山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

BookLive「BookLive!Reader Lideo」

~WiMAXを搭載したBookLive専用E Ink端末

BookLive!Reader Lideo
発売中

価格:8,480円

 BookLiveの「BookLive!Reader Lideo(リディオ)」(以下Lideo)は、電子書籍ストア「BookLive!」専用のE Ink電子ペーパー端末だ。WiMAXを搭載しており、ネットワークのセットアップ不要でストアに接続して本を購入できることが売りの製品だ。現時点では家電量販店では取り扱われず、同社ウェブサイトおよび三省堂書店などの書店ルートで販売される。

 Kindle Paperwhiteの国内リリースから3週間遅れての登場となったLideoだが、UQ WiMAXが提供するモバイルWiMAXの接続費込みで8,480円という価格はコストパフォーマンスが高い。Kindle Paperwhiteの場合、Wi-Fiモデルこそ7,980円だが、3Gモデルは12,980円と、5,000円もの価格差がある。その点、このLideoはKindle Paperwhiteにプラスわずか500円という価格で3Gモデル相当のネットワーク接続機能が利用できるため、機能と価格のバランスだけで言うと、かなりお買い得であることが分かる。

 また、BookLive!のコンテンツ数は現時点で約95,000点と、Kindleストアをはじめとする競合ストアの5~7万点というコンテンツ数を大きく上回っているほか、独自のポイントを利用することでコンテンツを割安に購入できるなど、見どころは多い。それだけに読書端末としての出来および使い勝手は気になるところだ。さっそくチェックしていこう。

個別の回線契約なしでWiMAXが利用可能。解像度などのスペックはやや低め

 まずは恒例の仕様比較から。

【表】スペック比較
BookLive!Reader LideoKindle Paperwhitekobo gloPRS-T2
発売元BookLiveAmazon楽天ソニー
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)110×165×9.4mm117×169×9.1mm114×157×10mm110×173.3×10mm
重量約170g約213g(3Gモデルは約222g)約185g約164g
解像度/画面サイズ600×800ドット/6型758×1,024ドット/6型758×1,024ドット/6型600×800ドット/6型
ディスプレイモノクロ16階調 E Ink電子ペーパーモノクロ16階調 E Ink電子ペーパーモノクロ16階調 E Ink電子ペーパーモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー
通信方式IEEE 802.11b/g/n、WiMAXIEEE 802.11b/g/n、3G(3Gモデルのみ)IEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/n
内蔵ストレージ4GB約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.25GB)約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB)約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.3GB)
メモリカードスロット--microSDmicroSD
内蔵ライト--
バッテリ持続時間(メーカー公称値)約1カ月8週間(無線LANオフ)約1カ月、約30,000ページ(無線LANオフ)約30,000ページ、最長2カ月(無線LANオフ、1日30分読書時)、最長1.5カ月(無線LANオン)
電子書籍対応フォーマットXMDF、.book、EPUBKindle (AZW3/AZW)、 TXT、PDF、unprotected MOBI、PRC natively; HTML、DOC、DOCX、JPEG、GIF、PNG、BMP through conversion.EPUB、PDF(同社ストアで販売しているPDF書籍のみサポート)XMDF(mnh/zbf).book、EPUB、PDF、TXT、JPEG、GIF、PNG、BMP
電子書籍ストアBookLive!KindleストアkoboイーブックストアReader Store、紀伊國屋書店BookWeb
価格(2012年12月17日現在)8,480円7,980円、12,980円(3Gモデル)7,980円9,980円

 他社のE Ink端末3製品に比べると、本体の大きさはほぼ同等。重量は最軽量であるソニーPRS-T2よりもわずかに重い程度で、かなり軽量な部類だ。画面サイズはほかと同じ6型だが、解像度はKindle Paperwhiteおよびkobo gloの758×1,024ドットよりも低い600×800ドットで、スペック的には1世代前ということになる。昨今のE Ink端末のトレンドであるフロントライト機能も搭載しない。

 内蔵メモリは4GB。ユーザー使用可能領域は説明書およびホームページ上には明記されていないが、数冊をダウンロードしたあとデバイス情報を見ると空き領域が2.87GBだったため、実質3GB程度と思われる。外部メモリスロットは搭載せず、またPCとUSBで接続してもストレージとして認識されない。フォーマットとしてPDFなどにも対応しないので、自炊ビューアとして利用することは不可能だ。

 購入時点でWiMAXが利用可能になっており、個別の回線契約なしにストアに接続できることが大きな特徴。ただし、ブラウザは搭載しないため、ウェブページの閲覧は行なえない。FacebookやTwitterなどソーシャル連携機能もないので、これら通信機能は、ストア周りや同期機能の利用に限られる形になる。完全にBookLive専用機という扱いだ。

 バッテリ持続時間は約1ヵ月とされるが、通信機能オンで数日使った限りでは、同一条件のKindle Paperwhite 3Gはもちろん、kobo Touch/gloよりもはるかに減りが速いように感じる。ちなみに電池の残量表示は、スリープからの復帰直後は残量表示が「2」なのに数分経つと「3」に増えたりと、意外にアバウトである。充電中は青色LEDが点灯するのだが、どのくらい充電されたかは画面をオンにしないと分からないなど、こと電源周りは少々不親切に感じられる。

製品本体。ボディカラーはブラックのみ
Kindle Paperwhite(右)との比較。ボディは本製品の方がややスリムかつ軽量だが、フロントライト機能はない
ソニーPRS-T2(右)との比較。本製品はNEC製だが、下部のボタン、底面電源ボタンなどの配置、フリック長押しによる早送りの挙動、ページ番号の表示位置、グレーの背景色など、PRS-T2との共通点が多く見られる。直接のOEMではないにせよ、内部的には何らかのつながりがありそうだ
BookLive!アプリを表示したiPad mini(右)との比較。画面サイズやカラー/白黒といった違いに目が行くが、iOSアプリではおすすめコンテンツが多数表示されていたりと、画面構成そのものがかなり異なるほか、ストア機能もない
裏面。右上のロゴが特徴的。かなり直線的なデザインだ
ベゼル部の段差はそこそこあり、かどをタップしてしおりをつけるのが難しい
画面下部に5つのボタンを備える。左から「本棚」「書店」「メニュー」「戻る」「文字」となっている。ストアではなく「書店」というラベルがこだわりを感じさせる
底面にはリセット用の穴、Micro USBポート、電源ボタンを備える。ボタン類があるのはこの底面だけで、microSDスロットやイヤフォンジャックは非搭載
ソニーPRS-T2(下)と底面を比較したところ。よく似通っていることが分かる
充電は専用ACアダプタ経由が推奨されており、Micro USBでPCと接続しての充電は非サポートとなっているが、試した限りでは可能なようだ。本文にもあるように、どのくらい充電されたかは分かりにくい

セットアップはスムーズ。紙のマニュアルも付属するなど「日本の家電基準」

 セットアップの手順を見ていこう。今回はすでに取得済みのBookLiveアカウントを使ってログインすることを前提に説明する。セットアップ時にBookLiveのアカウントを登録せずに独自の数字4ケタのパスワードを用いて登録し、あとから既存アカウントと統合することもできるとされているが、今回は試していない。

 流れとしては、利用規約に同意したあとでBookLiveアカウントを持っているか尋ねられるので、今回のケースでは「はい」を選択。メールアドレスとパスワードでログインすると、セットアップ完了だ。購入時点でWiMAXが接続状態にあるため、ネットワークへの接続プロセスが一切ないのは利点だ。なお、BookLiveは1アカウントあたりの登録可能台数が、最近になって5台に変更された(従来は3台だった)ので、この時点で台数超過でひっかかるケースはまずないだろう。

 セットアップの完了後、15ページにわたる利用ガイドが表示される間に、購入済みの本の一覧がバックグラウンドで同期される。利用ガイドを見終わった頃には、ホーム画面にあたる「本棚」が表示され、購入済みの本が並んだ状態になっている。あとは購入済みの本をダウンロードして読んだり、ストアへアクセスして新しい本を探せる。きわめて簡単だ。

まずは底面の電源ボタンを押して電源を投入。横にある青色LEDが点灯する
利用規約を読んで同意する。886ページもあり、ここは若干工夫が必要なように思える
BookLive!に登録済みか聞かれる。今回は「はい」を選択
メールアドレスとパスワードでログインする
ログイン完了。この時点でWiMAXが接続済みなのでネットワーク設定の必要はない
利用ガイドブックが15ページにわたって表示される
見終わると本棚画面が表示される。過去に他端末で購入した本がきちんと表示されている

 上記の画像のように、マニュアルなしでも問題なくセットアップできる。さらに本製品には、紙の取扱説明書(冊子)とクイックスタートガイド(8つ折)が添付されており、これらを参照しながらのセットアップも可能だ。日本製の家電やPCなどによくある「最初は要点が書かれたペラの紙で、あとで使い方を含めて分からなくなれば詳しい取説で」というスタイルだ。このような電子書籍端末などに不慣れな人も安心だろう。

製品パッケージと取扱説明書、クイックスタートガイド。本来先に手に取られるべきクイックスタートガイドが袋詰めで、逆にもう一方の取扱説明書は袋から出されていて手に取りやすかったりと、あべこべと思える箇所もあるが、大きな問題ではないだろう
パッケージ内面にも説明特徴が記されている
本製品は購入時点でWiMAXが利用可能となっているが、無線LANも利用できるので設定しておくとよい。せっかくの国産端末なだけに、AOSSなどが利用できれば競合製品との差別化ポイントになったかもしれない

 上記の設定時に少し気になるのが、ソフトウェアキーボードの使い勝手だ。PCの利用経験がないユーザーをターゲットに含めていることもあってか、文字入力に利用するソフトウェアキーボードは日本語が50音順、アルファベットはQWERTY配列ではなくA~Zが順番に並んだ仕様になっている。一応QWERTY配列にも切り替えられるのだが、むしろ50音/A~Z配列のキーボードを非表示にする設定もほしいと感じる。

日本語は50音順のキーが基本となっている。レスポンスはあまりよくなく、連続入力時に追従しないこともしばしば
アルファベットもA~Zが順番に並んでいる配置が基本。ターゲット層を考えればありなのかもしれないが、QWERTY配列に慣れたユーザーは戸惑う
1ユーザーあたりの利用端末は5台までとなっている
本稿執筆時点でのソフトウェアバージョンは1.0.9.1002
初期設定では未使用が3分続くとスリープ、そのまま2日放置すると電源がオフになる。とくにスリープまでの時間は極端に短いので変更しておくとよいだろう。最大30分まで設定できる
スリープ時には広告が表示される。ざっと見た限りではオフにする設定はないようなので、気になるようであれば電源そのものをオフにして対処するしかない。何らかの設定はほしいところだ

操作方法や画面フローは標準的。文字サイズなどはシニア向けの仕様

 E Ink端末としての操作方法や画面フローはいたって標準的である。ホーム画面に相当する「本棚」は表示が3段に分かれており、最上段が「最後に読んだ本」、中段と下段が「購入済みの本」が表示される。ダウンロード済の本は、タップするだけで開いて読むことができる。未ダウンロードの場合はタップすることでダウンロードが開始され、完了すると読めるようになる。

 これらは基本的にタッチスクリーンで操作するが、全ての操作をタッチで行なうKindle Paperwhite/kobo gloと異なり、この本棚画面に戻る際やストアの表示、メニューの表示などは画面直下にある5つのボタンを利用する。ボタンは左から順に本棚、書店、メニュー、戻る、文字となっており、同じく画面下部に5つのボタンを備えるソニーReaderは左2つのボタンをページめくりに割り当てており、コンセプトの違いを感じる。

ホーム画面こと「本棚」。上段が「最後に読んだ本」、中段と下段が「購入済みの本」が表示される。本のタイトルが最大6文字までなのがネック
リスト表示に切り替えたところ。タイトルの文字数が18字まで表示されるようになるが、それでも足りないこともしばしば
画面下のメニューボタンを押すと、画面の内容に合わせたメニューが表示される
辞書はスーパー大辞林3.0とウィズダム英和辞典を搭載。このように単体で使うことも可能

 ページめくりはタップもしくはフリックで行なう。面白いのはタップの割り当てで、一般的には画面の右端をタップすると「送る」、左端だと「戻る」(左綴じだと逆)になるが、本製品では画面の下半分が「進む」、上半分が「戻る」に割り当てられている。こうすることで右綴じ左綴じに関わりなく挙動が統一できるわけだ。ほかの端末やアプリでの操作に馴染んでいると違和感があるが、分かりやすいといえば分かりやすい。ちなみにソニーReaderと同様、長押しフリック(フリックしたまま指を離さず押しっぱなしにする)で、ページを早送りする機能もある。

 本棚の画面デザインはやや息苦しい。少しでも文字を大きくして見やすくしようとしたのだと推測されるが、画面全体に文字や画像をびっしりと並べた結果、余白がほとんどなくなってしまっており、むしろ必要な情報が目に入りにくい。文字が大きいことから、相対的に画面が小さく感じられるのもネックだ。

 また、本のタイトルが最大で6文字しか表示されず、例えば「【カラー版】ジョジョの奇妙な冒険 第1部 1」であれば「【カラー版…」とだけしか表示されないため、タイトルで見分けがつかず、結局サムネイルで見分けなくてはいけないことが多い。画面のデザインが洗練されているソニーReaderや、情報量を削って視認性を高めているKindle Paperwhiteとは対照的だ。文字サイズを大きめにすることを優先したということなのだろう。

 本文の文字サイズは5段階で変更できるが、最小値にしてもそこそこ大きい。このあたりもシニア向けということになりそうだが、もう少し縮小側の選択肢を増やして欲しいところである。デフォルト値を大きめに設定しておくことと、そもそもの選択肢をなくしてしまうことは別の問題である。

 また、ページを移動するメニューもやや癖があり、例えば「巻末へ」「巻頭へ」の移動にあたっては、それぞれのボタンをタップしたあと「決定」「閉じる」を押さなくてはいけない。それぞれのボタンを押した段階でジャンプするのと同時に画面を閉じればよいと思うのだが、余計なアクションが2段階必要になってしまっている。このあたりはシニア向けうんぬんではなく、いまいちこなれていない感がある。

テキスト型の本を表示したところ。下部にはパーセンテージが表示される
フォントは5段階で調節可能。これは最大にした状態
巻末もしくは巻頭へ移動する際は、それぞれのボタンをタップしたあと「決定」を押し、さらに「閉じる」を押さなくてはいけない。このように本来不要であるはずのボタン操作を強いるところが散見される

 いわゆる読書機能としては、しおりのほか、辞書/マーカーメニューも用意されている。辞書は内蔵辞書のみで、Wikipediaなどとは連携しないが、選択範囲を1文字ずつ変更できるので、他社の端末のようにうまく範囲選択できずにイライラすることもない。本製品はKindle Paperwhiteほどレスポンスがよくないわけだが、それをインターフェイス側できちんと補っているのは秀逸である。

 なおマーカー、しおりは20個までとなっており、本格的に使うには物足りないが(筆者はビジネス書などでは一冊に50カ所ほど付けることもざらにある)、そこまでヘビーな用途は想定していないというだけで、一般的にはこれで十分だろう。なお、FacebookやTwitterなどのソーシャル連携機能はない。

画面の隅をタップすることでしおりを付けられるが、ベゼルとの段差があってかなり押しにくいため、この読書メニューからつけた方が確実だ
辞書/マーカーメニューも用意されている。両者の違いは範囲選択後に検索を実行するか、色を塗るかの差のみで、なぞる操作は同じ
内蔵のスーパー大辞林で検索したところ。Kindle Paperwhiteのようにここから詳細ページやWikipediaにジャンプするといった機能はない
こちらはマーカー機能で着色したところ。Kindle Paperwhiteのようにメモを書き込む機能はない
マーカー機能で着色した箇所をリストで表示したところ。最大11文字までしか表示できないので、Kindle Paperwhiteのようにこのリストだけで着色箇所の大意を把握するのは難しい
ルビをオン/オフする機能を備える。電子書籍端末およびアプリとしては珍しい機能
本棚を作って共有することができる。ちなみに「保管」に移動すると端末から削除され、容量を節約できる

画面の切り替わりの遅さがネック。画質もやや低め

 さて、本製品をしばらく使っていて感じるのは、「画面の切り替わりが遅い」ことと、「画面が濃い」ことだ。

 前者についてはコミックで顕著で、パッと消えてパッと表示されるのではなく、前の画面がフェードアウトして白黒反転しつつ次の画面が現れるという、ややねっとりとした動きなので、余計に動きが遅く見えてしまう。筆者が知る範囲で敢えて似た挙動の端末を挙げるならKindle 2で、言い替えればそれだけ古い世代のE Inkの挙動に近いということだ。

【動画】テキストコンテンツ(坊っちゃん)のページめくりを、本製品(左)とKindle Paperwhite(右)とで比較している様子。本製品の方がワンテンポ遅れて反応していることがよく分かる。ちなみに本製品は3ページに1回リフレッシュするので、6ページに1回のKindleに比べると少々目障り
【動画】同じく、コミック(大東京トイボックス 1巻)のページめくりを比較している様子。本製品は1ページに1回リフレッシュ、Kindle Paperwhiteは6ページに1回のリフレッシュとなっている。少々分かりにくいかもしれないが、Kindleは「パッと消えて、パッと次のページが現れる」のに対し、本製品は「前の画面を残しつつ切り替わる」という違いがある

 また、書店に接続する際、「しばらくお待ち下さい」という画面が表示されたまま、10秒近く固まったままになることも多い。WiMAXの接続確立に時間がかかっているのかと最初は思っていたのだが、本を開く際にも同様の症状が起こるので、CPUの処理が遅いのではないかと思われる。このほか、本のページを開いた状態からいったん本棚に戻り、別の本を開こうとすると、10秒以上待たされることがある。どちらかというと、こちらの問題の方が深刻だ。

【動画】電源をオンして本棚を表示し、それまで表示していたのと別の本をタップして開く。そして、ページめくり、文字サイズ切り替え、マーカー機能を順に試している様子。本を開くまでに10秒近く無反応状態になるのはやや戸惑う
【動画】ストアへと接続し、ジャンル別からマンガ→青年マンガと選んで、何ページか移動する様子。これはWiMAXではなく無線LANで接続しているのだが、画面遷移時に待たされることが多い

 画面がかなり濃いのも特徴だ。単に黒に深みがあるだけならメリットなのだが、中間調もかなり濃く、ディティールがつぶれてしまっていることもしばしばだ。とくにコミックの表紙や巻頭カラーなど、データ上はカラーのページを白黒で表示している場合は、ほかのE Ink端末よりも濃い部分の階調がつぶれやすく、ベタ塗りのようになることもしばしばだ。

 本製品には明るさとコントラストの調整機能が搭載されているので、濃さについては設定を調整してやれば解決するのだが、そうすると中間調が薄くなってしまうため、文字のアンチエイリアスが薄くなりエッジが目立ってしまったり、細い文字がかすれ気味になったりする。また、見出しなどの太文字は細部がつぶれるほど太かったりと、濃度に関連して気になる箇所はあちこちにある。詳細はスクリーンショットをご覧いただきたいが、同じ解像度であるソニーPRS-T2と比べても明らかに目立つ。

 使用しているフォントの関係もあるかもしれないが、可読性はソニーPRS-T2の方が上で、滑らかさに関しても解像度が高いKindle Paperwhiteの方が上である。またグラデーションについても、ほかの端末では滑らかに表示されるにもかかわらず、本製品でははっきりと何段階かに分かれてしまうことがある。

左が本製品、右がKindle Paperwhiteでの表示。中央下、ジャージ部分のディティールが、本製品ではつぶれてしまっていることが分かる。同じ16階調グレーでもこれだけ違う
明るさを調節してやると多少改善する
こちらはテキストデータの比較。左から、本製品、Kindle Paperwhite、ソニーPRS-T2。解像度が高いKindle Paperwhiteが細部まで読み取りやすいのは当然として、解像度が同じはずのソニーPRS-T2の方が細い線まで読みやすい感がある
グラデーションの比較。Kindle PaperwhiteやソニーReaderでは人物背景はなめらかなグラデーションになっているが、本製品ではグラデーションの縞がはっきりと見える
背景はソニーReaderと同様、薄いグレーとなっている。個人的には真っ白であるべきだと思うのだが

 というわけで、ハードウェアのスペック不足が疑われるところが随所に見られるのだが、筆者の評価はそう低いものではない。というのも、これらは既存のE Ink端末と比較した際には目立つものの、製品の品質に疑念を抱かせるようなレベルの問題ではなく、先入観のない状態で単体で見た場合は、あまり気にならない可能性が高いからだ。

 10秒ほど無反応になる症状はさすがに改善されるべきだと思うが、原因不明で突然動かなくなったり、エラーが出たりするのとは次元が違う。ランダムに起こるのではなく常に起こるので、傾向として頭の中で理解しやすく、良くも悪くも慣れやすいのだ。筆者の場合、1週間ほど使っているうちにすっかり気にならなくなってしまった(もっともその後Kindle Paperwhiteをしばらく触り、またそのあと本製品を触ると、遅さを感じるのは事実なのだが)。そうした意味では、他端末の利用経験の有無によって、それなりに評価が変わる端末と言えそうだ。

ストアはまとめ買いが可能。シリーズ単位での表示で検索画面も見やすい

 さて、挙動があまり速くないにもかかわらず、本端末に対する筆者の評価が必ずしも低くないのは、前述の理由に加えて、ストア機能が秀逸であることも理由の1つである。ここからはストア機能と、それにまつわる本の管理機能について見ていこう。

 本製品が連携する電子書籍ストア、つまり「BookLive!」には、画面下の「書店」ボタンを押してアクセスする。ストアのトップページは(本棚と同様に)所狭しとアイコンやテキストが散りばめられており、どこがクリックできてどこができないのか、少々分かりにくい。白抜き文字の箇所はタップできるのかと思いきや、「人気ワード」の吹き出しはそうではなかったりするので、余計戸惑う。個人的にはもう少し要素を整理して減らすべきではないかと思う。

 ただ、ストアとしての仕組みは一般的であり、適当にポチポチとタップしていけば、なんとなく本が探せて買えてしまう。いったり来たりの操作にはなるものの、説明書いらずで使えるという意味で、未経験者にもやさしい。検索軸も多く、ジャンルのほか特集など、未知のコンテンツと出会う方法も多く用意されているので、明確に買いたい本がある場合も、そうでない場合もきちんと使える。前述したように画面の切り替わりに時間がかかるので、やや待たされることがあるくらいだ。

ストアのトップページ。画面狭しとサムネイルやテキストが並んでおり、やや窮屈な感がある。ちなみに初回アクセス時にはクレジットカードを登録する画面が表示される
「ジャンルから探す」の画面。トップページに比べると意外に地味。個人的にはむしろこちらの方が使いやすい
ストアの検索軸は、ジャンルや作品名のほかにも、作家名、出版社名、掲載誌とかなり多彩
ただしこの「作家名」のように、「た」で始まる作家が1000人を超えていると一覧が63ページもあったりと、インデックスとしての有用性にはやや疑問が残る。なんらかの解決策が欲しいところだ

 ところで本製品(というよりもBookLive!自体)が優れているのは、コミックなどのシリーズものが単巻ではなく、シリーズごとにまとまって表示されること。そして、購入時も単品買い/まとめ買いを選べることだ。しかもまとめ買いの際は、たとえば1巻と2巻を購入済みの時点でまとめ買いを選択すると、残りの3巻から最終巻までがまとめてカートに追加されるといった具合に気が利いている。もちろん個別にカートから削除することもできる。

 これがKindle Paperwhiteやkobo gloの場合、コミックをはじめとするシリーズ作品は1冊ずつしか買えないため、たとえば100冊買うには購入フローを100回繰り返す必要がある(ちなみに前回レビューしたkobo gloではクレジットカードの明細も100行に分かれる)。しかし本製品では、同じシリーズは一括で購入でき、しかも1つずつポチポチ押してカートに追加するのではなく「全巻カートに入れる」を押すだけで済むので、余計な手間がかからない。

 例えば「こち亀」や「ゴルゴ13」のように100巻を超えるコミックや、先日全巻が電子書籍化された「グイン・サーガ」全130巻などでも、本製品であればまとめてカートに入れることができる。これがKindle Paperwhiteやkobo gloだと、1冊ずつしか買えないわけで、手間の違いは明らかだ。そのぶん衝動買いが多くなって財布にはやさしくないわけだが、コミックなどシリーズ作品の割合が多い日本の電子書籍ストアに求められる姿であることに異論はないだろう。

 さらに、共通タイトルを持たないために、ほかの電子書籍ストアではシリーズとして検索が難しい作品でも、BookLive!ではシリーズ作品としてまとめ買いできるようになっていることが多い。例えば「氷菓」は、俗に「古典部シリーズ」と呼ばれる既刊5冊がシリーズ作品として登録されており、続けて買うのも容易だ。もちろんこれはデータが登録されている必要があり、例えば「S&Mシリーズ」として知られる森博嗣著「すべてがFになる」はシリーズとして登録されていない(ただし外伝の「四季」シリーズは登録されていたりする)など、作品によっても扱いに違いがある。とはいえ、ユーザーニーズをきちんと理解した、ありがたい仕様である。

今回は試しに「大東京トイボックス」の2~8巻をまとめ買いしてみる。まずは書店トップページ上部の検索ボックスで「トイボ」と入れて検索
候補が表示された。Kindle Paperwhiteやkobo gloのように各巻ごとにではなく、シリーズでまとまって表示される
タップして詳細を表示したのち、画面下部の「シリーズ作品」タブをタップすると一覧が表示される。1巻はすでに購入済みのため「カート」のボタンが表示されていない。左下の「全巻カートに入れる」をタップする
2~8巻がまとめてカートに入った。個別にチェックを入れて削除したり、あるいは「今は買わない」を選択して一時的に退避させることもできる
支払方法の選択画面。クレジットカードのほかポイントも使える
購入確認画面。Kindleやkoboに慣れているとやや遷移が多く感じられるが、まあ許容範囲だろう。なお、購入時にパスワードを求められるケースもあるが、どのような条件で表示されるのかは不明瞭
購入が完了してダウンロードが始まるので、手動で本棚に移動する。余談だが、下部の「書店トップへ」は、むしろ本棚に移動するためのボタンであるべきだろう
本棚に移動して「大東京トイボックス」のサムネイルをタップすると、購入した2~8巻が順番にダウンロードされつつあるのが分かる
ちなみにこちらは購入後にiOS版のBookLiveアプリで本棚を見たところ。各巻の右下にクラウドマークがついており、タップするとダウンロードが開始される
シリーズ作品100冊以上をまとめてカートに入れることも可能。これは「グイン・サーガ正伝」の全130巻をまとめてカートに入れた状態。Kindle Paperwhiteやkobo gloであれば購入フローを130回繰り返すところを、まとめ買いで一気に購入できる
シリーズ名を持たない「氷菓」は、俗に言う古典部シリーズ5冊が1つのシリーズ作品として登録されており、まとめ買いはもちろん、続けて買うのも容易だ
こちらは俗に「S&Mシリーズ」の第1作として知られる森博嗣著「すべてがFになる」だが、こちらは「シリーズ作品」というタブがない。このように作品によっても扱いは異なる

 なお、シリーズがまとまって表示される仕様は本棚画面や検索画面でも同様なので、Kindle Paperwhiteやkobo gloのように、シリーズ作品が本棚や検索画面を埋め尽くすことがない。本製品のこの仕様に慣れてしまうと、Kindle Paperwhiteで作品を並べた画面が見にくく感じられるほどだ。

 さらに本製品では、続きの巻がある本を読み終えると、次巻のページヘのリンクが表示されるので、スムーズに次の巻を買うことができる。まとめ買いの機能と合わせ、このあたりのシームレスさは特筆できる。実質的に割引で本が買えるポイントと併用すると、多くの作品を割安に読めるだろう。

 今回試用して多少気になったのは、冒頭部分のサンプルを無料で読める「立ち読み」を行なったあと、その作品を購入した場合、立ち読みした続きから読むことができず、1ページ目から表示されること。Kindleであれば続きにあたるページに自動遷移してくれるので、ここはKindleの方が親切だ。

 また、シリーズ作品をまとめてカートに入れたあとで解除しようとすると、3巻単位でしか解除できないので、例えば10巻を解除しようとすると「チェックを入れて解除をタップ」の操作を4回繰り返さなくてはいけない。PC向けのサイトでアクセスすると「すべてにチェックを入れる」ボタンがあるが、それでも一度に20件しか削除できない。カート内をまとめてクリアできる機能がほしいところだ。

ストアで「コミック>青年コミック(マンガ)」カテゴリを選択した際の表示を、Kindle Paperwhite(右)と比較したところ。Kindle Paperwhiteはシリーズでまとまらないので同じ作品の別の巻がリスト内に表示されるが、本製品ではシリーズごとに集約されるのですっきり見やすい
続きのある巻を読み終えると、次巻のページヘと案内されるので、サクサクと続きを読むことができる
キープリストに作品を登録しておくこともできる。ただし削除の際、1つ削除するたびに1ページ目に戻ってしまう
ポイントは、10,000円の購入で10,700円分のポイントが付与されるなど、実質的に割引で本が買える。月額コースにすればさらに付与率が高くなる

 もう1つ、定期配信コンテンツにも触れておきたい。本製品では朝日新聞と福井新聞の厳選記事を先行配信する「朝日新聞 for booklovers」と「福井新聞SIESTA」ががプリセットされており、毎日新しい記事が新着として表示される。シャープのGALAPAGOSと似た仕組みだが、E Ink端末としては、Kindle Paperwhiteが国内ではいまだ定期配信の仕組みを実現できていないだけに、今後に期待が持てる機能である。

朝日新聞デジタルの簡易版である「朝日新聞 for booklovers」の画面。1日1回定期配信され「未ダウンロード」のマークがつく
個別の画面。主要ニュースや天声人語などが配信される。ちなみに「2013年1月31日まで無料配信」とあるため、以降は有料となるようなのだが、自動更新なのか自動解約なのか、またどうすれば解除できるのか、目につきやすいところに掲載されておらず、やや不安。ちなみに「朝日新聞デジタル for booklovers」の月額料金は380円とのこと

一長一短あるがKindleと甲乙つけがたい出来。コミックなどシリーズ作品の読書に向く

書店でのみ販売された電子書籍端末としては、発売以来ほとんど話題にならないまま今に至る「ISTORIA(イスートリア)」(画像右)がある。本製品はネットでも販売されるので、このISTORIAのように書店オンリーというわけではないが、販路の狭さが普及のネックにならないことを祈りたい

 以上ざっと使ってみたが、フロントライトや高解像度E Inkパネルを搭載する他社の最新ハードには劣るものの、トータルの完成度はかなり高い。前述のように動きの遅さや拡張性のなさを不満に感じる場合もあるだろうが、シリーズ作品をまとめ買いできる機能、さらにストアのラインナップの多さを考慮すると、一長一短はあるもののKindleと甲乙付けがたい。これで価格が高ければ話は別なのだが、個別契約不要なWiMAX回線を搭載しながら8,480円と、価格面でのメリットも大きい。

 とくにまとめ買いとシリーズ管理の機能においては、本製品に慣れてしまうと、Kindleやkoboでシリーズ作品を買うのが億劫になってくる。コミックは文芸書に比べると読了までのスピードが短く、また巻数も多いだけに、このことは非常に重要だ。「コミック向け」を名乗るとすれば、kobo gloではなくむしろこちらだろう。今後のモデルで動作速度の向上を図りつつ、解像度やフロントライトといったトレンドを押さえてくると、ますます甲乙付けがたくなってくることが予想される。

 ともあれ同社の場合、これまでiOS/Androidアプリのノウハウがあったとはいえ、専用端末はこれが初である。Kindleよりも遅れての投入となったが、十分に合格点がつけられる出来であり、現時点でも普通に「買い」といえる。販路の狭さなど、台数の普及という意味では不安要素もあるが、国産端末の雄として、これからにおおいに期待したいところだ。

(山口 真弘)