発するのだが、Wi-Fi接続ではその頻度がさらに高くなる。ScanSnapは同じ環境でスムーズに動いていることからして、スキャナ側のCPUの性能差によるものと見てよさそうだ。なお生成されるファイルサイズについては、USB接続とWi-Fi接続とで大きな差はないことを補足しておく。
タブレットから無線でスキャン可能。読み取り後の編集機能が充実
次にタブレットからWi-Fi経由でスキャンを実行する手順について見ていこう。タブレットからの利用にあたっては、iOS/Android用の専用アプリ「DocumentScan」を用いる。本製品固有のSSIDおよびパスワードをタブレットに設定して1:1で接続する方法のほか、アクセスポイント経由で接続する方法の2通りが用意されているのは、PCでの無線接続時と同様だ。今回は後者の手順で利用する。使用したタブレットはNexus 7(2013年モデル)である。
接続は、本製品が無線でアクセスポイントに接続されていれば、タブレット側でアプリを起動して検索するだけで検出されるので、特段難しくはない。あとは読取設定を確認してスキャンを実行すれば、原稿が読み取られ、スキャンデータがタブレットに転送される。このあたりの手順はScanSnap iX500もほぼ同じだ。
ほぼ同じ接続方法(インフラストラクチャ)および読取設定(300dpiカラー)でScanSnap iX500と速度を比較すると、本製品が1分42秒、ScanSnap iX500が0分45秒ということで、時間はややかかる傾向にある。ちなみにこれはPCから無線で読み取った際の所要時間とほぼイコールで、スキャン完了後の処理で待たされるという傾向も同じだ。無線LANそのものの速度差は考えにくいことを考慮すると、スキャナのCPUの処理速度がボトルネックになっているのではないかと考えられる。ただこれはあくまでScanSnap iX500と比較した場合の話で、単体で見ると致命的に遅いわけではない。ScanSnapが速すぎるというだけで、本製品も十分に実用レベルだ。
ちなみにタブレットで利用する場合、PCでの利用に比べて機能制限がいくつかある。ファイル形式はPDFもしくはJPGのみで、解像度は200/300dpiの2択。またオプションは白紙ページ除去と重送検知のみで、補正機能については設定項目が見当たらない。ScanSnapにおける同等アプリ「ScanSnap Connect Application」もおおむねこれに近い制限があるが、画質は圧縮率を指定できるほか、裏写り軽減も利用できるので、本アプリのほうが機能はやや少なめということになる。
読み取ったPDFの編集機能については、本製品のアプリはページの回転、順序変更、削除、全ページ180度回転、全ページ逆順といった機能が用意されている。ScanSnapのアプリはページの回転、削除、ファイル名の変更に限られるので、本製品のアプリのほうが編集機能はかなり豊富である。なかでも全ページ180度回転や全ページ逆順は、原稿のセットを誤った際に再度スキャンをしなくて済むので重宝する。
ただし、本製品のアプリはいったん編集が終わって保存すると再編集ができないようで、その点では保存後に再度呼び出して編集可能なScanSnapのアプリのほうが、スキャンだけ先に済ませてあとでまとめて編集したい場合に便利だ。
やや時間がかかるOCR処理
本製品には、数多くの読み取りオプションや画像調整機能が用意されている。利用頻度が高いと思われるOCRから紹介していこう。
まずはOCRをオンにした場合の読取時間の違いについて。グレーとカラー、300dpiと600dpiに限定し、本製品およびScanSnap iX500でテストを行なってみた。原稿はさきほどと同じく10枚20面、補正オプションなどの条件も同様である。対象言語はいずれも「日本語」を指定。今回は有線(USB接続)に加えて、無線でも同一内容のテストを行なっている。
DS-560 | ScanSnap iX500 | |||
---|---|---|---|---|
OCRなし | OCRあり | OCRなし | OCRあり | |
グレー300dpi | 0分47秒 | 1分18秒 | 0分54秒 | 1分28秒 |
グレー600dpi | 1分58秒 | 4分44秒 | 2分50秒 | 2分59秒 |
カラー300dpi | 0分56秒 | 1分48秒 | 0分54秒 | 1分38秒 |
カラー600dpi | 3分58秒 | 6分35秒 | 2分52秒 | 3分07秒 |
DS-560 | ScanSnap iX500 | |||
---|---|---|---|---|
OCRなし | OCRあり | OCRなし | OCRあり | |
グレー300dpi | 1分22秒 | 1分47秒 | 0分56秒 | 1分30秒 |
グレー600dpi | 3分29秒 | 5分52秒 | 2分52秒 | 3分07秒 |
カラー300dpi | 1分46秒 | 2分19秒 | 0分56秒 | 1分30秒 |
カラー600dpi | 5分07秒 | 8分13秒 | 2分52秒 | 3分21秒 |
まず速度については、ScanSnap iX500であれば、OCRなしの場合と比較して、前述のどの解像度およびカラーモードでも最大40秒程度が上積みされるだけで済む。ほとんどのケースにおいてOCRオンで上積みされた時間が30秒前後だったことから推測するに、これが10枚20面の原稿のテキスト解析に必要な時間だと推測される。
一方の本製品は、上積みになる時間が30秒程度で済む場合もあれば、600dpiでは3分近く上積みになるなど、元の読取時間が長いほど上積み時間も延びる傾向がある。300dpiではそれでもまだプラス50秒程度で済んでいるのだが、600dpiグレー(有線)だと1分58秒だったのが4分44秒、600dpiカラー(有線)では3分58秒だったのが6分35秒と、露骨に所要時間が延びる。
もちろん所要時間が余計にかかっても、テキストの認識率が高ければその価値があるのだが、今回試用した限り、認識率はScanSnap iX500とおおむね同等であるように感じられた。具体的には、300dpiでは誤認識は若干あるが、600dpiだと誤認識は大幅に減少する、といった傾向だ(ScanSnap iX500が半角カナを使いたがるのはややマイナスだが)。認識率そのものは良好だが、こと速度に関しては、ScanSnapの1世代前の機種(S1500)に近いように感じられる。
実用性が高い画像調整オプション
そのほかの画像調整オプションについては、組み合わせが無数にあることから、標準的な読取設定において個々のオプションをオンにした場合の所要時間と概要の紹介に留めておきたい。いずれも特記事項がない限り「カラー300dpi、傾き補正以外のオプションなし、USB接続、10枚20面」での測定結果であり、ほかのパラメータでは傾向が異なる可能性があるのでご了承いただきたい。
オプション名 | 所要時間 | オフとの時間差 | 備考 |
---|---|---|---|
アンシャープマスク | 1分23秒 | +27秒 | - |
文字くっきり | 1分28秒 | +32秒 | 設定値:標準 |
明るさ | 1分00秒 | +4秒 | 設定値:+50 |
コントラスト | 0分58秒 | +2秒 | 設定値:+50 |
モアレ除去 | 4分52秒 | +236秒 | - |
ドロップアウト(赤) | 0分48秒 | +1秒 | ※グレー300dpiでテスト |
色強調 | 1分17秒 | +30秒 | ※グレー300dpiでテスト |
画像はっきり | 1分03秒 | +22秒 | ※モノクロ300dpiでテスト |
「文字くっきり」「アンシャープマスク」は、ソフトフォーカス気味になりがちな本製品では利用機会が多そうなオプションだ。「文字くっきり」はモアレまで強調される傾向があるので要注意だが、「アンシャープマスク」は飛びがちだったコントラストを改善する効果もあるので、ScanSnapに近い画質を得たい場合にはオンにしておくとよい。所要時間も、オフの場合が0分56秒、オンの場合はそれぞれ1分28秒と1分23秒なので、じゅうぶんに実用的だ。常時オンにしてもよいかもしれない。
「明るさ」「コントラスト」はいずれもスライダーで値を調整する方式で、裏写りを完全に飛ばしてしまうといった使い方もできる。最適値を一発で見つけるのは難しいが、プレビュー機能を使えば1枚だけスキャンして画面上で値を変えつつ画質を調節し、最適値を見つけてから本番のスキャンに着手できる。こちらもスキャン速度にはほとんど影響しないようなので、出番も多そうだ。
スキャン速度が露骨に変わるのが「モアレ除去」で、オフの場合が0分56秒に対し、オンにすると4分52秒もかかる。挙動を見る限りでは1段階上の解像度で取り込んだ後、内部で補正を行なっているようだが、実際に上がってきた画像を見るとモアレを除去しているというよりは全体的にぼやけた印象だ。別のオプションをオンにした結果モアレが発生した場合のみ適用するといった、やや特殊な使い道になるのではないかと感じた。
以上5つはカラーモードを問わず使えるオプションだが、グレーおよびモノクロの場合のみ使えるのが「ドロップアウト」と「色強調」だ。前者は特定の色(または特定の色以外)を除去するモードで、赤、青、緑、ピンク、黄、黒といった色をプルダウンから選んでスキャンすることで、それらの色が除去される。ただし出力はグレーかモノクロなので、カラーのまま特定の色だけを除去できるわけではない。そもそもは「書類から朱印だけを取り除く」という用途が想定されており、コンシューマ用途では利用シーンは限られるだろう。
「色強調」はその逆で、特定の色を強調する機能である。こちらもやはり出力はグレーかモノクロなので、カラーのまま特定の色だけを強調する機能ではない点に注意したい。このあたりは、名前から想定される機能と実際の機能にズレがあるので、コンシューマ用途では名称を一考する必要があるように感じられる。なお速度は、オフの場合が0分47秒なのに対して、ドロップアウトは0分48秒と誤差レベル、色強調も1分17秒と、実用的な速度である。
最後に「画像はっきり」。これはモノクロでのみ利用できる機能で、網点を追加して画像を見やすくする機能だ。見た目がグレースケールのようになるので、画像が2値に変換されてコントラストがはっきりしすぎてしまう場合に利用できる。ただしファイルサイズはグレーでスキャンしたのと変わらなくなるので、モノクロ並みの小さいファイルサイズを維持しつつ画像を滑らかにするという目的にはそぐわない。
以上が画像調整オプションの紹介だが、過去のモデルではこれらオプションをオンにすると読取時間がケタ違いに変わっていた記憶があるので(今回は比較していない)、モアレ除去以外はかなり実用的だと感じる。EPSON Scanには、2種類の画像を同時に出力する「ダブルイメージ出力」なる機能もあるので、特定の補正オプションをオンにした場合とオフにした場合を同時に出力したり、カラーとグレーを同時に出力するといった使い方もできる。ただし所要時間はかなりかかるので、さきに紹介したプレビュー機能とも併用するとよいだろう。
ユーザー目線での設定画面の改善およびヘルプの提供が求められる
以上、前後編に分けてざっと紹介したが、従来モデルにあった突飛な挙動も影を潜めており(前編で紹介したマザーボード画像の45度回転が目についたくらいだ)、かなり実用的なレベルに仕上がっていると感じられた。デフォルトの絵作りが必ずしもよいとは思わないが、ScanSnapにはない設定項目や画質調整オプションも多いので、絵作りを自分なりに調整できる。車に喩えるなら、ScanSnapがオートマ車、本製品はマニュアル車といったところだろうか。また今回試した限りでは、重送がまったくといっていいほど見られなかったのも高評価だ。
現状の問題点としては、ページ上下に発生しがちな影や、やや甲高く一定でない駆動音、スキャン中にプレビューが表示されないこと、また本稿で述べた600dpi以上およびWi-Fi接続時の速度低下などが挙げられる。実機でテストしていないので本稿では紹介していないが、無線で接続する必要がなければ、本製品の下位モデルのDS-510という選択肢もあるだろう。
価格については、直販価格だと本製品が44,980円、ScanSnap iX500が49,800円と本製品のほうが有利だが、実売ベースではScanSnap iX500が本製品の直販価格より安く売られているケースも多々ある。またScanSnap iX500にはパッケージ版単体だと3万円を超えるAdobe Acrobat Standardが標準で添付されるという、かなり強力な付加価値もある。価格だけを比較するのではなく、こうした部分も含めて判断すべきだろう。
と、いろいろ述べてきたが、現状でもっとも大きな要改善ポイントは、やはりソフトウェアの操作性だというのが筆者の結論だ。「EPSON Scan」と「Document Capture Pro」という2種類のソフトのどちらからでもスキャンが行なえるせいで、いったん設定した解像度が消えてしまったように見える(実際には一方のソフトにのみ設定されている)といった問題点のほか、設定画面の難解さについては、本製品でも依然課題として残ったままだ。
ScanSnapのユーティリティも、選択肢が2個しかないのにプルダウンで選ばせる項目があるなど、使い勝手としては首をひねる箇所もあるのだが、「基本設定はタブ切り替え」、「詳細設定はもう1階層下」というルールが徹底されているため、設定を変更する際も、各タブの1階層下まで探せば必ず見つかる安心感がある。
一方で本製品は、詳細設定の先にさらに設定画面があるなど、階層が非常に深く、いざ設定を変えようとした場合に見つけるのに苦労する。例えばOCRをオンにするためには、EPSON Scanのメイン画面から「保存ファイルの設定」を開き、そこでさらに「詳細設定」をクリックして「EPSON PDF Plug-in 詳細設定」を呼び出し、その先で「テキスト」タブを選んでようやくOCRの設定画面が表示されるといった具合だ。
このあたりは、同社がドキュメントスキャナ以外にもさまざまなスキャナを手がけており、既存のユーティリティから別のユーティリティを呼び出す格好になっているのが一因だが、「中の人は理解できているがユーザは置いてけぼり」という典型例であり、おそらくここが改善されない限り、ScanSnapとの差は縮まらないのではないかというのが率直な感想だ。
従来モデルから改善されない状況を見るにつけ、社内的に容易に変更できない事情があると推測されるが、それならせめて目的別にヘルプやチュートリアルを用意するといった対策もあるのではないかと思う(本製品添付のユーザーズガイドは読み進めていくと「詳細は○○のヘルプをご覧ください」と丸投げされて完結していない場合が多く、目的を達成するまでに右往左往させられる)。
実のところ今回のレビューも、試用以前に製品を「理解」することにかなりの時間を費やしており、実際にユーザーが本製品を購入したとして、自分がやりたいことをできるようになるまでの時間は、ScanSnapよりもかなり長いと考えられる。まだ発売前ということで発売時に何らかの手が打たれる可能性もあるが、ハードウェアそのものは明らかによくなっているだけに、こうしたユーザー目線での使い勝手の改善ないしは情報提供を切に望みたい。