エプソンの新ドキュメントスキャナ「ES-D350」を試す
~本1冊をまるごとセットできる「自炊向け」モデル

エプソン「ES-D350」

発売中

価格:オープンプライス(直販44,980円)



 エプソンからドキュメントスキャナ「ES-D350」が発表された。最大75枚の原稿を同時にセットでき、300dpiカラーで毎分20枚のスキャンが可能な製品だ。PFUの「ScanSnap S1500」、キヤノンの「DR-C125」などの据置型ドキュメントスキャナと競合する製品である。

 一般的にドキュメントスキャナのメーカーは、紙の本を裁断してデジタルデータ化する「自炊」について積極的に言及しない傾向にあるが、本製品はカタログ上で「数年間集めた雑誌のバックナンバーや、単行本、シリーズの文庫本など、部屋を占領する膨大な書籍もスキャンして、整理できます」と、自炊に適した製品であることをアピールしている。この分野ではシェアが低いゆえ踏み込んだ訴求が必要といった理由はあろうが、文庫や新書まるごと1冊に相当する最大75枚の原稿を一度にセットできるというのは、たしかに自炊向けであることは間違いない。

 今回はこの製品について、メーカーから機材を借用することができたので、自炊用途を中心としたレビューをお届けする。

●文庫や新書、雑誌類を1冊まとめてセット可能

 シェアが寡占状態にある分野に投入される新製品ということで、その分野でトップシェアの製品、つまりScanSnap S1500と比較しなければ意味がない。まずは仕様ベースで、本製品がScanSnap S1500と比べて優れている箇所を挙げてみよう。

・75枚の原稿を同時にセット可能(ScanSnap S1500は50枚)
・300dpiでカラー20枚/分、モノクロ25枚/分の読取速度(ScanSnap S1500はどちらも20枚/分)
・本体の液晶画面にステータスを表示可能(ScanSnap S1500は非搭載)
・JPEG、PDF以外にTIFFやBMPなどでの取り込みも可能(ScanSnap S1500はJPEGとPDFのみ)
・TWAIN対応

 中でも自炊ユーザーにとってのポイントは、先にも触れた、最大75枚の原稿を1度にセットできることだろう。75枚イコール150ページに相当するので、ハードカバーや単行本は難しいとしても、多くの文庫や新書、雑誌類は複数回に分けてセットする必要がなくなる。後述するように、厚さ1.2cmを超える「DOS/V POWER REPORT」も1冊まるごとセットできてしまうほどだ。また排紙トレイの容量にも余裕があるため、1冊分のスキャンの途中で排出済み原稿を取り除く必要がないのも、つきっきりにならなくて済むという点で便利だ。

 もっとも、この最大75枚という枚数を含め、上記の仕様の多くは従来モデルのES-D200ですでに実現済みなのだが、そのES-D200は超音波による重送検知を搭載しなかったり、ユーティリティの使い勝手に難があったことから、実用性に疑問符がつく製品だったことは、発売当時のレビューでも触れられている。こうした点がどれだけ改善されているかも興味があるところだ。


 さて、今回のES-D350は、従来モデルのES-D200および上位モデルのES-D400と同一の筐体を採用している。見た目の印象を一言で言うと「デカい」。トレイを展開した状態で占める体積はScanSnap S1500と変わらないのだが、いかんせん背丈があるため存在感はかなりのものだ。

 ただしこの仕様は、同時に多くの原稿がセットできるからには排紙トレイもそれなりに深さが必要で、そのためには背丈を高くしなければいけないという理由による。同時セット可能枚数が多い仕様と引き換えだということは理解しておいたほうがよさそうだ。

ADFおよび排紙トレイをたたんだ収納状態。黒のボディカラーはかなりの威圧感がある側面から見たところ。両側面ともにすっきりしているADFおよび排紙トレイを展開した状態
背面。電源スイッチ、電源ジャック、USBコネクタが並ぶScanSnap S1500(手前)との比較。本製品の巨大さがよくわかる。ただしトレイを展開した状態で占める体積はそれほど極端な違いはない本体正面に液晶パネルおよび設定選択ボタン、スキャンボタン、中止ボタンを備える
ADFは最大75枚をセット可能。同梱のキャリアシートでA3サイズの読み取りにも対応する実際に75枚=150ページの原稿をセットしたところ。紙が薄い文庫や新書などは100枚=200ページのセットも可能紙詰まり時などは本体内部を開くことができる。レバー位置なども含めて構造はScanSnap S1500と近い

●ScanSnap S1500よりも短い所要時間での読み取りが可能

 本製品をセットアップすると、従来と同様に2つのユーティリティがインストールされる。1つは「EPSON Scan」、もう1つは新ユーティリティの「Document Capture Pro」だ。同社によると、「Document Capture Pro」は一般的な設定、「EPSON Scan」はより詳細な設定を行なうためのユーティリティだそうなのだが、重複している機能も多く、そもそもなぜ2つに分かれているのか理解不能である。今回はひとまず「EPSON Scan」を用いてのスキャンを前提に話をすすめる。

「EPSON Scan」。あらかじめ起動させておくことで、ES-D350本体のボタンを用いてのスキャンが行なえる「Document Capture Pro」。従来の「Epson Event Manager」が進化して名称を変更したもの。読み取り後の補正機能、クラウドへのアップロード機能も備える。ちなみにこれはジョブ設定の画面

 使い勝手そのものは、ドキュメントスキャナとしては極めて一般的だ。すなわち原稿を本体のADFにセットし、PC側のユーティリティで設定を選び、スキャンを実行。本体前部から原稿が排出され、読み取られた原稿はPCの任意のフォルダ上(デフォルトではマイ ピクチャ)に保存される。とくに奇をてらった動きはない。

【動画】10枚20ページの原稿をスキャンしている様子。本体のボタンでスキャンを開始しているが、もちろんPC側から制御することも可能だ

 ES-D350とScanSnap S1500、それぞれでほぼ同一条件(PDF、300dpi、サイズ自動、傾き補正あり、OCRなし)でスキャンした場合の所要時間は以下の通り。従来モデルのES-D200は、200dpiまではそこそこ高速なものの、300dpiになると速度がガクンと落ちる欠点があったが、今回のモデルではメーカーが300dpiでの速度向上に注力しているとのことで、この条件においてはScanSnap S1500よりも若干高速だ。なお1分あたりの読取枚数に換算すると31.3~32.6枚となり、メーカー公称値より速い値となるが、これは原稿がA4よりも小さい単行本サイズであるためだ。

カラーモードグレーモノクロ(白黒)
原稿の枚数50枚75枚50枚75枚
ES-D3501分36秒2分20秒1分36秒2分22秒
ScanSnap S15001分54秒2分57秒1分46秒2分46秒
※解像度はすべて300dpi

 上のデータで原稿の枚数を50枚と75枚に分けて計測しているのは、原稿の途中追加が発生する場合としない場合を比較するためだ。50枚の場合は両製品とも原稿の途中追加なし、75枚の場合はScanSnap S1500のみ途中追加を行なっている。原稿追加によるタイムラグは多く見積もっても10秒程度だが、グレー75枚で37秒、モノクロ75枚で24秒と、やはり所要時間の差は大きくなる。スキャナの前で原稿追加のタイミングを待ち構えていてこれなので、作業につきっきりでない場合は差はさらに開くと考えられる。

 また、読み取った原稿を90度単位で回転できる機能も、所要時間の短縮に役立つ。ScanSnapでは文字列から原稿の正しい向きを判定して自動回転させる機能はあるが、これだと扉ページだけがあらぬ方向を向いてしまうことがよくある。本製品は90度、180度、270度といった任意の角度で一括回転させられるので、原稿を横向きにセットして短辺で読み取り、その後一括で90度回転させてやることで、短い時間で読み取りが行なえ、かつ正確な向きに直すことができる。

 こと自炊では、本の長辺はすなわち裁断機でカットした面であることが多く、この面を給紙ガイドに沿わせてスキャンすると斜行しがちだ。そのため横向きにスキャンしてあとで回転させられるこの機能は重宝する。実際にこの方法を試したところ、グレー75枚での読み取りが、2分20秒から1分52秒まで短縮できた。こうなると、ScanSnap S1500(2分57秒)の2/3程度の時間でスキャンできるわけで、原稿枚数の多い自炊用途では確かに魅力的だ。

サイズは通常は「自動」にしておくことになる。なお、サイズが異なる原稿を同時にセットすることはできない原稿の向きを90度単位で回転させることができる。キヤノン製品やPFUの上位機種には搭載されている機能だが、ScanSnapにはない機能の1つ解像度は最大600dpi。同社では300dpiでの読取速度向上をアピールしているが、デフォルトでは200dpiになっているので、必要に応じて選び直してやるとよいイメージタイプは自動のほか、カラー、グレー、モノクロの3択。なおモノクロは白黒2値とのことで、実質的にScanSnapの「白黒」と同じと考えられる今回はテストしていないが、特定の色を非表示にするドロップアウトや、逆に強調する色強調のオプションもある

●画質調整の項目の有無によって所要時間が大きく変化

 もっとも、本製品の方が所要時間について全ての場合で有利かというと、そういうわけでもない。というのは、画質調整の各項目をオンにすることで、かなりの所要時間の上積みが発生するからだ。

 ユーティリティ「EPSON Scan」では、さまざまな画質調整の項目が用意されており、これ自体はScanSnapと比較しても充実しているのだが、項目によっては所要時間に大きな影響を及ぼす。例えば「明るさ」「コントラスト」は所要時間にほとんど影響しないのだが、「アンシャープマスク」は若干の影響、「文字くっきり」「モアレ除去」はかなりの影響を及ぼす。例えば「文字くっきり」をオンにすると2分20秒だった所要時間が約1分伸びて3分18秒、「モアレ除去」をオンにすると約11分伸びて13分15秒と、相当の時間がかかるようになる。

イメージタイプがカラーもしくはグレーの場合の画質調整。明るさとコントラストがスライダで調整できるほか、アンシャープマスク、文字くっきり、モアレ除去といった設定項目があるこちらはイメージタイプがモノクロの場合の画質調整。しきい値、画像はっきり、境界補正など、項目がかなり異なる

 もちろんこうした画質調整機能を使用しないのであればなんの問題もないのだが、この中で「アンシャープマスク」や「文字くっきり」は使いたい場合が多いので悩ましい。というのも本製品の絵作りは、ScanSnapに比べてややソフトフォーカス気味で、比較するとぼんやりしたように見えるからだ。先の条件でスキャンしたページを拡大したのが以下に掲載するので、確認してみてほしい。カラーモードは最後の白黒2値の比較画像を除き、いずれもグレーモードでスキャンしたものを使用している。

ES-D350ScanSnap 1500
ES-D350(左)は紙のへこみと思しき凹部分が表示されているが、ScanSnap S1500(右)では表示されていない。ちなみに元原稿ではこの凹部分は目視で判別できないレベル
元原稿にある薄い汚れが、ES-D350(左)では再現されており、ScanSnap S1500(右)では白く飛ばされている。「明るさ」と「コントラスト」を調整して飛ばしたいところ
文字部分の拡大。ES-D350(左)はややぼけた印象で、ScanSnap S1500(右)はかなりシャープであることが分かる。「アンシャープマスク」「文字くっきり」をオンにすればそこそこ近い結果が得られる
図版部分の拡大。こちらもES-D350(左)はぼけており、ScanSnap S1500(右)はやや過剰と思えるほどシャープネスがかかっている
写真の比較。これについては濃淡を除いてあまり違いは見られない
両者ともに「傾き補正」がかかっているはずなのだが、ES-D350(左)は傾きが残っており、左端のマージンの幅まで違っていることが分かる
これはモノクロ(ScanSnapは「白黒」)でスキャンしたデータの比較。いずれも白黒2値のはずだが、ES-D350(左)はアンチエイリアスがかかっているように見える。一方のScanSnap S1500(右)は完全な白黒2値であることが分かる

 もともとScanSnapは300dpiまではシャープネスがかった絵作りになる傾向があるため、本製品がソフトフォーカス気味というよりは、ScanSnapがシャープすぎるという表現が適切なのだが、それを差し引いてももう少しエッジが強調された絵がほしいと感じることは多い。それゆえ画質補正で「アンシャープマスク」をオンにするわけだが、そうするとモアレが出やすくなり、「モアレ除去」をオンにすると今度は所要時間が何倍にも増えてしまう。また、こうして最適値を見つけたとしても、別の原稿で同じ設定が使えるとは限らない。このあたりの手間のかからなさは、やはりScanSnapに一日の長があると感じる。

 もう1つ、本製品はScanSnapに比べて紙の凹凸を拾いやすく、凹んだ部分の影が出やすいのが困りものだ。紙の凹凸というのはもとの原稿に存在しないイレギュラー要因なわけで、これを読み取ってしまうのは自炊においては大きなマイナスだ。とくにグレーのベタ面について、目視で分からないような凹凸まで拾ってくる傾向が強い。上の比較画像の1番上のページを見てもらえば、何を言わんとしているかがご理解いただけるだろう。

 背景がグレーでなく白であれば、「明るさ」「コントラスト」を調整すればこうした凹凸は解消するのだが、こうしたグレー面については「文字くっきり」や「モアレ除去」などのオプションまで駆使しても改善されなかった。漫画などスクリーントーンの面積が広い場合などは、やや気になる場合もありそうだ。また「コントラスト」で値を上げ過ぎると背景まで原稿の一部として取り込んでしまうなど、少々考えにくい結果が得られることもあった。

前述のパラメータで「コントラスト」を50に設定して取り込んだページをサムネイル表示したもの。ページの背後まで原稿の一部として取り込まれているのが分かる。画質調整を行なっていると、こうした途方もない読み取りミスにたびたび遭遇する

 ちなみにファイルサイズについてだが、以下の表のように、グレーモードではScanSnapのおよそ2/3程度のファイルサイズになるが、モノクロでは逆に2倍近い大きさになる。本製品のモノクロモードは白黒2値とされているが、拡大するとアンチエイリアスが効いているように見え、そのあたりでScanSnapとの開きが出ているのかもしれない。

カラーモードグレーモノクロ(白黒)
原稿の枚数50枚75枚50枚75枚
ES-D35014.0MB21.1MB4.9MB7.3MB
ScanSnap S150021.3MB32.1MB2.7MB3.9MB
※解像度はすべて300dpi

●スキャンの処理が追いつかなくなると高確率で遅延やハングアップが発生
原稿の総枚数は99枚。本製品では1度にまとめてセットすることが可能。ScanSnapでは2分割してセットする必要がある

 続いて、カラーを含む雑誌のスキャンについてみていこう。インプレスジャパンの「DOS/V POWER REPORT」最新号を裁断し、表紙と裏表紙を取り除いた状態でスキャンを行なったのが以下の図だ。条件は先と同じで、PDF、300dpi、サイズ自動、傾き補正あり、OCRなしだが、こちらもES-D350のほうが高速という結果になった。ちなみにこちらの所要時間は99枚の原稿を約5分で読み取れているので、ほぼ公称値通りの20枚/分ということになる。

 所要時間ファイルサイズ
ES-D3504分54秒121.7MB
ScanSnap S15006分08秒200.3MB

 もっとも、測定中に何度か気になる症状にも遭遇した。それは読み取り枚数が増えるにつれ処理が追いつかなくなり、スキャンが数枚進んでは一時停止、また数枚進んでは一時停止となり、最終的に「現在の保存先には、この画像の保存に必要な空き領域がありません」のダイアログが出て強制終了し、処理済みのページだけが保存されるケースがあったことだ。特に「明るさ」「コントラスト」「文字くっきり」の各項目で画質の補正を行なっている場合には、かなり高い確率で発生した。

処理待ちの状態になると表示される「データ処理中です。しばらくお待ち下さい。」のダイアログ。どのくらい待たされるのかまったく分からないので不安になる。一瞬で終わる場合もあれば、数分単位で待たされることもしばしば「現在の保存先には、この画像の保存に必要な空き領域がありません」のダイアログが出て強制的にスキャンが終了させられるケースがたびたび発生。ちなみに保存先であるSSDの残容量は数十GB単位で空いており、別の領域のことを指していると思われる

 この場合、解像度を200dpiに落としたり、カラーモードをモノクロに変更したり、スペックの高い別のPCに切り替えて同一条件で実験を行なうと症状が緩和されたので、なんらかの内部処理が追いついていないものと推測される。今回実験に使用しているPCがCore 2 Duo E6400+Windows 7というやや非力な環境なのが影響した可能性はあるが、ScanSnapは同一構成で問題なく動作しているだけに、やや気になるところではある。また、もう1つのユーティリティ「Document Capture Pro」ではさらに発生の確率が高かったことも付記しておく。

 なお、これは先の実験にも言えることだが、「EPSON Scan」でサイズを「自動」にすると、「書類の傾き補正」の項目がグレーアウトしてしまう。実際にはこの状態でも25度までの傾き補正が内部で行なわれているそうなのだが、グレーアウトされてしまうとオフになっているように誤認しやすいうえ、出力された画像を見ても本当に傾きが補正されているのか疑問に思うこともしばしばだ。自炊用途に関しては、出力後に「eTilTran」などの外部ツールで補正してやったほうがいいだろう。

●重送検知は改善されるも、いくつかの問題点はそのまま残る

 続いて、従来モデルの欠点とされていた箇所、および競合製品に後れをとっていた機能について、今回の製品でどれだけ改善されているかを見ていこう。

○重送検知

 従来モデルでは超音波センサーを搭載せず、原稿の長さによる検知しかできなかったため、2枚の原稿がぴったりくっついた状態で読み取られた場合、重送を検知しない場合があった。特殊な紙質ならまだしも、一般的なコピー用紙ベースの原稿ですら重送がたびたび発生し、しかもその場合も何のエラーも表示されず、唖然とすることもしばしばだった。筆者が経験した中では、わずか10枚を読み取る間に2枚も見逃されたケースがあったほどだ。

 今回のモデルでは超音波センサーが搭載されたことが功を奏したのか、1週間ほど試用した限りではこうしたクリティカルな問題は発生せず、また重送そのものも、今回使った限りでは発生しにくいよう改善されているように感じられた。原稿の種類を変えつつ何千枚、何万枚とスキャンした場合がどうかは検証できていないが、従来モデルのような心配はしなくていいと言えるだろう。

 もっとも、重送が発生してスキャンが停止した場合の挙動はいまだ不可解だ。従来のES-D200では、重送や紙詰まりでスキャンが異常終了した際、それまで読み取った原稿は問答無用で消えてしまうという、自炊はもちろん通常のスキャンにも差し支える仕様だった(ScanSnapでは異常終了した原稿を戻せばその時点から再開でき、直前までに読み取った原稿と合わせて1つのPDFを生成できる)。

 今回はさすがにそうした挙動はなくなっているのだが、異常終了した時点までで読み取っていた内容を1つのファイルとして保存し、続きは別のファイルとして読み取りを再開するという、これまた不便な挙動になっている。それまでのスキャンが無駄にならないという意味では確かに以前より改善されているのだが、ユーザーが欲しいのは1つに生成されたファイルであって、分割保存されたファイルをAcrobatなどであとから結合するなどという手間は掛けたくない。このあたりはひょっとすると設定によって挙動が異なるかもしれないが、もう一工夫欲しかったところだ。

重送の発生を知らせるダイアログ。これが表示された時点で、それまで読み取りを終えていたページだけがファイルとして保存されるEPSON Scanの環境設定に「重送検知」という項目があり、デフォルトではオフになっているので、チェックを入れてやる必要がある

○スキャン進捗のダイアログにウィンドウのフォーカスが取られる問題

 従来モデルでは、バックグラウンドでスキャンをしながら文字入力を行なうとフォーカスが進行状況のダイアログに取られてしまってまともに入力を続行できない問題があったが、Windows 7環境ではこの仕様は改善されたようだ。ただしXPではこの問題はいまだ残っており、文字入力中にEscキーを押したところ、たまたまスキャナのダイアログにフォーカスが行っていてスキャンがキャンセルされてしまうことが何度かあった。スキャン中にほかの作業を行なわなければ構わないのだが、これでは日常の作業に差し支えるという人は多いだろう。

「スキャン後、保存フォルダを開く」という設定項目はあるが、ファイルを開く項目は少なくともEPSON Scan上にはない。なおもう1つのユーティリティ「Document Capture Pro」には転送先に「アプリケーション」という項目がある
○スキャン完了後の挙動

 ユーティリティ「EPSON Scan」では、スキャンが完了したあとにファイルが保存されているフォルダを自動的に開くことはできるのだが、当該ファイルそのものは手動で開かなくてはいけない。ScanSnapでは「アプリケーションの選択」で自動的に開くことができるだけに、同じ使い方をしようとする場合に戸惑う。特にフォルダ内に大量のファイルがある場合、いま読み取られたのがどのファイルなのかを目視で探さなくてはならず、作業効率を考えるとかなりのストレスだ。従来モデルでも指摘されていた仕様だが、今回のモデルでも(少なくともEPSON Scanのインターフェイスをざっと一覧した範囲では)設定のための項目は用意されていないようだ。

○サイズの違う原稿をまとめてスキャンできないという仕様

 従来モデルでは、サイズが異なる原稿を混在させた状態でのスキャンに対応しなかったが、今回のモデルでもこの仕様はとくに変わっていない。PFUやキヤノンの製品紹介にある、さまざまなサイズのレシートや領収書をまとめてスキャンするという使い方はできないので注意したい。

●ソフトウェアレベルでの使い勝手の向上が望まれる

 以上、1週間ほど試用してみたが、たしかに自炊に向いた製品であるのは事実だ。セット可能な枚数は公称75枚となっているが、実際には100枚程度、まるごと1冊分をセットできることも少なくない。本製品をしばらく使ったあとでScanSnap S1500で自炊を行なおうとすると、本を分割してセットするのがこんなに面倒な作業だったのか、と感じるほどだ。

スキャン中には本体の液晶画面に「スキャン中 〇〇ページ」と表示されるが、スキャン中であることは見れば一目瞭然であるわけで、ここは正しい設定で読み取っているかを確認できるよう、現在の読み取り設定のパラメータを表示してやるのが正解だろう。こうしたカユいところに手が届く使い勝手の向上を望みたい

 もっとも、だからといってScanSnap S1500よりも本製品のほうがお薦めできるかというと、決してそうではないことは、ここまで読めばお分かりいただけるだろう。デフォルトの設定のまま同じ種類の原稿を連続スキャンする用途ならまだしも、ちょっと画質設定をいじるととんでもない成果物が上がってきたり、大幅に所要時間が増えたり、場合によってはハングアップしたりといった怖さがあるのは、実際に使っていてかなりのストレスになる。

 特に本製品の場合、大量の原稿を1度にセットできるがゆえ、スキャンに失敗した際の作業の手戻りも大きく、むしろ利用を躊躇してしまう理由にもなりかねない。こうした点において、設定内容がほぼお任せの状態でも大きなミスなくスキャンできるScanSnapとは、信頼性の面で大きな差がある。筆者個人のScanSnapへの慣れを差し引いたとしても、細かい使い勝手や安心感については、まだまだScanSnapに及ばないというのが率直な印象だ。

 もっとも、重送検知の機構そのものが存在しないためソフトウェアレベルで改善するにも限界があった従来モデルとは違い、今回のモデルはソフトウェアの改善で劇的に生まれ変わる可能性を秘めている。ハードウェアのポテンシャルが高いだけに、先行するScanSnapやキヤノン「imageFORMULA」が実現している使い勝手を確実に押さえることができれば、ScanSnap以上に自炊に向いたドキュメントスキャナとして、パワーユーザーの支持を集めることができるはずだ。

(2012年 6月 12日)

[Reported by 山口 真弘]