山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

PFUのドキュメントスキャナ「ScanSnap iX500」を試す(前編)
~スキャンの高速化と、ブレーキローラーによる重送防止の効果をチェック



ScanSnap iX500

11月30日発売
価格:オープンプライス



 PFUの「ScanSnap iX500」は、ドキュメントスキャナ市場で圧倒的な支持を集める同社のフラッグシップモデル「ScanSnap S1500」の後継となる製品だ。

 最大50枚の原稿をまとめてセットでき、両面を同時に読み取れるという基本特徴はそのままに、無線によるiOS/Androidデバイスからの直接スキャンや、高速化、ブレーキローラーの採用による重送防止など、数多くの新機能および改善が施されている。S1500が登場したのが2009年2月だったため、実に3年9カ月ぶりの進化ということになる。

 発売日は11月30日で、価格はオープンプライス、直販価格は49,800円だ。今回は前後編に分けて、本製品のレビューをお届けする。前編では本の「自炊」用途を中心とした改善点のチェック、後編では目玉機能であるiOS/Androidデバイスからの直接スキャン機能をはじめとする画質周りについて見ていきたい。

●本体は完全な新規設計、製品ページにない改良点も多数あり

 まずは外観から見ていこう。

 ボディカラーは黒。背面の給紙トレイに原稿をセットして前面に排出するという仕組みは変わっておらず、トレイ開閉のギミックも同じ、しかもシルエットも基本的に同一であるため、本体写真だけ見ると従来モデルであるS1500の色を変えただけのように見えるが、実は違う。給紙台から本体、排紙トレイに至るまで完全な新規設計であり、同じ形状をしている部品は1つたりともないのではと思わせるほどだ。

トレイを折りたたんだ状態。外観はつや消しのブラック側面から見たところ。従来モデルに比べるとやや鋭角的なフォルムトレイを展開したところ。構造は従来モデルと変わらない
原稿台を開くと電源がオンになるギミックは従来と同様。排紙トレイを展開せずにそのまま排出することも可能手前の排紙トレイを開いた状態Scanボタンのほか長方形の枠が発光する。スリープ時にはこの枠と左下のScanSnapロゴが消灯する。Scanボタンの隣は無線LANの接続状況を示すLED
ScanSnap S1500(右)との比較。色違いのように見えるが、実際には面取りからしてかなり違うことが分かる正面から見たところ。本製品の方がわずかに背が高いトレイを展開したところ。上部エクステンションの幅やScanボタンまわりのデザイン、排紙トレイの角度など、まったく異なっていることが分かる
排紙トレイは、S1500(手前)に比べて本製品(奥)の方が角度がある背面。無線LANをON/OFFするスライドスイッチ、WPSボタン、USB 3.0コネクタ、電源ジャックが並ぶ。右端はケンジントンスロットがある

 単に新規設計というだけではなく、それぞれの機構が進化を遂げている。例えば原稿を左右から押さえるガイド部は、従来モデルに比べて明らかにハの字に開きにくくなっている。さらにA4原稿を乗せる際に引き出すエクステンションは、従来モデルに比べて軽く引き出せるようになっており、片手で本体を押さえてもう一方の手で引き出さなくとも、一方の手でサッと伸ばし、またサッと戻せるようになっている。またACアダプタも小型化され、従来製品の半分ほどのサイズへと変貌を遂げている。

 これら細かい改良点は、実はリリースや製品ページでは一切説明がない。スケールの大きな改良点が目白押しで1つずつ載せるとキリがないという事情もあるだろうが、それだけ細かい箇所にまで手が入っている証明でもあり、従来モデルを使っていたユーザだけが、使い比べて「ニヤリ」とできるポイントになっている。

原稿台。従来モデルと同様、最大でA4、キャリアシートを使うとA3まで読み取り可能サイドガイド部。ハの字状に開きにくくなっている。また従来は銀色のメッキ加工で指紋がつきやすかったが、今回のモデルでは改められている
エクステンション。片手で引き出しやすくなったほか、幅が1.5倍ほどに広がったことで安定感が増している見るからにコンパクトになったACアダプタ

●読み取り速度が20枚/分→25枚/分に高速化。実測値ではさらに高速

 ScanSnap iX500は従来モデルに比べてさまざまな進化がみられるが、まずは「自炊」用途に関係するところで、注目すべきポイントを見ていこう。

・読み取り速度の高速化(20枚/分→25枚/分)
・ブレーキローラーの採用による重送防止の強化
・ローラーの寿命延長による交換頻度の低下

 まず読み取り速度の高速化についてだが、従来は20枚/分だったのが、本モデルは25枚/分へとスピードアップしている(A4カラー300dpi時)。割合にすると単純に25%増しということになるが、ペースに換算すると、4枚の読み取りにかかっていた時間で5枚読み取らなくてはならないことになる。秒数に換算すると、1枚を3秒で読み取っていたのを、2.4秒に短縮しないと、この値にならない。かなりの難関であることが分かる。

 これについては、動画を見ていただくのが手っ取り早い。iX500単体、S1500単体、そして両者を並べた状態でスキャンした動画を用意している。動作音も含めてチェックする場合は機種別に撮影した最初の2つを、速度差だけチェックしたければ最後の1つを見ていただきたい。原稿には「DOS/V Power Report」2012年9月号の本文20ページ(10枚)を使用し、読み取り設定は自炊で多用される「300dpiカラー」、各種補正はオフで読み取っている。

【動画】iX500でスキャンしている様子。紙送りのスピードが従来より速くなっているほか、ページとページの間にあった音の空白がなくなり、続けて読み取られている
【動画】S1500でスキャンしている様子。これまでは十分速いように感じていたのが、iX500を見たあとだと遅く感じるのが怖いところだ
【動画】iX500(左)とS1500(右)で、スキャンを同時にスタートした時の速度差を比較した様子。接続先PCは同一スペックでないが、影響はほとんどないと思われる。iX500のスキャンが終わった時点で、S1500はまだ2枚のスキャンを残しており、この少ない枚数でもかなりの差がつくことがわかる。自炊のように枚数が多いと、この差はさらに広がることになる

 動画を見比べるとお分かりいただけると思うが、従来モデルではページとページの間で「ガーーッ、ガーーッ」と一拍置いていたところ、本製品では「ガーーーーーッ」と続けて読み取られる。紙送りのスピードの速さに加えて、こうした工夫が高速化につながっているようだ。

 ところでドキュメントスキャナの読み取り速度の公称値というのは、メーカーごとに明確な基準が公開されていないことが多く、実際に測ってみると公称値とかなりの開きがあることがある。例えば「1枚目の読み取りが始まってから最終ページの排出が終わるまで」を測っている場合、最終ページ排出後の処理時間とデータ転送時間を加えると、まったく違う値になることも多い。また、解像度の条件がそもそも異なっているケースもあるので、よく注釈を読まないと、前提条件がまるで違っていたということもしばしばだ。

 その点、ScanSnapは過去のモデルからほぼ公称値に近い実測値が出ており、公称値だけならScanSnapよりも高速とされる他社製品と実測値を比較すると、結果的にScanSnapの方が速いパターンも少なくない。今回のiX500も同様で、A4カラー300dpiで50枚をスキャンした場合、SCANボタンを押してからAdobe ReaderでPDFが表示されるまでの総所要時間は1分55秒~1分57秒に分布しており、1枚あたりの読み取り時間に直すと2.3~2.34秒と、むしろ公称値より速い計算になる。試しに25枚の原稿をスキャンしてみたところ、所要時間は58秒だったので、「25枚/分」という公称値よりもわずかながら速いことになる。

 ちなみに本製品のインターフェイスはUSB 3.0だが、上記テストは機材の関係でUSB 2.0環境下で行なっている。USB 3.0で読み取った場合にそれほど極端な差がつくことは考えにくいが、高解像度での読み取りなど、1ページあたりのデータ転送量が多くなる設定値であれば、ボトルネックになることが予想される。

●ブレーキローラー採用で「雑誌の薄いカラーページ」でも重送が起こらない

 続いて重送防止について見ていこう。本製品はブレーキローラーを採用したことにより、原稿が分離しやすくなり、重送が発生しにくくなったとされる。ブレーキローラーといってもピンと来にくいが、要するに原稿が2枚重なって送られそうになった際、上の原稿が送られないよう紙にブレーキをかける機構である。

 従来はパッドユニットという、単に上から押さえるだけのゴム製のパッドだったのが、今回のiX500ではこのブレーキローラーに差し替わっており、かなりこだわりの機構ということになる。両者は見た目が全く異なるので、詳しくは以下の写真をご覧いただきたい。

ADFカバーを開けたところの比較。これは従来モデルのScanSnap S1500で、下がピックローラー、上がゴム製のパッドユニットこちらは本製品。下はピックローラーのままだが、上がブレーキローラーに改められている。また、ピックローラーの形状もやや異なる

 従来モデルのS1500も、重送の検知能力は競合製品よりはるかに優秀だったわけだが、重送そのものの発生は皆無とはいえず、中でも特定の種類の用紙はかなり苦手としていた。その最たる例が「雑誌の薄いカラーページ」だ。どれだけ紙をさばいても、紙と紙が静電気でくっついてしまっているので、きちんと分離してくれないのである。筆者個人が購読している雑誌の中では、文藝春秋社の「Sports Graphic Number」がこれに該当する。

 以下の動画は、同誌最新号の前半30枚(60ページ)を、従来モデルのS1500でスキャンしている様子だが、繰り返し重送が発生していることが分かる。何度か同じ原稿でテストを繰り返したが、同一ページで発生するわけではなく、ランダムに発生するので、特定ページとの相性というよりも、紙との相性だと考えられる。

【動画】「Sports Graphic Number」最新号の前半30枚(60ページ)を従来モデルのS1500でスキャンしている様子。数枚も行かないうちに重送検知のウィンドウが出てスキャンが強制停止させられている。この動画ではエラーを無視してスキャンを再開しているが、数枚読み取ったところでまた止まるという挙動を繰り返している

 では同じ原稿をiX500で読み取るとどうなるかだが、これが全く重送が発生しない。どれだけ紙をさばいて分離しやすくしても、ある程度の枚数を読み取るとエラーが発生するS1500とは対照的だ。違いがあるとすれば、紙とローラーの摩擦音が、通常の原稿よりもやや耳障りであることくらいだ。手で剥がすことすら難しいほど強力な静電気でぴったりくっついているページを剥がすことで、このような音が発生しているのだろう。

【動画】同じ原稿を、iX500でスキャンしている様子。全く重送が発生しておらず、速度の低下もみられない。同じような原稿を読み取る機会の多いユーザーであれば、これだけで買い替える価値があると感じるはずだ

 同じ原稿で十数回スキャンを繰り返してみたが、紙を全くさばかずに静電気でページとページがぴったりくっついた状態のままセットすると、さすがに重送がゼロというわけではなかった(約500ページ読み取る中で重送が2回発生)。しかし紙をさばいた状態でスキャンした限りでは重送は発生せず、また重送そのものを見逃すこともなかった。

 従来モデルのS1500はすこし目を離すとすぐに重送が発生するので、結果的につきっきりで監視していなくてはいけなかったが、iX500はきちんと紙をさばいた状態でセットしてやれば、任せっきりにできる。この差は大きい。

●部品寿命の延長でランニングコストが大幅改善

 ところでパッドユニットがブレーキローラーに置き換わったことは、コストの部分でもプラスに作用している。というのもこのブレーキローラー、パッドユニットの4倍も寿命が長いのだ。具体的には、パッドユニットはスキャン5万枚が交換目安だったのが、ブレーキローラーは20万枚まで持つのである。またピックローラーも交換目安が10万枚から20万枚へと伸びているため、20万枚を超えた時点で初めて、上下のローラーをセットで交換すればよいことになった。

 これを部品代に置き換えてみると、どれだけコストに差があるかがはっきりする。従来であれば20万枚スキャンするまでにパッドユニット(1,995円、交換目安5万枚)を4回、ピックローラー(6,195円、交換目安10万枚)を2回交換する必要があるので、金額にして20,370円が必要だったわけである。けっこうな額だ。

 ところが今回はピックローラーとブレーキローラーのセット(7,560円、交換目安20万枚)を1回取り替えるだけで済んでしまうので、部品代は半分以下、これまでより12,810円も安いことになる。今回のiX500は従来モデルのS1500と実売価格ベースでは変わらないが、それはイニシャルコストの話であり、ランニングコストだとこれだけの差がつく。後編で触れるように無線LANによるiOS/Androidへの直接転送といった全く新しい機能を搭載していることを考えると、かなりの「値引き」に思える。

●細かい改善で信頼性がいっそう向上

 以上、自炊に関連する機能を中心にレビューをお届けした。メーカーの製品ページで積極的にアピールされている改善点にとどまらず、細部まで手が加えられており、よりいっそう信頼性が向上しているほか、コスト面でも優位であることが分かる。

 次回の後編では、本製品の目玉機能といえるiOS/Androidからの無線経由での直接スキャン機能や、CCDからCISへと変更になったことによる画質の違い、その他の新機能についてチェックしていきたい。