山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

楽天「Kobo Arc 7HD」

~Google Playにも対応した楽天製Androidタブレット

「Kobo Arc 7HD」。カラーはホワイトとブラック、容量は16GBと32GBをラインナップする
発売中

価格:22,800円(16GB)、27,800円(32GB)

 「Kobo Arc 7HD」は、楽天の電子書籍ストア「Koboイーブックストア」と連携し、電子書籍をダウンロード購入して楽しめるタブレット。「Kobo Aura」などのE Ink端末とは異なり、カラー液晶を採用していることが特徴だ。

 セグメント的にはAmazonでいうところの「Kindle Fire」シリーズに相当する本製品だが、独自のアプリストアを持たず、汎用のGoogle Playの利用に対応する。起動後のホーム画面がKoboオリジナルで、楽天製アプリが多数プリインストールされていることを除けば、純然たるAndroidタブレットといって差し支えない仕様だ。

 その意味では、eBookJapanが販売していたASUSの「MeMO Pad ME172V」とはスタンスが似ているが、Koboブランドが前面に出ている点で、本製品の方がより電子書籍端末としてのアピールが強い。どちらかというと、シャープがイーモバイルから発売していたGALAPAGOSブランドのAndroidタブレット「A01SH」の立ち位置に近いだろう。

製品本体。ちなみにこれはホワイトだが、ベゼル部は事務機器を想起させるアイボリーで、一般的なホワイトモデルをイメージして購入すると戸惑う
左側面上にイヤフォンジャック、Micro HDMI、Micro USBを備える。microSDスロットはない
右側面上には音量ボタンを搭載
上面の電源ボタンはスライド式で、充電中などに赤く点灯する
背面はKindle Fireの2013年モデルを思わせる独特の面構成

旧Nexus 7(2012)に近いスペック

 ストアブランドのタブレットとしては、本製品はAmazonのKindle Fireシリーズと競合するが、Google Playが利用できるという意味では、汎用の7型タブレットも競合となりうる。そのため今回は、「Kindle Fire HD 7/HDX 7」に加えて、「Nexus 7」とも比較する。


Kobo Arc 7HDGoogle Nexus 7(2013)

楽天ASUS
サイズ(幅×奥行き×最厚部)122×194×9.6mm114×200×8.65mm
重量約341g約290g
OSAndroid 4.2.2Android 4.4
CPUTegra 3 クアッドコア1.7GHzSnapdragon S4 Pro クアッドコア1.5GHz
メモリ1GB2GB
内蔵ストレージ16GB/32GB16GB/32GB
通信方式802.11b/g/n802.11a/b/g/n
画面サイズ/解像度7型1,200×1,920ドット(323ppi)7型1,200×1,920ドット(323ppi)
バッテリ持続時間(メーカー公称値)最長8.7時間(MP4ビデオ再生時)約10時間
バッテリ容量4,200mAh3,950mAh
カメラ前面前面+背面
電子書籍ストアKoboイーブックストアなどGoogle Play ブックスなど
価格(2014年2月15日現在)22,800円(16GB)、 27,800円(32GB)27,800円(16GB)、 33,800円(32GB)
備考--LTEモデルも存在

Kindle Fire HDX 7Kindle Fire HD 7

AmazonAmazon
サイズ(幅×奥行き×最厚部)128×186×9.0mm128×191×10.6mm
重量約303g約345g
OSFire OS 3.0Fire OS 3.0
CPUSnapdragon 800 クアッドコア2.2GHzOMAP 4470 デュアルコア1.5GHz
メモリ2GB1GB
内蔵ストレージ16GB/32GB/64GB8GB/16GB
通信方式802.11a/b/g/n802.11a/b/g/n
画面サイズ/解像度7型1,200×1,920ドット(323ppi)7型800×1,280ドット(216ppi)
バッテリ持続時間(メーカー公称値)11時間(書籍のみの場合17時間)10時間
バッテリ容量4,550mAh4,440mAh
カメラ前面なし
電子書籍ストアKindleストアKindleストア
価格(2014年2月15日現在)24,800円(16GB)、29,800円(32GB)、33,800円(64GB)15,800円(8GB)、17,800円(16GB)

 こうしてスペックを見る限りでは、Kindle Fireシリーズの上位機種であるHDX 7と、下位機種であるHD 7の中間と言っていい仕様であることが分かる。CPUがクアッドコアだったり、解像度が1,200×1,920ドットであるなど、上位モデルと遜色ない部分はあるが、メモリが1GBだったり、無線LANが11a非対応だったり、重量がやや重い341gだったりと、最新の7型タブレットとして見ると、目につく箇所がいくつかある。

 もっとも、読書用途ということを考えると、解像度はきっちり押さえているほか、ストレージも16GBと32GBをラインナップしており、そう悪い仕様ではない。むしろ読書用であることを前提に削れるところを削った結果がこれだと考えると、方向性は間違っていない。

 その結果として他製品に比べてアドバンテージとなっているのが価格で、16GBが22,800円、32GBが27,800円ということで、同容量のNexus 7よりそれぞれ5,000~6,000円安い。Kindle Fire HDX 7と比較しても各容量が2,000円安く、かつGoogle Playが使えるということで、魅力に感じるユーザーもいるだろう。ただしCPUなどのスペックが異なるので、これだけで優劣を判断するのは無理がある。後述するベンチマークの結果なども踏まえて判断して欲しい。

 ネックになるのが重量で、昨今の7型タブレットが300gの大台を割るか否かで競っている中、341gというのは明らかに重い。余談だが、CPUがTegra 3 クアッドコア1.3GHz、メモリ1GB、IEEE 802.11a非対応、重量が340gだった「Nexus 7(2012)」と、仕様的にかなり近いものがある。現行のNexus 7(2013)と比較する際、Nexus 7(2012)を思い浮かべると、分かりやすいだろう。

Nexus 7(2013)(右)との比較。本製品は天地に短く、幅は若干広い。本製品の方が50gほど重いのがネック
Kindle Fire HDX 7(右)との比較。本製品の方がスリムだが、重量はこちらも40g近い差が付けられている
iPad mini Retina(右)との比較。画面サイズが7型と7.9型ということで、さすがに見た目にもサイズの違いが一目瞭然
Koboファミリーの比較。左から本製品、Kobo Aura、Kobo glo。カラーとモノクロの違いこそあるものの、ホーム画面には同様のタイルメニューを採用していることが分かる
Nexus 7(2012)(右)との比較。スペックや重量にかなり近いものがある
電子書籍ストアのブランドを冠したAndroidベースのカラータブレットとしては、かつてイーモバイルから販売されていたシャープ製のGALAPAGOS A01SH(右)に近い
厚みの比較。いずれも左側が本製品。左列は上からNexus 7(2013)、Kindle Fire HDX 7、iPad mini Retina、右列は上からKobo glo、Kobo Aura、Miix 2 8

ホーム画面はKoboアプリのホームと同等

 セットアップ手順は、言語を選んでネットワークを選択、アップデートが行なわれた後、楽天会員IDを入力してログインすれば完了だ。一般的なAndroid端末とは異なり、ここではGoogleアカウントを入力する画面は表示されない。Google Playなどの利用でGoogleへのログインが必要になる場合は、それらアプリを起動する時点で初めてGoogleアカウントを登録するという流れだ。

まずは言語選択
ネットワークを選択。11aには対応しない
SSIDを選んでパスワードを入力する
Koboシリーズ恒例、ここでアップデートチェックが行なわれ、アップデートがあればインストールが行なわれる
再起動してインストール完了
続けて楽天IDとパスワードを入力する
セットアップ完了。タップしてホームに移動する
ホームはAndroidアプリとほぼ共通のタイル状デザイン。しばらく待っているとライブラリ内の本の表紙が表示される
ダウンロードがほぼ完了した状態。上下にスクロールして本を探せる

 ホーム画面は、Koboアプリのホーム画面に相当する内容で、過去に読んだ本やおすすめなどが表示される。下段にはChrome、Gmail、Facebook、Google Playストアにアクセスできるアイコンが並んでおり、その下にはAndroidではおなじみの戻る/ホーム/タスク切り替えボタンと、マイク/検索/アプリ一覧ボタンが並ぶ。ざっくり言うと「ホーム画面はKoboアプリそのまま」、「下段はAndroidの基本メニュー」という構成だ。

 ホーム画面を左にスワイプすると、楽天の各コンテンツにアクセスするための「楽天ゲートウェイ」なるウィジェットが表示される。右にスワイプするとコレクションが表示され、作成済みのライブラリにアクセスしたり、新しいコレクションを作成できる。いずれもKoboおよび楽天のコンテンツに特化された仕様であり、Androidそのままの操作性を期待していると戸惑うだろう。ちなみにAndroidアプリのショートカットを配置できるのは、楽天gatewayウィジェットが置かれた向かって左の画面のみである。

ホーム画面は下段にChromeなどのアイコンや、戻るボタンやホームボタンなどが並ぶ。カスタマイズされてはいるがAndroidベースのデザインだ
左にスワイプすると「楽天gateway」なるウィジェットが表示される
右にスワイプすると「ライブラリ」、「はじめに」といったコレクションが表示される。バーを模したデザイン、90度回転したテキストなど、どこまで意図して設計されたものか分からずやや戸惑う
さらに横にスクロールすると新しいコレクションを作成するエリアが表示される
ライブラリをタップするとライブラリ内の本が表示されるが、中央の線を基準として書影が上と下にそれぞれ並び、横向きにスクロールするという特殊な配置になっている

 画面の上端を下にスワイプすると、画面の明るさなどを調節するオプション画面や通知領域が表示されるといった操作性は、Androidそのままだ。また設定画面もAndroidほぼそのままで、Androidがベースながら原型を留めないほどカスタマイズされたKindleや「nook」とは一線を画している。要するにホーム画面まわりが独自仕様なだけで、それを除けば素のAndroidといって差し支えないわけだ。

 ただしこのホーム画面は、シャープGALAPAGOSのように、本棚表示をオフにして素のAndroidのように使うことができないので、それを期待して購入すると、おそらく期待外れということになるだろう。

画面の上端を下にスワイプするとAndroidでおなじみのオプションが表示される
設定画面もAndroidそのまま
本稿執筆時点でのAndroidのバージョンは4.2.2
楽天関連のアプリが大量にプリインストールされている。デザインがほぼ共通のため、下部のラベルがなければ各アイコンの判別はまず不可能なレベル
アプリの続き。楽天アプリ以外はAndroid標準のアプリがほとんどで、数は多くない

 気になったのが、画面を横向きにすると、これらホーム画面の表示が乱れることだ。ボタンが置かれたエリアの背景色が抜けてしまったり、ホーム画面にのみ置かれていたChromeやGmailのアイコンが隣の画面にも出現したりする。どうも横画面への最適化が果たせていないようで、やや作りこみが甘い印象は受ける。ボディの「kobo」ロゴの向きといい、横向きにするとスピーカーが向かって左にのみ配置されることといい、あまり横画面での使用は意識していないように感じる。

画面を横向きにした状態。見開き表示の際も下部に黒帯が残るので、ページサイズはかなり縮小されてしまう。ちなみにこれは後述するNexus 7でも同じ状態になる
ホーム画面。ChromeやGmailが左端に配置されるが、画面が縦向きの際にあったアイコンの背景の色がなくなり、壁紙が透過してしまっている
ホーム画面を左にスワイプしたところ。縦画面では表示されないChromeやGmailのアイコンが表示されており、位置もホーム画面の左端から右端に移動している。どうにも一貫性がない
ホーム画面を右にスワイプしたところ。ここは縦向き時ととくに変わらないが、文字列がなぜ90度回転しているのかといった違和感はそのまま

読書には十分だが、動画再生やゲームにはやや不安

 実際の使用感についてだが、液晶は解像度が高いだけでなく視野角も広く、明るさも十分。格安のAndroidタブレットとはさすがに一線を画している印象だ。高級感があるとは言わないが、安っぽい印象は全くない。強いて言えばホワイトモデル前面のアイボリーの部分が、やや野暮ったさを感じるくらいだ。

 ただし動作に関しては、スクロールがもたついたり、プチフリに似た挙動がそこそこの頻度で発生する。トップページで本のプレビューを見ようとタップしたが反応がなく、別の操作をしたところ、ワンテンポ遅れてプレビューが表示される、といった具合だ。筆者がNexus 7(2013)のレスポンスに慣れていることを差し引いても、タブレット側のスピードに合わせて操作してやらなくてはいけない印象は強い。

 また、これは個体差かもしれないが、タッチパネルのキャリブレーションが不完全なのか、ソフトキーボードでLをタップしたつもりが隣のKが入力されたりといった症状が見られるのも気になった。

 ベンチマークを見ても、パフォーマンスは必ずしも高くない。トータルのスコアは悪くなく、むしろNexus 7(2013)に次ぐ値なのだが、スコア上では本製品より下のKindle Fire HD 7ですら問題なく再生できるネットワーク越しのフルHD動画が、かなり高い頻度でコマ落ちしたり、動画と音声にズレが生じたりする。CPUの問題というより、Wi-Fiが11aに対応していない故のスループットが関係しているのかもしれない。今回は具体的にテストしていないが、2Dの性能の高さに比べて3D周りの数値が低いので、ゲームもあまり得意でなさそうだ。

【表】Quadrant Professionalベンチマークの結果
製品名Kindle Fire HDX 7Nexus 7(2013)kobo arc 7HDNexus 7(2012)Kindle Fire HD 7
Total203115209499834343186
CPU751891349814294108157154
Memory170728066324721003753
I/O66942150451415222345
2D330245459254254
3D22712088184424812424

 といったわけで、パフォーマンス的にはあまり多くを望めないのだが、とはいえNexus 7(2013)やKindle Fire HDX 7から本製品に乗り替えるユーザーはまずいないと考えられるので、他のタブレット製品の利用経験がなく「こんなものか」と思ってしまえばその程度かもしれない。どちらかというと、動画を再生した時に本体上部がかなり熱を帯びることの方が、実利用にあたっては気になるかもしれない。

なぜかAndroid版よりも複雑な、コミック続巻の購入フロー

 本製品はKoboアプリに相当する画面がホーム画面に固定されているため、本を開いたり、ストアに移動したりといった操作の際も、わざわざアプリを起動する必要がない。ところが、AndroidのKoboアプリとフローを比較すると、コミックで続刊を購入する場合など、かえって本製品の方が画面遷移の数が多かったりするのでややこしい。

 ここでは「コミックを読み終えたあと、ストアで続巻を探して購入し、本を開くまでの操作」を、Nexus 7(2013)にインストールしたAndroid版のアプリと実際に比較してみよう。

 まずは本製品から。コミックの最終ページに到達し、さらにページをめくろうとすると「読了に設定しますか?」と尋ねられる。「OK」を選択すると、ページが閉じ、ライブラリ(ホーム画面の向かって右側の画面)に移動する。ライブラリ内にある他の書籍を読むならタップしてライブラリを開き、そうでなければ左スワイプしてホーム画面に戻ってストアに移動してください、という実質上の二択だ。

 今回はストアで続巻を買いたいので、左にスワイプしてホーム画面に戻り、今まで読んでいたコミックのタイトルが書かれたタイルをタップする。すると内容紹介のページが表示され、その中にある関連書籍のリストから、続巻(ここでは「大東京トイボックス(5)」)を探してタップする。続巻の内容紹介ページに移動するので「購入する」をタップしてストアに移動し、必要に応じてクーポンコードやポイントを入力したのち「購入する」をタップすれば決済が行なわれ、ダウンロードの後、ホーム画面に表示される。

本を読み終わると「読了に設定しますか?」のメッセージが表示される
OKをタップすると、ホーム画面から右スワイプしたところの画面に飛ばされる。ライブラリ内の別の本を読むには「ライブラリ-本」と書かれたエリアをタップして開けばよいが、続巻を買うには不向きなので、右スワイプしてホーム画面に戻る
右スワイプしてホーム画面に戻ったところ。さまざまなタイルが表示されているが、いままで読んでいたコミックのタイトル(ここでは「大東京トイボックス(4)」)をタップすると、本の詳細ページが開く
本の内容紹介ページ。ここに続巻(ここでは「大東京トイボックス(5)」)が表示されているので、タップして詳細ページを開く
続巻である「大東京トイボックス(5)」の内容紹介ページ。「購入する 500円」をタップして次に進む。ちなみに「購入する」という文言は決済を実行する意味で使われているわけではないのでややこしい
購入確認ページが表示される。必要に応じてクーポンコードや利用ポイント数を入力したのち上部の「購入する」をタップすると確定される。こちらの「購入する」は決済の意味
購入完了を知らせる画面。ここですぐダウンロードが開始される場合と、エラーが出て止まる場合がある
これはエラーが発生してダウンロードが停止した状態。かなり高い頻度で発生する。ひとまずホーム画面に移動する
購入した「大東京トイボックス(5)」が右列中央に表示されているが、この時点ではデータはまだダウンロードされていないので、タップしてダウンロードを開始する
ダウンロードが完了すると配置が変わり、画面の左上に移動する。タップすることで表示される
続巻が表示された

 このフローの中には、疑問に感じる点がいくつかある。1つは読了後のジャンプ先がホーム画面の右側にある、「ライブラリ」などのコレクションが並んだ画面であること。ホーム画面に戻るには左にスワイプしなくてはならず、またライブラリを開くにはタップが1回必要なので、ストアへの移動には2タップ、ライブラリを開くには1タップが必要になる。

 もしここで移動先がホーム画面そのものなら、ストアとライブラリがともに1タップで開けるはずで、わざわざ画面遷移を増やしている格好だ。コレクション画面を見せたい意図があるのかもしれないが、使っていて不便さを感じた。

 またこのフローの中で「購入する」というラベルのボタンが2度表示されるのだが、1度目は購入ページヘの移動、2度目は決済といった具合に役割が異なっており、ユーザービリティ的によろしくない。さらに購入後に書籍をダウンロードする際、かなり高い確率でエラーが出て、ホーム画面に遷移したのち手動でのダウンロードを強いられた(上記のスクリーンショットは実際にそのエラーが発生した時のものである)。このあたりの不安定さは気になるところだ。

BookLiveのアプリで「大東京トイボックス 8巻」の読了後に表示される画面。「続巻・同一作者の作品を探す」の欄に続刊である9巻(未購入)が表示されているほか、「関連書籍」から別のタイトルも閲覧できるなど、見た目にも分かりやすい

 もう1つ、内容紹介ページに表示される続巻は、明示的に次の数字の巻を呼び出しているわけではなく「この本を買った人はこんな本も買っています」で関連書籍を表示しているだけなので、続巻が含まれない場合もある。例えばBookLive!のAndroidアプリでは、コミックの読了後に「続巻・同一作者の作品を探す」と「関連書籍」という複数の導線があり、続巻を取りこぼすことが少ない。これらと比較した場合、本製品はせっかくの専用端末でありながら、いまひとつ工夫が足りないように感じられる。

 では続いて、Nexus 7にインストールしたAndroid版のKoboアプリで同じフローを試してみよう。コミックの最終ページをめくろうとすると「読了に設定しますか?」と尋ねられるのは同じだが、「OK」を選択するとレビューを投稿する画面が表示され、その下に「この本を買った人はこんな本も買っています」で関連書籍が表示される。

 関連書籍の中から続巻をタップすると内容紹介ページが表示されるので、「購入する」を押して次画面に遷移。必要に応じてクーポンコードやポイントを入力したのち「購入する」をタップすれば、決済が実行される。支払情報画面に表示された「[読書中]に戻る」ボタンをタップするとライブラリに移動し、ダウンロードの進捗表示を経て、タップすれば本が開く。コレクション画面を経由しないこともあり、画面遷移の数はこちらの方が明らかに少ない。

本を読み終わると「読了に設定しますか?」のメッセージが表示される
レビューを投稿する画面が表示されるが、その下に続巻を含む関連書籍のリストが併せて表示される。スクロールして内容を確認した後、タップして詳細ページを開く
続巻である「大東京トイボックス(7)」の内容紹介ページ。「購入する 500円」をタップして次に進む。ちなみにここの「購入する」も、決済を実行するという意味ではない
購入確認画面。デザインはKobo Arc 7HDのそれとかなり違うが、必要に応じてクーポンコードや利用ポイント数を入力したのち「購入する」をタップして確定するという機能は同一
購入完了。この時点で画面遷移の数はKobo Arc 7HDに比べて2画面少ない。「[読書中]に戻る」ボタンをタップするとライブラリに移動する
ライブラリに移動するとダウンロードの進捗が表示されている。完了したらタップして開く
続巻の表紙が表示された。極めてシンプルなフローだ
ちなみにクーポンコードやポイント入力の画面をスキップする「クイック購入」の仕組みを使えばさらに画面遷移の数を減らせる
ちなみにiOS版のKoboアプリでは、OS側の仕様上、読了画面からストアにジャンプできないので、読了後はレビューを記入するポップアップウィンドウで行き止まりになってしまう。ただしそのポップアップを閉じれば、すぐライブラリに遷移するので、あらかじめ続巻が購入してあれば、スムーズに読み進められる

 もちろん、1冊の本を読み終えたあとは、続巻を買うだけでなく、ライブラリの別の本を読むといった選択肢もあるだろう。とはいえ現状では画面遷移の数の差から言っても「Androidアプリの方がシンプルでわかりやすい」という評価にならざるを得ない。もしかするとさらに合理的な方法があるのかもしれないが、普通に使っていて気付かない時点でマイナスだろう。Kindleの専用端末であるKindle FireがAndroid版に比べて圧倒的にシームレスな遷移を実現しているのとは対照的で、ブラッシュアップを期待したいところだ。

読書関連の機能のほとんどはAndroid版と同一

 話がやや前後するが、ホーム画面や読書画面などにおける、Androidアプリとの違いについてもまとめておこう。さきほどの購入フローはかなりの違いがみられたが、これらの画面については、ライブラリのデザインが大きく違うことを除き、挙動もデザインもほぼ同一である。設定画面に表示されるアプリのバージョン自体が全く同一なので、挙動やデザインが同じなのは当然といえば当然である。

ホーム画面。左が本製品、右がNexus 7(2013)にインストールしたKoboアプリ(以下同じ)。Androidアプリは本製品と違って上部にバーがあるが、本製品は下部にアイコンの配置スペースがあるので、差し引きすると本製品のほうが表示面積は狭い
アプリ情報。両方とも同じバージョンだが、本製品はアプリ自体のアンインストールが禁止されている
設定画面。アプリのアンインストールが禁止されている関係でいくつかの項目が省かれているが、基本的に同じ内容
もっとも異なるのがライブラリ画面。本製品のライブラリは他にない横スクロールのデザイン。1画面あたりの情報量も少なく、一覧性に欠ける
コミックコンテンツを表示し、右下のオプションバーを表示したところ。画面の表示面積はどちらも同じ。右上からは読了に設定できる
下段にスクロールバーを表示したところ。こちらも特に違いは見られない
テキストコンテンツは、3種類のフォントを搭載し、文字の大きさおよびページレイアウトが調節できる。どちらも違いはない
詳細設定画面。音量キーでのページめくりをサポートする。こちらも特に違いは見られない
テキストコンテンツは夜間モード、セピアモードへの切り替えが可能
テキストを範囲選択するとマーカーをつけたり、辞書との連携が可能。こちらもとくに違いはない

 Androidアプリの操作性を受け継いでいるが故の悪い部分もみられる。具体的には、すでに購入済みでライブラリにある本をストアで表示した際も「購入する」ボタンが表示されるので、所有しているのか、未購入で新規に買う必要があるのか、その段階では見分けがつかないことだ。次の画面に遷移して「ライブラリに追加済み」になっているのを見て初めて、所有していることに気付くといった具合だ。

 また、詳細ページ下部に並んでいる関連書籍をタップすると、詳細ページを開くのではなくポップアップウィンドウが表示される場合があるが、そのポップアップが画面外に表示されて気づかないことがあった。アプリの設計にまつわる部分だが、このあたりはアプリリリース前のレビュー不足という感が強い。

本の内容紹介ページで、下段に表示されている関連書籍をタップするが、見た目には何も起こらない。しかし実は……
画面を下にスクロールしたところ、非表示領域に詳細情報がポップアップ表示されていたというオチ。さすがにこれでは気付くのは困難だ。ちなみにこの本、すでに購入済みなのだが「購入する 500円」と、新規に購入が必要であるかのように表示されている
タップして次の画面に移動すると、「購入する 500円」の表示が「ライブラリに追加済み」に差し替わり、すでに所有していたことが分かる。少々不親切な仕様だ
今回の試用中にたまたま遭遇したのがこの通知。プリインストールされている「楽天漫画ニュース」というアプリの通知だが、デフォルトでオンになっており、この種の通知が頻繁に届く。本製品を買って子供などに与える場合、このあたりのペアレンタルコントロールも留意したほうが良さそうだ

パフォーマンスより価格を重視するユーザー向け。価格はもう一声ほしい

 ざっと使ってみたが、Google Playが使えるAndroidタブレットではありつつも、読書向けにチューニングされており、ハードウェアも削れる部分は削っている(例えば11a非対応や、メモリが2GBではなく1GBであるなど)ので、フルHD動画やゲームをバリバリ楽しむには、期待通りにいかない場合もあるだろう。ベースがAndroid 4.2なので全く実用レベルに達していないわけではないが、動画再生を試した限りでは「一応できる」と「快適にできる」のどちらの表現により近いかと言われると、明らかに前者寄りだ。

 またタブレット製品での動画鑑賞では、一般的に本体を横向きにするのが通例だが、本製品は本体前面のロゴが縦向き前提の配置だったり、画面を横向きにするとスピーカーが左上にのみ配置されたりと、横向き=動画鑑賞をあまり想定していないように感じられる。Nexus 7やKindle Fireシリーズは縦横どちらの向きで使っても違和感がないよう、本体前面はロゴを廃している(逆に縦向きでしか使わないKindle Paperwhiteは前面にロゴがあったりする)が、本製品はそのあたりも深く考えてはいないようだ。

スピーカーはこの上部のみなので、縦向きでは上から、横向きでは左からのみ音が出る格好になる

 特にスピーカーについては、左側だけに配置されることに加え、音が完全に背後に抜けてしまうレイアウトなので(まあこれはKindle Fireファミリーもそうなのだが)、スピーカーが完全に正面を向いていた日本未発売の先代モデル「Kobo Arc」のメリットが失われてしまっており、少々もったいなさを感じる。また、これまでKoboシリーズのほとんどがメリットとして掲げていたmicroSDカードスロットが省かれているのも、せっかくの差別化要因を失なう結果になっている。

 では本製品の強みは何かと問われると、ずばり「Google Playストアが使えてこの価格」ということになる。重量も昨今の7型タブレットとしては重い部類に入り、かつmicroSDカードスロットがない点はNexus 7やKindle Fireファミリーと横並びなので、どうしてもパフォーマンスよりも価格を求めるユーザー向けの製品という位置付けにならざるを得ない。

 ただ、現状ではそれほど強烈な価格破壊力はないのも事実なので、購入を考えるならもう一声あったタイミングがベターだろう。現在のNexus 7(2013)との価格差は、同容量で5,000円差の22,800円(16GB)だが、かつてのNexus 7(2012)と同じ19,800円のラインまで下がれば、Nexus 7(2013)との価格差は8,000円になり、これだとそこそこのインパクトがある。発売直後はオプションのスリープカバーがセットで提供される特典があるなど、本体価格以外の面でもお得に入手できるチャンスは定期的に用意されているようなので、そうした状況をウォッチしつつ、購入のタイミングを待った方が良いというのが、本稿の結論だ。

本製品から1カ月半ほど遅れて発売された下位モデル、Kobo Arc 7。14,800円と安価だが、解像度が1,024×600ドットであるなどスペックは低め。もっとも本製品にないmicroSDスロットが搭載されていたり、スピーカーの配置が上下逆だったりと、また違った設計思想が感じられる。本製品は次回あらためて紹介する
ブックタイプの純正カバー。開閉と連動してスリープから復帰する
本製品は左側面に充電用USBコネクタがあるため、左綴じのこのカバーをつけたままでは充電が行なえず、充電のたびにこのカバーを開けるか、本体をカバーから取り外すか、ロゴが天地逆になることに目をつぶって本体を上下逆にセットする必要がある。首をひねりたくなる設計だ

(山口 真弘)